三章第二十六話 兄の心妹知らず
6/28の投稿は終了。6/29は27話と28話投稿予定です。
ヴラム達は遠泳組を待ちきれず先にご飯を食べることにした。そして食べてる途中で漸く二人が戻ってきた。
「ふう…やるなぁハチ」
「君こそやるにゃんね!吾輩の泳ぎについて来られるとは!」
シュリとハチは熱い握手を交わしていた。
それを冷めた目で見るヴラムとエーデル。ベルはキョトンとしておりマギリカはニコニコと微笑ましく見ている。
「あんたらどこまで行ってきたの?」
「「あっちの岩!」」
エーデルの質問に二人がある一点を指差した。確かにかなり遠くに黒い点が見える。
しかし点に見えるくらい遠い為、改めて二人の筋力やスタミナに圧倒されていた。ヴラムは改めて二人を見る。
シュリは腹筋が割れており程よく筋肉がついてきてスタイルが良い。そして背も高い。ビーチの女性達も見惚れていた。
これに関して言えばヴラムはシュリの隣に立つのが苦手である。コンプレックスが刺激される。だが同時に自身の育て方や食事などが間違っていなかったと言う確かな自信にも繋がっているので一概悪い事ばかりではない。
それにここまでスクスク育ったのだ。文句はない。
ハチに関しては今はタポタポのお腹を揺らしている狸のような体型である。しかしバトルモードになればシュリよりも背が高く筋肉も毛越しでも分かるくらい鍛え上げられている。
200年前に会った時もハチの体型は磨かれていた。共に旅した外道丸もシュリと似ている体型であった。
ヴラムの周りは何故か体格のいい男が集まる。…いやヒョロヒョロのヒューベルトやコロコロしているゴローもいるのでそうとも限らないだろうが…。
対してヴラム…肌は白く、体型は少し腹筋はあるが全体に細く華奢な方である。他の二人より頼りない体型だ。身長も平均かそれより少し高いぐらいである。
顔立ちも美少年やら綺麗と言われることもあるが、中世的であり今回のヒューベルトのように女と間違う人も偶にだがいる。
さっき一人でいる時に半袖パーカーを限界まで閉めていたら男にナンパされたのだ。
『お姉さん美人だね♡俺らと遊ぶぼら!』
ムカついたので氷の塊をぶつけたが…プライドはズタズタである。
途中でパーカーの前を開き始めた。完全に脱ぎたかったが何故かエーデルが赤くなって
『ちょっまっ…目に毒!』
とパーカーを投げてよこしたので仕方ないので羽織っている。
髪の毛も切った方がいいのはわかっているが、これもエレンの面影を少しでも消すための材料である。切る気になれない。
ならば筋トレしよう。んで牛乳も飲もうと決意した。
そんな一人でうんうんうなづいてるヴラムを首を傾げて他のメンバーが見ていた。
一方…
「…」
アルスはじっと妹の写真を眺めていた。最愛の妹。今回の件で大怪我を負ったと効いてショック死するような衝撃を受けた。
実際あったらピンピンしていたから安心したが病衣を着て点滴を繋いでる姿は痛々しい。
それだけならばいやよくはないがアルスは許容範囲である。だが
「先輩どうしましょう…。エーデルの奴ヴラム君の事好きかもしれないです…」
「そうですか」
「そうですかじゃないです!ああ…よりによって何で長命種!?ヴラム君200歳だよね?
うう…」
アルスが嘆いていたのはエーデルが抱き始めた恋心である。
アルスとてエーデルには幸せになって欲しいので将来は結婚して欲しいし応援する。相手の方は一度魔法の竜巻で焼きを入れるがそこは見逃してほしいというのがアルス談。
しかし問題がある。もし相手がシュリならば寿命は釣り合うので少しムカつくが応援はしようと思えばできる。
だがヴラムは魔族である。エーデルが先に死ぬのは当たり前。なので二人がくっついてしまうとヴラムは一人取り残されるし、エーデルは自分だけが老いていってしまうという体験をする事になる。
それは二人にとって酷である。エーデルの事も心配だが、ヴラムの事も心配になる。
ヴラムがエーデルを守ると宣言した時、エーデルは頬を薔薇色に染めて目を輝かせていた。
その目は恋する瞳。目一杯の好きをふんだんに盛り込んだ瞳である。
そんな顔の妹も可愛くて仕方ないが、アルスとしては複雑だし、一瞬意識が飛んだのは言うまでもない。
「はぁ…せめてシュリ君なら応援でき」
ドン!ばちゃん!
「コーヒー入りました」
「え…すみませんでした…」
アルスの台詞を遮りスノーが思いっきりコーヒーのカップを置いた。コーヒーは跳ねてテーブルに付着した。
スノーがシュリにお熱なのは知っているので禁句だった。何なら何処で撮ったのかシュリの隠し撮り写真まである。普通に犯罪。
危ないお姉様である。それをアルスは認識した。
だがテーブルに書類があったらどうしてくれるんだという不満が残る。
「机に書類があったらしませんよ」
スノーはアルスの不満を読み取っているようである。
「…ハァ…どうしよ…」
「妹さんの心配をしているのは分かりますがそれよりもグリムが何処へ行っていたのか調べましょう」
「はい…ハァ」
スノーに促されたアルスは立ち上がり調査に向かった。
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