三章第十七話 その頃の仲間達
17時過ぎ頃に十八話投稿予定
一方他の病室にて
「…」
シュリは天井をじっと見つめていた。いる場所はエーデルとは別室だが同じような景色に同じようなベッドである。
シュリは悩んでいた。今回の戦いで思ったような戦績を振るえなかった。その前のセレーネ戦でもだ。ハチの指示でブレスの軌道を変えるサポートをしたりするだけだ。
怪力担当はハチがいる。しかも自分よりもずっと歴戦の戦士。
彼のサポートやハチの取りこぼしを拾ってそれを対処する。そんな感じである。
何より今回病院に連絡を入れてくれたのはヴラムだという。
シュリはそれを聞いてより自身の不甲斐無さを責めた。本来その役目も自分がすべきなのにと…。自分の力の無さもそうだが、ヴラムの過去も今回でやっと知ったのだ。
思えばヴラムは自身の過去を語った事がない。特段シュリも気にしてなかった。けどそれも悔しかった。自分はヴラムに頼りにされてないと…。
「俺はダメな奴だなぁ…」
シュリはボソリとそう呟く。するとピョコっとハチがシュリのベッド周辺のカーテンから顔を出した。
「シュリ君。大丈夫にゃん?何か傷よりも心がやられてるみたいにゃん。」
「ハチ…いや…聞かれてたのか?今の声」
「声もそうだけど君の顔、酷い顔にゃん。」
ハチに指摘されたシュリは自身の顔をペタペタと触った。
「俺そんな酷い顔してたか?」
「うん。くらーい顔にゃん。ヴラムが心配するにゃんよ?」
「…なぁハチ」
シュリは天井を見上げながらハチに話しかけた。
「俺は本当にこのままでいいのかな…。今回の旅で俺は全く役に立っていないし…
俺初めてヴラム様の過去を知ったんだ。16年…それぐらい俺はヴラム様と過ごしていた。
だが…俺はあの方の事を何も知らなすぎた。
無条件であの方は強くて誰にも負けない人だと思っていたんだ。」
シュリは自分が見てきたヴラムのイメージと今回のヴラムのギャップの激しさに動揺していた。
「普段と違って失望したにゃん?」
「違う…そうじゃないんだ。俺はあの方に無理なイメージを押し付けてしまって追い詰めてたんじゃないかと思ってたんだ。だから…」
するとハチはうーんと肉球を顎に置いた。
「逆じゃにゃいかにゃ?」
「逆?」
「うん。寧ろ君がいたからヴラムは強くあれたんだにゃん。恐らくだけどそれまでヴラムを支えていたのはマギリカと外道丸。けど途中で外道丸は死んじゃったのにゃん。鬼人だから長くは生きられないと思うし、
けどマギリカだけでも支えきるのに限界があるにゃん。そんな時に君が現れた。」
ハチはシュリの頭を肉球で撫でた。普段はシュリ自身背が高いから届かない。だが今はシュリはベッドの上だ。すぐに届く。
「君たちを見てると見た目年齢はどうあれ、本当の親子みたいにゃん。ヴラムなんか君をかなり溺愛してるにゃん。
君を我が子として守ろうとするからあそこまで強くなれたんだとおもうのにゃん。
だからこれからもあの子を支えてあげてほしいのにゃん。あの子を君の親のままにして欲しいにゃん。」
ハチの言葉を黙って聞いているシュリ。そしてハチは更に
「活躍っていうのが戦闘の事なら任せるにゃん!丁度マギリカがエーデルちゃんを鍛えてあげてる事だし…吾輩達も一緒に鍛えるにゃん。
組み手とか一緒に鍛錬すればいいにゃ。」
ハチの申し出にシュリ目をハチに合わせる。
「いいのか?」
「いいのにゃん!何なら吾輩も弟子とか憧れていたし…それにシュリ君となら良い鍛錬が出来そうにゃん」
「…」
シュリは考えた。ハチならば確かに自分よりも人生経験も豊富であり、恐らくあの感じならば戦いのプロなのだと。
それに加えて彼の身体能力は若干ではあるがシュリより劣るが、本当に若干な上にそれを自身の経験や技術で補うどころか、シュリを超えた戦闘力を作り出している。
ヴラムの場合は魔法は最強クラスだし、並の一般人や兵士を制圧できるぐらいの体術は可能だが、それがシュリのような戦闘民族ならば話は別。ついていけない。
ヴラムの事を弱いなどと思ったことはないが、シュリと手合わせしたり彼に合わせたトレーニングではヴラムの身が持たない。
そこまで考えるとシュリはコクリとうなづいた。
「分かった…よろしく頼む」
シュリがそう言うとハチはポンとシュリの肩を叩いた。
そしてもう一方では
ベルは窓の外を眺めていた。カーテンは開けられて窓が見える。そこからは青い海に白い砂浜がお目見えしている。
「ベルちゃん。どうしたの?」
声がした方を向くとマギリカが立っていた。普段真っ黒の服を着ておしゃれに気を使うマギリカがゆったりした病衣を着ている事にベルは新鮮そうに見つめている。
「いーえ!何でもないですよ!マギリカさん。具合はいかがですか?」
「んー?平気よ。いいわよねぇ…今の時代は回復魔法でパパッと治せるもんね…」
全員大体体に外傷があるだけだった為魔法で治してもらった。
しかしそのまま治すと傷口に入った土や石が入ったまま傷口を塞いでしまうので、それらを取り除いたり、意識がない者もいた為意識が戻るまで病院に入院する事になったのである。
「マギリカさん?マギリカさんとヴラムさんってどうやって出会ったんですか?」
「あ!気になる?」
「はい…それにあのぉ…もしかしてマギリカさんってヴラムさんの事好きなんですか?なんか献身的ですけど…」
ベルは顔を少し赤くしてソワソワしながらマギリカに問う。するとマギリカはキョトンしたがすぐに笑い出した。
「あはは!ないない!はぁ…でもそう見えるのかぁ…私はあくまで親友の代わりよ?」
「親友?ロゼリアさんですか?」
「うん!ロゼリアの分まで支えようとしてるだけよ?てか私の他にいた仲間の外道丸?あいつなんてヴラムと親友同士だからかしら。
私より過保護だったし…あの子鬼人をデレデレにさせるフェロモンでもあるのかしら?」
「外道丸さんかぁ…どんな人なんですか?」
「女好きで三枚目って感じ?ほらあの勇者騎士のヒューベルトさんだったかしら?あんな感じの性格よ。だからヴラムもヒューベルトさんに絡むのすごい楽しそうだもん。」
「た…楽しそうですか?喧嘩してるように見えるんですけど…」
「あはは!まぁそうよね!けど分かるわよ?長い付き合いだもん。あ!私とヴラムの出会いよね?」
マギリカはベルのそばにあるベッドに腰を下ろし、隣をポンポンと叩いてベルを手招きした。ベルは素直に隣に座る。
「あれは200年前。私はセレーネがいなくなった後の300年間すこし腐りながら集落で暮らしていたわ。でもね?やっぱり外の景色への憧れは中々消えないもの。
はぁ…けどね?集落のリーダーが途中で変わったらさ?そのリーダーすんごく厳しくて…監視も酷いもんになったのよ。中々外に出れなかった。」
「セレーネさん?300年前までいたんですか?」
「あ!そうかベルちゃんには話してなかったわね。セレーネは罪を犯して集落を追い出されたのよ。まぁその結果グリムについてくとはね…」
マギリカはハァとため息を吐く。
「そんなある日。集落の皆んなが騒いでて何事かと思って聞いたら集落に謎の男女がやってきたって言うのよ。外から来た人に私興味湧いて見に行ったのよ。」
「もしかしてそれがヴラムさんとロゼリアさんですか?」
「大正解!んで他の皆んなはすごい警戒心MAXで追い出そうと必死だったのよ。けど怖くて近寄れないみたいな?
だから敢えて私は自分が追い出すから!って言って2人に近寄ったの。んで一か八か二人に外で話さないかって言ったらOKしてくれた訳よ!」
マギリカはドヤ顔で更に続けた。
「そして二人にどうしてここまで来たか尋ねたらさ?」
-200年前
『此処は魔女の住む集落よ?なんでこんな秘境に来たの?』
マギリカが質問すると少女が
『よくぞ聞いてくれた!実は私の知的好奇心を満たす為に世界を旅しているのだ!』
『我儘なだけだろうが…ちっ…』
『んな!失礼な!』
少年少女はギャーギャーと騒いでいる。その途端にマギリカの心臓が疼いた。
世界を旅…マギリカがしたくてしたくて堪らない事を彼らはしている。
自分よりもきっと若いであろう二人の旅人がこうやって旅をしている。それなのに何故自分はこんなとこに燻っているのだ。
マギリカはそこまで考えて
『ねえ?詳しく聞かせてくれない?』
その後マギリカは沢山頭を下げて彼らについていきたいと願った。特に頭の硬い少年は中々首を縦に振らないがロゼリアは即OKを出した。
『ありがとう!私はマギリカよ!宜しくね』
『ふふふ!良い名だな!我が名はロゼリアという!気軽にロゼとでも呼べ!』
『…』
中々喋らない少年をロゼリアが咎めるように脇を小突いた。少年は渋々呟くように
『…エレン』
とだけ話した。
それがマギリカにとっての宝物のような記憶の始まりだった。
これまで出てきた魔法
ヒューベルト編
・紅蓮薔薇の舞…炎が薔薇の花びらのように魔法陣から
現れて火の粉を撒く魔法。
ヒューベルトお気に入りの魔法。
・爆炎弾…ぶつかると爆発する巨大な炎の玉を出す。
・爆炎…出現させたその場で爆発する炎の玉を出す。