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三章第十六話 気づき始めた想い 

6/23は此処までです。

6/24は17話、18話投稿予定です。

 チュンチュン…

 「あれ?ここは?」

 エーデルは気がつくと白い部屋にいた。そして真っ白のベッドで寝ていたのだ。

 前にもこんな事はあったが今回の場合は部屋は真っ白で周辺にはカーテンが敷かれている。


 ベットも前の様な豪華なものではなく真っ白でシンプルなベッド。そして薬品の匂いが鼻を刺激してくる。自身の服装もいつもの服ではなくよく病院患者が着るような、少し緑っぽい白い病衣を着ていた。そして腕からは点滴がつながっている。


 「病院?」

 エーデルはキョロキョロと見渡していた。すると

 「起きたか」

 周りにあるカーテンが開かれそこからヴラムが現れた。ヴラムの服も病衣でありいつもの黒い服ではない。そして髪の毛も下ろしておりロングの髪が靡いている。ピアスも外しているようだ。

 そして手袋も外されていて右手の甲には黒い染みのようなものが見える。だが以前見た時よりも少し赤くなっている。


 「ヴラム?あのさ…もしかして此処病院?」

 「嗚呼、もしかしなくてもな。此処は"ミルキー病院"って名前で、ココヤシ大陸唯一の病院だ。…これ飲むか?」

 ヴラムは片手に持っているジュースの缶を見せる。エーデルがコクリとうなづくとヴラムは早速缶を開けてあげて渡してくれた。


 「…ありがと…」

 エーデルは少し頬を薔薇色に染めてその缶を受け取った。彼に優しい対応をされると何故かエーデルは他の誰かに優しくされるよりもずっと嬉しくて、心が暖かくなる。


 「お前や他の奴らはアンクの魔法で大怪我を負ったり、意識を失ったりしてな…。俺はまだ意識があったから病院に駆け込んだ。

 そして分かったのが地図を再度見た限り、この大陸の花の反応は無くなっていた。」


 その言葉にエーデルはジュースを飲む手を止めた。

 「それって…どうして?」

 「俺はグリムに接触したんだ。」

 「!」

 ヴラムはそう言うとエーデルの寝るベッドの端に座った。


 「奴はアンクを連れて何処かへ消えていったのだ。恐らくその後花を回収したのだろうな」

 「そんな…」

 「反応もない。それで気づいた事だが、どうやら動く花とやらは途中で消えるタイミングがあるみたいなんだ。」

 「消えるって…反応が無くなるの?」

 「嗚呼…だがまた動き出すタイミングがある。

俺は入院中にそのパターンや行動をずっと見ていたのだ。

 後で他の奴らも起きたら全て話す。騎士団の方には報告書も提出した」


 よくみるとヴラムの目の下は隈ができている。徹夜で任務に当たっていたのであろう。エーデルは申し訳なさで俯いた。

 「ごめん…私が不甲斐ないばかりに…」

 するとヴラムはポンとエーデルの頭を撫で始めた。


 「…それは俺の方だ。俺の過去のせいでお前ら全員を死なせるところだった。」

 ヴラムは普段とは大違いなくらいに素直にそう謝罪した。だがエーデルは黙ってなどいられなかった。

 「違う!アンクの言ってた過去を聞いてたけどそれはヴラムのせいじゃないよ!」

 しかしエーデルの声も虚しくヴラムは首を横に振った。


 「違う。俺のせいだ。俺があいつを死なせた。俺が弱いから…俺があそこで上手く対処して、怪我など負わなければ良かったんだ…だから…うわ!」

 エーデルは起き上がりヴラムを抱きしめた。そして胸元にヴラムの頭を抱えて始めた。


 「お…おい!何をする!」

 「ヴラム…大丈夫だよ…私はヴラムの味方だから…」

 「な…」


 「過去に何があったのかは分からない…私が生まれたのは本当に最近の17年前だもん。

 けど…大切な人が自分の為に死んじゃったら例え200年生きてる人生の大先輩でも悲しいし…寂しいし、自分が許せなくなると思う。


 けどヴラム自身でさえ自分に優しくできないなら私が思いっきりヴラムに優しくする。えへへ…17年しか生きてない小娘が言ってもおかしいかな…」


 エーデルは優しく語りかけるようにヴラムの背中をポンポンと優しく叩く。

 ヴラムは何も言わない。


 「ヴラム?例えヴラムが他の人に憎まれても私が味方であり続ける。それにね?そのせいでヴラムは死んじゃったら私も悲しいよ。だってヴラムは…私にとって…」

 エーデルはその後少し考え込んだ。


 友達ともまた違うし、仲間だけでは物足りない気がする。寧ろそれよりももっと熱くて重い感情。もし仮に彼がいなくなったらどうなるか…エーデルもきっと死にたくなると思う。それは理解できる。


 「…大切な人だから…」

 エーデルは明確な感情をそんな言葉で伝えた。するとエーデルの眠る布団にポタポタとシミができてエーデルの胸元が濡れていく感覚があった。

 ヴラムは泣いていた。静かに泣いていた。


 今まで堰き止めていた感情が静かに爆発したのだろう。アンクも言っていた。ヴラムはロゼリアの死んだ姿を見ても泣かなかったと。

 けどそれは悲しくないからではない。泣く余裕すらないくらいの絶望に立たされたからだ。


 エーデルはヴラムが泣き止むまで抱きしめて背中を撫で回した。






 そして暫く泣いて泣き止むとヴラムは目尻を赤くしながらエーデルに問いた。

 「エーデル…お前は死なないよな?…いや死なせない…俺が必ず守るから…だから死なないでくれ…」

 ヴラムのしおらしい態度にエーデルは調子が狂いそうだった。だがエーデルは彼を安心させようと努めた。


 「大丈夫だよ!だってあんなに刺されたのに私こんなにピンピンしてるもん!簡単に死なないよ!」

 エーデルがにかっと笑ってみせるとヴラムはふわりと笑みを浮かべた。

 「そっか…良かった…」

 その切ない消えそうな笑みにエーデルはキュンと胸が高鳴った。顔が熱くなる。その感覚が何故なのかも何となく分かってきた。


 けど認める事はできなかった。相手は長命種。自分の命と釣り合いが取れない。何よりヴラムはロゼリアの事を今でも想っている。


 「ゆっくり休めよ。俺は戻る」

 そう言って立ちあがろうとするヴラムの腕をエーデルは掴んだ。

 「ヴラム…此処にいて…行かないで」

 エーデルはせめて彼の側にいたいと願った。一生を共にできないのならば今この瞬間だけでも彼を独占したいと。




 エーデルはその日初めてヴラムへの恋心に気づいたのだ。

此処までお読みいただきありがとうございました

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