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三章第十五話 覚醒の氷炎

17時過ぎ頃十六話投稿予定です。

 「ゔ…ヴラム?」

 エーデルは頑張って瞳を開けようとするが力が入らない。

 「エーデル!くそ…血が出てる!シュリ!この岩早く抜け!ベルはすぐに回復の用意を…?」

 しかし見渡すとそれは地獄だった。


 全員が岩の棘に巻き込まれてしまった。刺されて血を流す者。身動きが取れない者。

 シュリは体の所々に岩が刺さり動けない様である。ベルは岩に挟まれてしまい動けない…それどころか気絶している。


 ヴラムの視界は真っ暗になった。

 これは自分が起こした惨劇…。そして自分は誰も救えないのだと絶望していた。

 一方のアンクはご満悦の顔をしている。ヴラム…エレンが絶望する顔になんとも言えない高揚感が湧き上がっていき、背中がゾクゾクし始めている。


 「分かったか?お前は誰も救えないんだよ。ロゼリアだってそうだ。お前が関わる奴は全員不幸になる。そうでなくても俺が壊す。」

 アンクはニヤニヤと笑いながら言う。ヴラムの心が折れそうになっていた。そよ風が一瞬でも吹けばポッキリ折れそうな程に…するとエーデルがそっと冷たくなってきている手で自身を抱き抱えているヴラムの頬にふれた。


 「ゔ…ヴラム」

 「エーデル?」

 エーデルは今にも消えそうな顔で優しく声をかけてきた。

 「私は…ずっと…ヴラムの味方…だよ?」


 そうニコッと微笑むエーデル。そして最後に

 「ヴラム….大好き…」

 涙を流してそう呟くと目を閉じてダラリと体の力が抜けたかの様に腕が垂れていった。


 「エーデル?エーデル!目を開けろ!エーデル!」

 ヴラムは必死に声をかけるがエーデルは目を覚さない。

 ヴラムはガクンと顔を下に向けてしまった。アンクは待ってましたとばかりの顔だ。


 「な?言っただろ?しっかしお前ロゼリアだけでなくその女の子までたらし込むとかすげぇな?今度どうやって落としたのか教え…」

 アンクはヘラヘラと笑いながらヴラムの肩を掴んだが、すぐに離した。


 まるで炎に触ったかのように、アンクの手は火傷してしまった。

 「な…」

 するとヴラムはゆらりと立ち上がる。


 そしてその顔を上げた。アンクはその顔を見て目を見開いた。

 その表情は無表情。だがその瞳の色が違っていた。左目はいつもの赤い血の様な瞳。そして右目…右目は冷たい深海を思わせるような青色。

 それはアンクの知るエレンと同じ色の瞳。アンクが触れたのは右肩である。 


 そしてその右手の甲にある、焦げた筈の薔薇。勇者の赤い紋章が強い輝きを放ち開花している。


 ヴラムはエーデルを平らな場所に寝かせて上に自身のマントをかけた。


 そしてクルリとアンクの方を振り向く。アンクはその怒りも憎しみも全てがグツグツ煮えたぎるような強い瞳にゾクっと背筋が冷たくなった。

  

 ヴラムは翼を出して急加速し、アンクに迫る。アンクも翼を出そうとしたが遅かった。

 ヴラムはパンと手を叩くと紫の魔法陣が出現した。

 

 するとそこから氷でできた大剣が現れた。そのやいばが氷でありながら青い炎を纏っている。

 「氷と炎が合わさった魔法だと!?んなもん聞いたことねーぞ!」

 

 二つの属性の魔法。そもそもこれが使えるのだって聞いたことがない。

 そして何よりもその違う属性同士が同時に発動される魔法なんて存在するはずがないのだ。


 ヴラムは大剣を掴むとアンクとの距離を思いっきり詰めていく。そしてアンクに切りかかった。

 アンクはその素早い身のこなしに反応できずに体を切られた。


 「が…あ…ああああああ!」

 アンクの体の切り傷から青い炎が上がった。

 その切り傷の痛みとその熱量が何よりも彼を苦しませた。

 

 ヴラムの使う青い炎。それは温度の違いで発生する。ヴラムはエレンとして生きてきた頃より炎の色はずっと青。青色の炎は通常よく見る赤い炎よりもずっと高温。

 それは彼自身の魔力の高さと炎の温度が比例しているから。そして氷の魔法も彼の魔力に比例して絶対零度を可能としている。


 生まれながらの化け物なのだ。そして途中で使える様になった最強クラスの氷魔法も加わった事で更に上のステージまで登ってしまった。


 ヴラムはただ冷たい瞳でアンクを見つめる。そして


 「そうだな…俺のせいだよ。笑えるよな?救った筈の命に逆に命を賭けて救われる。救いようがねぇよな。

 けど…それなら俺だけを殺せば良かっただろ。お前は何で…ずっと俺を探さなかった。分かっていただろ?俺が元々はロゼの家だった所に住んでること。予想できただろ?

 いや…んな事よりも…俺の仲間に何で手を出した。


 もしお前が俺を殺したいなら喜んで命を奪わせてやる。それで満足しないならタイマンだってしてたよ。

 …けどそう思うのはもうやめた。お前は絶対に手を出しちゃいけねぇ奴らに手を出しやがった。」  


 ヴラムはエレン時代の時の素の口調でそう淡々と話す。その圧倒的なまでの圧に燃える視界の中でアンクを唯恐怖が襲っていた。


 ヴラムが更に燃え盛る氷の大剣を大量に出して宙に浮かばせた。

 「…さよなら」

 ヴラムの呟きを合図に大剣が一斉にアンクに飛びかかっていく。


 その瞬間はアンクにとって途轍もなく長く感じた。人は皆、命の危機に瀕するとその時の感覚がゆっくりに感じるものだ。

 だがその大剣はアンクに届かなかった。アンクに当たるスレスレで止まったのだ。炎もいつのまにか消えている。


 「な…何で止めをささねぇんだよ!」

 アンクが叫んだ。その顔や体には火傷の痕が残っている。ヴラムはアンクを見つめて

 「お前を殺したら…ロゼに怒られるだろ?」

 「お前がロゼの命を奪ったくせに!」

 

 「お前は俺の仲間達の命を奪おうとしてたくせに」

 ヴラムの言葉にアンクは押し黙る。

 「お前はこれまで通り俺の命を狙えばいい。それを生きる目的にしろ。唯言っておくが俺はそう簡単にやられないしお前を殺す気もない。

 お前はこれからずっとロゼに会わせない。それが俺なりのお前への復讐だ。」


 ヴラムの言葉に噛みつこうとするアンク。だが

 「そこまでだよ。アンク」

 第三者の声が聞こえた。低く穏やかな男性の声。ヴラムはその声を聞いた瞬間心臓が一気に握り潰されるような息苦しさを感じた。


 「あーあ…僕言ったじゃない?エーデルは連れてきてってさ?いや今からでも遅くないかな?」

 その声の主は真っ赤な鮮血のような髪を持つ男性だった。彼は手を倒れてるエーデルに伸ばす。その途端ヴラムの視界が真っ赤に染まり、鉛の様に重く感じる体を必死に動かしてエーデルを抱き抱える。


 「ねぇ。そこどいてよ」

 「どかない!エーデルをどこに連れていく気だ!」

 ヴラムはエーデルの頭を強く抱きしめて必死に睨みつける。

 「ふーん。あ…そう?」

 すると赤毛の男が指を鳴らした。その途端ヴラムの四肢に黒い歪んだ魔法陣が浮かんだ。そしてそれは黒い球体になる。

 

 「何だこれは…ぐ…」

 黒い球体は外から見たら何の変哲もないボールの様だ。だがその中ではギュルギュルとまるで噛み合う歯車のように回っている感覚がある。そしてヴラムの体の一部がその歯車の噛み合わせに挟まれてそのまま回転に巻き込まれる感覚。


 四肢がもがれるような感覚。黒い球体がついた場所は服の布がボロボロになっていき、次第に血が滲んで肉が見える。

 それでもヴラムは唇を血が滲むほどに噛み、声を出さない。汗をダラダラと流して痛みに耐えながらもエーデルを絶対に離さない。


 すると意外にもアンクが止めに入った。

 「待てよ…」

 「ん?」

 「エレンの命は俺が奪うって決めてるんだ。それ以上はやめろ。エーデルちゃんだっけ?その子は俺が必ず連れていく。だから…」

 アンクの訴えに赤毛の男は考え込みうなづいた。


 「そうだね。君には因縁があるんだっけ?僕はエレンに興味ないからいいよ。エーデルは…エレンが離してくれなさそうだからなぁ…仕方ない。今回は諦めるよ。アンク?君もボロボロだから帰ろうね?」

 「はぁ?待てよ!まだ決着がついてねぇ!おい!」

 赤毛の男はアンクを無理やり自身の出した歪んだ黒い魔法陣に押し込む。そして


 「エレン…いや今はヴラムだっけ?一つ教えておくね?エーデルの力があればこの世界は理想の世界に生まれ変わるんだ。

 よく考えておいてね。あ!それと自己紹介しておこうか。僕はグリム!よろしくね」

 「!」

 「じゃあね。いい返事期待してるよ!」

 「待て!」


 ヴラムが手を伸ばすが既に2人はその場から消えてしまった。

此処までお読みいただきありがとうございました、

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