三章第七話 凸凹騎士との再会
17時過ぎごろに第八話投稿予定
次の日。
「んー!よく寝た…」
エーデルは腕を伸ばした。窓の外を見ると空は明るくなっている。前日はエーデルが病み上がりである事や謎の男との接触もあった為全員ホテルに待機して静かに過ごしていた。
エーデルは前日のように変な男がいないか辺りをキョロキョロと見回している。
「…いないよね?」
エーデルは少し怯えている。するとエーデルと同じ布団で寝ていたベルが目を擦って起きてきた。
「ふわぁ…おはよう御座います。エーデルさん。」
寝ぼけながらもきちんと挨拶するベル。エーデルは自分以外の人物が起きてくれた事に安堵した。
「おはようベル。ごめんね?起こしたかな。」
「いえいえ。大丈夫ですよ。」
そんな二人のやり取りにマギリカも起き上がった。
「あらあら起きるの早いわねぇ。偉い偉い♡」
マギリカは慈愛に満ちた表情で二人の頭を撫でている。
三人は着替えや洗顔等を行ってから男性陣のいる部屋へ向かった。
「おはよう!」
「あ!エーデルちゃん。体調は大丈夫にゃん?」
「うん!もう大丈夫だよ!ハチ昨日はありがとう。」
エーデルが元気に挨拶して入ってきた。エーデルを救出したハチはずっと心配していた為か安心している。
「と言う訳で私も花探しの同行するから!」
「んなビシッと言う事でもあるまいに」
エーデルの宣言にヴラムは呆れ顔である。
「まぁまぁ…でもどっちみちエーデルを留守番させるとなるとあの変な男が心配です。寧ろ良かったと思いますよ」
シュリの発言にエーデルはピクッと肩を揺らした。確かにそれもエーデルにとっての不安材料である。未だに恐怖心は拭えない。そもそも
「(何で私の前に現れたの?)」
エーデルは彼の行動理由が何より恐怖である。何故あの時自分の前に現れたのか。あの男は何者なのか。
エーデルはそれが怖くてたまらない。
「どうした小娘」
「ああ…うん。ねぇ昨日会った男の人って何者なんだろう…それに何で私の前に現れたのかな?」
エーデルは素直に自身の疑問を述べる。少なくとも人間族の自身でさえ魔力酔いする程の魔力量。普通の男ではないことは確かだ。自分への脅威もそうだが、仲間達への被害も考えると怖い。
「今考えてもわからんであろう?貴様が面白い顔でもしとったのではないか?」
「してませんけど?!」
「面白い顔に関しては安心しろ。元から面白い顔していひゃひゃ」
「…誰か針と糸ない?こいつの口縫い付ける。」
エーデルはヴラムのデリカシーのない発言にイラつき彼の頬を思いっきり抓る。
「まぁまぁ落ち着いてエーデルちゃん。あとヴラムは少しデリカシーを勉強しなさい。安心してエーデルちゃんは可愛いわよ!」
「いて…」
マギリカはエーデルとヴラムを引き離しついでにヴラムの頭を軽くはたいた。
「ヴラムさまぁ!俺は例え貴方がデリカシー皆無のお方でも俺は貴方について行きます!」
「シュリも甘やかさないの。」
「いてっ!」
大声を出すシュリの頭をはたくマギリカ。
「皆さん元気ですね。」
「そうにゃんね。大丈夫にゃん。徐々に慣れるにゃん。」
メンバー達の高いテンションにベルは押されていた。ハチはその傍で落ち着いた雰囲気で見つめている。まるで保護者である。そしてマギリカももはややってる事が母親である。
そんな中保護されてる様に見える若者四人の中には200年生きた者もいるがそこは目を瞑るしかない。
六人はホテルのロビーへと歩いていく。早速花探しを行うようである。だがそこで
「あ!そこにいるのはエーデルすわぁぁん♡」
「げ…」
聞き覚えのある声が響いた。とはいえマギリカとベルは聞いた事がないが…
「え!?ひゅ…なんでしたっけ?」
「ヒューベルトです!エーデルさん!うう…少しショック…名前覚えられてないぃ…」
そこにいたのは明らかにバカンスするぞ!と気合いを入れたヒューベルトである。
ヒューベルトはデレデレしながらエーデルに近づくがヴラムにより阻まれた。
「こっちは貴様ら騎士団の依頼を受けて働かされているというに。随分と楽しそうではないか」
ヴラムは鼻で笑いながら嫌味を言う。しかしヒューベルトはめげない。
「ちげー!俺達は遊びに来たんじゃねーよ!仕事だ!仕事!」
「ほう?そんなふざけた服装してか?」
「こんな常夏リゾートであんな鎧着てられるか!倒れるわ!それにその場所に合わせた服が一番いいんだよ!つーかお前のそのスーツ見てるだけで暑いわ!何とかなんねーのか!」
ヴラムとヒューベルトが喧嘩し始めた。
他のメンバーは慌てて止めようとする。
「そう言えばヒューベルトさん!ゴローさんは!?」
シュリは話題を変えようと試みる。するとヒューベルトの動きが止まった。しかしガクンと膝をついた。
「うう…アイツは…アイツは…」
ただならぬヒューベルトの様子に一行はまた更に慌て出した。特にゴローと友人になったシュリは心配している。
「え!ゴローさんの身に何k「あ!センパーイ!こんなところにいたんですね!」
しかし一行の心配も束の間、ひょっこりと後ろからゴローが現れた。ゴローの方は軽装の鎧を身につけた真面目な服装。
ゴローが元気そうな様子に一同は首を傾げる。
「あれ?何で落ち込んでるんですか?あ!シュリさんに皆さん!お久しぶりです!」
ゴローは一行に気づいて挨拶しだした。シュリは慌ててゴローの肩を掴んだ。
「大丈夫でしたか!?ヒューベルトさんがゴローさんについて深刻そうに語るから何かあったのかと…」
「へ?僕は大丈夫ですよ。あそうだ!実は紹介したい人がいるんです!キーちゃん♡」
「はーい♡」
シュリの心配を他所にゴローはケロッとしている。そしてキーちゃんという人物を呼び始めた。
一行はそのキーちゃんを見て言葉を失った。
「え!?キララさん!」
ベルは驚きで声を上げた。そこにいたのはキララである。
「まぁまぁ此処じゃ何だし私の部屋まで行かない?ね!ダーリン♡」
キララは頬を染めてゴローをチラチラと見ている。ゴローもえへへと照れながら頭を掻いている。
「だ…ダーリン!?」
「ま…まさか…キララさんの彼氏って…」
ハチとエーデルも驚きで口を開けている。
「詳しい話は後でするわ!皆んな私についてきて!」
するとキララがゴローと手を繋いで前を歩いた。一行も戸惑いながらもついていく事にしたのだが…
「おい!いつまで落ち込んどる!早くいくぞ!」
膝を落としたヒューベルトが動かない。何なら通行の邪魔にすらなっている。そんな彼にヴラムはイライラしながら呼びかけるが反応しない。そこでヴラムはエーデルに任せる。
「おーい!ヒュー…ほにゃほにゃ…さん!」
「貴様人の名前ぐらい覚えてやれ!思いっきり誤魔化しとるの分かるわ!」
しかしエーデル自身ヒューベルトの名前をうろ覚えで覚えてしまっており、名前を呼べず誤魔化した。そんなエーデルの頭を軽くはたくヴラム。
これにはエーデルも悪く思ったのか黙って受け入れていた。そして少し申し訳なさそうである。心なしか名前を覚えて貰ってないヒューベルトは地面にキスし始めた。
「えと大丈夫でしょうか?あの方…」
ベルは心配そうに見ている。するとマギリカが登っていた階段を軽い足取りで降りていき、ヒューベルトに声をかけた。
「ほら起きて?大丈夫よ?貴方が何を落ち込んでるかは分からないけど…話ぐらいなら聞いて上げるから。」
そんなマギリカの優しい声にヒューベルトは顔を上げた。
ヒューベルトの目の前には黒づくめの美女が優しく微笑み励ましてくれている。そしてホテルのステンドグラスを通ってきた日光が彼女に降り注ぐ。
その瞬間。ヒューベルトの頭にリンゴーンという教会の鐘の音が聞こえた。
そしてヒューベルトはサッと起き上がり立ち上がるとビシッと姿勢を整えた。心なしか顔つきも凛々しい。それに合わせて立ち上がったマギリカに視線を送る。
「貴女のお名前は?」
「?マギリカ・マギルゥよ。はじめまして」
ニコリと微笑むマギリカ。その途端ヒューベルトの心臓がズキュウウウウンと音を立てた。
「マギリカさん…なんて素敵な響き。私の名はヒューベルト・ロックンハートと申します。貴女はきっと女神の化身。此処で会えたのは何かの運命。それを記念してこれを…」
ヒューベルトは何処から出したのか薔薇の花を取り出してマギリカに差し出す。
「あら綺麗な薔薇!ありがとう」
マギリカはその薔薇を受け取った。そしてヒューベルトはマギリカをエスコートする様に歩き出した。
「…おい。アイツまさか…」
「うわぁ…でも何だろね?自分が狙いから外れたのは嬉しいけどちょっとムカつく」
ヴラムとエーデルがヒソヒソと話し合う。エーデルとしては自分が狙いから外れてくれたのは安心である。そしてヒューベルトとマギリカが、呆気に取られて道を開けていたメンバーを通り過ぎていく。
「おい!早くこいよ!あ!エーデルさんとそこのお嬢ちゃんはゆっくりでも大丈夫です!怪我だけはなさらないように!野郎どもは知らん!」
と先程まで落ち込んでいた癖に指揮をとり始めた男にマギリカ、キララ、ゴロー以外のメンバーは盛大にため息を吐いた。
用語
◯世界宿屋協会
世界中の宿屋に身分を隠して泊まりその宿屋の総合的な評価を下す。評価は5段階である。クローバー・トラベルという雑誌を刊行する。本気でやばい場所に対しては辛口でコメントする。
協会本部は知られておらず知るのは協会員のみ。発足はキララのご先祖様。