三章第一話 騎士団の調査報告書
それでは三章スタートです。21時過ぎごろに第二話を投稿予定ですのでよろしくお願いします。
勇者騎士団のとある個室。その個室には二人の男が机を挟んで向かい合わせで座っていた。
一人はアルス。もう一人はシルクハットに礼服を着た紳士である。
そんな二人の側にはスノーが端っこのテーブル上で調書を書いていた。
「貴方がその日に馬車を引いてた方ですか?」
「はい。確かに私はその日のその時間にハイビスカスとホワイトクロー間を経由しておりました。」
今行ってるのは例の動く花についての事情聴取である。それはヴラムから来た報告書。
『調査報告書』
◯月△日 14時20分頃
ホワイトクロー〜ハイビスカス間にて同行者マギリカ・マギルゥから魔力酔いの症状が現れた。様子観察して経過を見るが例の調査物の横断は確認できなかった。
しかし一隻の馬車が通り過ぎて行き通過後魔力酔いの症状が治る様子確認できた。
馬車による運搬の可能性等も考えられる為至急馬車の調査を要請する。
馬車の特徴から辻馬車運送会社ホウセンカの馬車と見られる。
とこれが内容だ。その為以前アルスはホウセンカに調査に向かい見事花の魔力を浴びた馬車を見つけ出した。…破壊してしまったが…。
アルスはその日すぐに該当する日付にヴラムの行ってた場所と時刻で動いていた人物を特定して召喚した。そこで来たのが現在アルスの目の前に座るこの紳士なのである。
シルクハットに礼服なのは高級感のある雰囲気作りの一貫らしく、仕事の途中で来てくれたのである。
「その時貴方は変なものを見ませんでしたか?例えば不気味で大きい花の様なものとか。」
「いえ…特に何も…花と言われましても私が見たのはどこにでも咲くような普通の花なのです。」
しかし紳士は例の花については何も知らないらしい。アルスは顔には出さないが落胆していた。この紳士の話を聞けば何か分かるのでは?と期待していたのだから。
「では…何か変わった事はありませんか?」
「変わった事といえば…」
「何かあったのですか!?」
アルスは紳士の言い淀む様子に食い気味に反応する。紳士もコクリと首を縦に振り、
「ええ…花ではありませんが、少し変わった雰囲気のお客様を乗せました。男性の方です。」
「変わった雰囲気?」
「はい。何と言いますか言葉に言い表せないような不気味な雰囲気が漂っていました。」
その言葉にアルスは首を傾げ、スノーは淡々と調書を書いていく。
「見た目の特徴とかは…」
「見た目は…そうですねぇ。血の様な赤黒い…長くボサボサの髪をしておりました。顔はよく見えませんでしたがチラッと見えた瞳には生気が感じられず…肌の色も土気色でまるで死人のような…こう言っては失礼だとは思うのですが…」
「いえ大丈夫ですよ?これも調査の為ですので…他には何か特徴はありますか?」
「服装は浮浪者のようなボロボロに薄汚れた格好をしていました。身体中には包帯が巻かれていて…」
浮浪者…確かにホウセンカの運賃はリーズナブルである為一般人も簡単に使っている。しかし浮浪者となるとそれすらも手が届くようなイメージがない。
「しかし彼はその服装からは想像出来ませんでしたが、身持ちがよくて私にチップを沢山くれました。
話し方は優しく穏やかでしたが…何と言いますか声色が冷たい感じかして…正直早く降ろしたいと思っていました。」
そういうと紳士は自身の腕を摩りながら青い顔をしていた。まるで怖い話をしているようである。
「その男性は名は名乗っていましたか?それと何処に向かうとか…」
アルスの問いにブンブンと紳士は首を横に振った。
「いえ…それが名前は聞いていません。何処にいくのかも…。正直これ以上関わりたくないと言う思いが強かったもので。」
紳士は申し訳なさそうな顔をしている。
「そうですか…ありがとう御座います。」
「あの…私これから仕事の予約が入ってるのですが…」
「あ!そうなんですね!お忙しいところありがとう御座いました!」
紳士は自身の帽子を外してアルスに会釈し、他の団員の案内で出て行った。
アルスは紳士が出るのを見送って後ドカリと座りため息を吐いた。
「益々分からない…」
アルスは額に手を乗せて悩んでいた。結局分かったのは馬車に乗っていた変な乗客についてである。収穫は…
「(あれ?)」
アルスは突如何かを思い出した。
「スノーせ…副団長。調書を見せて頂けませんか?」
「はい。どうぞ。」
スノーはサッとアルスに紙を渡した。そこには几帳面かつ細々とした字で紳士の話が纏められていた。
アルスが特に注目したのは紳士の言ってた男の情報である。
「(血の様な色のボサボサの長髪…土気色の肌…浮浪者の様な服装…包帯…)」
アルスはその特徴を脳内で当て嵌めていく。
途端にアルスは背筋に寒気を覚えていた。
「(僕は…この男と会っている…)」
それは丁度アルス達ホワイト隊が花の捜索に向かっていた日。アルスが本部の廊下を歩いていた時である。
顔は良くは見えなかったから目の様子は分からない。だが他の特徴は後ろ姿ではあるが見た事があるのである。
「団長?どうなさったのですか?」
スノーがアルスが黙り込んだ為、心配している。するとアルスが静かに
「僕…この乗客と会った事があります。いや正しくはすれ違っただけですが…」
「え?」
アルスの言葉にスノーは目を見開いた。
「スノー先輩。魔力が同じ=物質も同じって言うのは絶対なのですか?」
アルスは更に続ける。スノーはすぐにいつもの無表情に戻りアルスの問いに答える。その際先輩と呼ばれた事はわざとスルーして。
「いえ。大部分ではそう認識されがちではありますが。魔道具の様な魔力を込めた物の場合ですと、込めた魔力と魔道具の魔力が同じという例もあります。
魔力と魔力を込めた物質を別物として扱うと必ずしも=とはならないでしょう。」
スノーの言葉にアルスは真剣な顔で
「スノー先輩。もしかしたらの仮説を述べても構いませんか?」
「貴方は私の上司です。聞かない理由がありません。」
「ありがとう御座います。」
するとアルスはフウと息を吸い、
「僕たちは大きな勘違いをしていたのかもしれません。」
そう真剣な声で告げた。
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