二章第二十九話 ドラセナ大陸との別れ
14時過ぎ頃に三十話投稿予定。
本日で二章は終了します。
「…わぁ…」
ザザーンと鳴り響く波の音。そして夕日がまるで溶けるように海に沈んでいく。海はオレンジジュースのようにオレンジ色に染まっていく。ベルはじっとその光景を見ていた。
「…この光景…よくお兄ちゃんに抱っこされて眺めていました。夕焼けの海も夜の海も朝の海も、沢山お兄ちゃんと眺めていました。」
ベルは寂しげな顔で思い出していた。兄との記憶。ベルの水色のまるで朝の海のような髪の毛がサラサラと潮風で靡いている。
「…ベルは本当にお兄ちゃんが大好きだったんだね。」
「はい。…自慢の世界一のお兄ちゃんです。」
エーデルの言葉にベルは静かに答えた。
「ベルが小さい頃からレイギスは海に連れて行ってたもんな。」
「本当。いつの間にかいなくなってて心配してると二人して海を見に行ってたなんてザラじゃなかったものね。」
ベルの両親はクスクスと笑って思い出している。あの時は心配をかけさせた二人を叱りつけて兄妹そろっておんなじ表情でしゅんとしていた。
「…でもお兄ちゃんがいなくなってから全然海になんてきてませんでした。…お兄ちゃんがいないのに海に行くのはなんか嫌だったから…」
ベルはそういいながら自分の首に下げてたペンダントを取り出して蓋を開け、家族写真を見つめる。
「けど…私がいかなきゃ…約束を果たせません。それに私自身世界を見てみたいんです。お兄ちゃんが私に見せたかった世界を…」
ベルはぎゅっとペンダントを握った。そんなベルの言葉を一行は唯静かに聞いていた。
するとボーっという汽笛の低い音が鳴り響いた。
「…そろそろ出発の時間だな。」
ヴラムはそういうとフェリーの方を向き歩き出した。それに続くようにシュリもついていく。
「さーてと!私たちもいきましょーね!」
「マギリカ!走ると危ないにゃん!」
そんな二人を走ってついてくマギリカを心配するハチ。
そしてエーデルは
「ベル?行こう!」
「はい!…あ。」
ベルはすぐに父と母の方に向き直り二人に思いっきり抱きついた。
「行ってきます!パパ。ママ!」
「ああ…行ってこい!ベル。」
「行ってらっしゃい。たまには手紙も頂戴ね?」
「うん!二人とも行ってきます!」
ベルは二人に挨拶するとすぐにまたフェリーに向かって走り出す。そして待っていたエーデルと手を繋いでいく。
フェリーへの桟橋近くで他のメンバーが二人を待っている。
二人が到着すると全員フェリーに乗り込んだ。そしてすぐさまフェリーのデッキに移動して港の方を見る。
するとボーっと再度音が鳴り響きフェリーは動き出した。
「パパーママー!絶対帰るからまっててね!」
ベルは港が見えなくなるまで手を振り続けた。他のメンバーも手を振ったり眺めてたり三者三様。しかし全員港が見えなくなるまでデッキから離れなかった。
そしてとうとう船は遠くに行き港が見えなくなった。港の方からもフェリーは遥か遠く。
乗ってる人などよく見えない。船はまるで太陽に溶けていくように小さくなる。
「行っちゃいましたね。」
「ああ…だが子はいずれ巣立つものだ。私達は明るく見守ってやろう。」
ドラゴニアは涙ぐむマープルの肩を抱き、暫し夕暮れに染まる海を眺めていた。
そして一行は
「ベルちゃん?寂しくない?」
「寂しいけど大丈夫です!私にはお兄ちゃんが付いてますから!」
ベルはマギリカに家族写真を見せて笑顔で答える。
「素敵な写真ね…。確かにベルちゃんのお兄ちゃんは見えないだけでベルちゃんを見守ってくれてるわね♡」
「そうだと嬉しいです!それに皆さんもいるから…」
「やぁん♡かーわーいーいー♡ベルちゃん!寂しくなったらマギリカお姉さんのお胸に飛び込んできていいからね♡」
気丈に振る舞うベルをマギリカはムギュッと抱きしめた。
大きな胸に挟まれたベルは苦しそうである。
「ま…マギリカ様!ベルが窒息してしまいます!」
「あら?シュリにもしてあげるわん♡」
「へ!?お…俺はいいです!」
すぐさまベルを救出しようとするシュリだが結局返り討ちにあっていた。
するとベルは自身の胸をぺたりと触って無表情である。
「どうしたのにゃん?」
「お胸…」
「…成長すれば大きくなるにゃん。豆乳とか大豆でも食べるにゃん。」
「大豆…」
ベルは何やらマギリカの胸に触発されたらしく気になり出したらしい。自身の胸の小ささに、ハチはどう返せばいいのか迷った挙句、励ましと豊胸効果のある大豆を進め出した。
ベルは早速一行に溶け込んでいる。一行も殆ど面倒見のいいメンバーの為かベルを可愛がっている。
そんな他のメンバーと戯れているベルを安心した顔で見守るエーデル。
「ふふ。ベルみんなとすぐに溶け込めたみたいで良かった!ね?ヴラム。」
「ふん。俺は別にあんなガキが泣こうが喚こうがどうでもいいがな。」
「…そんな事本気で思ってる人ならベルを助けたり本気で叱ったりしないと思うけど?」
相変わらず悪態しかつかないヴラムにエーデルは苦い顔をしている。
だが…
「ヴラムって何でそんなに意地悪な事とか言うの?」
「さあな。俺も知らん。」
「じゃあ自然と出るの?」
「知らん。」
「もしかしてだけどさ?わざと人に嫌われようとしてる?じゃなくても人と距離置きたいとか。」
「!?」
エーデルの言葉にヴラムは目を見開いた。
「あ。図星?」
「違う。俺は他人の事などどうでもいい。全くしつこい小娘だ。俺は中に戻る。じゃーな。」
そう言ってヴラムはさっさと船の中に行ってしまった。
「うーん追求しすぎたかな。」
エーデルはヴラムの様子に少し罪悪感を感じ始めた。だが彼が人からわざと距離を置きたがっているのは分かった。
しかしエーデルにとっては謎の考え方だ。人は誰しも人に好かれたいと思うものだと思っていたし、嫌われるのを恐れる人もいる。
そんな中でヴラムのような人物は不思議な存在だ。
「あれ?エーデル。ヴラム様は。」
「船の中に入ってったよ。」
「分かった!ヴラムさまぁぁ!」
「声でか!」
シュリはヴラムの姿が見えないことに不安を覚えたのかすぐにヴラムの元に向かった。
でかい声を出して。声は海に溶け込んでいくが至近距離で聞いたエーデルは耳がキーンとなり不快感で顔を歪める。
そしてベルがハチの肉球やら毛やらに夢中になり始めているのを確認してエーデルはマギリカに声をかけた。
「あのマギリカさん?質問いいですか?」
「ん?なーに?」
「マギリカさんは知ってますか?ヴラムが人から距離を置きたがる理由。」
するとマギリカは首を傾げた。
「ごめんなさいね。私もよくわからないわ。あの子の性格は、昔からああだから…」
「そうなんですね。」
長い付き合いであるマギリカでさえ分からないとなるとお手上げである。
シュリに聞くのも手だが彼に言えばヴラムのそばに置いてもらえてる事に天に召されるか、もしくは人と関わりたくないのに自分が彼のそばにいて負担になってると考えて自決しようとするかだろう。
その為シュリには敢えて聞かないようにした。
「でもどうしたの急に。」
「え?うーん何か気になってしまって…私ヴラムの事全然知らないし。」
思えばヴラムに関しては謎が多い。生まれも育ちも全く知らない。
性格も優しいのに意地悪の仮面を被っているのでどんな人物かも詳しく紐解けないでいる。
「まぁ人それぞれよ。人には人のドラマがある。私とセレーネの問題だってそうでしょ?
私は結構人に自分のこと語るのは平気よ?けどそうでない人もいる。分かった?」
「はい…」
マギリカの言葉にエーデルは項垂れていた。そしてエーデルもベルとハチの元へ行きハチのフカフカの毛に抱きついていやされ始めた。
「エーデルちゃん…ヴラムの事やけに気にしてるわね…
自覚させないようにしないと…でないと…」
マギリカは警戒しながらエーデルを見つめていた。
これまで出てきた魔法
マギリカ編2
・魔女の鉄球
透明で巨大な球体を召喚して相手に放つ技。セレーネの天球儀より命中率は低いが威力は高い。マギリカの魔法操作能力により命中力は補われている。
・魔女の大鏡
透明な縁がついた鏡を魔力で形づくる魔法。特殊な魔力構築法により自身に放たれる魔法を跳ね返す事が出来る。