二章第二十三話 再登場の凸凹騎士
17時過ぎごろに24話投稿予定
「皆さん申し訳ありません。ベルの事をよろしくお願い致します。」
「いえいえ!寧ろベルちゃんが入ってくれるなら有難いばかりですよ!私達に任せて下さい!」
一行はベルの両親に挨拶しに行った。大事な一人娘を預かるのだ。それも危険な旅路である。マープルは申し訳なさそうに挨拶する。
エーデルは胸を張り、ニカっと笑いながら答える。
「べル?皆さんの言う事をちゃんと聞くんだぞ?」
「うん!分かってるよ!」
ドラゴニアはベルと目線を合わせて言い聞かせている。
「けど今日はお祭りだもの。私達もお呼ばれされてる訳だしね?旅前に楽しんじゃいましょうか!」
「ちっ…あの老いぼれトカゲが…」
マギリカはウキウキしているがヴラム的には早く出発したかったようだ。だが
「ヴラム様!祭り楽しみですね!」
シュリはニコニコと笑いかける。ヴラムは暫し黙り込み
「まぁ…たまにはいいかもな。祭りでは珍しい食いもんも売っている。貴様も付き合えシュリ」
「はい!勿論です!」
直ぐに考えを変えてしまった。そして頭の中でシュリに何を食べさせてあげるかをリストアップし始めている。
「親バカ…」
「まぁまぁ。無礼講にゃん。」
エーデルは頭に手を置いて呆れている。そして新たに加わる仲間にも声をかけた。
「ベルちゃんはどうする?」
「私はパパとママと過ごします。」
「そっか!うん。旅は長くなると思うもの。今のうちに楽しんだ方がいいよ!」
「はい!」
そう言ってベル達親子と一度別れた。暫くすると外でパンパンと花火のような音が聞こえる。
祭りが始まった合図である。
「よーし!始まったわよ!皆んなレッツゴー!」
マギリカが張り切り出して外に出ていった。
「元気だねぇマギリカさん。」
「…いやというか結局マギリカ様のお話が途中じゃないのか?」
「あ…だね…」
エーデルとシュリは苦笑している。しかしこれから旅を共にするのだ。聞く機会は必ず訪れる。
「グリムか…」
「どうかしたにゃん?」
グリムの名を呟くヴラムにハチは何やら気になる様子である。
「いや…何処かで聞いた名だと思っただけだ。…いやだがグリムなんて奴と会った事等ないぞ?」
「気のせいとかじゃにゃいか?」
「埒が空かんしそういう事にしておこう。それより貴様猫なら猫らしく魚でも食ってろ。」
「あ狸って言わにゃいにゃんね。ちょっとツッコミ準備してたの恥ずかしいにゃん…」
一方その頃勇者騎士団。
「こ…これはら…ラブレター!?」
ワナワナと震える手で一つの手紙を掴む騎士がいた。いつぞやにヴラム達と出会ったシューベルトである。
「いやあのぉ…先輩?これ先輩宛じゃなですよ?名前もアルス隊長の名前が書いてますよ。」
「夢ぐらい見させろよ!畜生!」
突っ込んでくるゴローに噛み付くヒューベルト。しかし渋々と別隊の隊長であるアルスの執務室へ歩いていく。
「うう…矢張りイケメンだからか?というかこの封筒すっごいファンシーで女の子らしいし、文字はすっげぇ綺麗だし。何なら文字からいい香りもする!こりゃあ絶対相手は絶世の美女だぜ!」
「偏見でしょ?」
「偏見ではなーい!いいか?文字とは心を写す鏡だ!心が美人なのは間違いない!」
そう言い合いながら二人はアルスの執務室へ訪れた。ヒューベルトは普段接する事のないアルスに緊張しているが意を決してドアを叩く。
するとすぐにどうぞと声がかかる。
「失礼致します。私ゴードン隊所属ヒューベルト・ロックンハートと申します。」
「同じくゴードン隊所属のゴロー・ビスケッツと申します。」
別隊の二人が入ってきた事に驚くアルスとスノー。
そしてもう一人いたのが
「え?隊長!?」
そこにいたのはヒューベルト達の所属隊の隊長であるアレックスである。
「おお!二人とも!どうしたんだね?」
アレックスはニコニコと笑いかける。
「いえ…実はホワイト隊長宛の手紙がゴードン隊の方に間違って郵送されていたみたいで届けにきた次第です。」
「あ!そうなんですね?有難うございます!」
アルスはぺこぺこと頭を下げてヒューベルトから手紙を受け取る。ヒューベルトの方がアルスより年上なのもありアルスは敬語である。
スノーはそんな威厳が感じられない彼に少し呆れていた。
何なら今だに気が抜けるとスノーを先輩と呼んでくるので直したい所存だ。
「うわ…可愛い手紙…」
アルスもヒューベルトと似た様な勘違いをしたのかアワアワと顔を赤くしている。
「おやおやアルス君も隅に置けないね。」
「しかし封だけ妙にシンプルですね?…いいな…私もシュリさんと文通したい。」
ボソリと呟くスノー。
「いいですねぇ。ラブレター!僕もよく彼女と手紙を出し合ってます!」
「ゴロー君の恋人はココヤシ大陸にいるんだってね。結婚式にはぜひ呼んでくれたまえ。」
「はい!勿論です!」
アレックスとゴローは穏やかに話している。
「彼女自慢やめろよぉ!俺の心が抉られるだろうが!」
ヒューベルトは血涙を流している。
そんな中アルスは少しドキドキしながら手紙を読み始めたが…内容と宛名を見て少しテンションが下がった。いや下がってはいけない内容なのだが…
「どうしました?」
「いや…実は花についての調査報告が来ましたので…」
「あぁ!例のだね?」
「「花?」」
ヒューベルトとゴローが同時に声を発した。
「詳しい事はまた説明するよ。…そういえばゴロー君?君はココヤシ大陸に行く気はないかい?」
アレックスの突然の質問にゴローは首を傾げながら
「行けるなら行きたいとは思ってますけど…」
「そうかそうか!それなら話は早いな!見習いである君の勉強にもなる。実はとある任務で協力要請を出しているんだ。」
「要請って一般人ですか?」
ヒューベルトの質問にアレックスは頷いた。
「そうだ。だが一般人のみに任せるのは負担がかかるだろう?見習いである君の経験にもなるし手伝ってきてほしいのだ。」
「そうなんですね!承知しました。」
「おっと!アレックス隊長!お待ち下さい!」
ゴローが了承するとヒューベルトが動き出した。
「こいつのお守りは俺の役目!コイツが行くなら俺も行きますよ!」
「先輩…」
ゴローはヒューベルトの言葉に感動していた。
「決して水着美女とかセレブ美女とお近づきになりたいわけではありません!ゴローが心配だから行くのです!」
「先輩…」
しかし直ぐに呆れ顔になった。
「それに私には運命の出会いをしたばかり!あぁ…エーデルさん…」
ヒューベルトは頭の中でエーデルの可愛らしい笑顔を思い出していた。
だがこれが悪魔を呼び出した。
「は?エーデル?」
「はい!エーデルさんとはそうツクシの村にて共に魔獣事件を解決して下さった。まるで天使のように可愛らしいお嬢さんですよ…」
アルスはピクッと青筋を浮かべる。しかしヒューベルトは鼻の下を伸ばしてデレデレしていて気付かない。
ヒューベルトの質問にアルスは思い出した。
『成程。そして次はツクシに向かったのか…」
『そうだよ。あ!そういえば二人の勇者騎士と会ったよ?ゴローさんと…えとヒューなんとかさん!』
そうそれは旅の経緯を聞いた時にエーデルが言っていた。そして目の前の勘違い男が妹の言うヒューなんとかさんで間違いない。
「妹はやらん!帰れ!」
「ぎゃああああああ!」
「せんぱぁぁぁぁぁぁあい!」
キレたアルスは魔法を発動した。アルスの起こした風でヒューベルトは壁を突き破り吹っ飛んでいった。
それを追いかけるゴロー。
「うわわ!君やりすぎだよ!ヒューベルトくぅぅうん!」
アレックスも自隊の隊員が飛ばされたので直ぐ様走って追いかける。
「…壁壊さないで下さいよ。しかも他隊の隊員に危害を加えて…」
「妹に手を出す奴は全員死刑!」
「このシスコンは…」
スノーに注意されるがアルスは妹の為なら何だっていいと思ってる。何なら妹の為なら簡単に法を破る勢いである。
「それよりも辻馬車運行会社に連絡を。直ぐに調査しましょう!」
「はぁ…」
スノーは大きいため息を吐いた。
用語
◯ゴードン隊
勇者騎士団に属する隊の一つ。隊長はアレックス・ゴードン。所属騎士にはヒューベルトやゴローがいる。
隊長が穏やかな性格の為か隊の雰囲気も穏やかであり、ヒューベルトみたいな曲者もまたやってるなぁぐらいで流される。皆隊長を慕っている。