二章第二十話 魂の別れ
6/3投稿終了
6/4二十一話と二十二話投稿予定
レイギスはベルの両親がついている。ベルとエーデル、ヴラムは三人に素早くバリアを重ね掛けした。その間にセレーネは魔法を発動しようとしていた。
「面倒臭いし時間の無駄ですわね。全員死んでしまえば時間短縮ですわ♡」
セレーネは思いっきり腕を上に上げて早速魔法を発動しようとしたが
「待ちなさい!」
小さな少女の声。セレーネはその声の正体に気づき。また目を開眼させて表情を冷たくする。
「何ですか?私エルフなどと話す気はこれっぽっちも…「お姉さんのバカ!ブス!」は?」
前に出たベルが大声でセレーネを罵倒し始めた。
「えとえと。アホ!デブ!えとクズ!んーと…」
しかし罵倒に慣れてないベルはオロオロし始めた。だがセレーネの怒りを爆発させるのには十分だった。
「お子様だからって…調子に乗らないでくれますか?言いましたよね?私はエルフがこの世で一番嫌いなの。
だってエルフってずるいじゃありませんか。対して強くもない癖に人気があってチヤホヤされて…エルフは奪うじゃありませんか。
何で?私のほうが強いのに…エルフと同じ長命種なのに…何で?何でですか?ねえ?ねえねえねえねえねえねねえ?」
「ひ!」
壊れたように言葉を紡ぐセレーネにベルは恐怖で固まる。すると
「…"大魔女の晩餐会"」
セレーネは全魔力を集中させた。透明な蝋燭や家具、雑貨品やナイフなどの武器類。
統一性のない無数の魔法物質を生成していく。
そしてそれは天からの光が見えなくなるほどに天井を埋め尽くした。
広範囲かつ高威力の魔法。幼い少女一人にそれをぶつけようとしてる。ただエルフだからという理由だけで、それだけに彼女のエルフへの憎悪がわかる。
「…これで…世界の汚れが一つ減る。さようならクソガキ…」
感情の篭らない瞳で見つめるセレーネ。彼女が指をパチンと鳴らすと一気に生成された魔法物質が下に降下してしていく。
だが
「"絶対零度"」
ヴラムが全魔力を流し込み強力な冷気を浴びせた。
魔法物質の一部が凍りヴラムが再度魔法を解除するとそれらが砕け散る。
「"光の壁"!」
エーデルがバリアを応用して魔法物質を包み込みゆっくり降下させて無力化していく。
ある程度の物質が消えて回避可能エリアを確保するとシュリが素早く駆け出してベルを救出する。
するとベルのいた場所に魔法物質が降り注いてきた。
「あ…うそ…」
セレーネはその途端自分の失態に愕然としていた。怒りに身を任せてしまい全魔力を注いでしまった。つまりもう魔力は枯渇している。
「だ…大丈夫。まだ…」
セレーネがまたもやドーピングしようとするがそこへバトルモードのハチが猛スピードで駆け寄りセレーネを押さえつけて薬を奪い取った。
「な…離しなさい!」
「五月蝿い!貴様薬に頼るとは!戦士の誇りはないのか!」
足掻こうとするセレーネにハチが一括する。
するとゲルラな腰につけてた魔力封じの手錠を取り出し、セレーネの腕につけた。それをつけられた瞬間セレーネは絶望した。
「セレーネ・マギグレア。世界遺産破壊と傷害。殺人未遂等の罪で貴様を逮捕する。」
セレーネは呆然として動けないようだ。
一方。セレーネが全魔力を使い果たした事でレイギスにかかってた魔法も消えていく。
レイギスの体が淡く光っていく。
「レイギス…逝ってしまうのか…」
「レイギス…」
両親は息子を抱きしめる。
レイギスは
「と…さん…か…さん…」
と呟き涙を流している。
「お兄ちゃん…」
「ベル…おいで。」
ベルは腕を広げる兄に抱きついた。生前は温かかった体は今は凍りつくように冷たい。けれどその優しげな感じは生前と同じだ。
ベルはレイギスの顔を見つめる。その目も光がなくてビー玉のようだ。けれどその眼差しがベルを愛おしそうに見つめている。
「ベル…その服…似合ってる…」
レイギスは辿々しく言葉を紡ぐ。
「うん!お兄ちゃんからもらったワンピースだもん!お気に入りだよ!」
ベルお気に入りのセーラーワンピは海が大好きなレイギスが買ってきたもの。レイギスは給料を貰うとベルとの旅の資金を貯金したり、家に仕送りしたりしていた。
自分の物は殆ど買わずにベルに贈り物をくれる。ワンピースもその一つだ。
「一緒に…旅したかったな……」
「出来るよ!お兄ちゃん!一緒に行こうよ!」
「ごめんな…約束破って…」
レイギスは光のない目からポロポロと涙を溢していた。
すると体から白っぽい透明な光が出てきている。
「ま…まって!お願い!お兄ちゃんから出て行かないで!」
ベルは泣き叫ぶ。相手は魔力。生物じゃないので当然声は届かない。分かってる。その光があったから兄は意思関係なく動かされて家族を傷つけようとしてしまった事。
けど今…兄はまるで生前の兄のように話してベルを抱きしめてくれるのだ。ずっと出ていって欲しかった動力源。でも今は出て行かないで欲しかった。もっと兄といたいから
兄と約束通り旅をしたかったから
レイギスは最後に家族に微笑み
「父…さん…母…さん…ベル…俺の事…忘れないで…
愛してる…」
そう話したらガクリと倒れ込むレイギス。体もダランと力が入っていない。魔力の動力源が天へと昇って行く。まるでレイギス自身の魂のように
「やだよ!逝かないで!お兄ちゃん!」
「ベル!」
「やだ!離して!お兄ちゃん。お兄ちゃん!」
兄の体を抱きしめながら上に向かって手を伸ばして泣き叫ぶベル。
そんなベルをドラゴニアは涙を流しながら止めようと抱きしめた。するとマープルが
「ベル…大丈夫よ。お兄ちゃんはずっとベルの事大好きだから。」
「でも…でも…」
「お兄ちゃんはね?きっとお空でベルを見守ってくれるよ。見えないだけでずっとベルのそばにいる。だから…ね?」
マープルはベルの手を包み込み優しく語りかける。ベルは落ち着きを少しずつ取り戻して行く。けれど涙が止まらずにマープルとドラゴニアに抱きついて顔を埋めて何度も何度も涙を流した。
そんな光景を見ていた他のメンバー
「ベル…」
エーデルはそんなベルを心配そうに見つめている。ヴラムは目を伏せて何も言わない。
シュリも何と声をかければいいのか分からずに黙って眺めていた。
一方マギリカとハチは
滝のような涙をザバーっと流していた。
「うわぁぁぁん!こんにゃの!こんにゃの耐えられる訳にゃいのにゃ!」
「やだ…私ったら…歳とると涙脆くて困るわ…」
「…まぁババアだもんな「あ?」すんませんした。」
ヴラムは余計な事を言いマギリカに絞められていた。しかしお陰でマギリカは泣き止んだ。
ゲルラはそんな一行を見て少し呆れながらもベルに歩み寄って行く。
「これを貴殿に。」
「私にですか?」
ゲルラは何やらペンダントの様な物を持ってきた。それを受け取ったベルはそれがロケットだと気づき中を開いた。
そこにはベルを中心に写る家族写真。両親とそして生前の兄。
「ベルと言ったな。これは貴殿の兄の持ち物だ。…殉職した時もこれを首に下げていた。」
「お兄ちゃんの…?」
「ああ…今年の大慰霊祭で渡そうと思っていたのだ。」
ベルはじっとその写真を見つめる。そして思い出していた。
ベルがまだ小さかった頃兄はベルを連れてパキラの海をよく眺めていた。兄に抱っこされながらベルはキラキラ光る海の向こうには何があるのか。そんな好奇心でうずうずしていた。
『お兄ちゃん。あっちには何があるの?』
ベルが海の方を指刺す。するとレイギスは
『あっちには沢山の島があって色んな人が住んでたりするんだよ?」
『島?人?』
『うん。例えば妖精とか。小さくて綺麗な羽が生えててな?妖精の住む島は沢山の綺麗なお花とかキラキラの宝石が埋まってたりとか。』
『しゅごい!ベルも行きたい!』
『よーしならお兄ちゃんと約束しようか!お兄ちゃんがベルを妖精の島は勿論。色んな所に連れてってやるぞ!』
『本当!?約束だよ!』
そう言って兄妹は小指を絡ませて指切りをきた。
『お兄ちゃん!だいしゅき!』
ベルは兄が大好きだった。そして今も大好きだ。
「お兄ちゃん…」
ベルは静かに涙を流す。ポロポロとその涙がロケットの写真に落ちて行く。
一行はベルが泣き止むまで静かにその場にとどまっていた。
此処までお読みいただきありがとうございます