四章第十話 不穏な影
本日の投稿は終了です。明日は十一話と十二話投稿します。よろしくお願い致します
エレベーターが下り、チンという音が鳴って停止した。そしてシュンとガラス扉が開いた。
「この階だ。こい」
一行は慎重に降りていく。
その階は少し薄暗く…何やら独特な匂いがする。するとベルがビシッと手を上げた。気分が殆ど工場見学である。
「はいゲンさん!どうして何か変な匂いがします!どうしてですか!」
「ベル?流石にストレートすぎるぞ?」
ベルの悪気のないストレートな言い方を嗜めるシュリ。しかしゲンは特に気にしていない。
「ああ…この階は実験を行っていて色んな薬品を使っているんだ。恐らくその匂いだろ」
「実験!?何の実験ですか!」
「企業秘密だ」
ベルは更に目を輝かせるがゲンは人差し指を口元に当ててはぐらかした。ベルはぷくりと頬を膨らませている。
「…ロクロどうした?」
ゲンは後ろを向いてハチに声をかけた。他のメンバーが見るとハチが中々歩みを進めないでいるのだ。
「…一つ聞くにゃん…お前はどうして此処に案内したにゃん。」
「何故それを聞く」
「だって…此処は吾輩が……吾輩が実験台になった研究所じゃないかにゃ…」
それを聞いた一行はピシリと固まった。人体実験…とても残酷な響きである。
途端にメンバーはゲンから離れてハチの周りに固まった。
「おい貴様…ハチ…いやロクロの言ってる事は本当なのか!」
ヴラムが怒声を浴びせる。他のメンバーも警戒心を固めて睨みつける。
ベルやエーデルはゲンへの本当はいい人…という考えから少し躊躇している様子である。
しかしそれでも仲間を守ることを選んだようでハチの周りに固まった。
ゲンは表情を変えない。そして一言
「ロクロの言ってることは真実だ。」
「な!?」
「そして俺は今の…不死と成り果てたロクロを助けるべく此処に来た。そして生きながらえた。これは全てロクロ…お前のためだ」
ゲンはハチをじっと見つめる。ハチは無言でゲンを見つめている。
「…詳しいことは奥の部屋で話す。ついてこい」
「おい待て!」
ゲンはスタスタとまた道を進んでいく。一行はその背中を慌てて追いかけた。
その頃の勇者騎士団本部にて
「隊長!此処にいたんですか!?」
「副隊長…いやスミマセン。僕が不甲斐ないばっかりに…」
ジークハルトと共に団長室に入ったスノー。団長室には自身の探してアルスが団長室の質のいい革のソファでコーヒーを飲んでいた。
「何があったのですか?暫く戻られなかったので心配しましたよ?」
「いえ。実は僕もよく覚えていないんです。ただ副団長室に入ろうとしたら急に眠気が襲ってきて…」
アルスは頭をかきながらそう説明するが要領を得ない。スノーは首を傾げた。
「覚えてない?」
「はい…」
申し訳なさそうにするアルス。するとジークハルトがアルスの向かい側のソファに座った。
「ああ…倒れてるホワイト隊長を此処まで運んだ次第だ。」
「いやその…本当に申し訳ありませんでした」
アルスはぺこぺこと頭を下げている。
「さて…副隊長!それで何かご用事ですか?」
「ほう…そうなのか…私にも教えてはくれないか?良かったら協力してやるぞ?」
「え!本当ですか!?」
「ああ…君の言う通り…確かに今回の問題は世界規模のようだ。これは団長である私も出ねばならぬだろう」
団長であるジークハルト申し出にアルスは驚きながらも嬉しそうだ。
だが
「いえ。ただ隊長のお帰りが遅い為迎えに来ただけですので」
「え?何か用事があったんじゃ…」
「何もありません。隊長そろそろ執務室へ戻りましょう。エヴァンス団長。我々は此処で…」
「…そうか。何かあったら報告してくれ」
「承知しました」
スノーは何やら不思議そうな顔をするアルスを連れて部屋から出た。
アルスはスノーに話しかけた。
「あ…あのぉ…先p「副隊長」副隊長。本当に何もありませんか?」
アルスの問いにスノーはアルスに耳打ちした。まるで周りに聞こえないように
「詳しい事は執務室でお話します。行きましょう」
アルスは更に首を傾げるがスノーに連れられて執務室へ戻った。
そしてそんな様子をじっと見る者がいた。その人物は美しい白い翼に真っ白な髪とまつ毛、空色の瞳をした青年だった。頭の上には光輪が浮いている。…天使族の特徴である。
天使はガチャと音を立てて団長室へと入って行った。
スノーに連れられてアルスが執務室に入るとスノーは鍵をかけ、アルスと自分の周りに分厚い氷の壁を出現させた。
「副隊長?どうかしたんですか?」
「…隊長?団長には何処まで説明したんですか?あの花について」
「説明ですか?詳しい事は教えてないです。まだ不明な事も多いので。花の出現範囲ぐらいしか…」
「ふむ…それともう一つ。貴方は副団長室で急に眠くなったと仰っていましたよね?それは…」
「わかりません…もしかしたら副団長が何か…」
「副団長にアポは?」
「いえ。つい勢いで…」
するとスノーは顎に手を当てて考え出した。
「貴方が来るのを知らなかったのに事前に何かを仕掛けとは考えにくくないですか?それにそんな事をすれば何かしら疑われる可能性だってある。そんか危険な賭けをあの方がするでしょうか?」
「あ…」
「考えうるのは…副団長が仕掛けた場合は他の人物に対して罠を設置してそれに偶々隊長が引っかかったか…
二つ目はそもそも仕掛けたのは副団長ではない別の誰かである。
そして二つ目が成立した場合、団長の関わりも浮上してきます」
スノーが最もおかしいと思った点はアルスが副団長室に入ろうとした時である。
その際に急な眠気が襲った。余りに不可解だし、ねてる間の空白時間もあるのだ。
「三つ目は副団長が何かしらの方法で貴方が此処に来るのを知った。そして貴方を狙って眠らせた。
ただこれだと同じ隊の副隊長の私にも何かあってもおかしくはない筈…」
「ですが副隊長?もし仮に団長が犯人だとしたら副隊長も眠らせた方が…」
「いや…私が団長室に入った時には貴方は既に起きていた。此処で私が寝てしまったら自分との関連性を見て貴方は不審に思うのでは?」
「確かに…」
スノーの淡々とした説明にアルスは眉間に皺を寄せて考え込み始めた。
「隊長。今後他の隊との情報共有はあまり広げない方がいいでしょう。
副団長相手だと失礼ながら信用に欠ける部分がありますので他の隊の方々も注意して下さるとは思うんです。
しかし団長の場合は信頼が厚い…。情報が漏れるかもしれません。これはゴードン隊長にもお伝えすべきかもしれません」
「分かりました。ゴードン隊長にもこのことはお伝えします」
アルスはまだ少し疑っているがスノーの方を信じる事にした。
仕事上では彼女以上に信用できる者などいないのである。
「ご理解頂けてありがとう御座います」
「いえ…そうだ。何か報告があったのでは?」
「はい。実は…」
スノーは研究室で判明した事をアルスに説明し出した。
用語
◯天使族
世界にいる9種族のうちの一つであり、主に天空に浮かぶ大陸ライティア大陸に住んでいて滅多に地上へ降りない。殆どの天使族は他の種族を見下す傾向にある。
特徴としては回復魔法が得意で使う魔法属性は、光か雷系統が殆どである。