侵入者
主がいない空っぽの魔界で四班たちは時間ある限り戦い続ける。
「どんだけいるんだ? しかも下級悪魔ばかり」
影月は戦いながら疑問と焦りが押し寄せる。
「多分、主が逃げたことによって、上級に値する悪魔も一緒に逃げたんだろう。上級に値すると知能もあるから、自分より上の奴が敵わないと感じたら、自分じゃどうしようもないと判断するだろうし」
零が戦いながら答える。
零は建物の中に入って悪魔がいないか隅々まで調べる。すると、零は何かを見つける。
一方その頃、皆無は魔界の中心であろう部分に到着する。
(この魔界、最初から少し不審に思っていたが、都会慣れしてる悪魔であっても、こんなもの作ることができるのか? 後、こんな隠しルートまで用意するなんて、まるで……人間が手を加えているような……)
皆無が考えているその時、生徒の呼ぶ声がする。
「先生、ここに人が……」
皆無は急いでその場所に向かう。
そこには影月とるなが待っており、四班全員が揃う。
そして、その奥には少年が壁にもたれかかって倒れている。
「一応、息はあるんですが……」
一通り皆無が容態をチェックする。
(大した外傷は見当たらないないし……)
「よし、空まで運ぼう」
そして、ようやく増援が駆けつける。その増援には織姫も加わっていた。
誰も負傷者はおらず、無事に終わったと思ったのは四班の生徒だけだった。
皆無は魔界の中で一番高いビルの屋上にいる織姫のところまで足を運ぶ。
「先生」
「何だ、皆無」
織姫は魔界の中心部を見ながら答える。
「何か嫌な予感がします。気のせいでしょうか?」
「いや、私もだ。何かが起きている」
その裏では、三人の影が遠くから様子を窺う。
「あれが天敵か……」
「初めて見たけど強そうだね」
「特にあの白黒の奴、只者じゃない」
「あれが俺たちの宿敵なのか?」
「まあ、そういうことになるね」
「そんなことより。宿敵である相手に取られてしまった。この失態は大きすぎる。何とかせねば……」
「まあ、焦ることはないよ。奪い返せばいいだけなんだから」
皆無は空に戻り魔界にいた少年を監禁室に閉じ込めて、シールドの張られた窓ガラスから様子を窺う。
「先生! 魔界にいた人は……」
突然、四班の生徒たちがこの場所に駆けつける。
「まだ、目を覚さないよ」
皆無は冷静に質問に答える。
「そうですか……」
零は監禁室を見つめる。
続けて影月が新たな問題に気づく。
「だけど、何だって魔界に人が?」
ようやく影月がその疑問にたどり着くが誰にもわからない。
「確かに。何故、あそこにいたか不明だ」
皆無は四班の生徒たちを見て話しをし始める。
「どうやら、オマエらには伝えておく必要がありそうだ」
「何ですか?」
零が少し食い気味に聞く。
「それは……」
「ハックション!」
皆無が話し出そうとした時、るながタイミング悪くくしゃみをしてしまう。
「おいおい、大事なとこなんだけど……」
「すいません。どうしても我慢できなくて」
るながいつも以上に黙っていたのはくしゃみを我慢していたからだった。
そして、皆無が再び口を開く。
「それは……」
ドカーン。次は地上の方で大爆発が起きる。
「次は何だ。今日は騒々しいな」
すると、皆無のスマホから不愉快な音を鳴らし始める。
「一体なんだ?」
影月は揺れとスマホの音で悪い事態が起きたと考える。
「オマエらはこいつを見といてくれ!」
「先生、何が?」
「シールドを突破された」
地上では白のパーカーを着た人たちが別々の場所で暴れ始める。
(嫌な予感が的中したか)
地下にいた皆無は急いで地上へと向かう。
すると、皆無のスマホに着信が入る。それは織姫からだった。
その内容は『二人の侵入者が現れた。北側の校舎付近と東側の山荘近くに出現、東側の山荘はちょうど私がいたから対応しているが北側の方は対応が届いているかわかない。頼んだぞ。皆無!』というものだった。
「了解」
皆無はメールを見て北側に向かう。
(多分だが、この襲撃は計画的なものではないだろう。織姫はいつもあそこに参りに行くんだから、それを知らないってことはおそらくは間違っていないだろう。だが、もう一つ考えられるのは知っていてこの行動を起こしている場合だ。もしかしたら目的は……)
四班たちはどうしていいのか分からず待ち続ける。
「どうする? 全く状況が掴めないぞ」
「先生がそいつを見とけて言っていたから、待っとこうよ」
「だけど……先生のあんな顔初めてだ。何かやばいんじゃ」
すると、監禁室にいる少年が体を起こして目を覚ます。そして、急に立ち上がって寒そうにして体をさする。
監禁室の窓側から見ている四班たちはその異変に気づき、誰かを呼ぼうとするもさっきの事態で人が誰もいない。
どうしようか迷っている隙に窓ガラスには少量の血が擦りつく。
何かと思って零が窓ガラスから監禁室を覗き見ようとした瞬間、バリアが破壊されて、監禁室が吹き飛ばされる。
近くにいた四班たちは瞬発的に受け身をとり体制を整える。四班たちは何が起きたかわからず、その場に止まる。
監禁室があったであろう場所からは零が際で見た赤い斬撃が浮遊している。
四班たちはそれが少年の能力だと仮定づける。
すると突然、少年の能力である赤い斬撃は暴走するかのように周りを削り、地上へとつながる穴を開ける。この破壊力は四班たちを驚かせる。
「おい、やばいぞ。どうする?」
「どうするも落ち着かせるしかないだろ」
「どうやって?」
「力尽くで……」
四班たちは暴走した少年と戦うことを決意する。
その一方で、北側の校舎に皆無が辿り着く。
「オマエか、暴れてる侵入者は?」
そこには白のパーカーを着た少し背の高い男が仁王立ちで構えていた。周りにはこの男と交戦して倒れている天敵が十人ほどいた。
唐突に皆無は白服の男に聞く。
「オマエらの要件はなんだ?」
「答える義務がない」
その答えが出た瞬間、皆無は壊を男の横すれすれに放つ。
「で、答えは?」
「変わらないな」
皆無は返答を求めるが、相手は顔色一つ変えず堂々と立つ。
「あっそう。痛い目見ても知らないよ?」
皆無は戦闘の姿勢をとる。
「大丈夫だ。負ける気はしない」
それに応えるように白服の男も構えを取る。
「上等だ!」
皆無はもう一度壊を放つ。今回はしっかりと相手目掛けて放つ。
すると、白服の男は手を前に黒い渦を発生させる。黒い渦は皆無の壊を吸い取る。
(壊が消えた?)
皆無が数秒考えている間に黒い渦からは壊が皆無目掛けて飛んでくる。
皆無は反射的に避ける。後ろにあった校舎の一部が崩れる。
「なるほど、カウンターか」
皆無は一瞬の驚きを顔に表す。
(遠距離攻撃をしてもカウンターされるし、ここであれを使うと校舎やここにいる人まで吹き飛ばしてしまう……)
「やりにくいな」
東側の山荘では、もう一人の白服の男と織姫が交戦していた。
白服の男は鎖を使い、織姫から離れる。逆に織姫は木という障害物が多くある山荘を帯を使って、しつこく白服の男に近づく。
「おいおい、逃げてばかりじゃ、終わらねぇーぞ」
織姫は逃げる白服の男に挑発を吹っかける。白服の男はそのしつこさに苛立ちを見せる。
「鬱陶しいな」