学校の泳
四班の生徒たちは集合がかかり、校舎の外に集まる。そして、後から皆無が合流する。皆無以外は何故呼び出されたわかっていない。そのような中、話は始まる。
「四班、初の仕事だよ」
皆無はウキウキのハイテンションだったが、四班の生徒はそうでもなく、一人一人が感情を表す。
「はぁーあ、眠たい」
「久しぶりの仕事だ」
「先生」
その中、零が皆無に質問する。
「ん?」
「仕事って?」
「仕事というのは、この国の警察や消防、あらゆる場所から手に負えないものが依頼されたものだ。仕事の中にも五段階のランクがある。このバッチを見ろ」
そう言って皆無は手を広げる。
「この葉の数で決まる。葉が多いほど仕事の難易度が上がる。難易度は被害者の状況、人数で決まる。一つだと、軽傷者がいるかどうかってところで、危険区域の探索と思えばいい。二つだと、死者一名か、行方不明者が出た場合だ。三つだと、死者十名で弍魂等の悪魔がいるかもしれない程度だ。四つだと、死者五十名越えで壱魂等の悪魔がいると予想される。そして、最後の五つは、死者百名以上の異常事態だ。壱魂等の悪魔がゴロゴロいるか、壱魂等以上の悪魔がいるかと言うところだ」
零は少し仕事の重さを感じる。
「今回は、二枚の葉だ。ある学校で行方不明者が二人出た。放課後、忘れ物を取りに行ったきり戻ってこなかったと言う。学校はそれ以来閉鎖しているとのことだ。まあ、初めての仕事だから、気張っていきな」
四班の生徒たちは言われるがままに現地に到着する。
校門を通ると大きな校舎が視界に入る。
「ここかー、本当に二日前に閉鎖したんだよな」
邪悪な雰囲気が校舎から溢れて外に流れ込む。
「二手に別れよう。一番戦闘経験のある先輩は外の探索をお願いします」
「はーい」
るなはいつも通り伸び切った返事をする。
「俺たちは中を探索します。ここに三十分後集合でお願いします」
「りょーかーい」
影月が上手く四班をまとめ上げたところで零はあることに気づく。
(すっげーちゃんと仕切ってる。そういえば、先生は?)
だが、それを気にするのは零だけであり、それ以外は皆無が来ないことがいつも通りかのように行動を起こす。
「行くぞ」
「おー」
零と影月は気味が悪いほど順調に一階、二階、三階と探索が進む。
「なー、オマエ」
「?」
「オマエの能力は何だ? 炎も出すし、氷も出す。二つ持ちか?」
「いいや、俺の能力はゼロ。ゼロから能力を生み出すことができる」
「は?」
零の能力は影月には理解できない。
「今、炎というものを体内でエネルギー変換して生み出している。氷も同じ原理だ」
「それ最強じゃねぇか。俺の能力も使えるのか?」
「使えるが、この炎と氷はニ年かけて手に入れた能力だ。なかなか、新しい能力を得ることはできない」
「なるほど、習得時間がかなりかかるのか」
「炎と氷以外は使えないのか?」
「一様、水と風なら試したことはあるが、今だに取得できていない」
「なかなか難しい能力だな」
影月は零の能力をある程度知れたが、まだ完全にはわかっていない。だけど、その能力の難易には気づいてくれる。
「おっと、これで探索は終了か。下に降りて先輩と合流しよう」
一方その頃、外ではー
グラウンドを一周し、体育館も調べ終え、最後プールを調べようとるなはコンクリートの上に立つ。 そして、プールの中を覗き込む。鏡のように自分の姿が写る。
何の気配もないことを確認して、その場を離れようとプールに背を向けた瞬間、何かがるなの足を掴み一気にプールへと引きずり込む。
水面には泡が静かに浮く。
その頃、零と影月は集合場所で待っていた。
「おい、先輩遅すぎないか」
初めに影月が小さな違和感に気づく。
「確かに、十分遅れだ」
零は腕時計を見て確認する。
「いつもはこんなことないんだが……。よし、探しに行こう」
そう言って、二人が振り抜いた時、十メートルほどの高さの大噴水がプールで起きる。
そして、その現場にはるなの姿があり、空中で三回転して地面に降りてくる。
「先輩。どういう状況ですか?」
影月は状況を共有しようとるなに話しかける。
「よくわからないが、あの水の中に今回の原因がいる」
すると、プールの水が奇妙な動きをし悪魔が姿を現す。
その姿は人型をした水の悪魔だった。
「、ー^、^。ー」
悪魔はまだ発生したばかりのせいか、まだ話すことができない。
零は戦闘体制を素早くとり、地面を踏み込んで突撃しようとしたその時、るなが零と影月の前に立つ。
「待て、ここは私がやる」
そう言って、悪魔との戦闘を始めようとする。
「行くぞ!」
るなは校舎の壁に飛び移り、次はプールの柵へと淡々と飛び移る。るなは相手が見失うのを待つ。そして相手が一瞬目を逸らした瞬間、るなは飛び蹴りをして悪魔の心臓を貫く。
だが、悪魔は怯むことなく、手を伸ばしてるなの足を掴み校舎側へと吹き飛ばす。
「先輩!」
心臓を貫いたはずの悪魔の姿は一瞬の隙にもとに戻る。
(どういう能力だ。ただ単に再生能力が高いだけか?)
悪魔を手のひらを上にあげ、天に無数の水の粒を仕掛ける。そして、悪魔が腕を下ろしたと同時に水の粒が零たちを襲う。
零たちは全て避けるも、悪魔との距離は余計遠ざかるばかり。
零は悪魔に向かって一直線に走る。
それ見て判断した影月は悪魔との距離を一定にして右側を走る。
悪魔はプールの水を操り、零たちに攻撃を仕掛ける。
零は素早く躱わして悪魔の目の前まで来る。そして、炎を放つ。
悪魔は避けることなく真正面から攻撃を受ける。
が、さっきと同じ容量で悪魔の体はもとの姿に戻り無傷となる。
零は近距離戦に切り変えて戦うが、悪魔は体が削られてはもとに戻りを繰り返す。
(無駄な動きに見えるが、これでいいんだ)
すると、悪魔の背後から影月が飛び出す。
そう、零は悪魔から影月の気を逸らそうとしていたのだ。
影月は指に力を込める。
「真雷!」
悪魔に放たれたが、それをギリギリで避ける。
(こいつ、何故避けた?さっきみたいに体を直せばいいだけのはず)
影月は疑問に思い、悪魔の足元を見る。
(なるほど)
影月は体全体に電気を走らせる。
そして、プールの水へと一直線に飛び込もうとする。
悪魔は手を伸ばし、影月を捉えようとするが、影月の方が速くプールの水に触れる。その瞬間水に電気が走り、悪魔も相当のダメージを喰らう。
だが、悪魔は倒れていない。
プールの水が渦を撒き、影月を弾き飛ばす。
影月は近くのフェンスにぶつかる。
「影月!」
「クッソ、あともう少し……」
影月はコツを掴んだところで気を失う。
(こいつに攻撃が当たったのか、どうやって? クソ、影月は何か掴んでいたのに気を失ってやがる。情報がなさすぎる)
悪魔は水の粒を作り、零に放つ。
零は氷結を悪魔に向けて放つ。
その時、悪魔の腕が一部凍る。
すぐに悪魔は腕を切り離して新しい腕を作る。
(そうか、水だから凍る。それなら……)
零は体を冷気で纏う。そして、悪魔と近接距離で戦う。
やはり、零は身体能力が高く、悪魔は攻撃の反応に遅れる。
零は悪魔の腹に手を当て凍らせる。そして、その場所を片方の拳で殴る。
悪魔は少しよろけたが無傷であった。
「一つの仮説だが、やってみるか」
そう言って、プール目掛けて氷を放つ。
すると、水と一緒に悪魔も一瞬にして凍る。
「やっぱり、このプールの水が悪魔そのものだったか」
安心し切ったところ、零の下の氷にヒビが入る。氷が割れ、竜巻が巻き起こる。
零は吹き飛ばされ、壁に身体を強くぶつける。
「本体はまだ他にあるのか?」
悪魔は水を操って、零に向けて攻撃する。
零は拳を握りしめ、水に衝突する。水と接触する際に零は氷結を放って、水を凍らせる。
が、水には回転がかかっており、凍らしてもすぐ壊れてしまう。
すると、悪魔は回転の勢いを強めて、零に迫ろうとした時、空からるなが足を振り下ろして回転の勢いを殺して水を散乱させる。
「待たしてしまった、後輩たち。オマエは影月を担いで逃げろ」
「先輩は?」
「私なら大丈夫だ」
「何か作戦があるんですか?」
「いや。勝ち目はないが、一番の最悪は三人全員が全滅することだ。それなら今優先するべきは、オマエらを生かすことだ。私の犠牲ぐらい大したことない。早く行け!」
零は影月を担いで走る。
「さー、オマエの相手は私だ。全力で行くぞ」
零は校門を通り抜けて住宅街を走る。
(速く影月を置いて増援しに行けば、先輩も助かるかもしれない。速く速く速く、もっと速く走れ)
その時、後ろからるながものすごい勢いで家を倒しながら飛ばされてくる。
「先輩!」
後ろを振り向いたら、能力の暴走を起こした悪魔がいた。悪魔は大量の水を纏わし、まるで最初に会った時とは比べものにならないほどの邪気を放つ。
「逃げても無駄だよ。君たちじゃ勝てないんだから」
急に悪魔が話し出す。暴走したせいか脳まで急発達して話せるようになっていた。
「速く……逃げろ」
「でも……」
「悪魔! まだ、倒れちゃいないぞ」
るなは頭から血を流しながらも立ち上がる。
零は走る。
だけど、数十メートル走ったところで立ち止まる。
(本当にこれでいいのか? よくねぇーよ。俺は俺らしく)
そう思った零は影月を近くの大道路の端の壁にもたれかかせる。
(ここで待っといてくれ。必ず勝つ)
るなと悪魔は住宅地を舞台に激しい戦闘を行う。
るなは住宅の中に入って悪魔の目をくらまそうとしたが、悪魔の能力により地下にある水道管が破裂し、水の勢いでるなが天空に持ち上がる。そこを悪魔が拳を振りかざす。
すると後ろから、零が氷結の拳を悪魔にぶつける。凍った部分を蹴り飛ばし、るなを回収して地面に降りる。
「なんで、オマエがここに」
「俺にとっての最悪は先輩が死ぬことです。だから、俺はこいつと戦う。先輩は大道路付近の壁にもたれかけている影月の護衛をお願いします」
「勝つ算段はあるのか」
「一応あります」
「なら、任した。絶対勝て」
そう言って、零の背中をるなはおす。
「今の君に何ができる?」
「仲間を救うことだ」
零は足に炎を集中させて、住宅街を飛び回る。それを回転のかかった水が後を追う。
零はある家庭に入り、悪魔の視界から消えようとしたが、家庭のあらゆる場所から水が飛んでくる。
悪魔は休む間もくれない。
家庭から出ると高さ十メートルほどの荒波が押し寄せてくる。
荒波に飲み込まれ、大道路に押し出される。
悪魔は余裕そうな態度で姿を現す。
「やはり、君じゃ何も出来ない。最初からわかっていたことだ。どう足掻こうともここで死ぬ」
零は不敵な笑みを浮かべ、右手を思いっきり地面に突く。
「死ぬ? その言葉そっくり返すぜ」
零は右手に戦いながら蓄えていた膨大な力を一気に氷へと創造し、半径二十メートル近くまで、住宅を氷に閉ざす。
幻想的な氷の世界が住宅地を包み込む。
悪魔はそれに反応できておらず凍りつく。
零は全ての力を使い切り、白い息を吐いて呼吸を落ち着かせる。
だが、そんな思いになったのもつかの間、地面が揺れ始める。
「海闊天空!」
その瞬間、地一面に水が浸り悪魔は氷を破く。
「やー、少し焦ったよ。まさか、こんな力を君が秘めているなんて思いもしなかった。だけど、ここまでだ。じゃあね、見苦しい人間よ」
「ここまでか。後は任したぞ」
横からるなが高速移動で零を回収し、住宅の屋根に上がる。
(あいつは何をやっている。もうこの中で足掻いても、勝ち目はないことぐらい誰にでもわかる。何故あいつはここに来た?まさか……)
大道路の端には少しふらついた影の人物がいた。それは四班の生徒の影月だった。影月は水の中に手を入れる。そして、出力を上げて放つ。
「黒乱大電!(ブラックアウト)」
電気は水をものすごいスピードで走り向ける。
悪魔本体は下水から逃げようとするも電気のスピードには間に合わず直で攻撃を喰らう。
水は少しづつ引いて、水の悪魔は姿を消す。
「終わった」
零はほっと一安心する。
「零、オマエがこの場に戻って来てくれたおかげで、この戦いに勝てた。そして、私の命を救ってくれた。ありがとう」
「守りたいものを守っただけですよ」
そう言って零は気を失う。
るなは登ってくる陽を眺めながらある言葉を言う。
「お疲れ。後輩たち」