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天の先に  作者: 真
第1章
5/21

青い年代

 実技試験を終えた零は三日だけ休みを与えれる。

 一日目は次の日のために体を休め、準備を整える。

 何故零が二日目に備えるかと言うと大事な用があるからだ。それは零が天敵になる前から決めており、その原因となったのがこの情報だった。


『心霊スポット撮影をしていたのですが、河川敷を歩いていたら急に鈴のような音が後ろから聞こえました。恐る恐る後ろを振り向いたら錫杖を持った赤髪の人がゆっくりこちらに近づいていました。怖くなって逃げたのですが、振り向くと赤髪の人がこちらを全速力で追ってきていました。あまりの怖さに腰が抜けて倒れてしまい、もうだめだと思って目をふせました。数分しても何も起きなかったので目を開けると赤髪の人はいなくなっていました』


 零はこの情報のあるところに目を止めた。

 それは出現物というところに書かれている内容だった。

 その内容は赤髪で右腕に傷があるとのことだった。

 零が探しているあるやつには腕にバッテン印の傷がある。

 だが、髪の色は黒色だから違う可能性の方が高かった。

 でも、それ以上に行ってみる価値があると零は判断した。


「よし、そろそろ出るか」




その日の夜ー


「あかりんと」


「和です」


「今日はここ。赤髪の人が出ると言われている、河川敷に来てみましたーー」


 暗い夜の中、陽気な雰囲気で二人の女子がスタンドを取り付けた携帯を片手に配信を始める。


「やっぱり、やめない。すごく嫌な予感がする」

和の方は少し乗り気ではない。


「えー、ダメだよ。ここまで来たんだし。後、大丈夫だって。どうせ何もではしないし」


 あかりは自信満々に言う。


「さー。早速、レッツゴー」


 街灯一つない河川敷をあかりは堂々と歩き、後ろを和がしがみつきながら歩く。

 すると、あかりがある橋の下で足を止める。


「確か、この辺だっけ。赤髪の人の目撃が多いのは」


 あかりと和の二人は静かに辺りを見回す。

 雰囲気はいつ出てきてもおかしくないが、数分経っても何も起きない。

 二人はホッと安心する。


「やっぱり、今回も何もなかったでーす。もう配信して二十回目だけど、何も出てこないじゃん。もー、そろそろ出てこないかなー」


 あかりは視聴者にいつも通りの何もない報告をする。

 和はスマホを取り出して自分たちの配信を確認する。

 そこで、和はある違和感に気づく。

 それは、配信のコメントからだった。

 そこに書かれているコメント内容に和はゾッとする。


『あれ何?』

『後ろ何かいない?』

『赤髪の……人じゃ?』

『そんなはずないだろ』

『こっち来てるよ』

『気づいて二人ともーー』


 和は咄嗟に動画画面を開いて目を疑う。


「はぁ、ぁ、ぁ」


 息が続かない。

 金縛りにあったかのように動けない。

 何故ならもうあかりと和の後ろには赤髪の人が突っ立っていたからだった。

 あかりは気づかないまま配信を続ける。

 だけど、おかしいことに気づき、息の荒い和を見てしまう。

 その瞬間、絶叫が橋の下で響き渡る。

 二人は全力で逃げる。

 赤髪の人はすぐには追いかけてこなかったが、後を全速力で追いかけてくる。

 二人は何も考えないままひたすら走り続ける。


「……っあ」


「和」


 転けた和をあかりはすぐ助けに戻るが、赤髪の人がもうすぐそこまで来ていた。

 二人はお互いを守るように抱き合う。


(神様、助けて)


 赤髪の人は持っている錫杖で振りかざそうとする。

 二人は目を瞑る。

 数十秒すると冷えた空気を感じ、二人は目を開ける。

 すると、赤髪の人と二人の間には大きな氷壁があった。

 氷壁の向こう側ではある男が待っていた。

 それは零だった。


「オマエか。ここの番人は!」


 赤髪といっても被り物をしていて相手の顔が見えない。

 お互い視線をぶつけ合う。

 先に動いたのは赤髪の方だった。

 錫杖をうまく使い、攻撃してくる。

 だが、この攻撃スタイルは間合いをとって自分の有利な武器を使って戦う、中距離型。

 零は一気に攻める。赤髪は零の不意打ちを避け、空中を華麗に舞う。

 そこに向けて零は氷結を放つ。

 零は相手を見失い目で探す。

 すると、上の方から視線を感じ先ほど放った氷結の先を見る。

 そこには、赤髪の人が立っていた。

 零は問う。


「オマエ、人間だろ」


 相手は黙り込み、少しすると口を開ける。


「だったら、どうする?」


 その質問に零は即答する。


「戦闘をやめる」


「もし俺がそうじゃないとして、クリミナルだとは考えなかったのか?」


「邪気が感じられねぇ。ただそれだけだ」


「そうか」


 そう言って、赤髪の人は被り物を取る。

 赤髪が風によって靡く。

 髪の色とは違い被り物を取った顔は青々しく涼しい姿の青年だった。


「こっちに来てくれ」


 赤髪は零を川の向こうの山に招く。

 数十分歩くとそこには大きな墓が立っている。


「これは……」


「これは昔、ここにあった村の人たちの墓だ」


 よく見ると、その墓の近くには古びた木や割れた花瓶が散乱している。


「何があったんだ?」


「昔、ここには五十人余りの人たちが住む小さな村があった。俺はその時十四歳で、家族がいて、たった一人の友人がいた。俺はいつもそいつと修行の日々で忙しかった。忙しいと言ってもそいつといれば楽しかった。一生このまま平和に生きていけば……と思っていた矢先に悲劇は起きた。突如、百人ほどの山賊が村を攻めてきた。村の人たちは必死に村を守るが、貧弱な村だったせいか能力も大したことなかった。圧倒的に山賊の方が強かった。そうわかった村の人たちは子供もたちを優先的に逃した。俺も家族と一緒に逃げた。だが、途中で山賊に囲まれてしまった。そこで父と母は俺を逃すために戦った。俺は必死に走った。後ろから悲鳴が聞こえるも、涙を流してその場を去った。十数分走って、疲れたから、岩にもたれかかって休憩していたところ、たった一人の友人にあった。俺たちは小さな洞穴に身を潜めた。友人の家族も山賊にやられたと話してくれた。俺たちはそこである決心をした。俺たちで山賊を倒そうと。薄々気づいていた。山賊なんかに勝てるはずがないって。だけど、これを家族、そして村の人たちの仇だと思えば、命など惜しくはなかった。日が登る頃、俺たちは村の近くの林の葉に隠れた。普通に正面突破しても、すぐやられることぐらい目に見えていたからな。だから、奇襲で攻めるしかなかった。この山を知り尽くしている村の人たちにしかわからない配置を。見張っていると、やっと一人の山賊が単独状態で動き始めた。俺らはそいつをターゲットにして陰に潜んだ。村の位置から少し離れた場所で山賊は武器の整備をしだした。チャンスはここしかないと思い、友人は村の人たちが万が一を考えて作っておいた発煙弾を投げた。煙幕がたちまち広がり、相手が混乱している間に友人は飛びかかった。俺は勝ったと思い一人で喜んだ。煙幕がおり、友人のところへ行こうとした俺は、目を疑った。友人が矢を数本刺された状態で倒れていた。山賊は気を一切抜いていなかった。俺たちははめられていた。俺は悲しみと怒りが混ざり合い、負の感情が魂を奮い立たした。山賊に飛びかかろうとした瞬間、友人がこちらに手を向けてありがとうと言葉を放った。俺は気づいたら洞穴の中にいた。慌てて起き、村まで走った。着いた時には山賊の姿はどこにもなかった。ただ残っていたのは寂しい村の姿だけだった。俺は自分の最後の記憶の場所に向かった。そこには友人が帰らむ人となっていた。その日はそこで一晩中泣いた記憶だけが今も片隅に残っている。このような小さな村は国に登録されておらず、ポリスは動いてくれない。俺は村の人たちの死体を埋め、今の墓を作った。俺は外にでて山賊を探したが、見つからなかった。その代わり、ある情報が耳に入ってきた。俺たちの村だった場所を大企業の人が買い取り、ゴルフ場を建設するとの話だ。俺は怒りが頂点に達した。村に一回、黒スーツを着た人が村の人と少し揉めていたのを思い出した。そいつらがうまくいかないからと言って山賊を雇ったのだろう。俺は大企業に殴り込みに行こうと思ったが足が進まなかった。結局俺は村に戻り、あることを決意した。それは村を守ることだ。俺は考えた。そして、思いついたのが村を守る霊だ。ここに来る人たちを襲い、ここを曰く付きの場にすることだった。その反響は強く、企業の人も建設を中止にし、土地を売り払った。それからもずっと俺はこの村を守り続けた、人の悪から……」


「そんなことが。だが、もう企業の契約は破棄されたのに何故まだ人を襲う」


「それは人を信用できなかったからだ。また、あのような夜が来るんじゃないかと思って……。だけど、オマエを見て落ち着いた。邪気がないからと言って戦闘をやめる奴は初めてだったからな」


 赤髪は初めて零の前で笑う。


「オマエらにも悪いことをした。すまん」


 赤髪は静かな林を見て話しかける。

 零は沈黙の間に話しかける。


「盗み聞きは良くないぞ」


 すると、二人の女子が草むらから出てくる。

 ずっとこっそり足をつけていたが、バレていたようだ。


「こちらこそ、面白半分でこんなことしてごめんないさい」


「ごめんなさい」


 と二人は赤髪に誠心誠意持って謝る。


「オマエ名前は?」


 零が赤髪に尋ねる。


「俺の名前は灼だ。オマエは?」


「零だ。よろしく」


 零と灼はお互い手を取り合う。


「困った時は頼ってくれ」


「あー」


 零は灼と別れた後、山を降りる。


「あ、あのー」


 後ろから二人の女子が走ってくる。


「あの時、助けてくださりありがとうございました。後日、お礼をしたいので連絡先教えてくれませんか?」


 零は無言で携帯を差し出す。


「ありがとうございます」


「気をつけろよ」


 零は優しく一言放って、この場を去る。


「超ーーかっこよくない」


 あかりは嬉しそうに話すが、和から共感らしき返事が返ってこない。


「ねーねー聞いてる、和」


 和は呆然と零の後姿を見ている。

 その姿はまるで何かに取り憑かれているようだった。あかりは心配する。


「大丈夫?和」


 和は自我を取り戻すように目を覚める。


「うんうん。何もない」


 和の珍しい表情にあかりはハッとなる。


「もしかして一目惚れ」


「そんなわけないじゃん」


「その言い方嘘だ」


 和は必死に弁解しようとするが、あかりは焦る和を見て追い討ちをかける。


「もーー」

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