魂のかたち
「おーーい、大丈夫かーー」
実技試験が終わったにも関わらず、全く動かない零を見て皆無は心配する。
観客席から見ていた影月やるな、織姫もそのおかしな様子に気づく。
「どうしたんだ?」
「さーあ」
織姫は悟ったように話す。
「多分、初めて見せられたんだ。圧倒的な力の差ってやつを」
影月は何を思ったのか、階段を降りてフィールドに向かう。
零は過去の記憶に足を入れる。
(俺は弱いのか? また、あの景色を……嫌だ……嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……)
零の小さくなった肩を影月がそっと叩き、過去から連れ戻す。
「落ち着け、オマエは弱くない。先生が強すぎるだけだ」
先生は誇らしげに口笛を吹く。
影月はその姿を見て呆れる。
「まだ、オマエは天敵になったばかりだ。これからだ。オマエの力が開花するのは。だから、頑張ろうぜ。俺たちと」
そう言って、零に手を差し伸べる。
零は心を落ち着かせる。
「ありがとう」
そう言って、零は影月の手を取る。
それとは別に皆無は影月の成長に驚く。
「ようやく、オマエもそういう心が身についたか」
「は?」
影月は怒りを静かに表す。
「だってオマエ、最初俺と会った時何て言ったか覚えてるか?」
影月は考えることもなく即答する。
「いいえ」
影月は即答後も考えるが何も出てこない。
「無視だぞ。この世で悪口を言われようと無視されるよりマシだ」
皆無は言いたかったことをぶちまける。だが、心の奥底では怒りより涙が溜まっていた。
(そんな奴が仲間のために思いやれるようになるとは泣けるな)
皆無は出てもない涙を拭き取り、気持ちを切り替える。
「そうだ、零くん。いろいろな出来事が起きてしまっているから、頭の整理として三日の休息をあげる。ちゃんと気合い入れて来な。いいね?」
「はい!」
実技試験が終わり、影月は零に寮の案内をする。
「そういえば、影月さん」
「影月でいいぞ」
零は遅く入った後輩のため影月に礼儀を使うが、影月はそれが落ち着かないようだ。
「影月、先生の能力って何なんだ?」
その質問は零が実技試験を終えて一番疑問に思ったことだった。
その質問に影月は顔を曇らせる。
「……無能力だ」
影月はこの現実に零が耐えられるのかを心配していたが、零の顔を見るともうそんなことを心配する必要はなかった。
「えっ……でも。あの攻撃……」
影月は零が思ったことを即座に回答していく。
「あれは一種の流派だ」
「流派?」
影月は自分の能力を使って説明する。
「あー、俺たちは能力を使う時、体の中で力を溜めて、それを能力の形に変えて使うことができる。その力的エネルギーのことを天敵では魂と呼ぶ」
「魂……」
「そうだ」
影月は力的エネルギーと魂を使い分けて放電して、零に見せる。
「だけど、力的エネルギーと魂では大きな違いがある。それは、能力の強さだ。例えば、オマエの炎は今赤いが、魂を使うことができたら変わるかも知れない。温度とか、範囲的なものとか……。まあ、先生とオマエにはその魂の扱いによって大きな差がある。で、さっきの本題だが、先生はその魂を立体的に操作することができるんだ。それが先生の流派だ!」
「魂を立体的に?」
「さっき言ったが、力的エネルギーや魂は能力という形に変えて使っている。先生は無能力だから、その形に変えるという動作をなくして、魂そのものを使うことができるんだ」
「と、いうことは……どういうことだ?」
零は立て続けにわかないことが脳に入ってきてショートしそうになる。
影月は電気を自由自在に操って、零にわかりやすく説明する。
「そうだな。簡単に言うとテレビを使う時、電気エネルギーを変換して音エネルギー、光エネルギーなどのエネルギーに変換して使うだろ。それと同じだ。光エネルギーをオマエの炎と例えて電気エネルギーを魂と例えると見えてくるだろ。だが、電気エネルギーそのものを変換せず、使う製品なんてほとんどないに等しい。つまり、言いたいことは……未知数の力ってことだ」
皆無の身体系がわかったが、零は納得いかない。
「ほぼ能力じゃ」
「まあな」
影月は零の部屋の前で止まり話題を変える。
「それより、この三日どうするんだ」
「有意義に使うよ」
「そうか」
(そうさ、俺は決めた。あいつは俺の手で……ぶっ飛ばすと)
零はあの時から変わっていなかった。
零は部屋の中に入って準備を始める。