哀の鍵
(確かこの近くにいたはず)
零は小さな電波を発信して影月に伝えようとするも返事がない。先ほどの技で力を使い切った影月は気を失って反応を見せない。
(どうやって見つける)
零は能力に頼るのをやめ、声を轟かせて探す。
「影月ーー!」
その声は地中にいる影月のところまでギリギリ届く。
(何してんだ俺。こんなところで終わってたまるか。俺は……)
突然、零の近くで雷が鳴り響く。影月は力を振り絞って居場所を伝える。
「影月!」
その頃、悪魔と激戦するるなは攻撃を避けて飛び蹴りをするが、悪魔は分身を盾にして躱す。
(こいつ、速さは俺以上。そしてこの力の強さ。半端じゃない。なんなんだこいつは?)
悪魔はるなに少し恐怖を抱く。
「よそ見は禁物だ」
るなは真正面から突っ込み、悪魔を吹き飛ばす。悪魔は二本の木からエネルギーを吸い取って両腕に力を溜める。
「すまない、自然たちよ。俺と一緒に戦ってくれ」
悪魔は両腕を地面に突き、エネルギーを大放出する。地中に無理やり押し込んだエネルギーは外に出ようと地面を割って飛び出してくる。その規模がデカすぎて、るなは避けることができずにその場で立ち止まる。
「やべっ……」
そこに二つの影が滑るように飛び込む。
「すいません。ギリギリで」
「いや、上出来だ。零」
零と影月がるなと合流して四班が揃う。
「先輩。あいつに勝つ算段はあるんですか」
影月は背にいるるなに聞く。
「あるがゼロに近い」
「やらないよりはマシです」
零は手に火を作り出して、戦闘の準備をする。
「わかった。少し時間をくれ。私があいつの力を上回る」
「わかりました」
るなは勝つためこの場所を離れる。
「おいおい、逃走かよ」
悪魔は枝を素早くるなの方へと伸ばすが、零の氷に阻まれる。
「相手はこっちだぜ。悪魔さん」
「少し力を解放しよう。簡単に死ぬんじゃねえぞオマエら」
悪魔は最初に会った時とは違う目で二人を睨みつける。
るなは近くにある崖の上へと駆け上がる。そこは月明かりが差して夜ということを忘れるほど綺麗で見晴らしが良い。
るなは胡座をかいて、掌を膝の上に置く。そして、目を瞑って心を落ち着かせる。体の中にある力が渦を巻き変化しようとする。魂へと変わろうとしているのだ。
るなは特異体質なため、力を溜めることが難しい。だが、それを解決するのが睡眠だ。るなは寝ることによって、力を温存して、いざという時に使うことができる。だが、それにも弱点がある。それは力を一気に使うことができないという点だ。例えば、るなが力を百蓄えていたとしたら、一気に百使うのではなく。十ずつ使って力を調整しているのだ。だが、百使う方法もないことはない。それは、魂を練ることだ。力を魂に変えることによって一気に使うことができる。
「待ってろ。オマエたち」
るながゾーンに入ろうとしたその時……。
「助けて! お姉ちゃん」
るなの後ろから聞こえたのは妹のここの声だった。るなは一旦集中を解く。
「どうしたんだ」
「村長が……」
その瞬間、るなは危機を察する。
「何処だ」
「緊急避難場所」
「捕まれ」
るなはここを担いで猛スピードでその場所に向かう。
(頼む。持ち堪えてくれ。零、影月)
緊急避難場所は館の奥の地下にある。そこには食料や水、寝床など生活できるものが一式揃っている。村はシールドで守られているため、不審者など入ってくることがなかった。だが、このような事態を想定して、地下の緊急避難場所は用意されていた。そのシェルターは村の人しか知らないはずなのに、その場所の付近には悪魔の分身が現れた。
村長はみんなを守るために能力の炎を使って対抗するが、村長は七十歳を過ぎているうえ、一般の人より能力が劣っている。
悪魔は枝を鞭のようにして村長を払いのける。だが、村長は村の皆んなを守るため、前に立ち続ける。
「何故そこまでする。爺は最後に殺してやるからさ。そこを退けよ」
「退くものか。私の命より大切なものが今そこにあるんじゃ。だから、命に変えても守って見せ……」
村長の言葉は途中で途切れる。すると、口からは言葉ではなく、赤い血がゆっくりと流れる。いつのまにか村長の胸には半径三センチほどの枝が突き刺さっていた。
「そうか。大切なものね」
悪魔は突き刺した枝を引っこ抜く。すると、村長の胸から血が吹き出す。
「爺、よく聞いとけ。大切なものはいつか散るんだよ。そして、オマエのそれは今散るんだ。じゃあな」
悪魔が村長にトドメを刺そうとしたその時、るなの飛び蹴りが悪魔の胴体を貫通する。悪魔の体は崩れてなくなる。
「村長!」
るなは村長の方へすぐ駆け寄る。周りにいた他の村人も駆け寄る。
「村長死ぬな。死んだら私どうやって生きていけばいいの。ねー!」
るなは今にも出そうな涙を堪えて、出血口を塞ごうと試みる。
「るな……。オマエは来た時から元気な小さな子だった。それが今はこんなに大きくなって」
「村長そんなこといいから。話さなくていいから。そんなこと後で何百回も聞くから。今は……今は……」
るなの堪えていた大きな一粒の涙が村長の胸に落ちる。
「聞いてくれ。私はオマエたち全員に会えて幸せじゃった。オマエたちはこの世界に縛られる必要はない。自由に生きなさい。それが私の最後の頼みじゃ。そして、最後に私の人生の感想じゃ。私は今、みんなに囲まれて死ねて幸せじゃ。ありがとう……」
村長は満面の笑みを周りの皆んなに映す。
「村……長……。村長! 村長!」
るなは必死に呼びかけるが、村長はそれに応えることはない。村長は皆んなに見舞われてこの世を去る。るなたちはその場で泣きじゃくる。その泣いた粒は明るい月が寂しく照らす。
その頃、零たちは悪魔と苦戦を虐げられていた。
「おいおい、こんなものかよ。さっきの威勢は偽物か?」
(体がもう動かねぇ)
影月の体はとっくに限界を超し、木を背にして天を仰ぐ。それを見た悪魔はフッと笑いが込み上げる。
「オマエもこいつみたいに諦めたらどうだ」
悪魔は背後からの殺気に気づき振り向く。そこには木々の間から飛んでくるボロボロの姿の零。零の拳は木の幹によって阻まれ、下からでてくる太い根により体が中に舞い、木の幹に弾き飛ばされる。
「まだだ……まだだ」
零は地面に這いつくばってしがみつく。
「しつけーな」
悪魔は零の体を数本の木の幹で固めて動けなくする。零は力が残っておらず、必死に踠く。
「やめておけ、分かったろ。オマエらじゃ俺に勝てないって」
悪魔の冷酷な視線が零の心を刺す。だが、零の心は折れることなく熱を保つ。
(るな先輩は俺たちを信じたんだ。任せるって)
「俺は諦めねぇー」
悪魔は零の諦めない心に腹を立てる。
「もう邪魔だ。死んでくれ」
悪魔が木の幹で強く縛り潰そうとしたその時、黒い影がものすごいスピードで悪魔を吹き飛ばす。悪魔は受け身を取って体制を整える。
(何だ?)
零の体を縛っていた幹は解けて、そのまま零は力が抜けて崩れ落ちる。それを黒い影が受け止める。
「よくやった。二人とも」
そこにいたのはいつもとは違う雰囲気を放つるなだった。
「後は任せな」
感情は時に覚醒へと導く鍵になる。るなは村長の死により、感情が奮い立つ。それは力を魂に変えるという操作を一気に行うことが可能となり、覚醒へと達する。
後に四班たちは知る。この力は四つの感情のうちの一つ、『哀の魂』による魂開だということを。
「今更来たって勝てっこない。見ろ、この様を! 人間が地にひれ伏すこの光景を。神がもたらした世界にあるべき姿ではないか? 自然を前にしたら、オマエたちなんかカケラにすぎないんだよ」
「そんなに自然が好きか。だけどよ、私にはオマエが自然を荒らしているようにしか見えないだが。神への冒涜か?」
「はっ?」
「まあ、仕方ない。価値観の違いだ。オマエが自然を大事にするように、私にも大事にするものがある。それをオマエは価値観の違いで殺したんだ。オマエが価値観で動くなら、私はオマエの価値観を殺す。ただそれだけだ!」
るなは周りに炎の玉をつくり、その一つを悪魔に向けてぶん投げる。悪魔は当然のように根を下から生やして盾の要領で攻撃を防ぐ。るなの狙いが的中する。根は一気に燃え上がり、木の一部分が黒くなる。炭となった部分をるなは飛び蹴りをして崩すし、その先にいる悪魔へと届く。それを見た零はるなの力に圧倒される。
(あの炎……俺の炎じゃ燃えなかった悪魔の力を燃やした。俺の炎より火力が断然高い!)
「どうしたんだ。私じゃオマエに勝てないんだろ」
「クソが」
悪魔は近くの木のエネルギーを吸いとり、腕の硬質化へと変換させる。
「リグナムバイタ!」
るなは一つの炎の玉を右手で握り潰して、手に炎を移す。そして、悪魔に炎の拳をぶつける。悪魔の硬質化された拳とるなの炎の拳はほぼ互角の力であり、両者二人とも反動で後方へと吹き飛ばされる。
(こんなやつと俺が互角だと。ありえない。俺はこいつらより強くないといけないんだ)
「いいだろ。認めてやるよ。ここ数十年使わなかった力。見せてやるよ」
悪魔は地面に手を突き、周りの自然エネルギーを吸う。たちまち悪魔の近くにあった木や草は枯れ、赤みのかかった土が周りを侵食していく。その風景はまさに世界の消滅を意味する涯の姿。
「やばいぞ」
零は咄嗟に影月を抱えて離れる。るなは一歩も引かず、その場で悪魔を睨みつける。
悪魔は足元から無数の枝を生やし、絡み合わせて、太い幹へと変える。またそれを絡み合わせて、一本の木へと姿を変える。その大きさは百メートルをとうに超える高さで、根も下から盛り上がるほどしっかり地面にへばりついている。周りの木とは比べ物にならない。悪魔はその大樹の中に身を隠して、木と一体化する。
「霊寿将軍」
「私と戦うのが怖くなったか?」
「これでオマエたちに教えてやるよ。自然に逆らうとどうなるかを」
「先に謝っとくよ。授業は大っ嫌いだからよ」




