村の宴会
歩き話し続けて数十分、暗かった森は舗装された道に光が敷かれる。
「それからいろいろあって今の私がある」
「そんなことが……」
零はいつも以上に言葉が詰まる。
「君には知っていて欲しかったんだ。悪魔の存在を」
「いい機会になりました。ありがとうございます」
零は感謝の言葉を述べる。
「いいんだよ。逆に聞いてくれてありがとう。そろそろ着くよ」
零たちの目の前から木々たちが開け、大きな館が現れる。
「ここが村の集会場だよ」
木や花といった自然に囲まれ、森からはみ出そうなほどずっしりとした壮麗な館に二人の人が扉の前に立つ。
「お姉ちゃーーん」
一人の少女が明るい声でるなを呼び、飛びかかる。
「もう、ここ。全く変わらないな」
るなは抱き抱えるようにして少女を受け止める。
「誰だ。その子は?」と影月が聞く。
「ほら自己紹介しな」
「私はるなの妹、ここです。お姉ちゃんがいつもお世話になっております」
影月は「妹?」と不思議に思う。
「って、猫又じゃないのか」
零はるなに問いかける。
「あー、あの後擬人化のストックがもう一つ見つかったらしく妹が擬人化したんだ」
「なるほどな」
二人は頷いて納得する。
るなはその光景に首を傾げる。
「何で驚かないの?」
「まあ、驚くことではないかなって。なあ、影月」
「そうだな」
るなは二人の慣れない気遣いにフッと笑みが溢れ出る。
「おーい、久しぶり。るな」
「村長。お久しぶりです」
扉の前で待っているもう一人は話にあった村長だった。
「元気そうで何よりだ。そちらの方がお仲間たちの……」
「零です」
「影月です」
「「よろしくお願いします」」
零と影月は息を合わせて挨拶をする。
「よろしくね」
村長は話に聞いていた通りの温厚篤実な人で、初めて会った零と影月にもそれがすぐに伝わる。
「奥でみんなが待ってるから」
「わかった」
るなは抱えているここを下ろす。
「ほら、案内するよ。私の故郷を」
るなは零たち二人を館の中へと招く。館の中は零たちの想像を絶するほど広く、ところどころの壁には絵が飾ってある。
るなは大きな襖の前で足を止めて襖を開ける。そこには百畳ほどの広さに縦長のテーブルがど真ん中に置かれている和室の部屋あった。そこには村の人たちが先に座っていおり、温かく向かい入れてくれる。
るなに言われるがままに零と影月は席へと着く。
全員が席に着くと村長が前へ出て、開会の辞を行う。
「今回はるなが帰ってきたことを祝して、乾杯ー!」
零たちは急な開会に戸惑うが、雰囲気に呑まれて酒の入っていないグラスを持ち上げて村の人たちと乾杯をする。和室にいる皆んなは祭りが終わるまで楽しんだ。
影月はふと皆無との約束を思い出す。ここに来る前、影月は『時間ができたら、連絡ちょうだい。よろしく』と皆無から言われていた。
影月は席を立って、眺めの良い館の屋上へと腰を掛ける。そして、スマホを取り出して、皆無に電話をかける。すると、ワンコールで繋がる。どうやら、皆無は影月の電話を今か今かと待っていたみたいだ。
「すみません、少し遅くなって」
「遅すぎて忘れてるかと思ったよ。で、どう? 村のみんなは」
「すごく明るくて元気ですよ。いつもの疲れが少し飛びました」
「それはよかった。俺もこんなクソみたいな会議がなければ出向いたんだがな」
「それより会議は大丈夫だったんですか?」
「待った。今は会議の話はなしだ。思い出したくもない話ばかりが頭を彷徨ってんだ」
「すみません」
「いいんだ。それより村長によろしくと伝えといてくれ」
「わかりました」
影月は電話を切り、和室へと戻る。先程まで騒ぎ立てていた襖の奥が静かなことに影月は疑問を持ちながら、襖をゆっくり開ける。すると、そこには倒れ込むように寝る村の人たちと零の姿があった。
「おいおい、皆んな寝たのかよ」
影月は微笑する。
影月端にある障子を開けてもう一度外を眺める。少し冷たい風が影月を触れて、和室へと入り込む。影月はふと遠くの森を見ると怪しい人影が木の隙間を横切る。その影は慌てる様子もなく、ゆっくりと遠のいていく。影月は気になり、外へ出る。
「確かこの辺……」
影月は気づかれないようにと遠回りをして影のあった場所へと近づく。影月は自慢の聴覚を使って、音を感じ取る。すると、草むらの揺れる音が後方から聞こえてくる。影月は息を潜めて隠れる。草むらから出てきたのは、るなの妹のここだった。
(こんな夜中に何をしてんいるだ?)
影月は不思議に思い、跡をつける。
ここはある場所で足を止める。
影月は木を背にして隠れ続ける。その場所には小さい墓がぽつんと建てられていた。
「お母さん、お父さん。お姉ちゃん、すごく元気だったよ」
ここは笑顔で優しく語りかける。この墓はるなたちの家族のだった。
影月は安心して館に戻ろうと来た道を折り返そうとした時、左の方から強烈な邪気を感じ取る。
(まさか、ここに悪魔が現れたとでもいうのか。ここは天敵が管理する区域だぞ)
影月は慎重に強い邪気の方へ足を運ぶ。
「なるほど、三人の天敵を回収すればいいんだな」
「そう言うことだ。後は好きにして良い」
影月は薄暗い木陰の隙間から人間らしき二人の姿を確認する。
(悪魔と……誰だあいつは?)
影月は狭い視野の中、目を細めて様子を窺う。
それに一人の男が気づく。
「おっと、早速仕事だよ」
悪魔は影月の気配を察して、腕から手を木の枝に変形させて鞭のようにして振るう。影月が背にしていた木とその周辺の木は髄まで並行にスパッと切れる。
影月は間一髪のところで躱して木陰に隠れる。
「じゃあ、頼んだよ」
男は姿を消す。
影月は息を殺して様子を窺う。
(天敵三人とは俺含めた零とるなのことか? 『後は好きにして良い』この言葉から他者への命の保証がないことがわかる。しかも、こいつの強さ。霊魂だ。肌で感じる強さ。どうする、俺)
影月は肝を冷やして息を潜める。するとそこに影月の人並み離れた聴覚から足音を感知する。
(まさか……)
「さっきからすごい音してるけど大丈夫かな?」
足音は先ほど墓参りに行っていたここのものだった。
(やばい、このままだと接触する)
影月は覚悟を決める。
悪魔は草むらから怪しげな音を聞き、草むらを切る。その瞬間、影月は最高速度でここのところへ向かう。悪魔は逃げた影月を追いかける。
影月はここを見つける。
「影月さん、どうしたんですか?」
「悪魔が現れた。村の住民に伝えてくれ。後……」
影月はここに伝言を残して逃す。
(男が決めたことだ)
影月は振り返って戦闘体制を取る。
「おい、オマエ。ここから先は俺が守る」
「ふっ。やってみな」
一方、館では零が起きて、片付けを始める。
(村の人は温かい。俺も一回は求めたものだ。こんな集団を……。そういえば、影月はどこ行った?)
零は皿や箸、フォークなどを回収しながら、影月を探すが、辺りにはいない。零がスマホで呼び出そうとした瞬間、零の脳に電気が走る。
(これは……影月の伝心雷電!)
故郷に来る前、影月が携帯の仕組みとして、零に教えた伝達手段の小技だ。これが来たと言うことは危険と言う合図を指す。
零は障子を開けて外の様子を窺う。すると、外ではある場所で土煙が舞い、荒れていることが見てわかった。
「るな先輩!」
零は急いでるなを探す。
るなは春に咲き誇る神木の枝の上で寝ていた。
零は片手に電話をかけたスマホを持ち、外の付近まで探したが見つからない。すると、前方に慌てて走って来るここが見えた。
「零さん、影月さんが……」
ここの息は荒れていた。
「深呼吸して。落ち着いて話してくれ」
ここはゆっくりと呼吸をする。落ち着いたここの呼吸を確認してから零は問いかける。
「何があった」
「森の方で悪魔が暴れていて、それに遭遇しそうになった私を影月さんが助けてくれて、今村の人たちを守るために戦ってくれています」
零はすぐに状況を読んで判断する。
「わかった、ありがとう。村長に避難要請を頼む。後、姉さんを探してくれないか。故郷のことを知らない余所者には故郷での思い出の場所はわからない。頼んだぞ」
「うん」
零はその場所を後にし、館の中から見えた荒々しい様子の場所へと向かう。




