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天の先に  作者: 真
第1章
20/26

存在する記憶

「零……零……起きて、零」


 零は予兆もなく急に目を覚ます。いつも以上に重たい体は起きようとしても起きない。零は首だけを左右に動かす。零の両隣にはベッドが置かれており、シーツにはしわがより、毛布も散らかっていた。零は裏板の木目を自然と見つめる。


(俺はなぜここにいる? 確か……村に行って鯨の悪魔を堕として、それから、それから……なんだっけ?)


 零は記憶を掘り起こすが、ある場所で止まってしまう。零は靄のかかった記憶に手を伸ばすも届かない。


(何か忘れている。大事な何かを)


 零は徐々に遠くなっていく記憶に手を下ろそうとしたその時、脳に声が響く。


『君、弱いよ』


 記憶にかかっていた靄はまるで青天の霹靂のように晴れる。零は体が重かったことなど忘れてすぐに起き上がる。そして涙を一粒流す。零は毛布をベッドの端に投げ捨て、部屋を去る。

 零はすぐに寮へと戻り、自分の部屋を通りすぎて影月の部屋の前へと来る。零はドアをノックしようと右手を持ち上げるが、不安による震えが止まらない。


(先生も来てくれたんだから、大丈夫なはず……)


 零の記憶は輪廻と皆無の戦いの途中で終わっていた。皆無が来たからとはいえ、この後の事態は予想できない。影月たちは無事なのかは心配しても仕切れない。

 零は思い切って扉をノックする。するとすぐに、扉が開く。そこには眠たそうにあくびをした影月が立っていた。

 影月は零を見るなり驚く。


「零じゃねぇか。大丈夫なのか?」


「お前こそ、大丈夫なのか?」


 影月は息を切らした零を見て察する。


「って言うか、お前上の人の伝達聞いてないだろ?」


「伝達?」


「俺たちはあの村で悪魔を堕とした。だが、あそこには悪魔は二体存在していた。俺たちは知らず知らずのうちにもう一方の悪魔に魂を吸われて、気絶していたらしい」


「そうか」


 零は心の中で納得できなかった。


(おかしい。気絶させたのならなぜ悪魔はそれを放置した? 他にも不確かなことがあるが、それよりもなぜ俺と影月の記憶が違っている?)


「先輩も無事なのか?」


「無事も何もピンピンしているよ」


 すると、部屋の中から影月を呼ぶ声がする。


「影月、私の腕がコントロールを失っている。もう少しでリモコンに手が届いてしまう。はやくしろーー」

影月は呆れて、ため息をつく。


「はぁーー。先輩、零起きましたよ」


 その声に反応したるなは音を立てることなく、零たちの前に現れる。


「本当だ。元気そうで良かった」


 零はあまりにも元気そうなるなを目の前にして記憶が不確かになる。


「それより先輩こそ大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。零と違って一週間も前に回復しておる」


「一週間?」


 零は戸惑う。


「お前は俺たちより多くの魂を吸い取られて、危機的状態だったんだ」


「だが、こうして元気な零が目の前にいるのだから良きことだ」


 零は話の噛み合わないことに、ある疑問を持つ。


(もしかして、これは……夢か?)


 零は思考に集中が一気に集まる。


「零も映画見るか? 真って言う人の新作シリーズなんだけど。少年含めた八人の人間と人間の精神を乗っとていく悪魔が孤島で戦うアクション系映画で……」


 るなはいつも以上にテンションを上げて目を輝かせて話すが、零の耳には何も通らない。零は考えれば考えるほど、自身の曖昧さに気づく。


(俺は確かに輪廻と戦った。だけど、こいつらにはその記憶がない。それに屋外の景色が綺麗すぎる。あの時、建物は崩れていたはず。他にも、探せばキリがない)


「零、大丈夫か?」


 影月は零の真剣そうな表情を見て心配する。


「先生と管理長は今どこに?」


 零は影月からの返答を聞いた後、すぐに天敵の本部へと向かう。向かう最中、零は影月の言葉をもう一度確認する。


(『先生はさっき俺たちのところに顔を出しに来てくれたから、先生の部屋にいるんじゃないか? それと管理長は今忙しいから皆んなの前に顔出すのは難しいって先生が言っていたな』と言うことは、先生は本部の一階の自分の部屋にいるはず。だが、管理長はやはり……)


 零は本部に着くと真っ直ぐ皆無の部屋へと向かう。扉の前まで来ると、先ほどきた震えが再び起こり出す。零は震えた手を片方の手でグッと握りしめる。そして、扉をノックして開ける。

 皆無の部屋は本棚が壁にぎっしり敷き詰められていて、端には寂しくおかれた机があるだけで、皆無はどこにもいない。それどころか、人の気配が全くなく、音がない。

 零はゆっくり扉を閉めて、机の方へ向かう。机の上は書類の山が二つ置かれているだけで、変わったところはない。

 零は後ろの本棚へと目線を変える。数えきれないほどの背表紙に書かれているタイトルが零の目に入る。零はある一冊の本を見つける。その本の背表紙には『1ー0』と書かれていて、零は取ろうと手を伸ばす。

 すると、零の真下が白く輝き、光に包み込まれる。零の目が慣れるのに数秒、気づいた時には白い空間の中に零は立っていた。


(ここは一体?)


 突然、零の背後を何かが突く。零は不意打ちを軽々と躱して背後を見る。


「なんだ。零か」


 そこにいたのは、織姫だった。他にも、皆無とソル、易陽、空夢がいた。零は驚く。


「何で管理長が……?」


「それはこっちの台詞だ」


 零は少し涙目になる。

 それ見た周りは少し混乱するが、たった一人だけが目を丸くさせて驚く。


「零、もしかして……記憶があるのか?」


 零は涙を拭って、首を縦に振る。

 皆無は零の側に行って、そっと抱きしめる。


「零、辛い思いさせてしまった。ごめん」


「いいえ。皆んないて良かったです」


 しんみりとした空気の中、ソルが割って入る。


「あのー、状況が良くわからないんだが、説明を求む」


「悪りぃな。こいつは俺の生徒で、今回のターゲットとされた零だ」


「なるほど」


 ソルはいきなり零の首に刀の峰を当てる。


「質問だ。なぜ、お前はここに来た?」


「はっ?」


 零は金縛りにあったかのように固まる。


「ソル!」


 皆無はソルの肩を力強く掴んで止める。


「冗談だよ。それにそいつが謀反者ならすぐに殺せる」


 ソルは刀を鞘に直して、皆無の横を通って元の場所に戻る。


「謀反者って……」


「今から説明する」


 織姫は皆んなが落ち着いたのを見て、口を開ける。


「今回起きた事件について大まか確認する。まず、今回ターゲットとされたのはそこにいる零含めた四班の生徒だ。任務として異堀村にいる鯨の悪魔を堕としに行ったのだが、それが罠だった。あの場には獺酔という霊魂等の悪魔がターゲットを悪夢に連れ込むため潜んでいた。四班はその罠にかかり、悪夢を彷徨っていた。そこへ任務報告のない四班がいる異堀村へ皆無が駆けつけたところ、悪夢に潜り込み四班救出及び、獺酔の討伐に成功した。皆無が異堀村へ入る前に呼んでいた応援、私たちが合流したものの、それを霊魂等の悪魔が鳥籠のようにして囲んでいたのを魂圧で確認。応援の中にいた易陽と空夢の協力により鳥籠の中から抜け出すことができた。しかし、予知するかのように二体の悪魔が私たちを待ち伏せていた。皆無とソルの交戦によって何とか相手の掌から抜け出し、天敵の空へと戻った。そして、一週間経った今お前たち三人が起きた」


 織姫のいつも以上に鋭く尖った目はこの場にいるもの全員に異常事態だと言うことを知らせる。

 零は織姫に質問を投げかける。


「三人?」


「お前と皆無とソルだ」


「先生と……」


 零はソルをじぃーっと睨む。

 それに気づいたソルは少し笑って軽く両手を上げる。


「さっきは悪かったな。俺はソルだ」


「私は易陽だ」


「私は空夢、よろしくね」


「よろしくお願いします」


 零とソルは少し心が和らぐ。

 織姫は話の続きを始める。


「それより本題だ。零、この事件には一つ大きな穴がある。何かわかるか?」


「えーーっと、それは……」


 零は口に手を当てて考える。

 皆無は零を導くように問いかける。


「お前はあるターゲットを待ち伏せるために何をする? もしくは誘き寄せるために何をする?」


「いつ、どこで、何をしているかを知る必要がある」


「そうだ」


「と言うことは、情報を漏らしてる奴がいる」


 零は答えと辿り着く。


「そうなんだが、少し違う。最初から情報が偽造されていたんだ。後にこの任務の報告書は全てが偽りだと判断された。任務は一度審査を受ける。だから、外部からの偽造はほぼ確実に無理だ」


「それだと犯人はこの天敵の中にいるってことに?」


「私たちはその線で探っている。この話はここにいる人物しか知らない。そして、この件は公開しない。私たちで謀反者を見つける」


 織姫の固まった意志は皆に連鎖するように繋がる。


「そこで一つ、俺から話がある」


 ソルは手を挙げて注目を集める。


「あの時、俺は遅れて皆無たちの元へ合流した。そこに人らしき影が一ついた。顔から足まで霧を被ったかのように真っ黒だった。そいつは俺と抜刀の勝負をした。そして負けた」


「ソルが抜刀で負けた」


 零以外は思わず声を出しそうになる程驚く。


「俺は瀕死の中、そいつの行動を見ていた。影は皆無の方へ歩み寄って、一輪の花を添えて立ち去った。その花がこれだ」


 ソルの手には真っ赤な彼岸花が華やかに開花していた。


「彼岸花、花言葉は情熱や独立、そして諦め。一度散ると二度と会えない別れの言葉」


 皆無は彼岸花をソルから手渡される。皆無は彼岸花を数秒見つめて、最も少量の魂を彼岸花にぶつける。彼岸花は赤い花びらを白い空間へと飛び立たせる。皆無は落ちた花びらを一つ拾い上げる。

 零はそんな姿を見て、皆無の顔が一段と綺麗で悲しそうに感じた。


「これで会議を終わる。くれぐれも慎重にな」


 織姫の締めの言葉が告げられると零は皆無の部屋へと一人戻される。零はまた一人考える。


(謀反者がこの天敵の中にいる。しかも、それは俺たちを狙っている奴の味方。待てよ、狙われているのは四班全体なのか? それとも個人の誰か? もしかして、俺? わからない)


 零は頭を抱え込むように腰を下ろす。すると、零の目に前に今の悩みを一度忘れるほどの情報が飛び込んでくる。それは皆無の本棚にある一冊の本のタイトルだった。書かれていたのは『悪魔日記』と書かれている本だった。

 零は何も考えることなくその本を取り出す。零は試しにページをぱらっとめくる。そこには日付と場所、悪魔の等級などが詳しく書かれていた。この日記は皆無がこれまでに会って来た悪魔の記録だった。そこにはある悪魔の記録が存在していた。『緋眼のハイライト』……零はそのページを隅から隅まで脳に叩き込む。書かれている内容は……。


『"緋眼のハイライト" 輪廻 霊魂等

 五月三日 千葉

 俺はこの日、ある悪魔を堕とすため千葉県の南東部に三つの班を連れて向かった。

 激しい戦いをしたものの無事に悪魔を地獄へ堕とすことができた。皆んなが安心し

 切ったその時、奴は来た。静かな暗闇の中から放たれる不適な笑みと圧は俺たちの

 心を締め付けた。堂々と姿を現すなり、そいつは真っ赤な眼を俺たちに見せつけた

 。俺はその目に吸い込まれるように意識が薄れる。気づいた時には周りの仲間が倒

 れていた。俺はまだ未熟で、奴も未熟だった。俺は奴目掛けて攻撃を放った。だが

 、奴には届かなかった。奴は自身の体を自由自在に操り、俺の攻撃を躱し続けた。

 俺は戦って感じた。奴が戦いを楽しんでいることを。そして、奴はなぜ戦うのかを

 聞いて来た。俺は答えられなかった。俺は結果的に奴を逃してしまった。次会った

 時は必ず奴を堕とすと心に決めた。                     』


 零はこれを読んで、いつもの皆無ではないことに違和感を持つ。

 零はページを前へ前へと一ページずつ戻す。すると、ある一ページに手が止まる。そこには日付や場所などの記録がないページが存在した。今までのページには必ず見開きに日付や場所が書かれていた。だけど、それがない。

 零は左の親指をページに挟みながら、日付や場所が書かれているページを探す。零は数秒後、そのページを見つける。親指を挟んだページからこのページまで見開き十ページも存在した。それは一匹の悪魔に対する情報がそれだけ存在するということを示していた。

 零はその悪魔の名前を見ようとしたその時、日記は零の手から抜ける。

 零は日記を目で辿ると後ろに皆無がいることに気づく。


「人の部屋のものを勝手にいじるんじゃないよ」


「はーい」


 日記は皆無の手により元の位置に戻される。

 零はいつも以上に落ち着いている皆無を見て心配する。


「大丈夫ですか。先生?」


 皆無は笑顔で応える。


「あー、大丈夫だ」

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