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天の先に  作者: 真
第1章
16/21

知らない存在〜怒りの頂点〜

 村の中心で一人の悪魔が右手を丸くさせて、それを覗く。


「ほっほーー、やはりあいつはただものじゃないわい」


 老人の姿をした悪魔、獺酩(たよ)は村に横たわる零と影月、るなを空から見下ろす。


「こいつら三人はまんまと罠にかかってくれた。オマエたちが気づいた通り、下級の悪魔を餌に使うのは重要な一手じゃ。まあ、最後の爪が甘かったようじゃがな。ほっほっほーー」


 獺酩は盃に酒を注ぎ、水面に月を映す。


(さー、そろそろ大詰めじゃわい。オマエらの精神ももう少しで朽ちる。そして弱ったところをグィっといただくとしよう)




数日前ーー

 人のいるはずのない崩れかけの工場で輪廻と獺酩が待ち合わせる。


「君が輪廻か」


「そうだよ、おじいちゃん」


「ほっほーー、口の聞き方がなっておらんのう。しつけてやろうか?」


「いいよ、遠陵しておく」


 殺伐とした空気が流れる中、ある男が影からひっそりと現れる。


「こら、喧嘩してはいけないだろ。これから共闘してもらうのに」


「共闘じゃと?」


「何でこんなじじいと俺が共闘しないといけないんだよ?」


「この共闘は君たち二人にとって悪くない話だと思ったんだがな」


 輪廻と獺酩は興味を少し反応に出す。それを男は見逃さない。


「今回は輪廻がこの前会ったあの三人組がターゲットだ」


「いいね」


 輪廻は興味津々に耳を傾ける。


「で、わしのメリットは何じゃ?」


 獺酩が話に乗ってきたことを確認した男は話を続ける。


「作戦を説明しよう」


 男は灰色の地面にある場所の地図を広げる。それは今回の四班たちが任務で訪れた村の地図だった。


「舞台はここ、異堀村。ここは最近弍魂等強ぐらいの悪魔が出没し、廃村になっている。そこにあいらは来る。だから、待ち伏せして獺酩の能力で眠らして欲しい。そして、輪廻が夢の中に入って悪夢を作る手伝いをする」


「なるほど、わしがそいつらの魂を喰らっていいと」


「そういうこと」


「悪くはないが、何故そやつらなのじゃ?」


「それは……」


 獺酩は月に酒を捧げるかのように盃を上げて口に移し、一口で飲み干す。


「楽しみじゃのう」


 零たちは夢の中に陥っているということも知らず、ただ心だけが抉られていく。

 一人遠くに飛ばされた零は急いで戻ろうとする。だが、零の力はもう残されておらず、立っているので精一杯だった。零の体はとっくに限界を超えていた。しかし、零は倒れることなく歩き続ける。仲間に会うために。

 生い茂っている森の中を光頼りに進む。開けた先に見えたのは影月の後ろ姿だった。

 零は見つけるなり走る。だが、一歩踏み込んだ先の風景は地獄へと変わる。

 後ろ姿の影月は輪廻に首を掴まれており、身動きが取れない状態だった。近くにいるるなも輪廻の複製された大きな手によって行動を封じられている。

 零は怒りのままに輪廻の方へと走る。


「ストップ」


 近づいてくる零に対して、輪廻がとった行動は零の足を止めさせる。

 輪廻は影月の喉に鋭い手先の刃物を置いて人質をとる。

 零の一瞬の行動停止の間に輪廻は地面から手を複製させて零の足を掴み固定する。振り払おうとするが、零にそんな力は残っていない。


「遅かったね。待ちくたびれたよ」


「オマエ!」


 零は輪廻の手を燃やそうとするが、零のどこからも発火することはなく、ただ小さな火花が掌で起こるのみ。


(オーバヒートか。まあ、あれだけ動いたんだ。そうなってもおかしくはない。身体はボロボロで言うことを聞かない今、精神を折る)


 輪廻は零に言葉の凶器を向ける。


「君、弱いよ。最初に会った時よりは強くなっているよ。確実にね。だけど、君あの時何て言ったっけ。目の前の奴守れないで大切なものは守れねぇ……だっけ。無理だよ、君には何一つ守れない。皆無だって、さっき刺したやつだって、目の前のこいつだって守れやしない」


 輪廻の感情は昂り、影月の喉に刃先が当たる。

 影月の喉からは一線の赤い血が静かに滴る。


「やめろ!」


 何もできない零は必死に声を上げる。まるで赤子のように。


「自身の願望だけを並べるのは弱者の心得。そこでオマエの弱さを噛み締めろ! そして、憎んで、悔め。弱者に守れるものは何もない。そうだろ、零!」


「あ〝ーー」


 零の悲しみと怒りは頂点に達し、あるはずのない魂が増幅する。言わば、暴走状態に陥る。

 輪廻はそれを見て目を輝かせる。


(さー、どうなる?)


「あ〝ーー」


 零の雄叫びと魂はオーラに乗せて、輪廻にのし掛かる。


(俺は救われたと思った。天敵に入ったあの時から。だけど、違った。そう思っていただけだった。俺は何一つ変わっちゃいない。俺は弱い)


 零は足に絡まる輪廻の足を振り払い、何も考えることなく前へ、輪廻のところへ動こうとしたその時、零の肩を優しく包み込むように手が静かに届く。


「勝手に殺してんじゃねぇーよ」


 零の肩に手を置いた人物は現れるなりこの場の雰囲気を一変させる。

 零の溢れた魂は次第に収まり、暴走が終わる。

 輪廻の熱気もすぐに冷え、一瞬言葉を失う。


「何で……オマエが……?」


 輪廻は目を丸くさせる。

 零は姿を見るなり涙が溢れ出る。

 そこにいた人物とは死んだはずの皆無だった。


「よお、輪廻。久しぶりだな」


 輪廻は困惑する。


(何故こいつがここにいる。悪夢の続きか? いや、それはおかしい。こいつを出すことのメリットはない。夢に干渉してきたと言うのか? 一体どうやって?)


 輪廻は焦りから力が力む。


「輪廻、動揺が隠せていないな」


 皆無は輪廻の右腕に壊を放つ。微小の魂で放つ壊は威力を落とす代わりにコントロールとスピードを格段に上げる。

 困惑していた輪廻は反応に遅れ、右手を飛ばされる。

 すぐに皆無は輪廻との間合いを詰めて顔面を殴打する。影月は輪廻の手から離れ開放される。るなの行動を縛っている大きな手も皆無の壊によって開放される。


(今は考えるな。戦いに集中しろ!)


 輪廻は皆無の強さを冷静に判断する。


「動揺? 武者部類だよ。オマエとこうやって戦えると思ったら感動しちまうよ」


 皆無は解放させた影月とるなを抱えて零のところへ行く。

 限界を超えた零は力が抜けて、その場に座り込む。


「先生……」


 皆無は零の側に影月とるなをそっと置き、片手で零の頭を撫でる。


「オマエたちはよくやった。ここからは俺の仕事だ」


 そう言って、皆無は輪廻の方へと視線を戻す。


「オマエら、俺の生徒に手出したこと後悔しろよ」


 皆無の圧倒的なオーラは輪廻の心を振るわす。


「いいね」


 輪廻も負けずとオーラを放つ。


「全力で行くぞ、輪廻!」


「来いよ、皆無!」


 輪廻は皆無に無数の手を勢いよく広げる。

 皆無は無数の手を振り切り近づき、輪廻に右蹴りを入れようとするが、先に輪廻は身体を上下に分裂させる。輪廻は分裂すると同時に魂を移す。そして、輪廻の上半身が皆無を襲う。

 だが、皆無の右蹴りした足は勢いまま地面に着地し、反動を使って左足で輪廻の上半身を蹴り飛ばす。皆無は飛ばした先を見つめる。

 だが、そのような余裕もなく突然、輪廻の下半身が足を鳴らす。すると、皆無の立つ地面から巨人並みの掌が現れ、皆無を天井へと押し上げる。

 皆無は空中に投げ出される。

 魂を移したのは上半身ではなく、下半身の方であった。輪廻は下半身から上半身を再生させる。

 空中を舞う皆無は指先に魂込めて真下に壊を放つ。巨大な掌は一瞬にして姿を消す。

 輪廻はすぐに分身四体を皆無の下に配置する。

 皆無は涼やかに地に舞い降りる。

 分身は変幻自在に形を変えて皆無に襲いかかるが、皆無はそれを跡形もなく瞬殺する。


「オマエは何故戦う、だっけ。あの時、応えられなかったから応えてやるよ」


 そう言って、皆無は掌を握りしめる。


「自由になるためさ」


 皆無は輪廻との空間を叩く。掌にあった魂は空気を裂く。

 輪廻は殺気を感じて防御体制に入るが一瞬で腕が吹き飛び、輪廻は十五メートル級の大木に貼り付け状態になる。

 輪廻はすぐに抜け出そうと足に力を入れるが壊によって潰される。何もできない輪廻は思う。


(あー、やっぱり。俺はこいつが嫌いだ。だって自由にさしてくれない)


 皆無は輪廻との距離を詰めよって話す。


「自由と言っても、オマエの自由とは違う。人間が最低限度で暮らしていける自由さ。食事をしたり、寝たり、そう言う小さな自由を。そのためにオマエたちを俺は堕とす」


 皆無はトドメを刺そうと指に力を込める。


(チッ、再生がおいつかねぇ。避けられない)


「じゃあな、輪廻」


 皆無が壊を放とうとした瞬間、青かった空が漆黒に染まり崩れ落ちる。次第に周りの木や地も跡を消す。

 それを見た輪廻はホッとする。


「残念だったね。もう少しで倒せたかもしれないのに」


 皆無も戦闘体制を緩めて話し出す。


「今倒したって意味ねぇだろ」


「それもそうだ」


 輪廻は笑みを見せる。


「誰が裏で手を引いている?」


 輪廻とは違って皆無は真剣に聞く。


「あ〝? そんなこと言うわけないじゃん」


 輪廻は口のチャックを閉じる。


「全くだ。聞いた俺がバカだったよ」


 皆無はその態度に少し苛つく。

 零や影月、るなたちも背景から消え、皆無と輪廻だけが取り残される。


「次は夢じゃなくて現実で会おうね。その時は俺が殺ってあげるから」


「上等だ。三度目はないからな」


 二人も姿を消し、真っ白の空間が延々と続く。まるで終わりがないように。

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