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天の先に  作者: 真
第1章
15/21

知らない存在〜再会〜

 悪魔は織姫の背後を鋭い刃で刺す。そして、悪魔は刃をすぐに引き、自身の手の形へと戻す。その手からは血が腕へと滴り落ちる。悪魔は四班たちを目視するなり、顔色を明るくする。


「久しぶりだね、君たち」


 織姫の背後を突いた悪魔は零が天敵になる前、廃病院で戦った身体を伸び縮みさせる悪魔だった。

 四班たちは以前皆無が言っていたことを思い出す。


「あいつは輪廻と言って、霊魂に値する悪魔だ。能力は自分の身体を自由自在に変えることができる。オマエたちも戦ってわかったと思うが、あいつは戦いを楽しんでいる。その自由な戦い方から名付けられたのが"緋眼のハイライト"」


 四班たちの思考は『ぶっ殺す』一択となる。

 るなはいつも以上に増してスピードを加速させる。その高速に乗せた蹴りは輪廻を吹き飛ばす。

 影月もそれに続いて電光石火の如く、輪廻に拳を振るう。

 輪廻は上空に舞い上がり、一人取り残される。

 そこに真っ赤な流星が一つ降り注ぐ。その流星は輪廻を地上に叩き、広範囲を紅蓮に燃やす。流星に見えたのは怒り籠った零の拳だった。

 るなは素早く織姫の応急処置に当たるが、傷口は深く血は止まらない。


「管理長! 頑張って……生きて!」


 意識が遠のく織姫にるなは力強く語りかける。

 その姿を零と影月は見守りながらも戦闘体制を緩めない。


「いいね……本当にいいね、君たちは」


 輪廻は片手を巨大化させて扇のようにして一振りし紅蓮を消し去る。

 二人から見えた輪廻の表情は廃病院でのことを思い出させる。


(絶対……)


(ここで……)


((堕とす!))


 二人の強い意志を輪廻は眼から感じ取り、フッとひと笑いする。

 次の瞬間、零と影月は凄まじい速度で輪廻に攻撃を仕掛けにいく。

 影月は前進しながら両手に電気を溜めて、左手で雷を放つ。

 輪廻は軽々躱して突っ込んでくる影月との距離を一気に詰める。

 輪廻は右拳を大きくし、影月は右手に溜まった電気を一気に放出する。そして、それはぶつかり合う。輪廻の右腕は吹き飛び、影月は反動で後方に飛ばされる。


(ここまで強くなっているとは……あの時とは違うって理由か)


 輪廻は影月の成長に驚かされる。

 だが、その僅かな時間で鷹の目は輪廻の目の前に現れる。

 零は両手に練り上げられた魂を輪廻の腹部に手を揃えて構える。


焔凍(はぶき)


 零の右手からは炎、左手からは氷が一瞬にして放出される。炎と氷は交わるなりすぐに反発しあう。

 輪廻は爆発により数百メートル先の山岳の大きな岩に衝突する。輪廻の周りは煙が立ち込める。

 零と影月はすぐさま織姫のところへ駆けつける。


「織姫管理長!」


 近くではるなが魂を必死に練り上げる。練り上げられた魂はるなの手を伝って、織姫の傷を徐々に塞いでいく。だが、織姫の魂は回復するどころか、徐々に形を崩していく。


「オマエ……たち」


 織姫の声は枯れていた。そのような危機的状況の中、織姫は最後の力を振り絞る。


「私から告げる最後の任務だ。あいつを……『ぶっ殺せ』」


 次の瞬間、後方から大爆発と共に地響きが四班たちに迫る。

 その方向には輪廻が笑み無くして立っていた。そのいつもとは違う雰囲気に四班たちは不気味さを感じる。


(あー、やっぱり戦いはこうでなくちゃ。だけど、あいつらは強くなっている、なら少し集中しないとね。ボコボコにされっぱなしじゃ、楽しみが足らない)


 感情を殺した輪廻から放たれる邪気は緊迫感を乗せて、四班たちの鼓動をゆっくりにさせる。

 固まっている四班たちを見た織姫は背中を押す。


「オマエら、頼んだぞ」


「管理長……」


 四班たちは悟った。この言葉の重さに。

 るなは織姫を離れた茂みに隠す。


「待っててくださいね。絶対、勝ちますから」


 るなはそう言って、零と影月の位置へと向かう。


「今は楽しくないのか?」


「そうだね。楽しくはないね。だけど、なんだろうね。胸の高鳴りだけが鳴り止まない感じ。今ある表情と隠している表情が違うって何か変な気分だよ」


 輪廻は心臓に手を当てて気持ちを抑える。


「そろそろ行こうか」


 両者構えを取り、自分自身の鳴り止まない鼓動を聞き続ける。


(来る)


 輪廻は地を踏み、零と影月の三メートル手前まで一気に距離を詰める。そして、鋭く尖った右腕に魂を乗せて大振りをする。

 影月はすぐに姿勢を地面並行までに低くするが、零は反応が遅れてギリギリで姿勢を反らして躱す。

 魂の乗った輪廻の斬撃は零たちを通り過ぎて地面に亀裂を入れる。

 零は姿勢を整えようとするが、その隙に輪廻が魂籠った一撃を放つ。魂によって強固された拳は以前よりも重く、零は戦線から離される。

 影月は零を助けに行こうとするが、輪廻が左腕を伸ばして影月の足首を掴む。


「おいおい、逃げんなよ」


 輪廻は伸ばした腕を後方へと一気に引き上げる。

 影月は何もできないまま空中を舞う。

 輪廻の手が開かれると共に、影月は体に木をぶつけながら山の森林に追いやられる。


「マジかよ、俺強すぎだろ。もしくは、オマエら弱すぎだろ」


 遅れてきたるなは空を切り裂くかのように輪廻に飛び蹴る。

 輪廻は予測していたかのように、高速のるなの攻撃を魂で強固した左手で受ける。だが、るなの攻撃を完全に受け止めることができず、輪廻は左手を千切って後ろに下がる。


「やっぱり君は厄介だ」


「そうか。だけど、こっちばっかり気にしてたら足掬われるぞ」


 輪廻がその言葉の意味と気配を察知した時には零が後方から右手を静かに燃やして突っ込んで来ていた。

輪廻は躱せると判断したが、それは間違っていた。今までの零の加速は炎を足に乗せただけの加速だったが、今の加速は炎と氷の爆発の威力を乗せた加速であり、それは輪廻の想像を遥かに超える。

 零の炎の拳は輪廻の後頭部を捉えて地面に叩きつける。零はそのままスピードを落とすことなく宙返りとひねりを入れてるなの近くに着地する。


「大丈夫か、零」


「あー、問題ない。それより影月の方が……」


「それは大丈夫だ」


 零は遠くから影月の魂を感じ取る。


「なるほど」


「畳み掛けるぞ」


「はい」


 輪廻は傷を治しつつ立ち上がる。


(やっぱり俺の目に狂いはなかった)


「いいよ、君たち」


 輪廻は顔色変えることなく、相手を睨みつける。

 るなは輪廻に休憩の間を与えまいとすぐに距離を詰める。それに零も後から続く。

 輪廻はそれを見て身構える。

 るなは突っ込むなり拳を突きつけるが、輪廻はそれを軽々と片手で受け止める。

 すかさず零はるなと地面の僅かな間をすり抜けて輪廻の足を畳もうとするが、輪廻は飛び上がってそれを躱わす。そして、輪廻は下を通り過ぎる零を踏み台にして前方宙返りをする。その際にるなの右手首を掴み、回転の勢いで放り投げようとするが、るなは逆に輪廻の左手首を掴み取って、回転の勢いを地面の着地の踏み込みに利用して、輪廻をさらに強い力で放り投げる。その投げた方向には溢れ返った魂が散乱する。

 そこには魂全てを右手に蓄えた影月がいた。

 二人は魂の揺れに気づき、瞬時に策を練ったが、もう一人もそれに気づいていた。


「オマエらが気づいて、俺が気づかないはずがないだろ」


 輪廻は手を複製させて地面につき、勢いを殺そうとしたその時、輪廻の体が突然として凍りつく。


「何!」


「トラップ、アイススパイク」


 零は目を光らせる。


(こいつはやっぱりすげーよ。この瞬間のためにずっと前から準備していた。そして今もまだ動き続けている。私よりも速く)


 るなは零の行動に感激する。

 輪廻は零に怒鳴るように声を上げる。


「こんな小細工意味ねぇよ」


(だが、流石にあれに当たるのはまずい。四肢を塞がれた今逃げるのは……上!)


 輪廻は力ずくで邪魔な氷を振り割り、上空へと真っ先に飛ぶ。輪廻は躱せたと少し安心したが、その矢先だった。

 輪廻が気づいた時には真上に零が構えをとって浮いていた。

 零は罠の発動とほぼ同時に体を起こし空を飛ぶ。零は考えることもなく、ただ勝手に体が行動に達した。


「オマエ……」


「オマエがこの気配に気づかないわけがない。俺はオマエを超えている。ついて来てみろ、緋眼のハイライト!」


 零は地面に輪廻もろとも炎の柱を叩きつける。

 そして、輪廻が地に戻った瞬間を影月は迷うことなく放つ。


「ぶち抜け」


 魂を圧縮し続けた電気エネルギーは輪廻との衝突により弾けて大爆発を起こす。

 空中にいる零は爆風により後方へと流され、その次に近かった影月は木に捕まるも幹が折れて、零と同じく後方へと遠のく。

 るなは爆発の前に危険を察知し、後ろへと退けていたおかげで爆風には巻き込まれずに済む。


(あの時からニヶ月、努力を絶え間なく行い、成長を遂げてきた。眠たかった授業も三人で聞けば起きられたし、ランクの高い任務も全力でこなしてきた。私たちは力と友情を築き上げて強くなった。誰もがそれをこの戦いで感じているはず……だけど、だけど、こいつは)


 るなが見た光景は心を落胆させる。

 爆発によって立ち込めた煙の奥に影が揺れる。それは次第に数を増やしていき、煙を払い除ける。

 そこには笑みを取り戻した輪廻がいた。笑みと共に魂が溢れ出し、四班の生徒全員が感じたことのない強い邪気を放つ。

 だが、るなが落胆した理由は他にあり、それは輪廻がまだ遊んでいるという事実だったからだ。

 輪廻の周りを囲むかのように無数の手が広がり、そして、四方向には一人づつ鏡で写したかのような輪廻が座っている。

 輪廻の能力は覚醒へと近づく。

 それを遠くから覗く悪魔が姿を現す。

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