知らない存在〜白から黒へ〜
廃村での任務を終えた四班たちは突然の緊急集合により空へと急ぐ。
「緊急集合って一体何があったんだ?」
初めての緊急集合に零は胸騒ぎが止まらない。
「先生の方に何かあったんじゃ?」
るなは皆無を心配する。
「例えば?」
「追加任務」
「特別修行」
「「……」」
零とるなは走りながら考え込む。
「他は?」
影月は黙った二人を見て、もう一度問う。
「空周りの掃除」
「先生の買い物の手伝い」
「先生の記念日か何か」
『先生が亡くなった』
「「「?!」」」
突然知らない声が四班たちの耳を通る。
「おい、誰だ今の?」
影月は足を止めて、周りを見渡す。
「俺じゃねぇよ」
「私も」
零とるなは否定するように首を横に振る。
「気のせいで済ませられる内容じゃねぇぞ」
影月は怒りを露にする。
(確かに空耳じゃない。だけど、悪魔の気配も何もない)
零も同様、周りを探るが何もない。
すると、るなが二人を安心させるかのように笑って言う。
「大丈夫でしょ。先生が死ぬわけないんだから」
零と影月は顔を見合わせる。
四班の生徒たちは暗黙の了解で空へと向かう。
空へ着くと真っ直ぐ自分たちの教室、1-4へと急ぐ。その道のりはいつも以上に暗く長く、四班たちの心は狭くなる。
扉を開けるとそこには寂しい表情をした織姫が独り立っていた。
四班の生徒たちはその雰囲気で察する。だが、誰も言葉を口にしようとはしない。
「管理長、先生は……?」
零が切り込んで聞くが、織姫は黙り込む。
「嘘だろ……」
影月は織姫の冷たい回答に思考が止まる。
「いや、何かの間違いでしょ。ねっ、織姫管理長」
何を言われても、織姫は口を開こうとはしない。
「ドッキリならまだ間に合うって、ねぇ、ねぇ、ねぇって」
るなは平常心を取り乱し、膝から崩れ落ちて泣き喚く。
見たことないるなの感情に二人は唖然とする。そして、織姫もようやく口を開く。
「つい一時間前、ここに正体不明の悪魔が現れた。そいつは姿を現した途端に暴れ出した。現場近くにいた私と他二十人ほどの天敵で対応したが、圧倒的な差で敵うはずがなかった。そこに駆けつけたのが皆無だった。皆無は全力で戦い続けた。両者とも身を削る戦い、私たちは見守ることしかできなかった。魂輝く渾身の一撃がぶつかり合った。それは皆無の最後の光となった。そして、気づいた時にはこの有様だった」
そう言った織姫が向いた窓の先の光景は四班の生徒たちを驚愕させる。
地面は抉られ、山一つというほどの森林が吹き飛び、校庭はなくなっていた。
「皆無は右腕が吹き飛ばされ、言葉を発することもなく静かに……去っていった」
影月は黒板を素手で叩き、涙を一つ落とす。
「俺は認めねぇ。先生が死んだなんて……認めない」
教室の中が静かに暗くなり、四班たちが下を向いている中、織姫だけが前を向く。
「今この天敵業界ではバランスが崩れかけている。皆無という一つの柱がなくなった今天敵は狙われる。だから、心して任務にかかれ。いいな!」
四班たちはそれぞれの寮で待機命令が出させる。
零はベットの上に座って体を屈める。
(あの最強の先生が死んだ? 嘘だろ。だって、あの先生が……)
零は静かに涙する。
他の部屋でも同様、自分だけの空間が時を忘れるほど遠く流れる。
悲しみに暮れる中、たった一人だけが笑う。
寮の中にいる零は少しの邪気に反応して窓の外を見ようとしたその時、爆発とともに地面が揺れる。
零は察して寮を飛び出る。すると、両隣の扉も同時に開き、影月とるなが出てくる。三人は同じ気持ちを胸に走り出す。
((俺たち))
(私たちが)
(((止める)))
四班たちは先ほどの北校舎の近くへと向かう。
「この騒動は偶然だと思うか?」
「いや、織姫管理長が言ってた通り、狙われたんだと思う」
るなは冷静に判断する。
「天敵を仕留めに来たのか。返り討ちにしてやるよ」
そんな三人の目の前に織姫が建物の横から姿を現す。
「管理長!」
零がそう叫んだ瞬間、織姫はそれよりも大きな声で叫ぶ。
「逃げろ!」
次の瞬間、織姫は背後からある悪魔に刺される。
織姫は肺をひと突きにされ、出血により服が赤色に染まる。
四班たちはその光景に頭が真っ白になるが、その時間は僅かにして一秒、憎悪が白を黒に染める。