滝修行
山には白いカーテンがかかり、日はとっくに真南を向く。
北校舎の校庭では四班たちが集まる。
「今回は三つ葉の仕事だ」
影月が先陣を切って話し始める。
「都市から離れた小さな村で悪魔が発見された。被害は死者が七人、重症者が二人だ。重症者はまだ、意識不明とのことだ」
説明しながら影月はこの状況のあることに疑問を抱く。
(なんで俺が説明してるんだ? 普通は先生が確認をとるはずなんだが。また、いないのか。あの人何してるんだ?)
影月は疑問を押し切って話しを続ける。
「七人の死者のうち、一人が都市で瀕死の状態で発見されている。病院で治療を受けるも、後に命を落とした。その一人が最後にこう言ったそうだ。『みんな飲み込まれた』と」
「どういうことだ?」
シンプルに疑問を持った零が反射的に問う。
「さーな。とにかく、決行は今夜だ。気を引き締めていくぞ」
「「おー!」」
影月は四班の士気を高める。
数時間後ーー
山頂から差し込む光は消え、ほんのりとした光が空を照らす。そのような中、光を通しにくい木々が生い茂る森の中を進む者達がいた。
「ちょっと遠くねぇか」
零は視界を遮る枝をかき分ける。
「しょうがないだろ。都市から離れると交通の手段が少ないうえ、廃村となればこうなるのは目に見えていた」
影月も同様にしてかき分けて進む。
「それはそうだけど」
木の入り組んだ岨道が開けて、目の前には静かな村がひっそりと座る。
「意外と普通の村ですね」
るなは眠たいのを我慢して目を細めながら言う。
「そうだな」
「あれか、悪魔って?」
零が指差す方向には畑があり、よく見ると人影が見えたが、それはカカシだった。
「あの邪気だと参魂等にも満たないよ」
るなは急に眠気を覚まして目を開く。るなは戦闘経験から邪気で大体のレベルを観測する。
「まあ、他の悪魔がいてもおかしくはない。ここは五ヶ月前の事件によって廃村になったんだからな」
零が影月の説明を聞いて納得した瞬間、突然中央から木の枝が突っ込んでくる。
悪魔は見計らっていた。
だけど、そのような不意打ちは四班の生徒たちには通用しない。
零は枝を掴んで炎で燃やす。
カカシの本体に炎が移り悪魔が騒ぎ立てる。
「私がトドメ刺してくるね」
「お願いします」
るなは姿を変えながら悪魔に近づき、トドメを刺そうとする。
影月はなぜか今になってあの言葉を思い出す。
すると突然、るなの下が奈落のような穴へと変わる。るなは空中で何もできず奈落に飲み込まれる。 奈落だと思っていたのはある悪魔の口だった。『みんな飲み込まれた』その意味を二人は理解させられる。地面から出てきたのは大きな鯨の悪魔だった。
「先輩!」
零はるなを助けに行こうと飛び出そうとする。
「あぶねーぞ」
そう言って影月は零を引き止める。
状況の読めない二人は林の中に身を隠す。
「下級悪魔をエサに使ったか」
「先輩は無事なのか?」
零は冷静さを失い、焦る。
「確証はねぇが、今は考えるな」
二人は迂闊に動けないので、じっとしていると一匹の鳥が村の地面に止まる。その瞬間あの鯨が再び地面から出て来て、鳥を丸呑みにする。
影月はその様子を見て勘づく。
「なるほど。おい、よく聞け。あいつは地面の響きに反応している」
「地面の響き?」
「そうだ。先輩が村の地に踏み入れた時にあいつは出て来た。それにさっき鳥が村に降り立ったが食われた。ということは、俺たちが歩いた音などの反響に反応しているんだ。俺たちがいる林の中にはいろんな音が響き渡っているから、迂闊には手が出せない。だけど、こんなに開けた村だと音を拾うのにはちょうどいい。だから、どちらかが囮になって出てきたところをおとす」
影月は零に情報を共有すると共に簡単な作戦を立てる。
「どっちが囮だ?」
作戦に乗った零は役割を考える。
「俺の方がスピードに特化しているから適作だろう」
影月は個人の能力を分析し最善を出す。
「わかった」
「零、後ろ!」
影月は後ろからの微妙な気配に気づき振り返るも、先に下級の悪魔が零へと飛びかかる。
零は避けたものの村の場へと出されてしまう。
影月は高速移動で零を助けに林を出る。
鯨は慌ただしい音に反応して、影月たちの後を追いかける。
「作戦実行だ。任したぞ」
そう言って、零を空中に放り投げ、影月は村の中を独走する。
零は空中で一回転して足に魂を集中させる。そして、炎を出して鯨 に気づかれないようにゆっくりと着地する。
「ようやくあれの出番か」
零は両腕を伸ばして手を合わして集中する。
一方、影月は一旦林の中へと隠れようとするも他の悪魔の能力により村を出ようとすると村の中心へと戻される。
(やばいな。体力が尽きるのが落ちか)
考えているうちにまた他の悪魔の能力により影月の下の土が溶けて固められる。影月の両足は固定される。
「まずい、動けねぇ」
その隙に鯨が下から現れ、影月を飲み込もうとしたその時、何かが鯨の頭部を一瞬で貫く。
鯨は徐々に形を崩していく。
その跡にはるなが眠った状態で現れる。
「よかった」
影月は一安心するが、さっきの状況が掴めないままでいる。
(それにしても今のはなんだ)
影月は遠くでグッとのサインを出している零に聞く。
「零、今のはなんだ」
零は得意げに話し出す。
「あれは俺が新しく習得した技だ」
「新しく習得した?」
「あー、ある人に教えてもらってな」
数週間前ー
日が落ちかけている五時ごろ、校舎の廊下を皆無は歩く。すると、後ろから足音が速さを増して近づいてくる。
「先生」
「ん、なんだ?」
後ろから来ていたのは零だった。
「どうやったら強くなれますか?」
何とも言えない単純で答えるのが難しい無理難題な質問が皆無の頭を悩ます。
「どうやったらかー。そういえば、零の能力ってどんなんだっけ?」
皆無は根本的なことから聞いていく。
「俺の能力はゼロと言って、体内で炎や氷などの能力を作って使うことができます。だけど、炎や氷以外はまだ使うことができませんが、習得することは可能です」
零は掌から炎と氷を交互に出して答える。
「どうやって習得するんだ?」
「感覚で覚えるしかありません」
すると、皆無はスマホを取り出して笑顔で応える。
「なら、いい人がいるよ。僕の先輩に」
二日後ー
晴天というほどではない空の様子にビルの影が光を遮断し、街には暗さを広げる。
そして、零はその街中を迷いながら歩き、大きな建物の前で足を止める。
「と、言われてここに来たが本当にあってんのか?」
目の前にある建物の看板を見て零は考える。
「裁判所……」
零は裁判所の受付へと向かい、先生の先輩の名前を尋ねる。
「あー君なら聞いてるよ。そこの突き当たりを曲がって奥の扉の向こうにいるよ」
「ありがとうございます」
零は軽く礼をして言われた場所に向かおうとすると受付の役人が心配そうに声をかける。
「後、気をつけてね」
「は、はぁ」
その言葉意味を知らぬ零は気にせずに歩き始める。
(こんなところ始めてだ)
零はいつもと違う風景に心が揺れる。
言われた通りに進むと、そこには一際大きい扉が構えていた。
零は恐る恐る言われた扉を開ける。
そこにはグレーヘアーの五十代くらいの男が椅子に座って待っていた。
「君か、零少年は」
「あ、よろしくお願いします」
零は礼儀を忘れずに挨拶を交わす。
すると、男は急に立ち上がって魂のオーラを放つ。そのオーラは零の心を圧倒させる。
「一つ問おう。君は何故、天敵になる」
率直な質問に零は答えが出ずに固まる。
「えーっと……」
「遅い」
男の目がギラつく。
その瞬間、男の拳が零の腹に入る。零は勢いのまま壁に衝突する。
「俺は言葉で教えるのは得意じゃない、だから体で教える。それが俺のやり方だ」
「はっ?」
零はあまりの突発的な行動に怒る。
「あいつに言われなかったか? ほら、あのアホそうなやつに」
(先生のことか?)
零は何故か先生のことだと察する。
「まあ、いい。やり方がわかったんなら、来いよ」
男は零の挑発を誘うように手を招く。
その行動に零は少し苛立つ。
「おじさん、腰抜かしても知らねぇよ」
零は炎を見に纏い、緊張諸共燃やす。
「言うじゃねぇか。少年」
男も軽く体制を取る。
零は正面から殴りかかるが、男は素早く姿勢を低くし、拳のわずか下を通って、零の腹に水拳を的中させる。零は距離を取り考える。
(相手の能力は水か。なら、氷で……)
零は氷結を男に向けて放つが、男は足を止めることなくものすごいスピードで前進してくる。
男の手には水で作成された剣があり、氷の壁を物ともせず切り裂く。そのスピードに対応しきれず、零は男の剣をもろに喰らう。
零の体は無意識に反応していたおかげで傷口は浅くて済む。
(なるほど、今まで俺は放出することしか考えていなかったが創造すると言う手もあったか。だからと言って、そう簡単にはできない。考えるんだ、どうしたらいいか)
零はふと前を見る。そこにはいるはずの男がいない。
(やべー、見失った)
零は焦って周りを探す。
「よそ見は良くないな、少年」
下の方から声が聞こえ、その方向を向こうとしたが男の天井殴りが先に決まる。すかさず男は回し蹴りをも決める。
零は地面に血を吐き立ち上がる。流石の零も限界が近づく。それを感じた零は魂を両手に全集中する。
「じいさん、次が最後の一撃だ。ちゃんと構えときなよ!」
「俺は口だけのやつは嫌いだ」
男は呆れた口調で話す。
「あっそう。倒れてもしらねぇぞ」
「だから、口だけのやつは嫌いだって言っているだろう」
男は少しきれぎみで怒鳴りつける。
「注告無視とはいい度胸だぜ」
零は右手に炎のエネルギーを溜め、左手に氷のエネルギーを溜める。
零は初めて同時に能力を発動しようとしていた。
零は手を合わる。
「焔凍」
炎と氷がぶつかりあい広範囲の大爆破を起こす。黒い煙が舞い上がり、男は視界を奪われる。だが、男は焦らなかった。
なぜなら、零には素早い遠距離の攻撃を持ち合わせていないことを知っていたからだ。男は近距離攻撃なら避けられると踏んでいた。
だが、男は零を甘く見すぎていた。突如男の目の前に水の粒が飛んでくる。男は水を水で弾き返す。その一瞬、零の炎の拳は男の腹に入る。
男は壁に強くぶつかる。
「はぁー、はぁー」
(同時発動は負担がデカすぎる)
零は体から冷気と蒸気を出しながら立ち続ける。
男を心配した零は声をかけようとしたが、言葉が出ない。何故なら、男は何もなかったかのようにピンピンしているからだった。
「やるじゃないか、少年。まさか、こんなにも早く成長するとは思ってもいなかったよ。拳は入ったが、まだ倒れてはいない。さー、第二回戦……と行きたいところだが、俺も老いたから体力が追いつかなくなってきた。オマエも体が限界のようだ。また明日来い。水の能力の使い方を教えてやるよ」
「あ、はい」
零は声を枯らしながら頷く。
「あと、おじさんはやめろ。俺の名前は自決だ」
「あ、はい。知っています。先生から聞いていましたので」
自決はその言葉にピリッとする。
「はっ。なら年上の人には名前とさん付けで呼べ」
そう言って、自決は零の上から大きな滝を打ちつける。
「はい。自決さん」
悲鳴の上げた零の体の涙は自決の滝によって流される。
「ってな感じで水の能力を取得したわけだ」
零は影月とるなのところまで歩く。
「何かあっさりだな」
「いや、あの後はもっと地獄だった」
零は苦笑いして話す。
「まあ、いろいろあったんだな」
突然、零と影月のスマホから着信が鳴る。
「何だ?」
二人はすぐにスマホを取り出して画面を開く。
「「緊急集合!」」