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天の先に  作者: 真
第1章
10/21

滲んだ血

 四班の生徒たちは少年の暴走を遠くから確認して動き出す。


「私が先に行こう」


 るなが切り出して前に出る。


「いや、俺がいく」


 影月が続いて出る。


「オマエじゃ危険だ」


 るながそれを引き止める。


「何故だ? 俺のスピードで気絶させに行けば問題ないだろ」


「それはそうだが。オマエはまだ経験が浅い」


「俺もるな先輩の方がいいと思う」


 零もるなの意見に賛同する。


「わかった」


 るなは自慢の脚力で少年の領域に飛び込む。

 少年は能力で自分を取り囲むかのようにして周りを赤い斬撃でガードする。少年はそう簡単には領域の中には入れさせてくれはしない。

 るなは一旦体制を整えに戻ってくる。

 そして、るなはぼそっと呟く。


「あいつの能力……血だ」


「血?」


「あー、自分の血を操っているみたいだ」


「なるほど」


零が相槌を打つ。


「まあ、とにかく……この赤い斬撃を一瞬で切り開ける。後はオマエらで気絶させてくれ。頼んだぞ」


「「了解」」


影月と零はすぐさま足に能力を纏わせる。


「いくぞ!」


 そう言って、るなは血の斬撃の中に飛び込む。

 その時、殺意の目が血の斬撃の中心から向けられる。

 それをいち早く感じ取ったるなは叫ぶ。


「来るな!」


 その言葉が聞こえた時には血の斬撃がるなの方に一斉に向けられ放たれる。

 るなは避ける間もなくそれをもろに喰らう。

 零たちは嘆きよりも先に足が動く。


「影月! るな先輩を」


「わかってる」


 影月は高速でるなを回収するが、血の斬撃がまたもや目を向ける。

 それを零が氷壁で守り抜く。

 影月はそのまま医療場へと向かう。

 零の氷壁は血の斬撃によって崩壊される。

 そして、ようやく少年は零と目を合わせる。


「さー、これで俺とオマエ、一対一だ。その恐怖に何があったか知らないが、話し合わないとわからないままだぞ」


 零は交渉へと持ち込もうとするが、逆にそれは相手の怒りを掻き立てる。


「何でオマエらにこの恐怖がわからない?」


「は?」


「何でだよ。オマエらが俺たちにこの恐怖を生み出させたんだろ。今更惚けるな!」


 零と少年の話が噛み合わない。


「何か勘違いを……」


「勘違いだと? 俺はオマエらを許さない」


(何て復讐心だ。もうあいつは誰も見えていない)


「俺は俺だけを信じる。もう誰も信じない」


 零は暴走している少年の方へと一歩近づく。


「近づくな!」


 少年は一瞬で血の斬撃を周りに展開させる。少年は全てを拒んでいた。

 そんな少年に零は思いをぶつける。


「別にオマエが誰かを信じようと信じないであろうとどうでもいい。だけど、オマエを信じている奴はいるぞ」


「そんな奴いねぇよ」


(ダメだ。話が通じねぇ)


「オマエにどんな過去があったか知らないが、俺はオマエを助ける。だから、今は眠れ」


 そう言った瞬間、零は火力をいつも以上に上げた氷結を放つ。

 少年は氷で拘束され、血の斬撃をも凍らせる。

 零は少年にゆっくりと歩み寄る。


「あまり手荒な真似はしたくない」


「何が助けるだ。また、実験をするだけじゃないか」


 零はそのワードに不信感を持つ。


「実験だと?」


「そのせいで、俺の……俺の……俺の仲間は……」


 すると、少年はものすごい憎悪をかきたてる。


(やばい、氷がもたない)


 零は危機を察知して少年から離れる。

 その瞬間、氷が壊れ血の斬撃が再び復活する。


(最初の頃より、能力がより強力になっている。まずいな)


「死ねよ。オマエら!」


 怒りのままに能力が動く。

 血の斬撃が細長い槍のようなものに変わり、零を追跡する。

 零は炎を足に纏わせる。そして、死角になる木々の生えた場所へ向かう。


「逃げたか。腰抜けが!」


 零を追跡している攻撃が乱れ始める。


「なるほど」


 零はそれを見て仮説を立てる。


(血を操れるのは自分自身の近くまで、遠くになると操作は不能というわけか)


 零を追尾していた攻撃は止まり、血の雨を零の付近で降らせる。


(多分、あの血の量……もって五分。その後は命が危ない)


 零が考えている隙に少年は零のすぐ側まで接近する。

 少年は手を血で覆い、獣のような鋭い爪で襲いかかる。

 零は炎の拳で対応するが相手の力は遥かに強く、押し出される。

 すると、またもや少年が血の光線を放ち、零を追尾する。さっきよりも近距離なため零は必死に避ける。

 すると、少年が一瞬足元を少しふらつかせる。

 それを見た零は決断する。


(もう限界が来ているんだ。俺も後少ししか残っていない。今ここにいる俺がやるしかない。あいつの為にも……)


 北側では白服の男と皆無が激戦を繰り広げていた。

 皆無の流派は誰もがわかる通り最強なうえ、体術もトップ級であった。

 白服の男は息ぎれするが皆無は余裕の表情を見せる。


「おいおい、そんなものかよ。こっちはまだ足らないぞ。ダダでさえあれが使えないんだからさー」


「ふっ、こっからだよ。勝負は」


「そう来なくっちゃ」


 皆無は白服の男の方へ一瞬で近づき、右腕を相手の顔面に殴りつけようとしたが、闇に纏われた黒い左腕が受け止める。

 すると、皆無は反対側の手で白服の顔面を掴み、地面に打ちつける。

 皆無は一旦離れて様子を見る。


(やはりこいつは規格外すぎる)


 白服の男は改めて皆無の強さに驚かされる。


(こいつ何度やっても立ち上がる。多分、あの体の硬さ……魂を凝固した闇を全身に纏わしているのだろう)


 お互い攻略方法を考える。

 すると、影月が校舎の上から静かに降りてくる。

 それを見た皆無は少年のことを思い出す。


「何してんだ! あいつは?」


「今は零が見てくれています」


 皆無は影月の背中に抱えられているるなを見て驚く。


「どうしたんだその怪我?」


「監禁してた人が突然暴れ出して、止めようとしたんですがあまりの強さに怪我を……。それより、医療場に行ったのですが人がいなくて、どこにいるかわかりますか?」


(この混乱時に言うことかと思ったが、かなりの重症だ)


「わからない。だから、市の病院に行った方が速いかもしれない」


「わかりました」


 そう言って、影月は真っ先に病院に向かう。

 その時、皆無の頭には一つの光景が見える。


「そうか、そうだよな。ハッハッハッハ」


皆無は急に笑みがこぼれ出る。


「どうした。何がおかしい?」


「いや、灯台元暮らしとはこういことか。ぶち込んでやるよ。取って置きをよ」


 白服の男は嫌な予感を察して構えをとる。

 皆無は両手を広げてこう言う。


「世界は広いんだ」


 東側では戦いが終盤へと近づいていた。

 白服の男は後ろへ下がりながら、その通った場所に鎖を雁字搦めに配置する。だが、織姫は白服の男の腰を帯で巻きつけて、鎖と鎖の間を潜り、白服の男に突っ込む。

 そして、織姫は手を帯で巻き、拳を作って白服の男の腹を仕留める。

 帯を巻くことによって、強さが増して、白服の男は木の根元に身体をぶつけて倒れる。そこをまた、帯で拘束し動けないようにする。


「そこそこは渡り合えるようだが、あんまり大人を舐めるなよ!」


 織姫は怒りをあらわにする。

 そして、周りにいる天敵たちに指示をする。


「こいつを頼んだ。私は北側の方へ向かう」


 織姫が行き先を変えようと方向転換した時、遠くの木々の隙間から獲物を狩るかのような鋭い目が織姫に向けられる。

 それを織姫は危機的に察知したが、それより先に白い何かが勢いよく突っ込んでくるのが織姫の目線に入る。

 織姫は反射的に帯で守るも、その勢いは止まることなく、山荘を駆け約四百メートルほど織姫は飛ばされる。


「大人は舐めてないよ。だけど、僕たちの方が強いんだから仕方ないじゃん。この世界に大人も子供も赤子も存在しないんだよ。強さこそが……この世界に存在するルールなんだからさ」


 織姫の上に乗っかっていたのは二人だと思われていた白服の三人目であった。

 織姫は体の自由が効かなく、瀕死状態に陥っていた。


(何て強さだ。油断していた)


 織姫は無理やりでも白服の男を退かそうとする。


「大丈夫。あんたに用はない。だから、さよなら」


 そう言って、白服の男は織姫にトドメの一撃刺そうとしたその時、織姫の目の前からはその白服の男の姿が消える。


「一体……何が?」


 織姫は混乱するも、意識が遠のき気を失う。

 周りにいた天敵たちが織姫を助けに行く。


「織姫様が……」


「大変だ。応急処置できるもの、早く!」


「はい」


 一方、北側では白服の男が空を黒くして、矢の雨を降らす。


(とにかく、俺は時間稼ぎをするだけでいい。だから、今は耐える)


 白服の男は皆無の足場を闇に包む。


(これで行動はできない)


「油断したか?」


「いや」


 皆無は上空に壊を放って空を晴らす。


「練っているんだよ。魂を!」


 そう言って、左手を見せる。そこには圧縮された魂の原形があった。


「そんなもの放ったら、この辺一帯が吹き飛んでしまうぞ。そこにいる仲間たちも……」


「あー、知っているさ。だから……」


 皆無は一瞬で白服の男の足元まで近づき、右足で上空に蹴り上げる。


(何で動ける。闇に嵌めたはず……)


 白服の男の体が地面から離れる。そこを皆無は右手にほんの少し残った魂で壊を打つ。

 その威力は他の壊に比べて小さく、地上での被害を最小限に抑える。

 そして、壊によって、さらに白服の男は高く空に舞う。

 そう、皆無が狙っていたのは空だった。空なら被害はないだろうと言う皆無の考えだった。


「取って置きだ。死ぬんじゃねぇぞ」


 そして、左手に溜めていた魂を空に向ける。


「壊真!」


 皆無が放った瞬間、周りは何も見えなくなり、ただ強い風圧が体に響く。

 その状況が数秒続き、視界が開いた時には白服の男の姿はどこにもなかった。

 皆無は少し後悔する。


「やっちゃったな。どうしよかー」


 皆無は快晴の空を晴れた心で見上げて呟く。

 そして、少し離れた場所にいる零にも風が伝わる。


「何だ?」


「よそ見してんじゃねーーよ!」


 零が一瞬気を逸らした隙に少年は詰め寄ってくる。

 咄嗟に氷壁を立て距離をとる。


(時間がない……)


「一つ聞かせてくれ。一人だった時、どう思った?」


「はっ?」


「俺は一人の時、周りの人が助けてくれた。命にでさえ変えて守ってくれた人だったり、最初は嫌そうだった人もなんだかんだ言って俺の世話をしてくれた。他にも色々出会ってきた。オマエも会ってきたろ。全員が悪い奴じゃない。いい奴だっているんだ。俺はそれを身に持って知っている。オマエも一人だったんだろ。一人でこの世の中生きていけるわけねぇーからな」


「……!」


 一瞬、少年の姿が固まる。


(準備完了!)


 零は話しをしている間に魂を練り終える。零は飛び上がって、木々から姿を現す。

 少年は零に向けて、再び血の光線を放つ。

 零は身体能力の良さを活かして、全て避けて少年に突っ込む。

 少年は咄嗟の判断で血の球体を作り上げ、それを圧縮し始める。すると、圧縮された球体の中にある血の密度は高くなり、いつ破裂してもおかしくない状態まで完成する。

 零はその状況に不穏な空気を感じ、炎で速度を上げて少年にいち早く近づく。

 それに少年は反応して、圧縮した血の球体の一部に穴開ける。圧縮された血は反動によって、そこから勢いよく血が一点に放出される。その勢いはほぼ音速と変わらないスピードへと達する。


緋鳥(ヒノトリ)!」


(やばい)


 零は溜めていた魂を氷に変換して爆発的に使う。零は少年の周りと少年自体を凍らせて大人しくさせようと考えた。そう、水の悪魔に使った拡張版を起こそうとしていた。

 だが、少年の攻撃によって阻まれる。

 零の氷は周りの木を凍らせ、少年の周りの地面まで凍らせるが、少年の攻撃の圧によって、零の氷が少年へ届かない。

 少年の攻撃は零の氷を破壊して少しづつ零に進む。

 だが、零は氷の能力を使い続け、壊れた氷を再生して防御する。

 二人とも体力の限界がきており、最後の力を振り絞る。


「「ア〝ッーー!」」


「最大火力、銀世界!」


 この瞬間、周りは氷の世界に包まれる。

 少年と血は激戦の途中のまま固まる。

 この勝負に勝ったのは零だった。

 零は力尽きて倒れる。


(誰かよばねぇーと。あいつが死んでしまう)


 零は動けない体で少年に手を伸ばす。

 だが、意識が朦朧とし気を失う。

 零が気を失った後、ある男が零の側に現れる。

 その男は零を見て微笑する。


「無茶しすぎだ……あいつに似たのか? 近頃また会おう」


 そう呟いて、その場から姿を消す。

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