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天の先に  作者: 真
第1章
1/21

始まり

【人は喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。人はそれぞれ感情という名の心をもつ。だけど、それはときに悪魔をも有むことがある……】


 人気のない町外れ、背の高い木が少年を取り囲むようにして立ち並ぶ。

 少年は黒いパーカーを被り、手をポケットに入れて俯きながら歩く。


「今回は病院か。もう遅いし、早く終わらせるか」


 少年は顔を上げ、フードの隙間から見える天満月を見てそう呟く。

 切り開けた場所には月光によって照らされた廃病院がひっそりと聳え立つ。

 少年は被っているフードを取り、密かに呟く。


「暗いな……」


 少年が廃病院に入ってから約十五分が経ち、三階までの探索が済む。少年は慎重に四階へ上がる段差を踏む。


【この世界には能力というものがある。能力は生まれつきもつものもいれば、後からもつものもいる。大体が後者だ。できないができるようになった世の中。能力は人々の心を突き動かした。だが、この能力社会では能力を濫用する犯罪者(クリミナル)がいて、それを許さない優秀な警察(ポリス)がいる。警察はここ最近、犯罪者が減っていく傾向があると全面的に報道した。誰もがこの世界は安泰かと思っていた。だけど、それは違った。人の感情から生まれる悪魔という存在を知るまでは……】


(俺は今ネットを頼りにあるやつを探している。今回の情報は廃病院で人影を見たとのことだ。しかも、出現物にはぶつぶつ何か喋っていたと書かれている。今回のやつはなかなかの強者とみられる。何故なら、まだ俺は話せる奴と遭遇したことがないからだ)


 少年はふと顔を上げて前を見ると、そこはもう突き当たりの廊下を差し掛かろうとしていた。奥に一つ部屋が残っていたが、どうせ居ないだろうと高を括って折り返そうと少年が背を向けた時、奥の部屋から重々しい空気が廊下を漂う。少年はすぐに振り返る。そこには七尺ほどある黒い影が静かに扉から姿を現していた。

 悪魔だ。

 少年はすぐ戦闘体制に入る。掌から炎を発火させ、それを悪魔に向けて放つ。

 逃げ場のない廊下に炎が行き渡り、窓ガラスが割れる。


「終わったか」


 炎が消えた先には悪魔の姿はなく、少年は勝利を確信したかのように緊張が解ける。

 しかし、その瞬間背後から少年は攻撃を喰らう。あまりの強さに壁が壊れ、少年は病院の外へ放り出される。


「あれー? ()ったと思ったのに」


 壊れた壁のすぐ側には新たな影が映し出される。

 少年はすぐさま立ち上がって状況を整理する。

 右目が無彩色で左目がまるでインクのような赤色の目をした、白髪の男が立っていた。普通に街で歩いているような男だったが、こんな真夜中の町外れの廃病院に人がいるわけがない。

 少年は悟った。

 お話ができるやつ!


「こっちが本物か!」


 白髪の男は少し嬉しそうにこちらを見て言葉を発する。


「まぁ、せっかくだし遊んであげるか」


 少年は白髪の男に向けて炎を放つ。それに反応した白髪の男は地面に飛び降りる。少年はその瞬間を見逃さず、地面の着地と同時に白髪の男の腹に炎の拳を打ち込む。

 白髪の男は壁に激突する。周りの瓦礫が崩れて煙が立ち込める。

 ピンポイントに拳が入ったが、少年は気が抜けなかった。何故なら、いつもと違うからだ。

 煙の中から不敵の笑みが聞こえる。


「フフフ。速いね、君」


 少年は白髪の男の姿を見て驚く。


(なんだこいつ。あの攻撃喰らって、傷一つついてねぇだと)


 白髪の男は好奇心を抑えきれない。


「じゃあ、次はこっちから」


 白髪の男は攻撃体制をとり、地面を踏み込んで近づいて来ようとする。瞬きをする一秒も満たないうちに、少年の視界からは白髪の男の姿が消えていた。気づいたときには、少年の目の前に大きな拳が視界を覆っていた。

 少年はテニスコートの横幅くらい飛ばされ、木の根元に身体を強くぶつける。

 少年は瞬時に氷で攻撃を受けて軽減したが、反動で体が動けない。


「まあ、こんなものか」


 白髪の男が少し呆れた声で近づいて来る。そして少年の目の前で止まる。


「君は何故戦う?」


 白髪の男は少し真剣そうな顔をして話し出す。


「オマエらみたいな奴らに二度と大切なもの傷つけられないようにするためだ!」


 少年は強い意志を持って応える。


「あっそう。そんなあやふやな気持ちじゃ命がいくつあっても足らないよ。じゃあね」


 そう言うと、白髪の男は腕を刃物のように尖らして振り下ろそうとする。

 その時、後ろから銃声のような音が林をかける。それは白髪の男に向かって放たれる。白髪の男は難なく躱して後ろへ下がる。

 黒い影が後ろから少年を飛び越え、白髪の男との間に入る。


「なんか、一人増えたな。まあ、獲物が増えたと思えばいいか」


 少年と同じ年くらいの黒髪の少年がこちらを目視する。


(ほぼ瀕死状態か)


 少年は立ちあがろうとする。


「そこを動くな」


 だが、黒髪の少年から強く注意を受ける。

 そして、黒髪の少年は白髪の男と目を合わせる。


「オマエは俺が堕とす」


「威勢のいい奴は嫌いじゃないよ」


 黒髪の少年は一瞬にして白髪の男の足元まで近づいて拳を振るうが、白髪の男もそれに反応して避ける。間髪を入れずに蹴りを入れるも、またも避けられる。

 白髪の男は後ろに下がり、笑みを浮かべる。


「君はどうかな?」


 またもや、素早い動きで大きな拳が黒髪の少年に的中する。

 黒髪の少年は倒れそうになるものの頭から血を流しながら立ち続ける。


「まあ、さっきの奴よりは反応できてるけど……甘いね」


 白髪の男は余裕そうに腕を一回す。

 黒髪の少年は立つので精一杯で動くことができない。


(クソが動け! 動け!)


 黒髪の少年は何もできない自分の心に強く訴える。


(まずは一人目……)


 白髪の男は黒髪の少年に一気に近づき、拳を振るおうとする。

 その瞬間、右側から炎の拳が白髪の男の頬に直撃する。

 白髪の男は体制を整えて距離をおく。


「お前、何してんだ!」


 黒髪の少年は驚いた。瀕死状態であった少年が、目の前に立っているのだ。

 だが、少年もそれが限界のようだ。口から血を吐き、右腕で血を拭き取る。そして白髪の男を睨みつけて口を開ける。


「目の前の奴守れないで大切なものは守れねぇ!」


 その強い意志は白髪の男の心を掻き立てる。


「それなら、守ってみな!」


 白髪の男はその言葉を否定するかのように、大きな拳を少年達に振り下ろす。


「逃げろーー!」


 声と同時に地面が揺れる。

 その瞬間、白髪の男の拳と女の蹴りが衝突する。お互い、勢いで後方へと飛ばされる。

 長髪の女は少年たちを守るようにして前に立つ。


「遅くなった後輩。後は私に任せな」


「次から次へと、鬱陶しい」


 白髪の男は後からの登場に少し苛立つ。


「行くぞ!」


 女は白髪の男の方へ一歩、二歩、三歩とゆっくり足を進める。四歩目で女の姿勢が急に変わる。

 白髪の男は反応して防御体制に移ったが、女は左腕を振るって吹き飛ばす。

 女はまるで猫のように背高い木を身軽に使いこなして攻撃する。白髪の男は女のスピードについていけず、ただ攻撃を受け続ける。


「そんなもんか!」


 女は攻撃を緩めることはなく、全力で攻撃する。

 女は渾身の一蹴りで決めようとしたが、白髪の男はこれを待っていたかのように再び笑みを取り戻して、女の蹴りを受け止める。


「残念でした」


 白髪の男の背後から無数の手が女に伸びる。

 女は必死に抜けようとするが白髪の男は離さない。


「先輩ーー!」


 黒髪の少年の叫び姿を見て、白髪の男はまたもや笑みを浮かべる。

 だが、おかしいことに気づく。

 あいつがいないのだ。

 木々の間から差し込む月光が白髪の男の間合いを照らす。

 鷹のような鋭い目がこちらを睨んでいる。


「最大火力!」


 練り上げられた炎は青白く光り輝き、解き放たれる。

 目の前の視界が明るくなった時には、白髪の男の姿はなく、森の木々が道を作るかのようにして倒れていた。

 少年は全てを出し切り倒れる。


 吹き飛ばされた白髪の男は好奇心をより一層強くさせる。


「いいじゃん、まだまだ……」


 ヒュー。悪い知らせを告げるかのように冷たい風が白髪の男に吹き付ける。好奇心は冷めて、冷静になる。


「今回は流れが悪そうだ。まあ、いいもの見れたしいいっか。次は必ず殺す!」


 白髪の男は笑みと一緒に静かにその場を去る。


 白髪の男が消えた五分後、ある男が遅れて廃病院に訪れる。

 そして、ある男は戦場の跡を見て固まる。


「えーっと、これは一体どういうことかな?」

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