3 fall out
矢野修一が森山真由美と別れてから、数ヶ月が経っていた。
相変わらず、容姿だけは整っている矢野はテニスの試合で黄色い声援を浴びる。
人気のある矢野は女子生徒のファンクラブまで出来ているのだった。
「キャーーーー‼︎ 矢野くーーん!こっち向いてーー!」
「しゅうくーーん! 手を振ってーーー!」
矢野はヘラヘラと笑いながら、観客席を見回す。
なんともいい気分だ。
「へへっ! 人気者はつれえぜ! 今日も軽く捻ってやろうか」
そう言って、矢野は早速サーブをあげる。
……しかし
「フォルト!」
「ちっ! 入ってねえか? 下手くそ審判め」
今日はサーブの狙いが定まらない。
……いや、今日に限った話ではないのだが矢野はその原因に気づかない
「うおっ⁉︎」
今度は相手の素早いリターンが矢野の横を軽々と飛び越える。
「40-0!」
「くっそ! 今日は調子わりいな……」
ここ数ヶ月の矢野は全くもって精彩を欠いていた。
完全に試合のペースを相手に握られると、ファンクラブの間からもため息が漏れる。
負けるだけならまだいいが、苛立っている姿は何とも見苦しい。
「なんだか、今日の修くんカッコ悪いね……」
「しっ! 彼女さんが聞いてるよ」
観客席には心配そうな矢野の彼女たちの姿も見えた。
ファンの一部はそんな彼女たちの様子を見て嘲笑う者もいた。
「彼女さんって何人いるのかしら? クスクス……」
遂に矢野は一向に良いところを見せられず、ストレート負けを喫した。
矢野はさっさと着替えると、道端の自販機を蹴りあげる。
「クソ! この俺が二回戦負けだと⁉︎ ちっ! 運が悪かったな……」
それを見る複数の彼女たちも矢野を咎めようという様子はない。
「残念だったね、修くん。調子悪かったの?」
「……ああ こんなのは俺の実力じゃねえ! くそっ! 気晴らしに遊園地でもいくか!」
矢野は苛立ちながら、彼女たちの肩に腕を回した。
矢野は薄く嗤う。
今日の彼女たちはカネを持っている女なので、存分に気晴らしできる。
◇
矢野の不調はテニスだけではなかった。
担任教師が生徒たちを見回し、こほんと咳払いした。
「では期末試験を返却する。……赤点の者が多かったぞ」
小さく悲鳴が漏れる中、ヘラヘラと笑う矢野に隣の彼女が問いかけた。
「修くん、余裕だよね?」
「ああ当然だよ」
そうして返ってきた答案を見て矢野は真っ青になる。
どれもこれも悉く赤点だらけだった。
担任教師が矢野の肩を叩き、睨みつけた。
「矢野、後で職員室へ来い」
「ええ……?」
戸惑う矢野だったが、未だに己の不調の原因を理解出来ていない。
自分に甘く、自己管理出来ない彼を今まで上手くコントロールして支えていたのは森山真由美だったのだ。