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2/5

2 encounter

 蒸し暑い宵闇の疎らな人混みを抜け、私たちは暴漢たちから逃れると、ハンバーガーショップに入り、一息つく。

 ちゅうちゅうと美味しそうにコーラを飲み干す野球少年に私は改めてお礼を言う。


「さっきは助けてくれてありがとう。……でもいきなり女の子を背負うなんて強引じゃない?」


 悪びれたように頭を掻き、野球少年はポテトを口に入れた。


「ああ、ごめんな。でも他に方法が思い浮かばなかった。まあ、逃げられたんだからいいだろ」


 まだ、おぶわれた時の目の前の少年の体温が残っていて、私の心臓は密かに早鐘を打っていた。

 が、そんなことはおくびにも出さない。


「大雑把だなあ。でも、助けてくれたことだし、奢るよ」


「いやいや、いいよそんなの」


 そうして、窓から夏の宵闇を見つめながら、訥々とお互いのことについて話し始める。


「野球やってるの?」


「ああ。野球部。何で?」


「バッティングセンターですごい飛ばしてたから。フォームも綺麗だったし」


 照れたように少年はまた、頭をかいて微笑んだ。


「そうか、D高の野球部2年なんだ。今日負けたんだけど」


「そうなんだ。同い年だよ。負けたのは残念だったね」


 D高の野球部といえば、この辺の野球の中堅校だ。

 ここ数年は甲子園に出られていない。

 少年は試合を思い出すように天井を見つめると、欠伸と共に背伸びする。


「ベスト4まで行ったんだけどなー。俺が先発だったから負けは俺の責任だよ。先輩たちに申し訳なかったな」


 そうして、ふとお互いに名乗っていなかったことに気づく。


「私は森山真由美もりやままゆみ。K高2年テニス部。そういえばお互いに名前聞いてなかったね」


「そうだな。俺は瀬戸建太郎せとけんたろう。D高の2年エースだ」


 そうして暫く、他愛のない会話が続く。


「今日はあんなとこで、1人で何やってたんだ? 苛立ってたみたいだけど」


「……うん 彼氏と別れちゃって」


 そういえば修一と別れたんだっけ。

 もうどうでもいいけど。


「そっか、そりゃお気の毒にな」


 私は修一のことを話し始めた。

 今まで彼の為に裏方に回ってテニス部のサポートをしてきたこと。

 試験前になると、付きっきりで勉強の面倒を見てあげたこと。

 でも裏切られて浮気をされていたこと。


 瀬戸くんはじっと私の話を聞いていてくれた。


「と、いうわけで三股もかけられて、今まで気づかなかった哀れな女のお話でした」


「森山は悪くないだろ。お前は頑張ったのに。相手の野郎が酷いだけだよ。運が悪かったな」


 屈託のない様子で瀬戸くんはそう言って慰めてくれた。


「……ありがとう」

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