2 encounter
蒸し暑い宵闇の疎らな人混みを抜け、私たちは暴漢たちから逃れると、ハンバーガーショップに入り、一息つく。
ちゅうちゅうと美味しそうにコーラを飲み干す野球少年に私は改めてお礼を言う。
「さっきは助けてくれてありがとう。……でもいきなり女の子を背負うなんて強引じゃない?」
悪びれたように頭を掻き、野球少年はポテトを口に入れた。
「ああ、ごめんな。でも他に方法が思い浮かばなかった。まあ、逃げられたんだからいいだろ」
まだ、おぶわれた時の目の前の少年の体温が残っていて、私の心臓は密かに早鐘を打っていた。
が、そんなことはおくびにも出さない。
「大雑把だなあ。でも、助けてくれたことだし、奢るよ」
「いやいや、いいよそんなの」
そうして、窓から夏の宵闇を見つめながら、訥々とお互いのことについて話し始める。
「野球やってるの?」
「ああ。野球部。何で?」
「バッティングセンターですごい飛ばしてたから。フォームも綺麗だったし」
照れたように少年はまた、頭をかいて微笑んだ。
「そうか、D高の野球部2年なんだ。今日負けたんだけど」
「そうなんだ。同い年だよ。負けたのは残念だったね」
D高の野球部といえば、この辺の野球の中堅校だ。
ここ数年は甲子園に出られていない。
少年は試合を思い出すように天井を見つめると、欠伸と共に背伸びする。
「ベスト4まで行ったんだけどなー。俺が先発だったから負けは俺の責任だよ。先輩たちに申し訳なかったな」
そうして、ふとお互いに名乗っていなかったことに気づく。
「私は森山真由美。K高2年テニス部。そういえばお互いに名前聞いてなかったね」
「そうだな。俺は瀬戸建太郎。D高の2年エースだ」
そうして暫く、他愛のない会話が続く。
「今日はあんなとこで、1人で何やってたんだ? 苛立ってたみたいだけど」
「……うん 彼氏と別れちゃって」
そういえば修一と別れたんだっけ。
もうどうでもいいけど。
「そっか、そりゃお気の毒にな」
私は修一のことを話し始めた。
今まで彼の為に裏方に回ってテニス部のサポートをしてきたこと。
試験前になると、付きっきりで勉強の面倒を見てあげたこと。
でも裏切られて浮気をされていたこと。
瀬戸くんはじっと私の話を聞いていてくれた。
「と、いうわけで三股もかけられて、今まで気づかなかった哀れな女のお話でした」
「森山は悪くないだろ。お前は頑張ったのに。相手の野郎が酷いだけだよ。運が悪かったな」
屈託のない様子で瀬戸くんはそう言って慰めてくれた。
「……ありがとう」