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フードと煙草と錬金術師。  作者: 秋サメ
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未踏地。


 晩飯のことも気になるが、本題を忘れてはいけない。

 今日はリズのマップメイカーとしての初陣……というのもなくはないが、果たして地図に間違いはあるのか? という検証がメインのはずだ。


「……“空路限界”がここだ。つまり、そこまでは間違いがない。ゆえに怪しいと踏んでいるのはこのあたりだが……」


「その位置に因子が分布されているとしたら……計算は合う、と思う」


 という、リズとマックの出発前の協議により、目的地は第二広場の直前に設定された。


 ……とは言っても、そのあたりに地図の間違いが、ねえ……。

 中堅パーティがよく出入りする程度の場所だし、未記載の道があるとも思えないが……。


「よし、ここだ」


 かかった時間は二時間強。さすが、マックがいると速い。

 その間、二回の“導き手”の強襲を受けながらも、俺たちは目的の迷宮壁の前に立った。壁があるということは、もちろん地図では行き止まりになっている場所だ。


「ここに、道があるはずだ」


「ここぉ……?」


 普通に行き止まりじゃんね、と思っていると、


「というわけで、ここに爆弾がある」


 にゅ、とマックが懐から黒々とした危険物質を取り出し、俺とユイはぎゃっと飛び退いた。


「どういうわけで!? つか、それ、合ってんのか!? その取り扱いでいいのか!?」


「しっ、資格! 取り扱い資格的なやつ! ちゃんと持ってますか!?」


「ふたりとも、落ち着け。そう易々と爆発はしない。魔術的な鍵がかかっているし、昨日のうちに迷宮局の許可も取っている」


 マックはそう言いながら、迷宮壁の前に爆弾を置いた。

 ……まさか……。


「地図に載ってない道って……この壁の向こうってことか?」


「そうだ」


 面白い冗談を言うような奴ではないので、本気だというわけだ。


「地図を見てみろ。いかにもここに道がありそうだろう」


「根拠よわっ!!」


 ユイが仰天しているが、たしかさっき“空路限界”が云々とも言っていたはずだ。マックにはある程度の考えがあるんだろう。……あってほしいよ。元パーティメンバーとしては。


「では、実証開始だ」


 というわけでとにかく、爆破してみることになった。


***


「……やはり、そうか」


 白い探索衣の男が眼鏡を指で上げ、弓を携えた少女が信じられない様子で呟く。


「ほ、ホントにあった……」


 ――爆発のプロセスは大いにぐだったので省く。

 爆風を避けるために距離をとり、マックが“魔術鍵”を爆弾目がけて投げつけようとしたが届かず、ユイが射貫くことになったが十回以上失敗し、あまりのぐだぐだっぷりに、


「ジンに魔術鍵を括り付けて爆破させれば、いちおういける……」


 とかいう非人道的案が倫理観皆無フードから出されたが、結局ユイが奇跡を起こして無事爆発に至った。


 で、冒頭の台詞に戻る。

 地図に載らない道は、本当にあった。


 となると次は、


「で、誰が行く?」


 という話になる。

 未踏地を発見したなら、他のパーティの功績にされてしまう前に踏破するのが常例だ。

 ……しかし、危険度は高い。

 ここは慎重にメンバーを選定しておく必要があるが――。


「私はリズ君を推薦する。この道の発見はリズ君の疑問がなければ成らなかったものだ。したがって、彼女にはその権利があり、当然のことだと考える」


「うーん……」


 まあ……やっぱそうなるか。

 ある程度戦えるだけなら、地図製作の指導もできるマックが適任だが、治療ができたほうが更に安全だ。

 できるなら全員で行きたいところだが、待機組は外せない。もし進んだ先が袋小路になっていて、かつ後方から“導き手”が現れた場合、パーティは全滅する可能性が高いからだ。それに、人払いという意味でも、入り口は塞いでおく必要がある。


 とは分かっていても、不安なんだよな……。

 出会ったときの印象が悪すぎて、なにか起こる気がしてならない。

 ただ、うずうずしてるっぽいリズをこれ以上待たせるほうが危険な気がしてきたので、俺は諦めて壁の向こうに足を踏み入れた。

 

***


 半ば決死隊のような気持ちでいたが、道中は大きなトラブルもなく、また迷宮壁に囲まれた狭い道であったため、特記すべきことはなーんも起きなかったが、とにかく時間はかかった。

 測量しなければならない上に、リズにとって初めての作業だ。仕方がない。

 が、退屈だったかと問われればそんなことはない。リズは見ていて飽きなかった。動きからなんとなく、わくわくしているのが伝わってきたし。


 マックも、かつてその気持ちを味わったのだろう。だからこそ、未踏探索にリズを推したんだろうな、と思った。マジでそういうとこあるんだよ、あいつ。税以外のことはまっとうなんだ。

 

 二時間かけて、すべての分岐を総当たりし、やがてどれも行き止まりに当たった。リズの書き込みを見せてもらうと、第三広場にほど近い場所まで来ていたようだ。


「ここが使えるようになったら楽だろうなあ」


 通常ルートの曲がりくねった道を思うとため息が出る。しかも大した素材もないし。なんなんあのしょーもない道。


「……この道は、使えないの?」


「迷宮は、人の手を加えても元の形に戻るんだよ」


 それができれば、迷宮内に店を作ったりとかできるんだろうけど。

 入り口に開けた穴も、二日ほどで元に戻ってしまうだろう。


「…………」


 リズはなにか考えている。

 なにを考えているのかは分からない。

 でも、相変わらず、ってわけじゃない。リズと過ごすうちに俺が分かるようになったのもあるし、彼女自身も変わってきている。

 たぶん、リズは考えているはずだ。この発見を活かす方法を。


「ふう……」


 俺は彼女と同じように座り込んで、なんとなく空を見上げた。

 いつも通り、迷宮の空は曇りだ。この狭い通路は尚のこと暗く、とても快適とは言えない。

 けれど。

 ここは、リズが初めて見つけた場所だ。


 今は、噛み締めさせよう。

 ここで、リズの気が済むまで……。


「…………」


「…………」

 

 ……って思いはしたけど、さすがに一時間近くかかるとは思わなかったなあ! リズの気が済むまでに! 噛み締めすぎてもう味しねえだろ!

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