表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フードと煙草と錬金術師。  作者: 秋サメ
14/51

探索に行こう!


「よーし! ユイいいよー! 最高の弓さばきだよー! ナイッショ!!」


「うざいっっ」


 上記は翌日、迷宮で露骨にヨイショする俺がユイに怒られている図である。


 言葉とは裏腹に、一晩おいたことで彼女の態度も軟化したように見える。

 まあ、そこまで引き摺るような話題でもないということかもしれない。

 俺にはともかく、リズに対して含むところはなさそうで、積極的に話しかけたり、先輩としてアドバイスしたりしている。ぶっちゃけ、俺のやることがあまりなくて助かったっていうのが本音だ。


「……こんな迷宮因子の薄いものが、売れるの?」


「迷宮因子……? まあもちろん、高くはないけどね。あと、上の方は棘があるから気をつけて」


「うん。もう刺さってる」


「リズちゃん!?」


 リズもユイに固くなることもなく、割と普通に接している。

 ……意外だ。ユイの子どもっぽい顔つきのせいか? まあ、どっちも子どもっぽいけど……。


「ジン。怪我した」


 トコトコとリズがやってくる。差し出された手を取って診てみるが、迷宮サボテンの棘が手のひらに数本刺さっているだけで大事はない。


「……ん、これでよし」


「…………」


「それは……どういう顔なんだ?」


「…………」


 なんとなく不満げだ……。


 そのままユイの元に戻っていく後ろ姿を見て、ああ、もしかして俺の力が見たかったのかと気づく。


「うーん」


 自覚はなかったが、俺は人の気持ちやそれがもたらす結果について、あまり察することができない質なのかもしれない。昨日ユイを傷つけた(?)のだってそうだ。


 これからはよく考えないとな……。パーティ組んでるし、特にリズはな……。


 そう決意しながらリズの寂しげな背を見送る。

 ……にわかに、俺の思考能力は圧倒的飛躍を見せた!

 

リズ(こいつ、ちょっとの怪我では能力を使ってくれないなあ)

リズ(だったら、大けがしちゃおう!)


「ぎゃあ!!」


 あまりに恐ろしいシミュレーション結果に俺は悲鳴をあげた。

 なにが恐ろしいって、これがあり得ないことだと思えないところだ。


「リズ待て! おまえ……もしかして大けがしようとしてないか!?」


「……?」


 きょとん、とリズは俺の顔を見上げて、「なに言ってるの?」みたいな顔をしたまま、


「機会があれば」


 言いやがった!


「求めるな! そんな機会を!」


「でも、ジンなら治してくれるから」


 いやまあね、そうだけれどもね?


 探索において信頼は大事だが、それとこれとは話が違う。

 第一、俺の能力は、そんなほいほい進んでやりたいようなものじゃ……。


 と、そこではたと気づいた。


 もしかしてリズは「傷が治る」って結果は知ってるけど、どうやるのかまでは知らないのか? 

 あのとき、意識朦朧としてたわけだし。


「仕方がないな……」


 周囲の警戒はユイに任せて、俺は腕をまくる。と同時に、リズの腕も捲らせる。手のひらの傷と、どこかに引っかけたのか、白い腕に擦過傷ができている。

 リズと俺の前に、それぞれの腕が並ぶ。輝くような目線が注がれているのを意識しながら、


「——“楓咲き”」


 深呼吸して、俺はその言葉を口にした。

 ……瞬間、頭の中に、とある情景が浮かぶ。

 

 紅く色づく木々。

 空はいつもより高く、空気は澄んでいる。

 無数の紅葉に埋め尽くされ、舗装された石畳を俺は歩いている……。

 すべて遠く、二度と見ることはなく、感じることもないであろう景色。

 俺は思い出す。

 故郷を、郷愁を、人を——“メイ”を……。


「——いてえ」


「え……?」


 現実に引き戻された。


 口を衝く言葉よりも遅れて、異変が現れる。リズが息をのむのがわかった。


「傷が……移動した?」


 思わずといった感じで呟かれた感想が、起きた現象を如実に表している。

 そこに、超再生、という単語も加わるとより正解に近づくだろう。

 俺の腕の方に現れた傷はみるみるうちに塞がり、数秒ほどで消えたからだ。


「まあ、こんな感じよ」俺は捲った袖を戻し、「痛いから軽い怪我はそっちでなんとかしてくれ」


「うん。出し惜しみしてるわけじゃなかったのが分かった」


「あ、普通にケチだと思われてたんだ……」


「それ、どうやってるの?」


 そうだよな。気になるところだよな。


「魔法?」


「違う……とは思う」


 たぶん。

 本当に俺もよく知らないんだよな。


「もともと、俺の能力じゃないんだ。受け継いだっていうか……」


 あとはうまく言葉にできない。この場で説明するには、あまりにいろいろなことがあったから。

 肩を竦めると、リズは「そう」と呟いてふらふらと歩き出した。考え込んでるかんじ。


「考えて分かるものかね……」


 我ながら、柄にもなく感傷的な気分になっているのを吹き飛ばすように、無理に苦笑してみる。


 ぜんぶ、もう過ぎ去ったことだ。

 あの景色はもうない。メイももういない。


 ——霧が立ちこめる迷宮で、俺はしばらく立ち尽くす。

 思い出さないようにしていた感情を、今は咀嚼して飲み込みたい。


 ……だから、もうちょっと経ってからでもいいよな。

 盛大にすっころんでるリズを、助け起こしに行くのは……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ