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「うぅ……ありゃ?」


 気づけば俺は草の上で寝ていた。


 輝く太陽に白い雲。

 周囲一体草原地帯のようで、低い草木が静かに風に揺れていた。


 うーん、自然あふれる悪くない風景。

 いや、そうじゃない、意味が分からないぞ。

 俺は一体どこで何を……勝手に徘徊するような病にでもなっちゃったのか?


「やばい……どうしたらいいんだ……うん?」


 途方にくれていたところで、ふと足元を見てみる。

 そこにはナップサックのようなものがあった。茶色い簡素な造りのものだ。

 なんだこれ。


 他人のものだろうしあまり良くないのかもしれないが、拾って中を覗いてみた。

 中には一枚の紙といくつかのおもちゃがあった。

 パンチンググローブやら羽の付いた明らかに女の子用のスニーカーやらどっさり入っている。


 ひとまず一番上に置いてあった手紙を開けて、読んでみた。





 悠生くんへ




 ようこそフェルフスへ。

 いきなり未知の場所におって驚いたか? まさか天でのできごとを忘れておるわけではないと思うが、少し伝え忘れておったことがあったと思うてのう。


 お主はキャンペーンで異世界に転生したわけじゃが、そのままのあほのように脆弱な体じゃと何をしようにも瞬殺されて終わりじゃ。世界は暴力と理不尽に満ち溢れておるからの。

 そこで、お主には『九つの神器』が支給されるようになっておる。

 どれも神使用の超強力な代物じゃが、使用例はお主が初めてじゃ。


 まぁ実を言うとお主を此度転生させたのはそれら神器の試験運用という意味合いが強いのじゃがな。主を救ううんぬんの文句はあってないようなもの……おっとおしゃべりが過ぎたかの。まぁ書き直すのも面倒じゃからなんじゃっていいか、もうお主と会うことはないじゃろうからの。じゃがまぁその代わり通常なら一転生者につき一つずつ導入予定の神器を一気に九つ与えておるから、そう気を悪くせんでくれ。


 ということでささやかながらお主の武運を祈っておるぞい。

 案外すぐにくたばったりしてな、ほほほ。



 神より







「…………」



 すぐには言葉が出てこなかった。

 まぁ一つ言えることといえばこうなるに至るくだりを完璧に思い出したということだ。


 俺は自宅に隕石が降ってきて死に、神様の計らいで異世界に転生することとなったのだ。

 でもなんだこの釈然としなさは。

 流石に雑すぎる気がするんだがいろいろと。文面を見る限り俺が被検体のようなことが書かれている。流石にジョークだよな? 神様が人間に向かってそんなことするわけないもんな。……今思えば俺んちに隕石が降ってきたというのもなんか怪しい気がしてこなくもないが……


「いや、考えても仕方ない」


 そうだ、終わったことはもういいじゃないか。

 とにかく俺はこの世界で生きていかなければならない。

 知識や常識などなんにもない状態だが、頑張って生き抜いていく必要があるのだ。


「よし、切り替えていこう。でも俺戦闘力ゼロなんだけど大丈夫なのかな、絶対大丈夫じゃない。でもなんかアイテムをくれるみたいなこと言ってたな……」


 もう一度紙を見てみると、『九つの神器』なるものを与えると書かれてある。


「たぶんこれのことだよな?」


 俺はナップサックの中身を物色してみる。

 最初は子供のおもちゃか何かと思っていたが、どうやら違うということらしい。


「神器って……そんな凄そうには見えないけど……」


 確かにいろいろ入ってはいるが、なんの力も感じないし、もしかしておちょくられているのではないかとすら勘ぐってしまう。


 とりあえず適当にボクシンググローブを手にはめてみた。

 赤くて柔らかい素材の何とも言えない代物だ。


「なんだよこれダサすぎだろ!」


 格闘技の心得の一つ無い俺はさぞ不格好に映っているだろう。

 そうして当然のようになんの力も感じない。やはり俺は終わりだったんだ。


「なにしてんのー?」


 俺がうなだれていると、突如背後から声がかかった。

 うつろな目で見上げてみる。

 そこには小柄な少女が立っていた。


「え……女?」


「なにその反応。別に街の近くなんだし人がいたっておかしくないでしょ」


 少女はさっぱりした感じで話かけてくる。

 なんだ、妙に慣れなれしいというか、いや、そんなことより誰なんだこの子……藍色のショートカットが似合ってて小悪魔系の雰囲気を漂わせてるけど……あれ、よく見たら結構美人なのか?


「はぁ、悪い、でも俺のことはほっといてくれ……もう自分でもどうすればいいのか分からなくなってるんだ」


「なにそれ、すごいネガティブシンキングだね。何があったのか相談くらいはのるよ? なに、よくあるやつだと恋人に振られたとか?」


「いや、彼女なんて生まれてこの方できたことはない」


「ああ、まぁ確かにそんな感じだね。ごめんごめん」


「……励まそうとしてたんじゃないのか」


 あんまりなディスりにちょっとだけ我に返ってきた。

 この子が何者なのかはよく分からないが、とりあえずいつまでもこんなところにいるわけにもいかない。なんか街があるとか言ってたよな。これも何かの縁ということでちょっと頼んでみよう。


「すまないが、俺は今思いっきり迷子なんだ。できれば近くの街まで連れていってくれないか? これも何かの運命だと思うし」


「なに? 私のこと口説いてるの?」


「いや、それはない。本当に街に行きたいだけなんだ」


「早いよ、せめてもっと溜めるとかあるんじゃないかな」


 そう言いつつも少女はふぅ、と小さくため息を付くと、呆れ顔で見てきた。


「まぁ仕方ない。ここで断っても私の沽券に関わる気がするし、まぁいいよ。連れてってあげる」


 ということで俺は謎の少女に街まで案内してもらうことになった。

 やったー、ひとまず成功だ。でもこの子誰なんだ?

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