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「ああ、退屈だなー」
俺は思わず自室で一人ごちる。
現在高校二年の夏休み。
本来であればイベント満載の日々を満喫したり、将来のため受験勉強に勤しんだりとそれなりに密のある日々を送るのだろうが、俺はといえばとにかく暇だった。
というのも俺には人生の目標というものがないのだ。
別に将来なりたい職業があるわけでもなければ、具体的なプランなんかも微塵もない。
近い将来なんとなく働いてお金を稼ぎながら生きて行くのだろう程度の希薄なものだ。
そんなことであるゆえ、やる気なんて当然湧いてくるわけもなく、ただ時間が過ぎていくだけのどこか物悲しい日々が続いていた。
「あぁ、いつからこんなことなっちゃったんだろうな」
人生なんてこんなものなのかもしれない。
しかしそれでも、心のどこかでは何か心刺激のある日々を待ち望んでいる自分もいたりいなかったり。
「まぁ、いいや。本でもよもーっと」
そうして俺はベッドの上で読みかけの小説を手に取り、栞の挟まっていたページを捲る。
結局これが一番落ち着く。
別の世界のことを考えている時間が一番今を忘れられるのだ。
「ん……?」
そしてそんなこんなで時間が経ち、ふと顔を上げた時だった。
窓の外がやけに輝かしい気がした。
「え、なんだ?」
どがあああああん!!
その言葉を最後に俺の意識は闇へと沈んだ。
「目が覚めたかの」
気づけばそんな声を掛けられていた。
はっとなり目の前を見てみる。
そこには白い髪に白い髭を生やした老人がいた。
周囲を見てみれば、何やら不思議な感じの白い空間だ。
「え……」
なんだここは?
こんな訳の分からない場所きた覚えがない。
なんだ、もしかして拉致られた?
となると犯人は目の前の老人?
「お、俺をどうするつもりですか? 痛いのだけは勘弁してください!」
「なにを怯えてるのか分からんが、痛いことなど何もないから安心してよいぞ」
「えっと、僕はなぜこんなところに……」
「ふむ、まぁ聞いて驚くかもしれんがな、実はお主は死んだのじゃ」
俺が……死んだ?
「最後を覚えておらんか? 空から降ってきた小型の隕石がお主の家を直撃したのじゃが」
「隕石……?」
何をバカなと思うが、思い返してみれば、俺が自室でゴロゴロしていたとき、窓の外がやけに明るく感じた気がした。まさかと思うがあれがそうだったというのか。
「にわかには信じられませんが……」
「まぁ信じんでも貰わんでもいいが、その場合話が進まんということになるの」」
「僕以外に死んだ人は?」
「おらんぞ、家自体は崩壊したが、お主しかおらんかってだろう? 怪我人等もお主以外にはなしじゃ、なんじゃ、聞く気になってきておるのか」
だったらまだ良かったのか……いや、俺が死ぬというのはまったくいい話ではないが。まぁそれもこれも本当であればの話だが。
「ちなみに儂は神で、本来天国送りにされることになっていたお主の魂をこうして引き寄せたのは他でもない儂じゃ」
「え、神……さま?」
「そうじゃよ。まぁ実は神々の間での取り組みで、あまりに不幸なものは救おうキャンペーンというのをやっておっての、お主はそれに見事引っかかったのじゃ。隕石が超まぐれのピンポイントでお主の住まいに直撃したというのが評価されたのじゃ。運の悪さ的には相当のものじゃからな」
「はぁ……」
何が何やらついていけないが、どうやら夢でもなさそうだし、とりあえず嫌でも本当と仮定して進めていくしかないのかもしれない。それでもやっぱり混乱しそうになるが。
「どうじゃ、話してるうちに落ち着いてきたか?」
「じゃあ僕は一体どうなっちゃうんですか?」
「ふむ、今回お主には特別処置として地球とは違う異世界に転生する権利を与えようかと思うておる」
「異世界……?」
「うむ、フェルフスという世界になるのじゃがな、まぁ平たくいえば剣と魔法の支配する一風変わった世界じゃ。お主の世界ではファンタジーとでもいうのかの。文明レベルは地球よりは大分落ちるが、それでも人が暮らしていくに十分な機構は整っておる」
剣と魔法の世界だと? まぁ聞いたことはある。というか俺がよく読んでたりする本にもそういった世界観の話はよく出てくる。こんな世界で遊べれば楽しいのかなぁ、とかなんとなく思っていたものだが、まさかそれがこうして話に出てくることになろうとは。
「その世界に転生させていただける、ってことですか?」
「うむ、じゃがあくまでも権利というだけじゃからの、断るということも勿論可能じゃ。その場合は元々辿るはずだったルートに戻して普通通り天国へ行って貰うことになるがな」
なんだそれは、結局俺は隕石が当たって死ぬような超ついてない死に方をしたのだが、それと引き換えに剣と魔法の異世界に転生する権利を得たと……そういうことだよな。なんという波乱万丈の人生……我ながらびっくりだわ。
「で、どうじゃ、転生するのかせんのか選ぶとよい。まぁ考える時間はあるにはあるが、そうは儂も待っておれんからな」
そう言われ俺は考える。
確かにいきなりで驚きはした。
神様やら異世界やら言われても素直にはいそうですかと言えるような心境でもない。
しかし、もしそれらがすべて本当で、本当にこんな選択の機会が訪れているというのなら……悪くはないのかもしれない。いや、むしろこれはチャンスだ、今までのしみったれた人生をリセットして、新たな自分として歩めるいい機会なのではないだろうか。
死んだことは勿論ショックだが、こうでも思わないと今後やっていける気がしない。そうだ、テンションはあげるにこしたことはないのだ。
「ぜひ、転生させてください」
「ふむ、答えは決まったようじゃな。良かろう、それではお主を異世界に転生させることに決定した」
そうして俺は異世界に転生することになったのだった。
正直不安しかないが、考えたって分かるようなことでもない、まぁなるようになるだろ、今はそう思うことにしよう。異世界では何かいいことあるといいな。