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5通目 「私の愛は永遠でした、ざまぁみろ!」

 私の幼馴染アルフォンス・ヴァン・ブラックは『超』が付く捻くれ者である。


 私の生まれ育ったホワイト伯爵邸の隣にアルの生まれたブラック伯爵家があり、同じ通りに門が並んでいるのでアルとは頻繁に顔を合わせる。

 まあ庶民の様に『徒歩でお出かけ』なんてないので、すれ違う馬車の窓から「よっ。」って手をあげる程度の軽い挨拶だけで終わるのだけど。


「ミリィ、よく来たね。」


 いまも私を『ミリィ』と幼少期の愛称で呼び続けているアルの御父上であるブラック伯爵は私にとって親戚よりも親戚っぽい存在。


 200年近く邸が隣り合っているからお父様同士も、お爺様同士も、曽お爺様同士も幼馴染というふたつの家。

 血脈を重要視する貴族にはあるまじき認識だけど庶民の『遠くの親戚より近くの他人』って言葉を実感してしまう環境で私は生まれ育った。


「小父様、お招きありがとうございます。お元気そうで何よりですわ。」

「ありがとう、ミリィはとても綺麗になったね。月日が経つのは早い、今夜は楽しんでいっておくれ。ほら、次はあっち。私に挨拶してくれたように可愛らしく挨拶してきておくれ。」


 小父様のいう『あっち』とは勿論アルフォンスのことで、逃げようとしていた私を小父様が苦笑して引き留める。


「喧嘩でもしているのかい?」

「していませんわ。でも小父様、“あんなところ”に女性の幼馴染が挨拶に行けると本気で思っていらっしゃるの?『よっ』って一言声をかけるだけでも敵視されて穴だらけになりそうですわ。」


 私の言う“あんなところ”では御令嬢たちにアルフォンスが囲まれている。

 困っていれば多少はおもしろかったのに、アルときたら「私の方がアル様と親密ですわ。」とけん制し合う御令嬢たちを、ワイン片手に良い笑顔で観察中…本当に捻くれた男だ。


「ご令嬢の挨拶が「よっ。」というのには言いたいことがあるけれど…。とりあえず、よく見てごらん?あいつの周りにいるのは子爵令嬢と男爵令嬢だけだから、伯爵家令嬢の君なら大丈夫。怖くない、怖くない。」

「…そういう問題ではありませんわ。」


 問題はご令嬢たちではなくアルなのに…仕方がないわね。

 なんて言ったって今日はアルの誕生日祝いの会、つまり主役であるアルに「お誕生日おめでとうございます。」と言うまでが御挨拶。


「仕方がないので行ってまいります。」

「そんな嫌な顔をしないでおくれ…私たちは君とアルの結婚を楽しみにしているんだけどな。」


 心底残念そうな小父様に苦笑するしかない。

 だって、


「それは諦めて下さいませ。私は10歳のときにアルに振られ、婚約解消もしていますのよ?私たちは『婚約者だった幼馴染』という関係です。」



 200年近く仲の良い御近所さんをやっている私とアルの家。

 同格の伯爵同士であっても未だ『親戚』ではないのは、この200年近く生まれた子どもがどちらも男の子ばかりだったから。


 私は192だか、189年ぶりに産まれた待望の直系の女の子。

 私の誕生に私のお父様、アルのお父様、私のお爺様、アルのお爺様、私の叔父様2人、アルの叔父様3人、大叔父様が…と、とにかく存命中の男ばかりの親族が雄たけびを上げて喜んだらしい。


 そして祝い酒に酔っぱらった男たちの手によって生後1週間の私と当時5歳だったアルの婚約が決まった。

 ちなみにそのときアルは私の母に初恋中だったらしく、里帰りから戻った初恋の君()との再会に喜ぶ間もなく別の女()を、しかも母本人から「アルが私の息子になるなんて嬉しいわ♡」と奨められてしばらくふさぎ込んでいたらしい。


 私としては「失礼な。」と怒るよりも大笑いしてしまう話。



「婚約者だった幼馴染、か。それもまた不思議な関係だね。」

「仕方がありませんわ。だって私たちは親戚よりも近くにい過ぎて、私の記憶では振られた3日後の大叔父様の誕生日会で普通にアルにエスコートされていましたわ。」


「そんなに仲が良いのに何でアイツは婚約破棄したのかな。他に好きな子がいるわけではないって報告も受けたんだが…やっぱりアイツの母親が原因かな。」



 アルのお母様、元ブラック伯爵夫人はアルが13歳の時に離縁して邸を出て行った。

 ブラック伯爵夫妻は仲が良く、息子のアルだけでなく隣家の私も“私の子どもたち”と言って大事にしてくれる優しい女性だったから、突然の離縁は青天の霹靂過ぎて驚いた。


 離縁が成立した当日に、振り返りもせずに彼女が邸を出て行ったと聞いた私が、「今はそっとしておきましょう。」という父と母に強請ってアルのところに連れて行ってもらった。

 小父様にアルは部屋にいると言われて、勝手知ったるブラック邸なので一人で私はアルの部屋に向かった。


 しかし部屋に行ってもアルはおらず、それどころか強盗が入ったような部屋のあり様に驚いていると庭で大きな火柱が上がった。

 仰天してベランダに出て下の庭を見れば火柱の前にアルが立っていて、すでに消し炭となりつつある火の中のものはアルの母親にまつわる色々な物だと分かった。


 その日からアルは変わり「ミリィはまだ初等部だろ?」と言って中等部の友だちと過ごしてばかり、私と一緒に庭で遊びまわることも、私と一緒に図書室で本を読むこともなくなった。


 残念ながらここで「アルが遊んでくれない。」「アルが他の子とばかり遊んでつまらない。」と泣くタイプの女の子だったが状況は変わったであろうが、ミリィ本人にも友人がいたしオシャレに興味がある年頃だったので女の子との会話が楽しく「別にアルが遊んでくれなくても良いや。」と割り切った。


 そしてアルが18歳で成人を迎えると「もっと他の女の子と遊びたい。」と言って私との婚約解消。

 これに対して一番怒る権利があった私の父と母が「解るなぁ。」「また200年頑張れば良いですよね。」と受け入れたので双方の家族および親族一同は何も言わずにアルの婚約破棄を受け入れた。

 まあ、小父様とかは未だ諦めず私たちがいずれ結婚することを望んでいるようだけど。


 でもアルは結婚しない、私に限らず誰とでも。


 これは私の希望でもなんでもなく、永遠の愛を誓った父を捨てて他の男の元に走った母親のせいで結婚式の誓い『永遠の愛』を忌み嫌っている。

 永遠の愛を誓えないから結婚しない、ある意味誠実でバカが付くほど正直だなって思ってしまう。


「ミリィ。」


 私に気づいたアルはいつも通り私の名前を呼ぶ。

 周囲の御令嬢たちは親し気に愛称を呼ばれた私を睨むけれどそれだけ、アルは彼女たちに私は大事な幼馴染だと明言しているし、うちとブラック家の200年近いつながりを知らない貴族などいない。


 私に危害を加えようとすればアルに愛想をつかされるに済まされず、うちとブラック家の2つの伯爵家からの報復もあるのだ。

 つまり私は何があろうと安全、彼女たちは「早く挨拶を終えてどっかに行って。」と心の中で悪態をつくしかできない。


「アル、お誕生日おめでとう。お祝いは家の方に渡しておいたから。」

「ああ、ありがとう。」


 去年の誕生日と同じように「それじゃあ。」と言って彼らから距離をとろうと思ったけれど、今回は違った。

 アルに腕をつかまれ「少し話がある。」と有無を言わさず近くの窓からベランダに連れ出された。


「寒っ…ちょっと、アルは男性だから上着があるけれど女性の夜会ドレスは肩や胸元やらが露出していて寒いのよ!話なら早くしてちょうだい、早く中に戻りたい。」

「知り合いの神官がお前を神殿で見かけたと言っていた。お前、結婚するのか?」


 魔力量が多く炎の魔法が上手いアルは学院卒業後に王城の魔法師団に所属し、2年前に第3魔法師の団長に任命されている。

 近いうちに第2魔法師団の師団長になるらしく、母が「アルはすごいわねぇ♡逃がした魚は大きいというけれどアルの場合は逃げたとも言えるし…どう表現したらいいかしら。」と言っていた。

 

 しかし、


「あなた方、それはプライバシーの侵害よ。」

「結婚するのか?」


 高位貴族の家ならお抱えの専属医師がいるのが普通で、当然我が家にも私が幼い頃から慣れ親しんでいるおばあちゃん先生がいる。

 そんな貴族が神殿に行くのは①お祈りのため、②結婚のための健康診断書の作成、大体この2つしかないため私の行動を良く知っているアルだから②を選択したのだろう。


「別に不思議じゃないでしょ?私だってもう20歳、結婚していてもおかしくない年齢はとうに過ぎて『結婚しなくて大丈夫?』って年齢になったのよ?」

「俺は25だぞ?」


「残念ながら男性と女性は違うの。私とアルは違うわ、私は―――永遠の愛を証明してみる気になったの。」



 ***



「で、お前はミリディアナ伯爵令嬢に何も言えず、こーんなところまで逃げてきたってわけか。」


「逃げたわけじゃない。国境沿いの森で魔物の大量発生が確認できたって聞いたからうちの師団が派遣されたんだ。」

「それ、師団長のお前が討伐隊長に立候補したからだからな。本当なら新任の第5騎士団長を討伐隊長に任命する予定だったらしいぞ。」


 回復要員として連れてきた、普段は神殿で神官をしている友人(ロアン)の愚痴を右から左へと聞き流しながら、ここに来るきっかけとなったミリィとの会話を思い出す。


 俺の幼馴染ミリディアナ・コナー・ホワイトは一風変わった御令嬢である。


 ホワイト家に約200年ぶりに生まれた女児ということでホワイト家一同およびうちの親類縁者がこぞって甘やかしたにもかかわらず、芯がしっかりした人間に育った。

 あれについてはホワイト伯爵夫人とその他大勢の女性陣が暴走する男共を可能な限り抑え続け、ミリィにしっかりと教育を施した末の奇跡だと俺は思っている。



「お前もさぁ、元婚約者だといっても可愛い幼馴染の結婚を祝福くらいしてやれよ。」

「祝福は…………している。」


「嘘つけ。ここら一帯はお前の八つ当たりを受けて真っ黒こげになった魔物だらけだぞ。何が気に食わないんだよ。俺だってミリディアナ嬢との付き合いは2、3年くらいだけどあの子がすっごくいい子なのは分かるぞ?美人で優しいし、他の御令嬢たちと違って人の悪口とか言わないし、いつもニコニコ笑顔で癒されるし…あんな子と結婚出来る奴が羨ましい。」


 ロアン…お前、既婚者だろうが。


「…おい、怒気と殺気と魔力が漏れてるぞ。抑えなさい、新たな魔物の軍団が来ちゃったら明日の帰還予定が延期されるぞ。」

「…帰りたくない。」


 ここに連れて来るときから「早く愛妻のいるスイートホームに帰りたい。」と言っているロアンには悪いが、俺はいま心底帰りたくない。

 王都に居たくない。


「まあ、魔物討伐みたいな大義名分がなきゃ、ホワイト伯爵家からの婚約式の招待をブラック伯爵家嫡男のお前が断れるわけがないもんなあ。」


「何で突然結婚なんて……結婚、結婚……なあ、結婚したらミリィと会うのはまずいか?」

「お前とミリディアナ嬢の距離感と彼女の夫の度量次第じゃないか?俺だったらお前みたいなの(元婚約者の幼馴染)が傍にいるのは嫌だな。25歳の働き盛りの高給取り、容姿も良くって伯爵家の嫡男って…お前、小説の登場人物か?」


「でもうちの場合は特殊だろ?うちとホワイト家(ミリィの家)の仲の良さを知らない貴族がいるとは思えない。」

「そうかもしれないけど…お前、(他の男)にエスコートされるミリディアナ嬢をずっと見続けるってことになるんだぞ?良いのか?」


 …嫌だ。


「そんな顔をするならお前が結婚すればいいじゃん。分かってるだろ?ミリディアナ嬢がお前を好きだって、幼馴染としてじゃなくて、男として。お前が『結婚しよう。』と言えば最短で彼女はお前の花嫁だ。」


 分かってる。


 俺だって別に鈍くはないし、彼女の目にいつの間にか浮かんでいた俺を男として見て、好意を寄せる思慕の目にだって気付いている。

 まあここ数年は完全に兄貴、それも残念な兄を見る目になってはいるが…ほんの少しだけ好意が未だ残っている……はずだ。


 豊富な肩書をもつ俺にまとわりつく御令嬢たちは時折ミリィのことを『未練がましくブラック伯爵夫人の座を狙っている。』と言って嗤うが、彼女は自分の人生に別にそんなのを求めていない。


 仮にだがミリィが権力を欲するならば俺なんて頼らず、俺の親父、ミリィの親父、俺の爺さん、ミリィの爺さん、俺の叔父3人、ミリィの叔父2人、大叔父たち、とにかく2つの一族に甘えればあっという間。

 ミリィに対してはポンコツだが皆そろって優秀な実力者、現在進行形で優秀な武官や文官を輩出しているブラック家とホワイト家が野心を持てば国を取れるとまで言われている。


 そう、ミリィが俺と結婚したいと一言いえば、明日にだって俺は祭壇に引き摺って連れていかれ、瞬時に俺はあいつの婚約者にでも花婿にでもなるだろう。


 でもミリィは絶対に言わない。

 俺が『永遠の愛』、つまり死ぬまで続く愛情なんてありえないと思っていることを知っているから。


 俺にはあの母親の血が流れている。

 大勢に祝福された結婚式で、親父に『永遠の愛』を誓ったくせに、生まれた我が子()に「愛しているわ。」と10年以上言い続けたくせに、


― 私が愛したのはあの方だけ、あの方に永遠の愛を誓ったの! ―


 永遠の愛はいくつあるのか。


― 我が子だから愛せると思ったのに!違う、違う!あんたはあの方との子どもじゃない!あの方への愛を裏切った証拠の子など愛せるわけがない! ― 


 じゃあ何で“愛している”なんて言ったんだ。


 所詮「愛している。」なんてその場しのぎの言葉、『永遠の愛』なんて結婚式で耳触りの良い定型句でしかないんだ。



―――永遠の愛を証明してみる気になったの。―――


 そう言って笑った彼女は、月の光に照らされてとても美しかった。


 0歳の赤子、ベビーベッドで寝ていた姿さえも思い浮かぶほどずっとそばにいたのに、そう言って空を見るミリィは初めて会う女のようだった。


―――私とアルは違うわ。―――


 人生100年、25歳の俺はまだその4分の1、20歳のミリィはまだその5分の1。

 残りの方が圧倒的に長い時間、ミリィはその愛を貫くと決めたらしい。


 彼女の愛する男はどんな男なのだろうか。

 あの蕩けそうな甘い瞳でその男を見るのだろうか。


 あの大きな瞳に俺以外の男が映る。

 この先80年、ずっとずっと……永遠に?



「ブラック師団長、失礼いたします。」

「入れ…伝令官、どうした?王都から急用か?」


「いえ、閣下宛ての私信です。軍事上の機密もありますのでこちらで閲覧させていただきました。事後で申し訳ありませんが、ご了承ください。」

「ああ、ありがとう。」


 渡された手紙は少し端がくしゃりと折れていて、他の隊員たちへの手紙と同じように届いたものだと分かったが、条件付き消印に思わず首を傾げる。


 条件付き消印とは一種の魔法で、送り主が指定した条件が満たされると発送される仕組みになっていて、どんな仕組みか分からないがそのとき送り先がどこにいても絶対に届くようになっている。


「条件付き消印の手紙…かあ。ううう、黒歴史を思い出した。」

「結婚式の修羅場な。」


 ロアンは10代半ばに初めて恋人ができ、「俺が結婚する前日に彼女に届く様に。」という条件付きで、「君を一生幸せにする。」とかいった内容の手紙を書いたらしい。

 『俺“達”』にしないで『俺が』としてしまったこと、その彼女と別れて月日が経っていた(すっかり忘れていた)ことが災いして、ロアンの結婚式の日の前日に元恋人にラブレターが届いてしまった。


 20代の若さで枢機卿に選ばれていたためロアンは有名人だったため結婚式の日時と場所は周知されており、ロアンからのラブレターを受け取った元恋人は「ロアン、私も愛しているわ♡」と叫んで教会に飛び込んできて、まさに誓いのキス直前だった花嫁(いまの奥さん)はブチ切れたのだった。


「ていうか、この封蝋じゃホワイト家の紋だろ?あ、ミリディアナ嬢が“私の結婚が決まったら”って条件で招待状を出したんじゃないか?条件付き消印の手紙なら宛先の人間が死んでいない限り絶対に届くし。」


 そんな馬鹿なことに…と思ったが、実際にこうして逃げているわけだし…あり得る?

 そういえばさっき手紙持ってきた伝令官も同情するような眼をしていたし…いやいや、別に俺とミリィの関係なんてみんなが知っているわけない…ん?いや、知っているか。


「覚悟を決めろよ。ミリディアナ嬢はこうまでしてお前に花嫁姿を見て欲しがっているんだ。」


 …他人事だと思いやがって。

 いや、まあ…他人事なんだけどさ。


 渋々ながら手紙をあけて俺は吃驚することとなる。


=====


親愛なるアルへ


この手紙は「私、ミリディアナ・コナー・ホワイトの死亡届が役所に提出された」かつ「提出日の7日前の私が貴方、アルフォンス・ヴァン・ブラックを愛していた」という2つの条件を満たしたときにアルに届くようにしました。


 この手紙は「私が死ぬときまであなたを愛していた」ということの証明書です。


 私の愛は永遠でした、ざまぁみろ!




 ***



「この手紙がグレイ家の歴史…俺、知りたくなかったんだけど。」

「この国を影から支配…ゴホンッ、王家の方々を支えるグレイ家の嫡男が何を言っている!…と、普通の当主なら怒るべきなのだが俺も同意見だ。」


 だーよーねー。


「でもさ、初代グレイ家当主のアルフォンス爺ちゃんとミリィ婆ちゃんの夫婦の肖像画があるじゃん、つまりあれは爺ちゃんの妄想だったわけ?」


 爺ちゃんと婆ちゃんは結婚していなかったとなると親父は誰の子?

 え、ここまで感動させて実は妾がいて…とかいうオチ?


「いや、このとき母さんは死んでいなかったんだ。当時ホワイト家の医師がぎっくり腰で往診できなかったから母さんは神殿に行ってな、そこで病気のことを知って自分の死期が近いのを知って親父に手紙を書いたらしい。」

「あの手紙ね。」


「一方、母さんの父さん、つまり俺の爺さんの従兄が神殿勤めで『お前のとこのミリィが不治の病だって聞いたから神官つれてきた。」って回復魔法のスペシャリスト連れてきてな。同時に侍女から『お嬢様がこんな条件でラブレターを』なんて報告したから爺さんはこれ幸いと回復魔法をこっそりかけてもらって完治したことは母さんに知らせず、死んでもいないのに死亡届を役所に出したらしい。」

「え、それって良いの?」


「よくはないが役所の窓口にブラック家の者がいてな、事情を話して提出、受け取った側はカウンターの横のゴミ箱にそれを丸めて捨てたらしい。」

「つまり提出の事実はあったが、記録的には何もなかったということに…滅茶苦茶だ。」


「それだけこのグレイ家の擁立は2つの家にとって200年の願いってことなのだろう。」


 きれいにまとめているけれど、最大の被害者がいる。


「手紙を読んで婆ちゃんが死んだと思った爺ちゃんはどうしたの?」

「副官に討伐隊を任せて王都に急いで戻ったらしい。昼夜ぶっ通しで2日間、邸についたときは汗と涙と泥と…どこかで落馬したのか血で汚れまくっていたらしい。」


「ヘタレとはいえ気の毒だな。」

「疲労困憊でも一目愛した人の顔を見たいとホワイト家に駆け込めば、愛した人が元気いっぱいに食事していて『あら、アルどうしたの?』なんて言うんだから。」


 死んだはずの人が生きていた。

 2日間、ずっと頭をグルグル回っていた後悔だ何だの感情が一気に脳に押し寄せて、爺ちゃんはその場で気絶したらしい。


 …本当に気の毒でしかない。


「遺書的な手紙を生前に公開された婆ちゃんも恥ずかしかっただろうなぁ。」

「そりゃ、墓場まで持っていく予定の秘密だったからな…とにかく母さんは逃げて、逃げて、逃げまくったらしい。」


 気絶から3日間ほど眠り続けた爺ちゃんは、起きると臆病風に対する防風対策もバッチリ☆


 それから毎日婆ちゃんを追いかけては壁ドンで捕まえて、「愛してる。」と囁いて、限界にきた婆ちゃんが「分かったわよ!」と言ったのを無理矢理曲解して婚姻の承諾として2つの家族と親族に結婚を宣言したらしい。


 すごい…後ろ向きの奴が突然前を向くとスゴイ勢いなんだな。



「こうしてグレイ家ができましたとさ、めでたしめでたし。」

「…俺、この手紙と話を子どもに伝えていくのか。」


「グレイ家の定めだ…というより、お前は先に嫁さんだろう?」

「嫁かあ…俺、結婚するならミリィ婆ちゃんと結婚したかったなぁ。」


 ミリィ婆ちゃんはとても優しかったし……って、何その「あ゛っ!!」て顔。


「あのな、俺も言ったことがあるんだ、『母さんと結婚する』みたいなこと。」

「まあ、そんなの誰でも言うんじゃない?俺も昔言ったことあるし。」


「そう、普通なんだよ。しかしその普通を受け入れない“狭量”な父親がいたんだ。俺がそれを言った日の翌日、ポストに1通手紙があった。例の条件付き消印の手紙だ。」


 送り主は爺さんで「ミリィと結婚したいとか言った奴」を条件に手紙が送られてくるらしい。


 本当は永遠に送り付けられるように設定したかったらしいが紙の無駄と婆ちゃんが一喝し、爺ちゃんの目が黒いうちということで孫の俺まで設定してあるらしい。


「死んで10年、それでも婆ちゃん一筋かあ。」

「永遠の愛は重いなあ。」


 とりあえず開けた手紙は炎魔法が付与してあって前髪が焦げる設定らしい。

 

 爺さん…。



 




は直ぐに治ったんだよ。」

 

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