コードXYの不可解な犯行
バカミスです。
発見時、コードXYの世話役をしていた少女ミリアは、半裸の姿で朦朧となっていた。ただ、命に別状はないようで、その奇妙な表情から発見者であるそのラボの管理人は薬物の使用を疑った。が、コードXYが薬物を所持しているはずもなく、二人がベッドで同衾していた事もあって、単に微睡んでいるだけだろうと判断しかけた。
ところが、そこで管理人はベッドの上に血痕を見つけてしまったのである。それにより事態は大事となった。
「世話役のミリアが、コードXYに襲われたぞ!」
コールドスリープされていたコードXYは古代の遺跡から発見された。その形態から旧人類であると判断されたコードXYは、生物の研究室に収容された。そして、数週間の観察の後、凶暴性はないと判断され、世話役のミリアがあてがわれたのだ。が、そこでこのような事件が起こってしまったのである。
そのニュースは街中を駆け巡り、直ぐにコードXYは逮捕、拘束された。明らかに傷害事件だろうと判断されて。
――が、この事件にはいくつか奇妙な点があった。
まず、凶器となるような武器の類が発見されなった点。部屋の中をいくら探してもミリアに血を流させるような鋭利な刃物は見つからなかったのだ。
コードXYの部屋は常にAIの自動カメラで監視されている。凶器を捨てられる隙などあるはずもなかった。
更に奇妙な事に、ミリアの身体にも外傷はなかったのである。また彼女自身はコードXYを庇っており、「自分は傷つけられていない」と訴えてもいた。
―ーただし、ベッドの上の血痕を検査したところ、ミリアの血液で間違いないという結論が出ている。血液を偽装する手段も意味もないだろう点を考えるのならば、それは確実だろうと思われた。
犯行発見に至ったのは、監視AIがコードXYの部屋から動物のような高いうめき声を捕捉し、その正体を確かめる為に、ラボの管理人がコードXYの部屋に入った為であった。
管理人もその声を耳にしており、それは明らかにミリアのもので、苦しそうにも悦んでいるようにも聞こえたのだという。
コードXYは現人類とは異なった形状をしており、身長が高く、全体的に筋肉質で、また何より特徴的な形状として、泌尿器が高度に棒状に発達していた。管理人が部屋に入った時、コードXYはほぼ全裸で、その特徴的な泌尿器は露わになっていた。
そして、管理人の見間違いでなければ、その棒状の泌尿器にはミリアの血液が付着していたらしい。
その後、ラボ側の不手際で、逮捕される前にコードXYの身体は洗浄されてしまったので管理人の証言の真偽は不明だが、その為にこのような珍説が発表された。
「ミリアを傷つけたのは、その棒状の泌尿器ではないか?」
現人類の泌尿器はそのような形状ではなく、何故棒状なのか理由が不明である。しかし、武器として使用できるのならば納得ができる。また、襲われたミリアはむしろコードXYを案じているようだが、棒状の泌尿器に相手を洗脳する毒物を分泌する機能があるとするのなら説明ができる。
実際、この棒状の泌尿器からは、稀に尿とは異なった白濁したゲル状物質を含む液体を分泌する事があるという。
ただし、棒状の泌尿器の硬度から、この説は一笑に付された。棒状の泌尿器は刺激により硬度を持つ場合もあるようだが、人の肌を傷つけるには遠く及ばない。非現実的だと思われたのである。
が、ミリアの身体の検査を進める内、ミリアが傷を負わされた箇所が判明し、その珍説は俄かに脚光を浴びた。
現人類の泌尿器の付近にある用途不明と思われていた穴状の器官に、どうやらそれは挿入をされたようなのだ。
ミリアのその器官を保護している膜が破られている事が分かったのである。
また、精密に検査をしたところ、前述したコードXYの棒状の泌尿器から分泌される白濁した液体がミリアの穴状の器官の中から微量ながら発見されもした。それにより、コードXYの犯行の全容がほぼ先の珍説の通りだと特定されたのだった。
ただし、コードXYから分泌された白濁液には洗脳効果はなく、また毒物でもないようだった。オタマジャクシのような未知の微生物が確認されたが、病気を引き起こすようなものではなく危険性はなさそうだった。
その調査結果を受け、このような事が言われるようになった。
「コードXYが執った行動は、現人類からは失われてしまった未知の習性によるもので、ミリアを傷つける目的で為された訳ではないのではないか?」
その後、ミリアからの強い要望もあり、コードXYは拘束を解かれ、再びラボに移された。現在はそこでミリアに世話をされている。
再び、コードXYがミリアに対して同じ行動に出れば、その時こそ、その不可解な行動の謎が解けるかもしれない。
――遠い遠い先の未来。
AIによる人類の遺伝子の管理と繁殖が当たり前になり、人類から多くの知識が失われ、人類が自ら繁殖をする事もなくなった時代のお話でした。