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チートでルッキズムに向き合う

顔の話は本当にしたくないのだが…

俺は不細工だ。


勿論、一口に不細工と言っても様々な系統がある。

奇形系や異形系、動物系やのっぺり系など。

同じ不細工でも、猪首や大鼻の様な男として迫力のあるタイプはまだ良いのだ。

男社会で舐められにくい、というメリットがある。


そして残念ながら、俺は迫力の無い部類の不細工である。

端的に言うと典型的なチー牛顔なのだ。

ネットミームで眼鏡の少年がチーズ牛丼を注文している画像が出回ってるだろう?

悔しいが、俺はあの系統だ。

地球に居た頃は、口呼吸の、アデノイドだの、通り過ぎた人間から陰口を叩かれた。

一にも二にも男としての迫力に欠けている顔なのだ。


当然、自分でもこの顔はコンプレックスであり、正直に言えば鏡を見る事すら苦痛だった。

俺が転移して来た異世界グランバルドは美男美女揃いであり、この劣等感は増幅されるばかりだった。



ただ、このルックスは悪い事ばかりでもなかった。

俺は見るからにひ弱なので、社会的地位を得るまでは頻繁に恫喝や威圧をされたのだが、いきなり襲撃される事が殆どなかった。



かなりの乱暴者や凶悪犯罪者でも


【こんなヒョロガリ相手に刃物を出すまでも無いか】

【コイツは見るからに弱虫だろうから口頭で脅しておけば十分だろう】

【流石にこんな雑魚を殴ったら俺の格が下がってしまう】


等と考え、普通なら暴行される場面を何度か避けれている。

結果として、俺がこちらのヤクザ社会に無傷で入れたのも、このルックスのお陰だったのかも知れないと考えている。

もしも俺が見るからにヤクザの様な厳つい風貌であれば、ヘルマン組に入る過程で誰かと衝突し、何らかの刃傷沙汰に巻き込まれていたかも知れない。


リザードやオークとの交渉でも

【流石にコイツは軍属ではないだろう】

【こんな奴なら暴れても大したことはないだろうから、まずは様子を見よう】

という心の声を幾度となく聞いた。


俺が今日まで生き延びて来られたのは、【心を読む能力】の賜物だが、或いはこの情けない風貌もかなりの貢献をしているのかも知れない。

(断じて認めたくはないが…)



そして、この顔付は…

雰囲気がゴブリンに近い。

田中を始め、俺の事をゴブリンの血を引いている、と本気で考えている者が存在する。

流石に面と向かって指摘するような無礼者はまだ居ないが、少なくない数のグランバルド人が俺をそういう目で見ていた。



心底屈辱的で腹立たしく思っており、その所為で逢った事も無いゴブリンを勝手に嫌っていたのだが…


今、俺は対ゴブリンの窓口の様な立場になっている。

いや、ゴブリン種の中に入り対人間の外交窓口の様な仕事をしている。



========================================================




「イセカイ伯爵、父からの書簡です。」



眼前の青年はゲーゲーの嫡男のギーガー。

在コボルト領のゴブリンとして父親のビジネスを手伝っており、軍に納品する薬草類を栽培する部門の責任者をしていた。

年齢は29歳で役職は専務。

登山家としても高名で、若い頃にはコボルト領の七名峰を制覇した経験もある。

細身だが精悍な風貌で、コボルト達からの信頼も篤い。



ゲーゲーがゴブリン種の実質的な代表として各地を飛び回っているので、俺への連絡役はこのギーガーが務めてくれている。


その関係から、ゴブリンから人間種への書簡はほぼ俺を通す事になっている。

通すと言っても、書簡の推敲を手伝ったり添え状を書いたり程度のことで、大した権限がある訳ではない。

現に、この書簡も正式な外交ルートを早期に構築する為の打診であり、後3往復もすれば俺はめでたく御役御免になるだろう。


ゲーゲー ⇔ ギーガー ⇔ チート ⇔ レザノフ ⇔ ブランタジネット大公


連絡は概ね上記の流れで行われる。

ゲーゲーもかなり急いでいる為、流れを堰き止める訳にはいかない。

故に、俺は小まめにゲーゲー親子と連絡をとっている。

最近はゴブリンの船舶で寝泊まりする機会も増えた。

どう考えてもこの一年で今後の各種族の領土・地位が確定してしまうのは明白な情勢であり、固有の領土を持たないゴブリン族にとっては、文字通り種族の命運が懸かった状況なのだ。


あくまで素人の俺の私見だが。

ゴブリンは地下や小島嶼、湖上などの閉所に密集して居住する事を好む。

なので領域国家を築くよりも、自治都市を増やし、都市住民としての権利を確保する方向に向かう気がする。

現に、コボルト領やリザード領ではそういうポジションにいる。



「我々は隙間種族なんですよw

こうやって、仮住まいさせて貰っているのが分相応だと思うのですが

あ、これ父には内緒にして下さいねw」



ギーガーは普段は商家(それもかなりの老舗である)の跡取り息子として謹厳な表情を崩さないが、俺と2人きりの時はこうやって軽口を叩いてくれる。

無論、未来の公用語となるであろうリザード語でだ。



『先日、お父様が打ち明けて下さった領土案は現実的では無いと思います。

ただ、ヴァ―ヴァン主席が提示して下さった《島嶼部の割譲案》。

これは明らかに今だけのボーナス措置なので、確実に受け取っておくべきだと思います。』



ヴァ―ヴァン主席はゴブリン種族に対して私領の一つである《ミーン島》の無償割譲を提示している。

そこそこ沿岸から近い、淡路島くらいのサイズの島である。

リザード内務省が付けている経済ランクはA評価なので、思い切った大盤振る舞いと言っても過言ではない。



他の3種族がゴブリンの居住に譲歩しなかった場合、ゴブリンはリザードのみに恩義を感じ他を憎むようになるだろう。

逆に他の3種族がヴァ―ヴァン主席を倣った場合、感謝の念は口火を切ってくれたリザードへ向く。

大富豪かつ最高権力者のヴァ―ヴァン主席だから出来た判断だと思う。

今、種族間戦争はこういう形で行われているのだ。


ゲーゲーから聞いた所によると、オークのギルガーズ大帝が自領でゴブリンに与える土地を血眼で選定しているという。

割譲なのか? 租借なのか? 居住許可なのか?

それすらも定まっていないが、それでも現状を正確に把握し、打てる手を必死で探している。



「恐らくはコボルト領や人間領との中間地点を割譲するんじゃないですか?

それも面積の広い荒れ地を細長く渡してくると思います。」



『そうなんですか?』



「消去法的にそうなるでしょう。

皆さん、緩衝帯は欲しがってますし。

ゴブリンでも住ませておけば、偶発戦争は防ぎやすい。

ゴブリンには商業的な権利を僅かだけ与えて、黙らせておけばいいんです。

父もそこら辺が落としどころなのは重々承知してますよ。

立場上、口に出せないだけで。」



『ギーガー専務が口に出すのも拙いでしょう?』



「拙くないタイミングが来たら合図しますので、イセカイ伯爵から皆に吹聴しておいて下さいw

礼は弾みますよーw」



冗談めかして言っているが、目は全然笑ってない。

そりゃあそうだろう。

全種族会議の起ち上げに失敗すると、彼らには本当に居場所がなくなってしまうのだ。


人間種は書簡では《ゴブリンへの攻撃を即座に停止し、その旨を全土に布告した》と送って来ている。

(勿論、俺も含めて真に受けている馬鹿は一人も居ない。)

他の種族も表面的には温厚だ。

ただ、それらは全て書面上の話であり、排他的生活圏を持たないゴブリン種の立場は極めて危うい。



「危ういですよー。

我ら悉く、根無し草になるかも知れません。

そうなった時の為に、船上生活にも慣れておかなきゃね♪」



午前に、ギーガーの家族と共にホタテを獲ったので、皆で無造作に焼いて食べる。

ゴブリンの作法に従い、先割スプーンの様な食器を用いてホタテを穿る。

リザードはホタテを食べない。

(そもそも貝類にあまり興味が無い)

食べるのは、ゴブリンと俺とベスおばくらいものだ。



「これも隙間だ。

オマエラ、ちゃんと食べ方を覚えておけよー。

来年には、これしか食えなくなるぞーw」



ギーガーは冗談めかして幼い息子達にホタテを渡していく。

御子息の一人が、俺に一礼をすると綺麗な壺にホタテを詰めて女船に向かった。

細かい作法はよく解らないが、何となくゴブリン種の生活ペースは理解出来てくる。



『ギーガー専務。

前の話の続きを教えて貰えませんか?』



「はははw

伯爵は本当に物好きですね。

ゴブリンの信仰と言っても…

全部原始的な口伝ですからね。

乳離れの前に母や祖母から子守歌代わりに聞かされるくらいのものですよ?

内容も幼稚ですし。」



『幼稚、と申しますと?』



「はははw

ゴブリンは偉い種族で、他は悪い種族だ。

とか、そんな論調ですよ。

早めに禁止しなくちゃ外交問題になってしまうww」



よし、本命来た。

恐らく、標準座標≪√47WS≫に近づくヒントがある。



『その…

まさに、その子守歌を伺わせて欲しいのです。』



「うーん、他種族の方にとっては面白くないと思いますよ?

よくある種族主義プロパガンダですし。」



俺は似たような内容である、グランバルドの聖典の存在を正直に打ち明けた上で

『過剰なナショナリズムによる偶発戦争を防止するために教えてくれませんか?』

と何度も伏して頼んだ。



「…似てますね。

ウチにも《魔王を倒せ》というフレーズがあります。

子供の頃だから、朧気にしか覚えてないのですが…

ちょっとチビに伝言させます。」



結局、ギーガーが男船を女船に接舷させ、船窓越しに女ゴブリンと会話させてくれるようになった。

名目は《さっきのホタテはこちらのイセカイ卿からの贈答だから礼を述べる様に》とのこと。

俺が恐る恐る女船を覗き込むと、色白のゴブリン女性たちが「キャッ」という悲鳴を挙げて首を竦めてしまう。

ギーガーがそれをゴブリン語で一喝して女達を呼びつける。


俺は出来るだけ相手に近づかない様にして、にこやかに挨拶をした。

以前一度だけ遠目に挨拶した事のあるゲーゲーの奥様(ギーガー専務の生母だ)がこちらに顔を近づけながら、背後の女共に早口のゴブリン語で指示して俺へ挨拶させる。


船窓越しではあるが、奥様がゲーゲーの母親を呼んで仲介してくれた。

幸運なことに、ゲーゲーの母は若い頃巫女として神事に携わっていた経験があり、今でも若手に指導する係であった為、ゴブリン神話に関しては相当熟知していた。


俺は平身低頭して異種族の分際で女船に近づいた非礼を詫びた。

案の定ゲーゲーの母は人間種が嫌い(同族が何名か殺されているらしい)だったが、俺はゴブリン式の靴や手甲を着用していた上に、冒頭で述べた通り顔がややゴブリン寄りなので、何となく許容して貰えた。


癪だが、不細工もたまには役に立つ。





で、結論。

標準座標≪√47WS≫の奴、他の種族にも全く同じ文言を使ってやがった。


古来よりゴブリン種の中にも、《言語や習慣が全く異なる異物ゴブリン》が漂着することがあった。

その者たちは他種族に対して好戦的で、皆一様にこう述べる。



「正義の刃で魔王を倒し、平和をもたらすのだ!」




漂着者達は揃ってこの様な神託を受けたと主張し、制止しても交戦に及んでしまうケースが多々あった。

その突発戦闘に巻き込まれて落命したゴブリン種は史上においてかなり多い。


悲劇の再発を防止する為、ゴブリン種は巫女たちに警句も兼ねた神話として語り継がせている。


ゴブリン族において、神の実在は畏怖と困惑を込めてそこそこ信じられている。

同時に、彼らは異世界的な概念も確信していた。




「正義の刃で魔王を倒し、平和をもたらすのだ!」



それ、俺も言われたよ。

アイツら、絶対コピペしたものを機械的に翻訳してるだろ…

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