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チートでリモート尋問される

目を覚ますと昼だった。

リビングで休憩していた師匠に昨日の礼を述べる。

まさかこの人がリザードの接待をしてくれてるとは思わなかった。



「ねえ、伊勢海クン!

ワタクシへのお土産は!」



『ニックがオーガの佩刀を買って帰って来たから、後で見せて貰えよ。』



「伊勢海クンからのお土産を寄越しなさいよ!

ワタクシも行きたかったのに!」



『あ、ポケットにオークの麻薬が残ってた。』



「麻薬! 頂戴頂戴! 

伊勢海クンもたまには役に立つじゃない。」



『駄目だ。

早急にしかるべき機関に提出し、成分分析を依頼しなければならない。』



「それこそワタクシに頼みなさいよ!」



『ん?

アンタ、そんな事も出来るのか?』



「当たり前でしょ!

ワタクシ、薬学アカデミーの…」



『ああ、スマン。

アンタの書いた論文に《医療用麻薬運用の現状と課題》があったな。

あれ凄く良かったよ。

俺は別に集権論者ではないんだけど、危険性・中毒性の強い薬物は中央で一括管理するべきと思う。

アンタの主張に俺も賛同するよ。』



「…。


今日中に、成分表を制作しておくから、後で何カ所かの署名だけお願い。」



『助かる。

今回は済まなかったな。』



「…済まなかったじゃないわよ。

アナタへの祝福線がいきなり河の中に沈んだ時はちょっと焦ったのよ!」



『俺が河の中を移動していたのは確認出来たか?』



「ええ、急に線が伸びるから

レザノフも叫び出すし。

アナタ達お友達なの?」



『いや全然。

仕事上の付き合いだよ。

お互いの立場を忘れて話せるのなら盛り上がるとは思うけどね。』




「ふーん、仲の宜しいことで。」



『そんなことより、オーク種の思考が判明した。

大至急、議長閣下に伝えてくれ。

オークが人間種に対し…  



ベスおばが無造作にコンパクトのボタンを押す。

この女、人を呼びつけるのに一切抵抗が無いんだな。



「あ、ポーシャ。 アンタのお父様呼んで来て。  

は? 議会?  じゃあ、アンタ以外の誰かでいいわ。」



『オークと人間種の国境? 緩衝地帯? 

そこはオークの聖地なんだ。

で、人間種側が彼らの墳墓を破壊している事を憤慨している。

中央もオークと戦争したい訳じゃないんだろ?

この事実さえ共有できれば無駄な争いは避けられると思うが…』



「アナタ何がしたい訳?」



『ただ世界を静謐にしたいだけだよ。

何事も起こらないなら、それに越したことは無いだろう?』



「あっそ、つまんない男。  …面白いけど。


あっ! ルネ君♪  ごきげんよう~♪ 元気ちてまちたか~♪ chu♪」



突然、ベスおばのトーンが変わる。

最初は男絡みかと思ったが、返信の声がまだ幼かったので縁戚か何かの少年だと思う。



「そうでちゅよ~♪

ワタクシ、お仕事頑張ってますの~♪

またルネ君に逢いたいな~♪

うふふふ~

身長伸びた?

あはは

照れちゃって可愛らしいですわ♪


あ、そうそう。

どうでもいいけど、軍がオークと睨み合ってる緩衝地帯あるじゃない?

アレ、オークにとっての聖地みたい。

後、彼らの墳墓? それを騎士団が壊してる事に怒ってるらしいわよ、知らんけど。


そんな事よりルネ君、少し声が大人になったんじゃない?

うふふふ♥

あら~

ワタクシの為に背伸びしてくれてるの~?

キャー♪  嬉し~♪


ん?

帝都には帰らないわよ。

今の話、マティアス様に伝えておいてね。」



「ルネ! 次は母の番です!

何ですか、オマエは親を差し置いて長々と(バシーン!)


ああ、お姉様! 私ねこの前とうと(ガチャンツーツー)」



ベスおばは通信を終えると、オークの麻薬をくちゃくちゃ噛みながら調合室へ降りていってしまった。

俺は師匠と食事の続きを取りながら、今後の事を話し合った。


特にクレアのイラストが案外有効だった件を喜んでくれる。

《落ち着いたら解体業のノウハウ公開に使いたい》

とのことだ。



『職人がノウハウを明かすのですか?』



「社会にとってはその方が有用じゃない?

ベスさんじゃないけれどさ。」



『師匠には今後の生活があります!』



「オマエには今後が無いのか?」



『派手に動き過ぎました。

流石に腹を括って…  

長生きは諦めてます。』



「レザノフ卿か?」



『あの人の殺気が凄くてw』



「確かに露骨だよな。

あの人って元は軍属だろ?

特命とか受けてるクチかな?

アレは何とかならんのか?」



『レザノフを何とかした所で、もっと物分かりの悪い人間が来るだけですよ。

一応協力してくれている点は多いので、助けられてはいるのですが…』



「助けてくれるならいいんじゃない?」



『でも、一段落したら俺を殺すつもりなんですよ?

最近は全然殺気隠さなくなってきてるしw』



「確かにw

昨日もずっとサーベルをカチャカチャさせてたよw

兵隊って嫌な人種だよなwww」



『まったくですww


…と言う訳で、俺が死ぬか殺されるかした場合

師匠とラルフ君に後事を託させて下さい。』



「ドランは?」



『前にこの話をチラッとしたら《勘弁してくれ》って逃げられました。』



「そりゃあアイツが正しい。

俺も正直逃げたい気分だが…

昨日リザードと接触してみて、オマエのやりたい事がようやく理解出来たよ。

今チートが行っている接触行為はグランバルド人にとって必要なことだ。

少なくとも目を背けるべきではないと思う。」




何より、師匠が賛同してくれたことに安堵した。

これで、もう思い残す事もなくなってしまったな。




その後、階下で臓物処理をしていたらマティアス議長からベスおばに通信が入ったらしく、調合室に呼び出される。


まずは。

《実在確認までおとなしくしていろ》

と言われた矢先にオーク見物へ行ったことを一通り叱責される。


そして墳墓の件を伝えると、側に控えていたらしい野太い声の男に色々と尋問される。

ナントカ元帥と名乗っていたから軍のお偉いさんなのだろう。

ベスおばとも面識があるようなので、ある程度話はスムーズに進んだ。

この元帥はどういう訳か俺の実在を確信していた。



俺はリザードから教わったオークへの作法。

《片膝を地に付けて両手を広げるジェスチャー》

も伝達しておく。



「戦意の放棄かね…

参ったな、今まで将兵たちに訓示していた事と真逆ではないか。」



『向こうもあまり人間種に敵愾心を持っていないようでした。

多分、こっちがジェスチャーを取ってみたら、向こうも返礼してくれると思いますよ。』



「兵士にそれを命ずるのもな…」



『私がそちらまで行って実験台になりましょうか?』



「いや、まずはこの老骨が試してみよう。

私が殉職し終わったら、後は君にお願いさせてくれ。」



『承知しました。

リザードは仲介に抵抗が無いようですが、オーク側は人間種とリザード種からの挟撃を警戒していました。

その点、刺激しないように注意して下さい。』



「ありがとう。

君の報告は妙に信憑性が高い。


…ただ、その結論に辿り着いた論拠を教えてくれ。」



『リザードやオークがそう言ってました、というのは論拠として弱いですよね?』



「せめて公文書に残せる論拠をくれよ。

私も議会に報告義務があるからさあ。」



『絵です。』



「絵? 絵画の絵?」



『提出用の複製を用意しておりますが、それで十分意図は通じました。

リザードの絵、人間種の絵、仲良くしている様子。

そういう情景をデフォルメして描かせたのですよ。』



「通じるのか!?」



『流石に一発では意思疎通出来ませんでしたが…

少なくとも交渉の意志は汲み取ってくれました。』



「うーん、にわかには信じ難いな…」



『でも元帥閣下も、戦場で丸腰のリザードやオークが絵を掲げながら遠慮がちに接近してきたら

流石に攻撃はしないでしょ?』



「出来る訳ないよー。

何千年も続いてきた、よく分からない戦いの解決の端緒になるかも知れないもの。」



『向こうも馬鹿ではないので、そこは理解してます。

少なくとも士官クラスはちゃんと教育を受けてますし、抽象的な思考能力があります。』



「どうして士官だと解ったのだね!?」



『兵隊さんって出世すればするほど

当然の権利の様な顔をして威張り散らしてますし。

まだ軍隊の中でそれをするのは許せるとして、組織外の人間にも横柄でしょ?』



「…それを私に言うかね。」



『元帥閣下はフランクな方だとお見受けしましたけど…

どうせ少数派なんですよね?』



「…まあね。

若い頃は苦労したよ。

要するにリザードもオークも、社会を作っている限り結局は似たものだ、と言いたい?」



『役人と軍人は特に顕著ですね。』



「そこは同意する。

それじゃあ、私が生きて帰ったら、続きを聞かせてくれ。」



『緩衝地帯に行かれるんですか?』



「話の流れ上、行かない訳にはならんだろう?

こんな危険な実験、部下にやらせる訳にはいかんしな。」



『先程の発言を撤回します。

軍人さんはみな、責任感があって信頼できる相手です!』



「っふww

じゃあな、お調子者ww」



その後も色々な省庁のオジサンが出てきて、ありとあらゆる角度から叱責と尋問を受けた。

腹話術説は、彼らの中でもう解消されているらしい。

俺とベスおばの価値観は近い点もあるが、根源の部分で相反しているからな。

聞く人が聞けばわかるのだろう。



結局、その日も夜遅くまで根掘り葉掘りの尋問が続き、終わった頃には完全に日が沈んでいた。


【伊勢海地人】



資産 現金5300万ウェン強 

   翡翠コイン50枚 (リザード種の法定通貨) 

   古書《魔石取り扱いマニュアル》

   古書《帝国本草学辞典》

   北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)

   債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)


地位 バランギル解体工房見習い (廃棄物処理・営業担当)

   前線都市市長

   前線都市上級市民権保有者

   元職工ギルド青年部書記  (兼職防止規定により職工ギルドを脱盟)

   前線都市魔石取引所・スペース提供者

   廃棄物処理作業員インターン


戦力 赤スライム(テイム済)

   冒険者ゲドのパーティーが工房に所属

   市長親衛隊 (隊長ラモス)



家族 第一婦人     メリッサ

   第二夫人     ノエル

   第三夫人(自称) エリザベス



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軍人がサーベルをカチャカチャするのは、パン屋でトングカチカチさせんのと変わらんかもしれない
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