【嫁遅令嬢】 ちょっと聞いてよ! 帝国史上最も偉大な進歩人女性であり名門公爵家令嬢のこのワタクシがいつの間にか行き遅れて学生時代に苛めてた超絶美形騎士団長から唐突な求婚を(略)
【嫁遅令嬢】 ちょっと聞いてよ! 帝国史上最も偉大な進歩人女性であり名門公爵家令嬢のこのワタクシがいつの間にか行き遅れて学生時代に苛めてた超絶美形騎士団長から唐突な求婚をされ… ん? 半分は自慢ですけどそれが何か?
当家の敷地は無駄に広いので、外出するにも一苦労。
幾ら上級貴族ばかりが住まうとは言え、帝都の中央にこんな無駄な屋敷群を並べるのは無駄だわ。
ワタクシが皇帝か何かになったら、この無駄な屋敷を全て取り壊して工場で埋め尽くしてやりますの。
街なんてテナントビルと工場、そこに勤務する労働者が住む宿舎があれば事足りるのよ。
ワタクシは厩舎の馬を拝借して正門まで向かい、騎馬で正門から出た。
ん?
心配なさらないでよろしくってよ。
ワタクシ、成績は勿論全てトップでしたけど、その中でも馬術とフェンシングでは負けたことがありませんの♪
ここは丸の内。
皇帝時代に存在した王城の本丸の名残ですのよ。
侯爵以上の家のみが、この丸の内に屋敷を構える事が許されますの。
当然、我がヴィルヘルム公爵家も2つの分家と共にここに居住しておりますのよ。
まあアナタには縁の無い話でしょうけど。
よくってよ。
羨望混じりに噂話に興じる事を許して差し上げますわ♪
あー、ワタクシって何て寛容なのかしら。
「エリザベス姫!
ヴィルヘルム家のエリザベス姫では御座いませんか!?
裸馬になど乗って何をされておられるのですか!」
今から軽~く遠乗りをして憂さ晴らしをする予定だったのに、隣家の馬車と鉢合わせてしまう。
ハー(クソデカため息)、目障りな七大公家の馬車と鉢合わせるなんて、今日は厄日ね。
案の定、この世で一番顔を合せたくない男が頼みもしないのに馬車から颯爽と飛び降りて来る。
ヒュー、シュタッ、バ―――ン! (ロン毛サラサラー)
「これはこれはエリザベス殿。
相変わらず麗しい。
こんな時間に単騎で遠乗りとは、さてはまたお父上と喧嘩なされましたか(ウインクパチ)」
このブロンドの長髪を靡かせた長身の男はシュタインフェルト大公家の嫡男、ジークフリート。
隣の屋敷だからか、子供の頃からよく知っているの。
知ってるも何も戦国乱世の頃から領地が隣同士で何千年も当家と戦争を続けて来た、まあ敵の家の子よ。
「おやおや。
裸馬どころか裸足ではありませんか!?
何をやっておられるのです!?
はっ!
エリザベス殿の美し… 丈夫な脚にお傷が!」
普段、何事にも動じないこのいけ好かない男が驚愕する表情は笑えますわw
殿方の困った表情って本当に滑稽でセクシー♪
後で思い出して爆笑する事に致しますわ♡
ねえ貴方もそう思わなくって?
それでワタクシ思わず機嫌が良くなってしまいましたの。
「御安心下さい。
エリザベス殿!
ここは私の愛と忠誠を証明させて下さい(イケメンスマイル)!
集え精霊! エクスヒール!!」
すると何を勘違いしたのか、ジークは頼まれもしていないのに神聖魔法を唱え始めたわ。
ええ、そうですわよ?
公務以外での魔法使用は違法ですわ。
庶民達が勝手に魔法を使わない様に厳重に取り締まらなくちゃ。
は?
ワタクシ達の様な高貴な立場の者は当然例外でしょ?
アナタ、さっきから何を怒っているの?
ん?
ワタクシも魔法、普通に使えますケド。
それが何か?
ワタクシ、火球を爆発させたり雷を落としたり、そういう派手な魔法が大好きですの。
今度気が向いたら見せてさしあげますわ。
それに引き換え、この泣き虫ジークはw
殿方の癖に治癒魔法ばっかりww
世間の人はコレを《神の子》とか《真の聖者》とか呼んでいるようですけどw
ホーント、つまらない男w
魔法なんて所詮は戦争の道具なんだから、《地獄の業火》とか《必殺の雷鳴》とかもっとビジュアル的に派手なものを覚えればいいのにww
馬鹿な男ww
ジークの奴は生まれつき治癒に関するレアスキルを保有していて、幼少の頃から帝国中に愛されていましたの。
その名も《オートエリアヒール》
この男が存在するだけで周囲の傷病を回復させるという、反則級のパッシブスキルですわ。
そりゃあ、巡察する先々で熱烈な歓迎を受けますわね。
ワタクシが薬学に注力しているのは、ジークの影響。
薬効目覚ましい新薬を量産して、この男の鼻を明かしてやりたかったのw
ええ、勿論!
この男の神聖魔法を幾つか陳腐化させてやったわよw
どう?
ワタクシって凄いでしょ?
「エリザベス殿…
未練と笑われるかも知れませんが、私は正室の座を今でも貴女の為に空けております。
どうか…
一度真面目に話を聞いて下さい。
プランタジネット家との婚約の噂…
あれは真なのですか!?
…それでも、それでも私は!」
図々しくもジークがワタクシの手を握り締めて来る。
やれやれ、子供の頃から相も変わらずに…
困ったわねえ。
『ああ、アレ破棄しましたわ。
ポーシャの奴がゴチャゴチャ五月蠅くて。
ワタクシ、今から旅に出ることにしましたから。
悪いけど、例によって後のフォローお願いね。』
「破棄!? 旅!?
え? え? え?」
やれやれ、男の癖にオロオロとみっともない男。
情けない顔をさせればお父様といい勝負ね。
そこが可愛いから、こうして口くらいは利いてやってるんですケド♪
『とりあえず、運河都市まで一っ走りしてみますわ♪』
「なりませぬ!
何を考えられているのですか!
皆の者!
エリザベス様を御止めせよ!
ヴィルヘルム邸にも直ちに連絡を!」
あはははw
これこれ、こういう絵物語にあるような展開を待ち望んでいたのですわ。
ジークの奴の顔に隠し持っていた砂を掛けて目潰ししようとしたのですけれど、紙一重で避けられてしまいました♪
まあ、こんな奴でも一応は騎士だから、それくらい出来て当然よね。
それにしてもあの《泣き虫ジーク》が神聖騎士団の団長とかww
世も末ですわねww
ん?
今からどうするのかって?
勿論!
こうするのですわ
『馬用薬剤全注入!!
明日へ向かって全力疾走!!!!
あはははははww』
前から一度やってみたいと思ってましたの。
ほら見て。
後ろから若き騎士達が必死にワタクシを追って来ておりますわ!!
まるで麗しき殿方達が競って求めて来ているみたいに見えませんこと?
グフフフww
ちょっと、いい気分ですわ♪
ん?
本職の騎士から逃げられる訳がない?
あーら、アナタ素人ねえ♪
さっき馬に薬剤を注入したのを見たでしょ。
あれはねー。
馬の意志と思考と尊厳を奪って、ただ走り続ける為の使い潰し家畜に改造する薬品ですの♪
通常の3倍のスピードで走行が可能ですわ。
これを打たれた馬は、命の炎が燃え尽きる瞬間まで最大速度で駆け続ける♪
ほら、見て見てww
ジークの奴、まーたべそかいてるwwwww
男の癖に情けない奴ねーww
よくあれで騎士団長が務まるものですわww
そんな事より聞いて聞いて!
ワタクシ、この素晴らしい発明を軍の連中に無償で譲渡してやろうと思いましたのよ?
それで元帥を呼びつけて、お紅茶まで出してあげましたのに。
「倫理的に問題がある為、使用は困難かと…」
って。
意味わかんない!
あーあ、だからアンタらリザードだのオークだのに勝てないのよ。
馬も兵隊も戦争に勝つための道具じゃない。
どうしてキャパ限界まで活用しようと思わないのかしら?
まったく、たるんでるわ。
あら?
もうへばりましたの?
後ろに乗っているだけなのに、だらしないわね。
ほら、ワタクシの心身強化剤を分けてあげるから飲み干しなさい。
そうよ。
これもワタクシの大発明!
人間の肉体と精神のスペックを極限まで引き出す優れものですわ。
ワタクシが論文を読み込むときは、この薬を必ず服用しますわ。
1日に100時間くらいは脳味噌がフル稼働しますのよ。
折角、産業省にパテントを譲ってあげると申し出たのですケド、治験の段階で何故か全員死んでしまって…
これも却下されてしまいましたの。
大した副作用なんてある筈ないのに!
治験に使った死刑囚がどういう訳か全員死んでしまったのよ?
無い無い!
副作用なんてありませんわ!
現に常用しているワタクシが何ともないじゃない!
あ、馬のスタミナが思った以上に消耗してますわね。
あー、内門を出て公園を突っ切った辺りで死にますわね。
これだから貴族が使うようなお上品な馬って嫌いなのよねー。
さーて、平民区に隠してある荷物を回収して、日が暮れるまでに帝都を脱出するわよ!
ん?
何の為に家出するのか?
そんなの決まってるじゃない!
世界の真理を解明する為よ!
そう世界よ!
ワタクシ知りたいの!
天蓋も! その先も!
世界がどうなっているのか!
ふふふw
小娘の妄想とお思いかしら?
安心なさって、ちゃんと計画は立ててあるから。
ロストテクノロジーを我が物とする偉大な計画がね!
ねえ、聞いて。
帝国の最南端にね?
南境商都って小さな町があるのよ。
ワタクシ、突き止めたの。
薬学部の大先輩にあたる人らしいんだけど、昔平民と駆け落ちした馬鹿な女が居たのねww
行商人よww 行商人ww
その女が帝都から大量の古書を持ち出した形跡があるのよ。
どうやら南境商都に潜伏しているらしいわ。
古書を解析してロストテクノロジーを復活させようとしているみたい。
今はその平民旦那の商店に暮らしてポーションを細々と作ってるらしいわwww
あはははw
転落人生wwww
商店www 商店で商品作るとかwww
行商人ww そんな卑しい身分の男と暮らすとかwww
ホーント、馬っ鹿な女ねーーww
とりあえず、まだ生きてるみたいだから。
その女を見つけてみせるわ。
古書の翻訳なんて選ばれし天才のみに許される奇跡よ。
ワタクシの様にね!
…天才、か。
そうねー、このワタクシの夫となる人には…
それくらいの才覚を求めたいわね。
ロストテクノロジーを一つでも復活させる事が出来たら、その人の求婚を受けてあげてもいいわ。
そりゃあそうよ。
従順な妻として仕えてやってもいいわ。
あら?
アナタ、ワタクシのこと誤解してませんこと?
殿方なんて社会の進歩に貢献さえすれば、どんな落ち度があろうと全てが許されるのよ?
だって人間とは世界を進歩革命させる為に存在する生き物なのですから。
あ、気を付けて。
5秒後、馬が死ぬから。
飛び降りるわよ!
4・3・2・1・0!
『とうッ!!』
ほらねー。
計算通り死んだでしょ?
じゃあ、目立たない服装に着替えて今日中に帝都を出るわよ!
ん?
馬が可哀想?
意味がわからないわ?
進歩に犠牲はつきものじゃない?
大体、馬は経済動物なんだから社会の発展の為に少しでも有効活用しなくちゃ。
友達?
馬が?
…アナタ、そういう独善的な考え方やめたら?
馬だって好きで使役されてる訳じゃないんだから
そういう傲岸な考え方、改めた方がいいと思うわよ?
さあ!
時間との勝負よ!
お父様やジークの追手が来る前に帝都から脱出するわ!
急いで!
人類の未来は永久の革命を戦い抜いた先にしか存在しないのよ!




