チートでBBQをする
ラノベとかで親の顔より見たオークを見物しに行く。
俺は母親の顔を知らないので、ある意味比喩ではない。
リザードが脳内で【高速艇】と呼称していたものは、実際には河底に張り巡らせた水中トンネルのようなインフラを指すらしい。
俺と司祭のニックはリザードの小舟で帝国対岸のリザード領に案内された後、現地の有力者(?)からの挨拶を受けてから掘立小屋の地下に案内され、地下鉄のプラットフォームのような施設に招待された。
【あ~
人間種にここまで見せてしまった…
でも、我々が河底を移動している事くらいは人間種も当然把握しているよな?
これは情報漏洩には当たらないよな?
だよな? だよな?】
とリザードの高級官僚であるコ―ヴィヴィは内心正当化しようとしているが…
少なくともニックの【心中を読む】限りは人間側にとって全く未知の情報である。
皆、拙速になる気持ちも理解出来るよ。
だって、異種族間翻訳のレアスキルを持った逸材が協力を申し出てるのだもの。
そりゃあ、真面目なエリート官僚でも思わず独断専行しちゃうよね。
コ―ヴィヴィの目論見は以下の通り。
【確かに、私の行動は非常識だ。
通常であればまず切腹モノの大失態であろう。
だが、このシチョー・チートにはオークの言語を解析する能力がある。
日帰りで! 日帰りで強引に成果を挙げてしまおう!】
そう考えつつも、クレバーな彼は自分が切腹まではさせられない事を官僚としての嗅覚で予見している。
レザノフが危険人物の俺をまだ殺さないのと同じ理由なのだ。
高速艇の内部はかなり狭いの寝転がって搭乗する。
恐らくは長細い円筒状の乗り物に乗っているのだと推測する。
【高速艇に乗せたはいいが、人間種は振動や衝撃にパニックにならずに済むのだろうか?
あ、そうか。
シチョー・チートは超翻訳? 超感知? のスキルを持ってるんだよな?
あ~、シチョー・チート。
私の言葉が理解出来るなら、肩をポンポンと叩いて下さい。】
『あ、その思考助かります(ポンポン)』
【うおーーーー!!!
この人間種すごーーーい!!!!
すっごくチートだ!!!】
そりゃ驚くよな。
俺が貴方でも驚くよ。
高速艇で揺られている間、秀才官僚のコ―ヴィヴィから出来るだけ情報を集めようと試みる。
・リザードが戦争状態にあると認識している他種族はコボルト種のみ。
・かつてはオーク族と領土争いを繰り返した時期もある。
・オークはコボルト種に比べると紳士的過ぎるので今では逆に好感度が高い
・人間種同様、オーク種とはコミュニケーションが成り立っていない。
・この河の上流辺りでオーク種と沈黙交易を行っている
・リザードと交易してくれているオークが公人なのか私人なのかを知りたい。
・オークの木材と人間種の銀が自由にもっと交易できれば、老朽化したインフラを復旧出来る
・オークや人間種が交易で欲しがっている物資があれば教えて欲しい
・図々しいお願いだが、人間種側の河縁に係留施設を建造させて欲しい。
・作業船を提供するから一緒に辞書作って欲しい。(私の権限ならここまでは可能)
・人間種の食性を教えて欲しい。
・塩が余ってるんだけど、買ってくれないか?
・流石に無理だと思うが、コボルトと話を付けて欲しい。
・コボルトが本当に怖いので折角なら守って欲しい。
↑ 大体、こんな感じである。
役人だけあって、要求が明確でいいよね。
ジェスチャーを交えての遅々とした情報交換に夢中になっていると、ガタンという音がして高速艇が止まった。
所要時間は4時間も無かったのかも知れない。
窓のない乗り物なのでスピードも解らない。
タラップから艇外へ出ると、高速艇の全貌が見えた。
外観は金属ではなくヌメッとした水棲生物のような材質、流線型でペンシルロケットのような雰囲気がある。
あー、これは多分相当スピード出てるな。
それこそ新幹線みたいなものか?
俺とニックはコ―ヴィヴィの用意した輿に乗り、20分ほど進んだ。
この時点で方角すら解っていない。
ニック曰く
「商都よりかなり北ですね。 私の計算では早馬の5倍の速度は出ていたかも知れません。」
とのこと。
確か馬の速度って40~50キロだったか?
ニックの分析通りその5倍なら、リザードは水中を200キロ以上の速度で移動する技術を保有している事になるが…
【あの垣根の向こうが中立地帯です。
向こうに木造の建物がありますよね?
あれは我々がオーク側の為に建てた施設です
彼らは仮眠や休憩に使ってくれているようですね。
向こうの荷物が多い場合は、この垣根までオークがやって来ます。
今、建物の横に旗が立ってますよね?
あれは在室の合図です。】
なるほど。
数時間でオークの居る場所に辿り着いてしまった。
あまりのあっけなさに呆然とするが、冷静に考えればそうだろう。
責任者のコーヴィヴィとしても、独断で俺を連れて来た以上、早めに用事を済ませて送り返したいに決まっている。
やや距離があるので、【心の声ポップアップ】が鮮明に見えないが複数名のオークが、あの建物内で雑談している気配は感じる。
目測で30メートル程度の距離だろうか…
もう少し近づけば…
等と思っていると、建物の窓から不意に何かが顔を出した。
距離があるから判らないが、人型の生物の造作である。
少なくとも目玉は2つある。。
リザード側がそこまで騒いでいない所を見ると、オークとリザードの関係はそこまで緊張を要するものでもないらしい。
2分ほど後に、小屋の中から《オーク》が出現した。
遠目にもその巨体が理解出来る。
全体的にずんぐりしていてデカい…
ゆっくりと近づいて来て…
っく、遠近感狂うデカさだ!
デカい!
ゴツい!
実物のオークはとにかくデカかった。
緑の肌に二本の角。
2トントラック位のサイズ感がある。
身長… 4メートル? 5メートル?
少なくとも、俺の2倍以上は確実にある!
帝都の騎士達はこんな怪物共と対峙しているのか…
リザードの連中も大柄だと思っていたが…
オークは筋量が桁違いだ…
少なくとも人間種などより、遥か上位の種族であることは理解出来た。
向こうも気を遣ってくれているのか、必要以上に近づいて来ないが
それでも圧迫感が洒落にならない。
コ―ヴィヴィが
【ね? 結構話せそうな雰囲気でしょ?
コボルトとは大違いなんですよ。】
というニュアンスの発言をする。
そうか?
俺は恐怖しか感じないのだが…
ってか、コボルトってもっと怖い連中なのか?
まあ、いい腹を括るしかない。
眼前のオークに絞って、スキル発動!
【え?
何コレ?
ひょっとして人間種?】
オークは、ただ思考停止していた。
本当に不意を突かれたのだろう。
【え? え? え?
ちょ、困るよ!
イレギュラーやめてよね。
今まで上手くやってきたじゃない…
えーっと。
私はどうすれば良いのだろう?
報告? 小屋から部下を呼ぶ?
駄目だ、偶発戦闘が発生してしまう。
どうすれば、どうすれば…】
そっか、不安なのは皆一緒か。
だよな。
俺やコ―ヴィヴィは自分の意志でオークに面会しているが、向こうからすれば完全に不意打ちだろうものな。
ちゃんとしなきゃ…
艇内で教わっていたオークへの作法を思い出し、俺は片膝を地に付けて両手を広げる。
(このジェスチャーは戦意の放棄を意味する)
【?
どういう意味だ?
人間種も交易に参加したい?
それと外交交渉の予備交渉希望?
リザード側の牽制?
リザード種と人間種が同盟を組んだ?
それだと地政学的にかなりヤバいが…】
俺は安堵する。
オークにも知能があった。
恐らく一般的なグランバルド人よりも知見がある。
さっき《部下》という言葉を使った、ということは目の前の個体はオーク社会で何らかの組織に所属し、かつ最末端の構成員ではない。
『こんにちは! ゲーヴィ!
こんにちは! ゲーヴィ!』
俺は身振りを交えて、挨拶から開始する。
【威嚇… ではなさそうだな。
となると、交渉希望… だよな。
立ち位置から察するに…
今回、リザードは案内役に徹している?
うーん、わからん。
何か喋った方が良いか…
とりあえず名乗るだけ名乗ってみるか。】
「ゴー――! バーン ダルガ!」
【こんにちは、私はダルガです。】
うおっ!
ストライクで欲しい情報来た。
哺乳類同士なのだからか、声帯はリザードよりも人間種に近い!
イギリス映画並みに日本人にとって聞き取り易い発音!
あっ!
これはイケる!
『ゴー――! バーン チート!』
どうだ!?
【…え?
何で?】
『ゴー――! バーン チート!』
その後、オークは【我々の言語が理解出来るのか!?】と叫ぶが、俺は大袈裟に首をふり『いいえ』を連呼。
今回はファーストコンタクトなので『はい』『いいえ』をしっかりと示しておこう。
【あ、コレ。
…多分、一大歴史的転機だな。
やばいなー。
今、駐屯所に司令が居ないんだよなあ。
副指令を呼ぶか?
いや、呼ぶべきだろうな。
あー、最速で片道2時間…
それまで居てくれるのか?
いや、考える余地は無いな。】
俺はオークにもう少し(3メートルくらいの距離)近づくと、クレアに描かせた現状説明イラストを見せる。
意外にもオークが接近を嫌がる。
【おいおいパーソナルスペースを守れよぉ…】
あ、彼らの文化はそうなんだ。
俺が2歩くらい下がると、オークも安心したらしくそれ以上距離についての不満を【脳裏に抱かなく】なった。
【これは絵図? 宗教画? …では無いな。
えー、ひょっとしてリザード種と人間種が同盟した事をアピールするプロパガンダイラストか?
宣伝の対象は我々?
威嚇? それとも我々も同盟に勧誘されている?
どっちとも取れるな…
いずれにせよ、今は1部隊長に過ぎない私にはどうにも出来んか…
司令官殿の判断次第だな。】
多分、彼は軍人だな。
中間管理職あたり?
責任者を呼び出せるくらいには偉い?
いや、それよりもクレアに描かせた絵の解釈だ。
元々はリザードに向けてのものだが…
なるほど、オーク側から見るとそういう解釈になるな。
オークを目の当たりにするまで意識してなかったが…
人間種とリザード種が対オーク同盟を締結した場合、オークにとってもそこそこの脅威になり得るのだろうのか?
そうか、威嚇ではない事を伝えなければならないか…
そこでニックが一歩前に出て、財布から大白金貨を取り出して渡す。
横目でチラ見したが、結構みっちりとつまっている。
コイツやっぱり凄い金持ちなんだな。
一見、下世話な手法だが…
こちらの通貨を渡す、というのは意外に無難なファーストコンタクトかも知れん。
少なくとも害意の無さは伝わりそうだし、何より相互理解が進んだ時に外交問題になりにくい。
【ん?
勲章? 標章? 通貨? 名刺?
どれとも解釈出来るが…
どれだ?
私に渡そうとしている?
貢納? 交渉? 贈与? 契約?
意図が読めない?
いや… 試されている?
敵意の有無?
当然、私の部隊は軍規でリザード種との交戦を禁止されているが…
人間種に対しての規定が無いんだよな。
いや、常識的に考えればリザードに準ずる対応が必要とされる状況だが…
いや!
それも後で問題になるな。
沈黙交易が成立しているリザード種と散発戦闘が収まらない人間種を同等に扱ってしまった場合
後で各所からクレームが出るんじゃないだろうか?
…いやいや!
彼らが同時に来た意味を考えろ!
リザード領内でリザードの案内を付けて接触を仕掛けて来た、ということは…
我々とリザードの関係は当然把握されている筈だ。
待遇に差を付けるのは逆に問題となる。
少なくとも向こうが何かを差し出した言う事は…
こちらがそのまま受け取るのは拙いな。
今後の外交交渉に響く可能性が高いし、何より私が軍法会議に掛けられかねない。
これは… 通貨だな。
プラチナ? 少なくとも卑金属ではない。
一枚だけ渡された、と言うのがヒント。
これが最低額通貨なら、挑発や嘲笑のケースも考えられるが…
恐らくこれは最高額通貨。
つまりビジネスか私的買収の誘い。
当然、この通貨は司令官に提出するとして…
この場で何か返答を出さねば、シコリが残るか…
部隊名義の小切手なら小屋に置いているが…
それは論外だな。
いや、逆にこちらの文化の紹介になるか…
あ、駄目だな。
齟齬が生じた場合、取り返しがつかなくなる。
刀… それも軍刀ではなく私の佩刀を渡してみるか…
これなら後々「あくまで私的な交際であり部隊は無関係」という体が取れる…
いや、まてよ。
「強引に刀を売ってくれと強要されたので、外交的摩擦を生じさせない為、止む無く愛刀を贈呈した」
というシナリオなら無難に収まるのではないか?
よし!
部下に合図だ!】
け、結構みんな考えてるんだな。
ゴメンな負担を掛けて。
俺は今更申し訳なくなってきたので、ペコペコ頭を下げて恐縮の意を表明する。
オークの部下がキョロキョロしながら太刀を持ってきた。
で、デカい…
オークがニックに太刀を渡す。
「ぐお! 重っ!」
ニックがふらついたので、慌てて俺とコ―ヴィヴィが支える。
何だ?
この太刀は何キロあるんだ?
確実に10キロ米袋より遥かに重いぞ。
コ―ヴィヴィが【舟に積んでも宜しいか!?】とジェスチャーを交えて許可を取る。
オークが戸惑う様にキョロキョロしたので、強引に同意と解釈して舟に積んでしまう。
【うーーーーーーーん。
やってしまった。
これ…
明らかに軍令違反だぞ。
あーーーーーー、ヤバいな。
刀を渡したのはミスだな…
変な意味に取らないでくれよ。
こちらに恫喝や威嚇の意味は無いんだからな。
大体、人間種はさあ。
行動原理が謎過ぎるんだよなあ…
我々の聖地に執拗に侵入しては墳墓だけを狙って壊しに来てさあ。
当家も先祖の墓を砕かれてしまったし…
その癖、付近にあるニッケルの鉱脈には全く興味が無さそうだし…
何を考えとるんだ、彼らは…】
ん!?
人間種が墳墓を破壊?
我々の聖地?
どういうことだ?
帝都の騎士団はそんな事をしてるのか?
『ねえニック。
あくまで彼の言い分だけどね?
《帝国が墳墓を荒らすから困ってる』
とのことだ。』
「ん?
そう言ってるの?
帰ったらレザノフ子爵と…
あー、直接議長閣下に報告した方が早いか…」
【っく!
副指令の到着まで2時間は掛かる。
引き止めるべきか…
いや、ここで立ち去られては大問題だな。
立たせたままでは欠礼に当たるか…
小屋に招く?
逆に失礼か?
いや、立たせておくより無難か?
いや、そこじゃない!
そもそもあの小屋の所有権ってどっち?
リザードの不動産? それとも我々オーク種に譲渡済と解釈するべき?
いやいや! 大前提として、今私が立っているこの場所はどの種族の領土?
まあ、その議論をすること自体、厳重に禁止されているのだが…
ジェスチャー…
通じるか?
小屋に来る?
伝わるのか!?
ん?
伝わってる?
いや、これは同行の強要ではないからね?
そこは曲解しないでね?
あくまで、こちらの好意だからね?
わかる?
変な意味に取らないでね!?】
俺・ニック・コ―ヴィヴィと、この地点の管理職っぽいリザードの4人で小屋を訪れる。
小屋の中には3人のオークが居て、半ばパニックになっている。
柄を握りしめたまま離してくれなかったので、正直怖かったが…
隊長が叱責して刀を屋外に放り出させた。
俺達も上着を脱いで裏返し、暗器の類すら所持していない事をアピールする。
隊長以外には意図があまり通じてないが、敵意が無い事だけは伝わってくれたようだ。
ただ、内ポケットに入れていたエーテルを見た時にオークの警戒値が上がる。
うーん、そろそろMPを補充したいのだが、彼らの眼前でエーテルを飲むのは誤解を招きかねない。
【ん?
これは何?
商品? 毒? 一般的な飲料?
どうして隠してたの?】
あ、ミスった…
何かエーテルに嫌疑が掛かってる。
『毒ではないですよ!
私の私物です!
無害です!』
【ん?
いきなり慌てはじめた?
毒?
まさかこっちに毒を盛りに来た?
奇襲?
策略?】
あ、ヤバい。
オーク同士が冷や汗を流しながらしきりにアイコンタクトを取っている。
どうやら俺が彼らに一服盛る為の毒を隠し持っていたと誤解され掛かっている。
『これは我々にとっての薬です。
怪しいものではありません。
嫌疑を晴らす為に飲みますよ? ゴクゴク』
【毒を飲んだ!?】
【馬鹿! まだ毒と決まった訳ではない。】
【スキルセンサーに反応あります!】
【応戦しますか!?】
【早まるな! 敵意は感じない!】
【どうしますか隊長!】
【隊長! 指示を!】
やばい、やばい、オークたちがじわじわと近づいてくる。
圧が洒落にならない。
何だこの暴力的な筋肉は…
俺、風圧で死にそう
『敵意はありません!
この絵を見て!
こんな風にリザードと仲良くなったんです!』
【リザードとの同盟誇示?】
【自分に手を出せば、人間種リザード種の連合軍を敵に回すとでも言いたいのか?】
【そもそもこの人間種はどの立場なんだ?】
【皆落ち着け! 副指令が来るまではどのみち動けん!】
【下がれ! 下がれ! 距離を詰め過ぎるとこちらが非を鳴らされるぞ!】
【しかし逃亡の恐れがあります!】
【我々に逮捕権はない! 相手は異種族なんだぞ!】
【交戦は許可されてないが、防衛は許可されてます!】
【いやいや! まだ何もされてないでしょ!】
突然、オークたちが口論を始める。
もうね、怖い。
声がデカい。
巨獣の咆哮の様に低く野太い声で怒鳴り合っている。
もうね、生物として死を確信するレベル。
君だってそうだろ?
自分の眼前でヒグマの群れが喧嘩を始めたら死を覚悟するだろ?
【落ち着け! これはファーストコンタクトなんだぞ!
諸君は名誉ある武人だろう!
異種族の前で恐慌の醜態を晒すとは何事か!
退出!
総員退出せよ!
指示があるまで、屋外にて待機!
20歩圏内への接近を禁止する!】
【しかし隊長!】
【これは命令だ!】
隊長が部下たちを追い出してくれた。
どうやら部下のパニックを見た事で冷静になってくれたらしく、彼らの嗜好品(乾燥麻薬のようなもの)や装備を披露してくれた。
机の上に大きな石箱のようなものがあり、それが彼らにとっての仏壇兼神棚のようなものらしい。
見た目に寄らず信仰に篤い種族なのだろうか?
さっきも墳墓とか言ってたしな。
『あのー、オーク族さん。
通じないなりに私の主張を伝えますね?
…標準座標≪√47WS≫って悪い奴らが僕たちの対立を煽ってるんですよ。
私はそれを何とかしたいと思ってるんですが…
いきなり言われても困りますよね?』
俺が心底驚かされたのは。
言葉が通じないなりに《この人間種が何らかの嘆願にやって来た》と隊長が察してくれたことだ。
隣でコ―ヴィヴィがうんうん頷いている、コイツも肝が据わってるよな。
1時間ほど待たされた後で、部下オークが慌てて入ってくる
【なに!?
入れ違いで副指令が本部に行ってしまっただと!?
あ!
まずい!
ヤバい!
足止めをしておいて、《やっぱり責任者がでております》という
一番嫌がられる無能ムーブをしてしまった!!
あ!
これは本当にヤバい!!
司令は!?
司令はいつ戻ってくるの!?
あ~、会期末だからな~
いや、それはこっちの都合だ。】
ごめん。
そんなに恐縮しないで。
こっちもいきなり押し掛けたんだからさ。
『じゃあ、今日は帰りますね?
墳墓を壊さない様に中央に伝えておきます。
あ、帰ったら絵手紙描きましょうか?』
俺は身振り手振りを交えて
《一旦帰るが怒ってない
むしろアポなしで押し掛けたのに誠実な対応をしてくれて感謝している》
と伝えた。
ニックがネックレス(神祇省から支給される身分証兼祭具)を隊長に渡すと、コ―ヴィヴィも慌てて胸ポケットから水晶版の様な物(リザード社会の認識票っぽい)を渡した。
俺は貴重品を持って無いので、エーテル瓶を置く。
隊長は少し迷ったがエーテルを受け取ってくれた。
これに関しては後でコ―ヴィヴィに怒られた。
【あれを彼らが飲んでしまったら、それが彼らにとっての毒だったらどうするつもりですか!?】
と。
あの警戒ぶりを見るに、そこまで軽率な種族ではなさそうだが、不幸が起きないことを天に祈っておく。
俺達はオーク達にジャスチャーで念入りに謝意を伝えると、高速艇に乗り込んで帰った。
本当は運行時間を過ぎていたらしいが、臨時便を出させるくらいの権限をコ―ヴィヴィは与えられているようだった。
前線都市の近くの交易ポイントに着くと、すっかり辺りは闇に包まれていた。
だが、珍しく篝火が焚かれている。
よく見ると師匠達がリザードから少し距離を取りながらバーベキューの様な事をしていた。
人間種リザード種の双方がトードを持参する度に、師匠が解体を行い、出た美品魔石をリザード達に渡していく。
リザード側も舟に固定されていたであろう搾油器を河べりに据え、製油の過程を披露していた。
恐らく向こうの種族の中で一番お調子者であろうリザードが油を全身に塗って泳ぐジェスチャーを繰り返す。
彼なりにリザード文化を紹介してくれているらしい。
人間種は肉を食べ、リザード種は油を何かとカクテルにして飲んでいた。
幾名かの無鉄砲者が相手の食性に合わせようと試み失敗していたが、場はその挑戦を好ましいものとして認識していた。
俺とコ―ヴィヴィは日常に帰った事を実感して安堵の溜息を洩らし、そして親愛の抱擁を交わした。
もしも尻尾が我が身に生えていれば、間違いなくコーヴィヴィに巻き付けて感謝を伝えたね。
俺達の抱擁を見た何組かが異種族同士軽く抱擁して別れを告げ合っていた。
その中でも《解体》というわかり易い技芸を披露していた師匠は特に人気らしく、多くのリザードから抱擁を求められ、快く応えていた。
どうやらこちらは上手くやってくれていたらしい。
「チート。
これで良かったんだろ?」
『どうしてあんな風に仲良くなれてたんですか?』
「最初の一声を掛けた奴が偉大だったんだよ。」
工房に帰ると、俺は空き部屋に入り、鍵を掛け、一人で丸まって寝た。
久しぶりにゆっくり眠れた。
【伊勢海地人】
資産 現金5300万ウェン強
翡翠コイン50枚 (リザード種の法定通貨)
古書《魔石取り扱いマニュアル》
古書《帝国本草学辞典》
北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)
債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)
地位 バランギル解体工房見習い (廃棄物処理・営業担当)
前線都市市長
前線都市上級市民権保有者
元職工ギルド青年部書記 (兼職防止規定により職工ギルドを脱盟)
前線都市魔石取引所・スペース提供者
廃棄物処理作業員インターン
戦力 赤スライム(テイム済)
冒険者ゲドのパーティーが工房に所属
市長親衛隊 (隊長ラモス)
家族 第一婦人 メリッサ
第二夫人 ノエル
第三夫人(自称) エリザベス
【読者の皆さまへ】
この小説を読んで
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