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チートでハーレム募集を打ち切る

謝罪する筋合いではないのだが、ノレさんにメリッサとの結婚を申し訳無さ気に報告する。

彼は一瞬複雑な表情をしたが、すぐに常識人としての態度に戻り祝福してくれた。



「メリッサさんと出逢ったのは最近の話ですよね?」


『短い間ではありますが、家を守っていてくれていますので。』


「妥当な理由だと思います。」



しばらくノレさんと街を散歩しながら、近況報告を交わす。

赤い糸の先端が動いたので、あの女が起床したことが解ってしまう。

トイレで数分本を読んでから、リビングに忍び込んで食糧を盗んだ後、2階の研究所に籠り始める。

ルーチンを墨守する女だ。



屋台街が開き始めたので、二人で軽く食事を取った。

人参の油漬とスネークの串焼きをつまむ。

食事ついでで恐縮だがノレさんに様々なお願いをさせて貰う。



『この赤い糸が発生してしまった今、俺の行動にはかなりの制限が掛かかってます。

少なくとも隠密行動が出来なくなってしまいました。

どこに居てもこの調子ですw』



遠巻きに野次馬が俺達を見物している。

「税金で屋台三昧かァw」

「仕事しろーw」

「俺も串焼き片手に仕事したいw」

「スライム政策やめろーw」

「ゴミ処理と市長、どっちが本業なんだw」

「えー、あれがイセカイ市長? なんかチビじゃねw」

ありとあらゆる罵詈雑言が飛んでくるが、軽侮はあっても憎悪が混じっていない事にひとまず安心する。



「これは酷いですねw

ああ、なるほど。

それでレストランではなく屋台を選んだのですね。」


『極力、高い店には入らない事にします。

予算の使い方で勘繰られたくないので。』


「賢明です。

私も身綺麗にすることにします。」



ノレさんにはスラムから職工ギルド横のテナント付き物件に転居して貰う予定である。

(物件のリフォームが完了次第、引っ越し開始)

この人には職安の様な仕事を任せる。

グランバルドに来てから、空き家や募集中の仕事を紹介する窓口の需要を痛感していたので、どうしてもそれを作りたかった。

これに関してはレザノフ卿もフラットな感情で応援してくれているので、商業ギルドへの引き渡しも視野に考えている。

ノエルをそこの窓口で使うか否かはノレさんに任せる。


別れ際に


「娘に会っていきますか?」


と聞かれたので『改めて正式に報告の場を作って欲しい』とだけ答えておく。




その後、人力車を拾って工房に帰ることにする。

運命線の効果は極めて強力で、白中でもその赤い光線が霞むことはない。

今までは無かったことだが、群衆が俺の人力車を常に遠巻きに囲む様になった。

冗談抜きで逃げ場も隠れ場も無くなってしまったな…

後ろを見ると、小学生くらいの元気な子供たちが無邪気な笑顔で人力車を小走りに追いかけて来ている。

左右の建物の窓からは俺を指さす人々の好奇の目があった。


この日気づいた事だが、住民たちの顔はどれも微かに見覚えがある。

何度か雑談したことのある相手も居る。

そう。

俺は市長以前に、もうこの街の住民になりつつあるのだ。

川崎や大阪に住んでいた頃とは違う。

俺は認知されているのだ。

公称5万という人口は公人が匿名性を保つにはあまりに少ない。

赤い糸に逃げ場を防がれた今、これは利用するしか選択肢が無いのである。


試しに群衆に手を振ってみると、その方向に居た人々が笑顔になって何事かを叫びながら手を振り返してくれた。

驚き反対側に手を振ると、そちらに居た人々も笑顔で手を振り返してくれた。

勿論、冷たい表情をしている者もいたが、概ね好意的な反応だった。


《ああ、俺にはもうこれ以外の選択肢が無いんだな》

と寂しい気分になったので、工房に着くまでは身体を人力車の座席に深く沈めて顔を隠していた。





工房に帰ると師匠がベア系の解体作業を行っていたので、臓物の処理だけ手伝う。



『すみません、こんな中途半端な手伝いしか出来ず…』



「はははw 

臓物処理が一番手間の掛かる工程だよ。

俺はかなり助かってる。

チートが作ってくれたスライムの法律。

職工ギルドで聞いて来たが、現場では概ね好評だよ。」



『経営者レベルではどうですか?』



「様子見状態だな。

効率性に関しては評価されている。

後はエンドユーザーのスライム観への不安かな。

そっちは時間掛かるよ。」



『スライム処理を行っている工房では、スライム印を義務付けるのはどうでしょう?

俺も抵抗ある人にスライム処理を押し付ける気は無いので。』



「あー、それは今更意味ないかもな。

だってもう全ての食肉業者がスライム使ってるから。

オマエの配った赤スライム壺、アレって本当に誰でも使えるんだなw

《追加で売ってくれ》って言われ始めてるからな。」



『無料で配りますよ。

流石に自分で作った法律で商売をするのは…』



「悪徳市長だなww」



『はい、流石にそんな事は出来ませんw

もう既にあまり評判は良くないようなのでw』



「オマエは善政敷いてる方だと思うよ?

ただ、周囲からヘルマンさんの孫だと思われてるのがネックかな。

そこで評判を落としている。」



そう。

《チート・イセカイはヘルマン組長の隠し孫である》

という無責任な噂が広がっている。

俺やヘルマンは必死に否定しているのだが、逆にその必死さが噂に信憑性を与えてしまっていた。


噂する人間の気持ちもわかる。

俺は素性も知れない流れ者であり、風貌体格も極めて貧相である。

そんな人間が数か月で市長職を獲得してしまったら?

それなりの大物がバックに付いていると邪推されて当然だろう。

俺とヘルマンは何度か一緒に食事をしているし、趣味(歴史談義)が合う事もありかなりフレンドリーな関係だった。

またヘルマン組のシノギである、ゴミ処理場・養鶏場に対して積極的な支援をしているし、更にはドレーク一派との手打ち式でも立会人を務めている。

ヘルマン組長の隠し孫だから、という説の信憑性が高まっても仕方ない。


また、ジーン・ヘンリークという二大犯罪者の捕縛に貢献した事が俺にとっての大きなターニングポイントとなった。

この両名は全国指名手配されるほどの大悪党で、ヤクザとしての格はドレーク・ヘルマンより遥かに上である。

《2人が逮捕されずに力を蓄えた場合、我々地元ヤクザに取って変わっていた可能性は高かった》、と何人かのヤクザから礼を述べられた。

また、ジーン逮捕の際に俺は巻き添えを食って騎士に踏み潰されてしまったのだが、これに尾びれが付いて。

《イセカイ市長が騎士を引き連れて凶悪犯のジーンを名誉の負傷を負ってまで捕縛した。》

というストーリーにすり替わった。


これらが、ヤクザをあまり好まないにも関わらず、俺が地元ヤクザを支持基盤として持つ事になってしまった理由である。

当然、俺同様にヤクザを嫌う層も多いので、そういう人々からは俺は嫌われている。

レザノフ卿を筆頭に殺意を抱く人間が多いのも致し方ないだろう。



『師匠の評判まで落としてしまっているかも知れません。

本当に申し訳ありません。』



「いいよ、俺は内心オマエの飛躍を楽しんでるからw

次は何をやらかすんだ?」



『やっぱり、俺のライフワークはリザードとの緊張緩和ですかね?

いや、反発が多いのは解かってますし、告発騒動の後始末が先ですけど。』



「オマエがリザードリザード五月蠅いから

俺も少し興味出て来たよw

今度、俺も接触に連れて行ってよ。

危険性高い?」



『リザードの連中は平和的なんですけど…

そもそも他種族との接触って禁忌なんですよね?

処罰とかありそう…

そっちが怖いです。

遥か北の方では、オークと戦争しているんでしたっけ?』



「ああ、帝都の精鋭は中間エリアでオークと睨み合ってるらしいな。

たまに偶発戦争が起こってかなりの戦死者が出てるよ。

俺が子供の頃にも大規模衝突があって、戦死者が2万人を越えたって噂がながれたしな。」



『俺、オークとも話せると思うんです。

少なくともスライムやリザードの考えてることは解かります。

結構、有用だと思いません?』



「じゃあエリザベスさんは何を考えてるの?」



『いやあ、それがあの女の思考がイマイチ読めなくてw』



「有用への道は遠いなww」



『はははw 一本取られましたww』




師匠の手が空いたので、二人でリザードの様子を見に行こうとするが、メリッサとベスおばが付いていくと言って聞かない。

(ついでにニックも便乗して来た。)

どうやらずっと揉めているらしい。

要は女同士の序列の話だ。

グランバルドの慣例であるが。

複数の妻が居る場合、他の妻たちは第一夫人に服属しなければならない慣例がある。

要は第一夫人=正妻、それ以外の妻は側室=第一夫人の使用人という原則がある為である。

なのでグランバルド帝国では、貴族女性が第一夫人以降に嫁ぐことはほぼあり得ない。

ベスおばも運命線さえ無ければ、俺とメリッサの婚姻に何の興味も示さなかっただろうが、話の展開によっては日頃馬鹿にしていたメリッサの風下に立たざるを得ない状況に追い込まれている。

故に、この女も必死だ。



『第一夫人はメリッサ。

これは覆さない。

アンタとは婚姻関係に無い。

だからメリッサに従う義務はない。

これでいいだろ?』



「ワタクシも概ね同意ですが。

この糸が消えない限り周りが納得しないかも知れませんわ。」



『何でリザードとの接触について来るんだ?』



「伊勢海クンがこの女をリザードに紹介するとか言ったからでしょ。

まあそれはそれとして、興味が湧きましたし。」



『暴れるなよ?』



「はいはい。

おとなしくしております。」




『みんなも聞いて欲しい。

グランバルド帝国の方針とは異なるかも知れないが

俺の目標はリザードを始めとした他種族との緊張緩和だ。

未見だがオーク種族との融和も目論んでいるし、コボルト種族との接触も念頭に置いている。』



「「「「コボルト?」」」」



『そういう種族が居るんだよ。

リザード種族の支配地を挟んで俺達の住む地の遥か向こう側に住んでいる。

かなり狂暴で強靭な連中だそうだ。』



「ワタクシ…

《コボルト》なる種族は初耳ですわ。」



『居るんだよ。

この河の遥か向こうに。』



「論拠は?」



『リザードが言ってた。』



「…真偽は保留させて貰いますわ。」



『だな。 俺だって見た事はないからな。』




リザードとの交易台に到着する。



『「「「「ゲ――――――ヴィ!!!!」」」』



事前に教えた通りのリザード語で挨拶を叫ぶ。

ここに居るのは、俺・師匠・ドランさん・ラルフ君・メリッサ・ベスおば・ニックの7名。

小太りオジサンはいつもの定位置で万一に備えて貰っている。

彼には記録係もお願いしており、俺が不慮の事態に倒れた時の周囲への引継を任せている。



こちらの呼び掛けから2分くらい待っただろうか?


「「「キョンニチワ。」」」


数匹のリザードが集まって来る。

俺は手土産代わりに銀塊を10キロだけ贈呈する。



【おお! 欲しいものをピンポイントでくれるな!】

【非常に助かるが、対価はレート表通りでいいのか?】

【いや、それだと彼らの持ち出しが大きすぎるだろう】

【指示通り、四角四面に支払ってみよう。】

【今のレートだと買い叩く形になってしまわないか?】



彼らも相当葛藤があるようだったが、おずおずと翡翠コインの詰まった大袋を持ち出してくる。

大袋の中身は1万枚の翡翠コイン。

1000枚単位の小袋を10袋入れてある。

リザード側はかなり慎重に、俺達の眼前で1袋1袋に1万枚の翡翠がある事を証明してみせた。

相手も冷や汗らしきものをかいており、相当な緊張を強いられているらしい。

その大袋が17袋積み上げられた。

彼らの現在のレートでは銀1キロ=17000翡翠コインで換算されているらしい。



俺はベスおばに『翡翠片17万枚ってどう?』と尋ねる。

「こちらに有利過ぎるわね。」

という妥当な回答。

やはり、この女は馬鹿ではないのだろう。

長期的な取引関係が開始された場合のメリット・デメリットを素早く計算し始めている。

もしも交易が大規模化してしまった場合、翡翠のインフレ・銀の流出が考えられる。

前者は兎も角、後者は帝国経済を混乱させ兼ねない。



『今回はこのレートで交換しましょう。

正直に申し上げますが、このレートでは我々に有利すぎます。

ですので、この取引を恒常化させる意図はありません。

お互いに辛抱強く負担の少ない接触方法を考えましょう。』



勿論、リザード種は殆ど人語を解さないのだが。

《レート》《銀》《交易》《接触》という単語は覚え始めていた。

俺はそれらの単語のリザード発音を教えて貰い、ニックとベスおばに引き継ぐ。

流石に帝都の大学まで出ているだけあって、二人の情報処理能力は目覚ましく即興の辞書が完成してしまった程である。

そして相手のリザードも同様に賢者であるらしく、手際良く水晶板のような器具に記号の様なものを打ち込んでいく。

御丁寧に《コーウェキ》《セッシオク》などと吹き込んでいるのを見ると、彼らの文明は録音技術まで兼ね備えているらしい。



【えっと、これは交易ではなくて、我々の食性の話なんだけど。

我々は普段食用油を主食にしておりますが

携帯食としてこういうペレットも口にします。】



リザードが海藻を固めたようなブロックを俺に渡す。

ワカメとコンブを酢で練り固めたような臭いである。

味見をしようとするが、慌ててリザードが止めに来る。



【違います! これはあくまで貴方達へ提供する為の資料!

相互理解の材料です!

我々はお互いに身体の構造が異なります!

食品の交換は当面控えるべきかと!】



常識的な連中だ。

俺は軽率を詫びる。

師匠が弁当代わりに人間種のブロック食(獣肉と穀物を練り固めている)を手渡す。



【おお! これは獣脂ですか!?

あなた方はこれを食するのですか!?

いやあ、驚きましたな。

種族は異なっても文明種族同士、同じ発想に至るのかも知れません。

いやあ、感服しました。】



その時、たまたまトードの群れがこちらに急接近したので驚くが、リザード達が素早く素手で制圧する。

彼らは非戦闘員とのことだが、やはり動きは機敏極まりない。

こちらの面子で戦えそうなのはドヤ顔でトードを蹴り飛ばしたベスおば位のもので、戦闘の役には立てそうもない。



【お怪我はありませんか!?

すみません、本当ならこの付近のトード・スネークは駆除しておきたいのですが

どこまで上陸していいか見当も付きませんので。】



『いやいや! どうかお気遣いなく! 先程の駆除、助かりました!』



俺は伝わらないなりにジェスチャーを何度も繰り返し、《迷惑はしていない》という旨を何とか伝達する事に成功する。



「チート、リザード種族の皆さんがトードやスネークをどう扱ってるのか尋ねてくれ。

俺達が食用・製薬用に使っている事を伝えながらな。」




師匠がリザード達に披露するようにベスおばが蹴り潰したトードを解体し始める。



【おお、器用だな!】

【人間種はしょっちゅう陸上動物を狩ってるからな。】

【コボルトと同じ狩猟文明だよ。】

【凄い手際だ!!】



流石に名手バランギルだけあって、一瞬で解体し終わり、部位ごとに地面に丁寧に並べてしまう。



【あ! ひょっとして我々がどの部位を必要としているか尋ねてるんじゃない?】

【きっとそうだよ! 一つ一つ指さしている!】

【しかし我々は分解せずに丸ごと搾油するからな。】

【搾油の概念、人間種にあるのか?】

【あるだろう。 だってかなりの文明度だよ?】



リザード達は自分達で制圧したトードを頭上に掲げると、絞るようなジェスチャーを始めた。

中々意図が通じないことに業を煮やしたのか、1人が小舟を引っ張って来て接岸し、俺達を案内する。



「兄弟子、これって彼らの軍事機密なんじゃないですか?」


『俺も前までそう思っていたんだけど、そもそもこれって軍艦ではないのかも知れない。』




【えっと、この舟は作業船です。

あ、これ私個人の私物ですので、やや標準のものとは異なりますけど。

私物が散乱していて申し訳ないですww

今度はちゃんと片づけておきますねww】



リザードはそういうと、トードをミキサーのような筒に放り込み、ハンドルをクルクル回し始めた。

下に置いてある大瓶に油が注がれる。



【これの油は工場船が買い取ってくれます。

かなり買い叩かれますけどww

それで生計を立てている者も多いんですよ。

あ、この油は大半が工業用に使われます。

ほら、高速船を動かす時のシリンダーとか

で、一部の上澄みを濾過加工したものが食用油ですね。

えっと、陸上文明の方々には抵抗あるかも知れませんが、こんな風に小魚を油漬けにしたり。

はははw 私の私物ですけど】


そう言ってリザードは…  地球で言う所のオイルサーディンを見せて来た。

一同は思わず「うわあ」とドン引きするが、俺は魚介系が好物なので食べてみたいと感じた。


『一口食べてもいい?』

とジェスチャーを交えて質問するが、叱責される。



【いいわけないでしょ!

種族が違えば食性は絶対に異なるんです!

ここでアナタが死んじゃったら外交問題じゃ済みませんよ!】



そりゃあ、そうだ。

素直に謝罪して船から降りる。

師匠がトードの毒袋や皮や肉を順に指さして、需要の有無を質問。

部位分け自体が想定外だと確認する。

ただ美品魔石は向こうでも宝飾として珍重されているらしいのでプレゼント。


【そんな貴重なものを受け取れる訳がない!】


と拒まれたので、師匠とラルフ君が10体のトードから7つの美品魔石を取り出して、相手を更に驚かせる。


【いやあ、器用な方々とは思っていましたが、ここまでとは…】


驚嘆する彼らに美品魔石を渡す。



『我々はこの魔石から薬剤を作るんです。』



そういってベスおばから借りたポーションを見せる。



【おお、やはり製薬の概念もあるのか。】

【人間種とは結構話せるかも知れませんね!】

【思った以上に早く意思疎通が出来るかもな。】



俺はジェスチャーを交えて

『このポーションは人間種が体力を回復させる為に用いるものだ。』

と解説。

向こうにも似た概念の薬剤があるらしく



【ああ、我々で言う所の回復剤ね】

【へー、液体なんだ】

【何で粉末にしないんだろう?】



とあっさり理解してくれた。

彼らは《回復剤》と呼ぶ錠剤を呼ぶ錠剤を手渡してくる。

流れでポーションと回復剤を交換。

お互いに平静を装っているが、内心ではかなり怯えている。

手の内を見せすぎているのだ。

もしも人間種とリザード種の対立が再燃すれば、俺達は種族に対して恐ろしい利敵行為を行っていることになる。

互いの回復手段、食性。

今回の接触で互いに発覚してしまった。

レザノフに斬殺されても文句は言えない。

マカレナの末路を思い出して背筋が寒くなる。

向こうも【脳裏】で切腹やお家断絶を連想しながら、その恐怖を押し殺してこちらに微笑んでいる。

互いに良い死に方は出来ないだろうな。




別れ際、やはりリザード達が俺とベスおばを繋ぐ赤い糸について質問してくる。

そりゃあね。

俺が君達でも気になるよ。


上手く説明できずに要領の悪い回答をしていたのだが、メリッサとベスおばが醜悪な口論を始めたことにより何となく伝わったようだ。

皆で女達を羽交い絞めに引き離す。



【要するに婚姻とか生殖に関する証明ってことでしょ?】

【ああ、やはりあの2個体は雌だったか。】

【争いが発生しているということは雌の地位序列に関連づいてるんだろうね。】



種族の恥だから見られたくないのだが、リザード達は淡々と手元の水晶板に記録し続ける。

《セイサイ》《ワタクシ》《ダイイチフジン》《メカケ》

発音もかなり正確になってきている。

頼むよ、種族の恥を記録しないでくれ。

あー、多分人間種の文化様式とかすぐに解析されちゃうんだろうな。

願わくばそれが種族間の緊張緩和に役立ちますように。



お互い疲れたので、別れることにする。



【銀塊を200キロ欲しい。

それさえあれば全ての改修作業が終わり、我々も中央の課したノルマから解放される。

勿論対価を支払うので、あなた方の欲しいものを教えて欲しい】



俺には言葉が完璧に通じると悟ったのか、一匹のリザードがかなり具体的に要求してきた。

200キロは個人規模の交易を越えるな。



『わかった。

200キロ用意してみる。

対価に何を要求すれば良いのか見当も付かないが

あなた方に負担を掛けず、かつ面子も潰さない物量を要求することを約束する。』




そう言って互いに別れた。

小太りオジサンを合わせた8人で翡翠コインを運ぶ、かなり重いので荷車を用いる。



『こんな感じ。』



工房に帰った俺がそう締め括る。

一同には山ほど言いたいことがありそうだったが、疲れていたのかその日はさっさと眠りについた。



俺への説教は翌朝ちゃんと行われた。

確かにグランバルド人の視点から見れば、種族への叛逆行為以外の何物でもないよな。

恐ろしい事に、俺の特殊極まりない立場では、このリザードとの単独交渉に違法性がない。

自治都市の首長には外交権が付与されているからである。

勿論、権利の保有と行使が異なる事くらいは理解しているつもりだが。


やって来たノレさんと互いに経過報告。

漬物屋を復活させられそうなので、空きテナントを賃貸する方向で話を進める。

後日、ノレさんの集めた職人と面談することに決まる。

どうやら紐縄工房も埋まる見込みなので、心底安堵する。

やはりノレさんにテナント募集を任せたのは正解だった。

話の最後に。


「第二夫人で構わないので、娘の面倒を見てやってくれませんか?

あ、メリッサさんこちら婚礼祝です、どうぞ。」


と頼まれたので、師匠とメリッサに承諾を得てから快諾した。



みんなゴメン。

やっぱハーレムやめるわ。

仮に女遊びをするにしても一カ所に固めるようなアホな運用は出来ない。

ノレさんには世話になってるから今回は顔を立てたけどさ。

これでハーレムの募集は打ち切り。

【伊勢海地人】



資産 現金5300万ウェン強 

   翡翠コイン50枚 (リザード種の法定通貨) 

   古書《魔石取り扱いマニュアル》

   古書《帝国本草学辞典》

   北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)

   債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)


地位 バランギル解体工房見習い (廃棄物処理・営業担当)

   前線都市市長

   前線都市上級市民権保有者

   元職工ギルド青年部書記  (兼職防止規定により職工ギルドを脱盟)

   前線都市魔石取引所・スペース提供者

   廃棄物処理作業員インターン


戦力 赤スライム(テイム済)

   冒険者ゲドのパーティーが工房に所属

   市長親衛隊 (隊長ラモス)



家族 第一婦人 メリッサ

   第二夫人 ノエル




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