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チートに疑念を抱く

あくまで1ウェン=1円のレートを想定した上での話だが。

前線都市の物価は安い。

少なくとも話に聞く商都より遥かに安い。


何せ宿代。

2000ウェン出せば、この街で一番の高級宿であるセントラルホテルに泊まれる。

商都で同じランクの宿に泊まろうとすると1万ウェン弱掛かるとのことである。

5倍の価格差だ。

だがこれは宿代だけの話で、食糧になると2倍も開かないらしい。


要は不動産価格が安いのだ。

犯罪者や賤業従事者でもない限り、苦も無く城壁内に住める。


但し産業の空洞化が著しいので、正業に就くのが意外に難しい。

働き口が少ないので、意欲ある若者は流出する。

景気が悪いので資本家も流出する。


更には「前線都市」の名に違わず、リザード種族と対峙する最前線なので、安全を求めて人々は流出を続けている。


グランバルド首脳部が緩やかにこの街を放棄しようとしている事は明白であり、それは様々なルートの政治的メッセージで周知されている。



それでもこの街に暗黙の支援が与えられている理由は一つ。

何故か日本人がこの街の付近に転移してくるからである。





『え!? 

冒険者ギルドが日本人の世話をしてるんですか!?』


「いや、世話という程の事では無いのだけどさ。

日本人っぽい奴が街の外でウロウロしてたら、とりあえず冒険者登録させてから

生活の安定を助けてやれって指示されてるんだ。

俺もギルド長になって初めて知ったよ。

日本人は決まってこの辺に現れるんだってな。」


『いや、ドレークさん。

俺、そんなこと初めて聞きましたけど。』


「ん?

だって聞かれなかったし。

見慣れない余所者が居たら、冒険者ギルドに話が来るから。

来訪者関連の指示は冒険者ギルドに降りて来るんだよ。

で? 何で急に日本人の話?」


『あ、いえ。

ゲドさんが日本人をパーティーに加えたみたいで

明日ウチに来るんですよ。』


「マジか!?

ゲドさんなぁ…

ドワーフ族のやり方に口を出す気は無いんだけど…

あの人、目立ち過ぎだよ。

チート君の方からそれとなく注意してくれないかな?

後、あの遊牧女。

アイツは…

あれは、アウトでしょ。」


『え?

ゲレルさんがまた何かやったんですか?』


「あの女は…

もう全面的にアウトだよ。

ヤバ過ぎる。

チート君の身内だから、こっちからどうこうする気は無いけど…

もう少しおとなしくするように注意してくれないかな…」


『次に会ったら駄目元で頼んでみます。』


「いつも済まないね。

チート君。

俺から何か提供出来ることある?

カネ以外になってしまうけど…」


『…最近、自分の無知を思い知られる事が多いので

今度時間がある時にでも色々教えて下さい。

リザードの事とか。』



【リザード?

解ってるのか?

故意の接触は禁止だぞ?

かつてそれを試みて切腹させられた騎士も何人かいると聞く…

首脳部が恐れているのは偶発戦争。

何せ話の通じない連中だからな。


チート・イセカイ…

リザードに興味を持ってるのか?

何とか諫めるべきだが、この男には借金を待って貰ってる。

俺の口からは指摘し辛いな。


リザードの事なら、実際に対峙したルッツやヨーゼフから俺も聞き取ったが…

どうも奴ら… 話と印象が違うんだよなあ。


端的に言えば、「戦意が乏しい」。

少なくとも殺されかけた二人ですら、そう感じている。


大体、おかしいんだよな。

あのトカゲ野郎ども…

船を浮かべてこちらを観察しているだけで

向こうから攻めて来る気配がない。


少なくとも戦時の緊張感を向こうは持っていない。

上層部はこの事わかってんのかな?


いや、俺は直感でそう感じているだけなのだ。

余程、こちらが馬鹿をやらかさない限り、リザードとの戦いは起こらない。

そう確信しているからこそ、俺は前線都市に居座って最後の利権を頂戴している訳だが…


チート・イセカイ、頼むから騒ぎは起こさないでくれよ。

これ以上上層部に睨まれるのは勘弁だ。

幾ら自治都市とはいえ、高位役職者が駐屯していない、というのは考えにくい…

絶対に大きな権限を付与された軍人が身元を隠して滞在している筈だ。】




ドレークギルド長、感謝します。

その長いモノローグで大体状況が把握出来ました。

俺は心底感謝しながら工房に帰る。


神野郎の思惑が外れてるようで何より。

ヒトもトカゲも、グランバルドではみな賢い。


馬鹿なのは…

俺とこの女くらいのものか…




「あら、強姦魔が戻って来ましたわw

怖い怖いw

ワタクシ、乙女の危機を感じてしまいますわww」



『明日来客があるんだ。

そういう喧嘩腰で接客するのはやめてくれよ。』



「来客?」



『日本人が来る。

ゲドさんの仲間になったみたい。』



「あら、そう。

それは驚きね。

じゃ、ワタクシ忙しいから。」



ベスおばのリアクションは乏しく、さしたる感慨も無い表情で研究室(この女が勝手にそう呼んでいるだけだが)に引っ込んでしまう。

心を読む間が無かったが、リアクションから見て特別な対日観は持っていないようだ。



その後、ラルフ君と一緒に空き部屋の掃除をする。

ゲドパーティーの人間関係はイマイチわからないのだが、家庭用の部屋を一つと個人部屋を2つ提供してある。

何度か心を読んでみたが、部屋割りに不満はなさそうだ。

(さして感謝もされていないが。)



『ラルフ君はリザードって見た事ある?』


「ここに来る時、乗り合い馬車の中から覗いてみました。

僅かですが、船の中で食事しているのが見えました。」



『そんなに接近したの!?』



「いや、見えるのは街道と河が一番接近している辺りだけでですよ。

その地点でも200メートルは離れてましたから。」



『ラルフ君、目がいいんだね。』



「乗合馬車って大抵、中に遠眼鏡を置いてるじゃないですか?

それで覗き見ただけですよ。」



『そっか。

どうだった?』



「どうとは?」



『リザードはやっぱり凶暴そうだった?』



「あー。

遠目にもゴツさは伝わってきましたね。

ただ、本当に普通にメシを喰ってただけだったので…

《コイツラも普通に生きてるんだなあ》

って思いました。」



『へー、そうなんだ。』




リザードの世界にも≪√47WS≫から送り込まれた異邦者が居るのかな?

いや、奴の口ぶりからすれば必ず居るだろう。

スライムよりも疎通は楽だと思うんだよな。



俺は自室に戻って赤スライムを取り出し、ベスおばの食い散らかした食べ物のカスを回収させた。

最近、産み出された堆肥を特定の箇所に吐き出させる芸を仕込んだ。




ねえ、みんな見て見て!

こうやって、特定の箇所にベタァっと押し付けるとね?

ほらほら!

ね?

俺が指定した壺の中に堆肥を貯め始めたでしょ?

それでね? それでね?

別の壺に押し付けると…

ほらほらほら!!

完全に排泄場所が切り替わったでしょ!?



…くっそ。

俺、こんなに真面目に異世界しているのに。

イマイチ絵面が地味なんだよな。


俺…  本当にチートなんだろうか?

【伊勢海地人】


資産 現金5200万ウェン強  

   古書《魔石取り扱いマニュアル》

   古書《帝国本草学辞典》

   北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)

   債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)


地位 バランギル解体工房見習い (営業担当)   

   前線都市上級市民権保有者

   職工ギルド 青年部書記  (青年部のナンバー2)

   前線都市魔石取引所・スペース提供者

   廃棄物処理作業員インターン


戦力 赤スライム(テイム済)

   冒険者ゲドのパーティーが工房に所属




【読者の皆さまへ】



この小説を読んで



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