チートでスライムをテイムする
俺はグランバルドを地球の近世くらいの文明度、と踏んでいたが。
それは典型的な地球人の思い上がりであり、部分的には遥かに地球よりも先進的かつ効率的な点が見受けられる。
俺は今、猛烈に感動している。
スライムを活用したゴミ処理工程を見学させて貰っているからだ。
幾つかの処理穴に無造作に放り込まれたゴミは、その中に蠢く色とりどりのスライムによって40分前後で消化され堆肥に変換される。
消化の終わった処理穴に竹竿を突っ込むと全てのスライムが殺到して固着する。
その竹竿を引き上げスライムを空穴に放り込んでから、残った堆肥を空気圧ポンプで荷車に積んである樽に充填するのである。
「こんなものを見て面白いものですか?」
ゲイリー親方や機械係のジョーンズさんが不思議そうな顔つきでこちらを伺うが…
グランバルドに来て一番感動した。
日本人なら誰でも感動すると思う。
(特にゴミ処理で悩まされている自治体にお住まいの方は、である。)
ラノベやゲームでは、スライムは打倒されるべき雑魚キャラとしてのみ登場するが、ここではインフラの一翼を立派に担っている。
なあ、想像してみてくれよ。
リヤカー満載のゴミがスライム一匹の働きで1分位で堆肥に変わるんだぜ?
後、鉄屑がスライムの力で鉄球に変換されたのは更に驚きである。
銅球や錫球が転がっているのを見る限り、分別能力も備えているようだ。
俺は地球の化学技術にそこまで詳しい訳ではないんだが、これは凄いリサイクル体制なのではないだろうか?
『親方! 素晴らしいです!
ここは前線都市で一番有益な施設ですよ!』
俺は興奮して叫ぶが、処理場の皆は困ったような表情でお互い顔を見合わせるだけだった。
そりゃあそうだろうな。
俺だって異世界から転移してきた奴が日本のゴミ収集車を絶賛した所で反応に困るだろうし。
《ゴミ処理作業は今後絶対に手伝わせない》という約束であったが、俺は親方に平身低頭し、何度も頼み込んでスライム移動作業を手伝わせて貰う。
グランバルドに来て、一番テンションが上がっているのだろう。
俺は処理の終わった穴から穴を駆け回ると、スライムを竹竿で集めては空穴に放り込み続けた。
不思議と笑いが止まらなかった。
『ああ、俺ってファンタジー世界に居るんだなあ。』
という実感をようやく持つ事が出来たからだろう。
《グランバルドは月の内側》というネタバレを転移前に喰らってしまったからであろう、俺はイマイチこの異世界に没頭出来ずに斜に構えてしまっていたが、ようやくファンタジー世界の一員になれたのだ。
『第七処理坑完了です!』
「あ、ええ。
そんなに処理工程が気になりますか?」
『いやあ!
恐ろしく効率的ですよ!
この形になるまでかなり試行錯誤あったんじゃないですか?』
「御覧の通り、この施設は金欠でまともな設備も無いのですが
前線都市自体が新しく建てられた街なので、処理場のセオリーは踏めていると思います。」
『え? これでも設備ないんですか?』
「ははは。 無い物尽くしですよ。
例えば消臭剤。
大抵の都市には備わっているんですけどねw
こんな場末の処理場にはそんな初歩的なものも支給されない。
そりゃあ、高級品なのは知ってますけど…
それでもねえ…」
『ああ、やっぱり消臭剤は求められているんですねえ。』
「そりゃあ…
私らだって人間ですから…
人並みの扱いを受けたいですよ…」
この数日で、ゴミ処理作業員が人並みの扱いを受けてない事は十分理解出来ている。
ノエルが親に反発した気持ちも、そこから芽生えた上昇志向も嫌というほど想像出来た。
別に職業差別の是正とか差別の撤廃とか、そういう話をしたい訳じゃない。
ただ、気になった女の子の苦境くらいは緩和してやりたいと感じているだけである。
後、漫画とかラノベだとこういうニッチな業界での体験がストーリーを進展させる際の重要なヒントになっているケースが多い。
故に、俺が標準座標≪√47WS≫の連中に一泡吹かせてやるためには、ここでの経験は何かの役に立つ筈だ。
俺の武器は【心を読む】ことだけ。
人間の引き出しに限度がある以上、特定業種の人間ばかりと付き合っていても世界は広がらないだろう。
今までの俺は冒険者(それもある程度軌道に載っている)との付き合いに重きを置きすぎた観がある。
ここに来て、今まで存在を認識してすらいなかった農家やヤクザや賞金首の心を読めるようになったのは非常に大きい。
さっきからゲイリー親方が不安そうにこちらを見ているが、笑いが止まらない。
『ふふふふw』
そして今この瞬間、あまりに狙い以上の収穫を得れたので、興奮のあまり
『わはははははw』
とハッキリ声に出して笑い声をあげてしまった。
余程奇異に映ったのだろう、職場の面々が顔を合わせながらこちらに近づいて来た。
おいおいw
別に気が触れた訳じゃないよw
【ボクは無機物が食べたい。 無機物ならもっと食べられるのに。】
【ボクはタンパク質が摂取したい。 この場所は外れだな】
【体重の1000倍のタンパク質を摂取出来れば分裂出来る。 あと100倍でゴール】
【繊維をもっと摂取出来れば、ボクは進化出来る】
さっき気付いたんだ。
スライムの【思考】を聴取可能であるってことをね。
もっと早く気付くべきだった。
文章すら【読み取れ】てしまうのだ、生物の意志を【読めて】も不思議ではあるまい。
『ゲイリー親方!
ここに居るスライムは色とりどりですが
個性や特徴はありますか?』
返って来る答えは解かっているが、一応確認する
「いや…
あまり意識はしてません。
一般的に青いスライムは消化能力が劣る、とは言われていますが。」
ふふふw
そりゃあそうだろう、青いスライムは全て
【ボクは金属を食べたいのに】
と不服を漏らしているからである。
つまり、スライムは色によって欲しているゴミが異なる。
そして希望する種類のゴミを食べさせてやった場合、恐らくはパフォーマンスが向上する。
『親方、ジョーンズさん。
金属ゴミって、最後に全スライムを投入して処分してるんですよね?』
「あ、ああ。
流石のスライムも金属を消化するのは時間が掛かるみたいだから…」
『勝手なことをしてしまって恐縮なのですが
第十処理坑… あれ金属専門ですよね?
あれの処理を私にやらせて頂けませんか?』
「いや…
まあ、任せられればありがたいですけど…」
俺は青いスライムだけを手桶に集めて、金属専門の第十処理坑に放り込んでみる。
うん、結構スムーズに消化しているように見えるが…
「「「おおおお!!!!」」」
職場の人間が一斉に声を挙げる。
寧ろ俺が驚いてしまったくらいである。
「チ、チートさん。
これは?
こんな消化速度は見た事がない…」
「あり得ないよ、こんなスピード!
え? 何で?」
『青いスライムは金属が大好物なんです。』
【ジュクジュク♪ ジュクジュク♪
他の連中が邪魔をしないからどんどん食べられるよ♪】
『…しかも。
他の色のスライムを混ぜると、そいつらが邪魔をして
金属の消化速度が落ちるみたいですね。』
「うおーーー!!
すげえ!
もう全部分解しちまった!!!」
『あの…
余所者の私が口を挟んで恐縮なのですが
他のスライムも分析させて頂けませんか?
多分、皆さんの仕事のお役に立てると思うんです。』
「…お、お願いします。」
そうして職場全体の合意を得られた俺はスライム観察に集中させて貰う。
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[伊勢海地人 スライム観察報告]
スライムは原則的にどんなゴミでも消化可能。
但し、得手不得手があり、得意分野以外の消化は極度に遅い。
また他の色のスライムと混ぜて運用すると極度に作業効率が落ちる。
赤 → 有機物全般
青 → 無機物、特に金属が鉱物
黄 → 繊維質、木材や稲藁
黒 → 不明、粉塵の様な微細物質を吸着する速度が速いように見える ※要検証
白 → 不明、汚水の浄化?
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『ゲイリー親方!
この穴は食肉系の産業廃棄物ばかりですよね?』
「…ええ、そうですよ。
バランギル工房からの廃棄物も含まれておりますが…」
『すみません。
この穴も担当させて貰っていいですか?』
「…ええ。
お願いします。」
俺は赤スライムを1匹だけ投げ込んでみる。
消化速度がそこまで早いようには見えない。
無言で2匹3匹と放り込んでいくうちにペースが上がり、9匹目を投げ込んだ瞬間に共鳴し合う様に赤スライムが消化速度を上げた。
それからも俺はどんどん投げ込んで行く、20匹を超えた時点で高速化し、それ以降を観察する間もなく全ての食肉系廃棄物は堆肥に変わり、2匹の赤スライムが分裂を起した。
『親方。
これは私の仮説なのですが。
スライムは同色で運用した方が良さそうです。
後でメモに残しておきますね。』
「ああ、ここには字が読めない者も多いので。」
『失礼。
では口頭で引き継いでおきますね。
赤スライムは食肉系の有機物!
青スライムは金属!
黄スライムは木材などの繊維全般!
黒はまだ解析しきれてませんが、細かいゴミを吸着する速度が速い様に見えます。
同様に白も解り難いですが… 恐らくは浄水能力があるのではないかと推測しました。』
ゲイリー親方は無言でこちらを観察している。
何をコメントしても良いのか分からない、という表情だし、【心中】でも同様の反応をしていた。
『この辺に汚水が溜まってる場所はありませんか?』
「…そこの手桶でもいいかな?」
『ここ、白いスライムを入れても良いですか?』
「…ええ、問題ないですよ。」
ほーら仮説通り。
1匹白スライムを入れただけで水の濁りが消えた。
成分分析がしたいな…
俺はジョーンズさんに頼んで空き瓶を恵んで貰う。
ゴードン夫人に成分分析を頼んでみよう。
俺は再度ゲイリー親方に頭を下げて、もう少しだけゴミ処理作業に従事させて貰えるように交渉する。
渋々ではあったが、承認も貰えたので俺は後一週間だけ処理場への出入りを許される。
みんな、聞いてくれ!
俺、凄いことを思いついたんだ!
ああ、早く試してみたいが…
今日はゴミを全部処理し終わってしまったらしい!
歯痒いな全く。
ふふっ、笑いが止まらないな。
あはははw
俺、今まで自分の能力を全然活かせてなかったよ。
いやあ、最高の気分だね!
これ、間違いなくチートだわ。
【伊勢海地人】
資産 現金2000万ウェン強
古書《魔石取り扱いマニュアル》
古書《帝国本草学辞典》
北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)
債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)
地位 廃棄物処理作業員インターン
バランギル解体工房見習い (営業担当)
前線都市上級市民権保有者
職工ギルド 青年部書記 (青年部のナンバー2)
戦力 冒険者ゲドのパーティーが工房に所属
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