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チートでキーパーソンの存在を知る!

交渉も何も無かった。

冒険者ギルド長のドレーク氏は、先日俺が救命したヨーゼフの義父だったからである。


20年前、喧嘩沙汰を起して騎士学校を放校されたヨーゼフは冒険者に身を落とし、その時色々と面倒を見たのが先輩冒険者のドレークであった。

干支一回り以上歳が離れていたにも関わらず二人は意気投合し、ドレークは丹念に育てたパーティーと愛娘をヨーゼフに与えた。

(その他にも装備・パーティーハウス・戦利品の販売ルートもだ。)


ヨーゼフも義父から受けた恩によく報いた。

特にドレークが冒険者ギルド長に立候補した時には陰に陽に奔走し、義父にその座をもたらした。

この二人は一心同体と言っても過言ではなく、ヨーゼフパーティーの戦力はそのまま冒険者ギルド長ドレークの発言力そのものであった。

先日のリザード戦で負傷した彼らが療養所ではなく、冒険者ギルドのフロアに搬送されたのも、この関係があってのことである。


冒険者・職工、両ギルド間の10年ぶりの会談。

偶然冒険者ギルド長の股肱の臣が重傷を負い、偶然職工ギルド側の役職者が救命行為を行った。

十億ウェンを越える高額極まりない薬剤を投じて。

会談直前にこの様なアクシデントが発生してしまった為に、お互い非常に気まずい雰囲気となった。



冒険者ギルドの代表室には4人だけが入室している。


エドマンド・ドレーク

ヨーゼフ・ホフマン

バラン・バランギル

チート・イセカイ


【心を読んだ】限りだが、本来ドレークは自派閥以外の人間を同席させる予定だった。

日頃、お友達人事を批判されていたからである。

だが《ヨーゼフ救命事件》が発生したことにより、冒険者ギルド内で《まずは謝礼問題をドレーク派で解決してから》という論調が持ち上がり。

昨夜ドレークは他派閥に謝礼問題の解決を約束させられていた。

今のドレークはこの問題を乗り切る事で精一杯であり、テナント補充問題にまでは意識が回っていない。

普段はもっと精力的な男なのだが、今日に限っては衰弱し切っていた。



「まずは我が子ヨーゼフの命を救って下さったこと。

改めて御礼申し上げます。」


『いえ同じ街に住む同胞として当然のことをしたまでです。』


「…。」


『…。』



相手の【心が読める】のでよくわかっているのだが、本当はドレークは職工ギルド側に色々駆け引きをして、色々と要求を呑ませる予定だった。

そしてその功績をもってギルド長の任期を延長させる事を目論んでいた。

(トップの座をヨーゼフに禅譲し、相談役として院政を敷くのが彼の最終目標である。)

こちらとしてもその方がありがたいのだが、ドレークは今それどころではない。

規則と正論を盾に政敵を追い落としてドレークは現在の地位を得た。

そして、それを快く思わない連中(自派閥以外の全ギルドメンバーだが)は、ずっと報復の機会を伺っていたのである。

因果応報、ドレークに規則通りの支払いをさせられる状況に陥った。


昨夜の緊急会議で《ヨーゼフパーティーの全額保証》を約束させられてしまっている。

ドレークもそれなりに蓄財をしているが、エリクサー7本分(市場価格で20億ウェン超)のキャッシュは流石に持ち合わせていない。

そんな大金を持っていたら、前線都市の様な辺境の一組合長の地位を巡って一喜一憂する筈も無かろう。



「その…

職工ギルドの方は御存知ないかも知れませんが…

冒険者ギルドには救命規定がありまして…

その…  あの…

救命行為を施された場合、その時掛かった経費を補填する責務があるのです…」



『ええ。

私も最近知った事ですが。

その様な取り決めがあるようですね。』



俺は外では、『私』という一人称を使う事に決めていた。

周囲が俺を公人として認識し始めているからである。



『10億という数字が独り歩きしているようですが、全く根拠のない数字ですので気になさらないで下さい。

私の方でも調合担当者に確認致しました所、市場に出回っていない薬品でした。

即ち定価がありません。

定価が設定されていないのですから、補償についてもそこまで深刻になる必要はないのではないか、と認識しております。』


「お心遣いありがとうございます…

ただ… 弊ギルドの内規には定価の無い薬剤・備品を施されたケースに関しても明文化されておりまして…

薬効から逆算して相当する薬品の市価で補償する義務があるのです…

その…  今回のケースですと…

エ… エリクサー7本分の…  市場価格… 

となります。」



ドレークも自身がギルド長でなければこんな下らない規則は守って無かった。

現役時代の彼は大柄な体格で威圧して、今回の様なケースをなあなあで済ませたこともある。

(そもそも彼は元々本職のヤクザだ。)

また救命されたのが義息でなければ、我関せずの態度を貫いたことだろう。

冒険者ギルド内の他派閥ともっと上手くやっていれば、周囲が助け舟を出してくれたかも知れない。

そしてチート・イセカイが職工ギルドの役職付でさえなければ、内々に上手く丸め込んだ筈である。

ドレークの特技は話術と威圧で若者を意のままに操ることなのだから。

だが今回は条件が揃い過ぎていた。



『解りました。

債務問題は早々に解決したい、ということですね?

それもギルド長が皆様に説明可能な範囲で。』



「仰る通りです。

チートさんが帰られた後、ここで会議が開かれるのですが

そこで結果を報告しなければなりません。」



冒険者というと、豪快で陽気な連中のイメージがあったが、実情はそうでもないらしい。

政治が絡んだ場面では、陰キャも陽キャも似たような行動をとるのだろう。



『では分割払いでお願い出来ますか?』



「あ!  それは非常に助かります!」



『無利息無担保1000年分割! 年に100万だけ下さい。

今年分は昨日現物で頂いたので、もう不要です。

昨日の受取書、作成して後で届けます。

債権は私一代きり。 

子孫・他者には継承しないものとします。』



「いやいやいや!!!!

100年だって非常識ですよ!!

そんなの通るわけがないです!!!」



おいおい調所広郷、言われてるぞww

グランバルドの皆さん御安心下さい。

我が国には250年分割で押し通した鬼畜がおりますからww



『じゃあ、この条件以外での受け取りを私が拒否した事にして下さい。

それならギルド長もヨーゼフさんも批判されずに済むでしょう。

あ、この後の会議で私が証言しても構いませんし、署名もしますよ?』



「あーーーーーーーー。  うーーーーーーーー。」



その後のドレークは「あー うー」としか言わなかったし、【心を読んで】みても【あー うー】としか表示されなかったので、バランに頼んで話を締め括って貰う。



「弊社の従業員が無理を申し上げてしまいました。

非常に恐縮しております。

では、その条件で宜しいですね?

個人的な意見ですが、年100万も相当な額だとおもいます。

あくまで! これはあくまで形式的なもの。

同じ街に住む者同士。 円満に! 負担なく!

誰にも負担が行かない形で収めましょう!

チート、それでいいな!?」


『はい、師匠!』


「オマエ忘れっぽいから、色々忘れるよな?」


『忘れます!』


「オマエうっかり屋だから、何気なくサインしちゃうよな!?」


『サインします!』


「じゃあ、まあそういうことで。

穏便に! 穏便に! 収めましょう。

イセカイには私からも厳しく言っておきますので。

ヨーゼフさん! これも何かの縁です。

皆の傷がもう少し癒えたら、快気祝いをしましょう!」



結局、この後もウダウダ話が伸びるのだが、バランが笑顔で強引に打ち切って話は終わった。

代表室の前で他派閥の役員が様子を伺っていたので、挨拶ついでに立会人になって貰った。

1000年分割の借用書(商法上、一応有効ではあるらしい)を貰うと、俺も笑顔で一人一人にヘコヘコと頭を下げて下手な冗談を言って、犬の様に媚びながら建物を後にした。

大人の人達は大変だね。


結局、テナント問題は1ミリも進展しなかった…

あいつら絶対に議題覚えてないだろ…


工房に帰ると何事も無かったかのようにバランは作業に戻る。

ベアの買取価格を5万に引き上げる件、承認。

バランギル工房の改定買取価格表は以下の通り。


--------------------------------------------------------


『バランギル工房魔物買取価格』 

(討伐部位はお客様の方で予め御回収下さい)


ベア系一律    5万

ワイルドオックス 5万

トード系     1.5万

スネーク系    1.5万

その他      応相談(狩猟前にお問い合わせ下さい。)


--------------------------------------------------------


精肉業の内訳が分かって来た俺からすれば、この価格表はボッタクリに見えるのだが

それでも持ち込みはポツポツ来る。

ワイルドオックスなんか肉屋に売った方がいいんじゃないか?

と思ったので持ち込み者の【心を読んで】みる。

(状態が良ければ肉屋は7万強で買い取ってくれる)

どうやら精肉工房は検品が終わるまでは価格を教えて貰えない上に、冒険者が一番関心を持っている討伐部位や魔石について無理解らしい。

また、バランギル工房の《冒険者ギルドに隣接している》というメリットは何物にも代えがたいらしく、多少買値が安くてもバランギル工房での買取を望む者は少なくなかった。



「もう肉屋だなw」


「仕方ないだろう、安定的に捌けるんだからw」



奥の方でバランとドランが軽口を叩き合っている。

皮革についてはリソースを注がない事に決めたことについてだ。

職工ギルドに皮革業者が2軒あったので、そこに安値(但し引き取りに来てね)で流すことになった。

乾燥は食肉一本で行く。

(帝国食品衛生法上、同一フロアで食肉と皮革を加工してはならないと定められている



そして俺はすっかり工房の主力となったラルフ君のアシストに入る。



「兄弟子、お疲れ様でした。」


『自分の器を思い知らされたよ。

大人の世界は怖いね。』


「何を弱気になっているんですか。

兄弟子には工房の看板としてもっと堂々として下さらないと困ります。」


ラルフ君は田舎の職人の様に厳しい。

いや、まさに彼は田舎の職人なんだよな。



『ラルフ君は何かやってみたいことあるの?』


「自分は…  早く一人前になって。

親方さえ良ければ暖簾分けをして貰いたいですね。

工房を持ちたいです。」


『君はもう一人前だと思うけど。』


「いえ、まだまだです!

師匠と同じ仕事がこなせなければ一人前とは言えません!」



初対面の頃から思ってたのだが…

ラルフ君は自分に厳しい。

腕を上げる訳である。

アリサちゃんが惹かれる気持ちもわかる。


『封箱OKです。

モツ残無し!』


「確認しました!

ありがとうございます。

…すみません。

兄弟子に雑用をやらせてしまって。」



暗黙の了解だが。

最近は俺やドランさんがラルフ君のアシスタントを務めることが多い。

解体に関してラルフ・ラスキンは非常に伸びしろが大きいし、バランギルの後継者として彼を育てるべきだからだ。

トード10体位なら、文字通り片手間に捌けるようにはなって来ている。

(バランギル工房が設備にカネを掛けている点も大きいが。)



『あ、ラルフ君。

古道具屋のゴードンさんから連絡があった件、聞いた?』


「ホプキンス部材会社の前線都市支店が正式に閉鎖された件ですね。」


『うん、それで設備が投げ売りされたみたいなんだけど。

あそこの設備で欲しいものってある?』


「前線都市支店は新しい設備多かったですから。

あー。 あそこのミニクレーンと解体台が買えるなら大きいですね。」


『その二つは確実に入ってると思う。

師匠が手が空いたら見に行こうって。』


「いいですね。

じゃあ残り2体、このまま片づけてしまいます。」



この会話の流れで、二体とも美品魔石を取り出せる。

それ位にラルフの腕は上がって来ている。



ドランさんは燻液作りで忙しかったので、3人でゴードン雑貨店を訪問。

約束通りホプキンス部材会社の放出した備品を高値で買い取る。



『この棚の古書なのですが…

セット割引は効きますか?』



しばしの談笑の後、俺はゴードン夫妻にふと問い掛けた。

ゴードンさんは無言で奥様の顔を見る。

やはりこれは奥様のコレクションだったようだ。



「全てお貸ししましょうか?

流し読みしてみて、必要なものがあればお譲りしますわ。」



意外な提案。

そんなので商売になるのか?



『あ、いえ。

流石にそれは申し訳ないので。

あ、閲覧料を支払いましょうか?』



「ねえ、チートさん。

貴方、御本が読めるようだけど。

何かお目当てはあるの?

話によっては協力するわよ。」



『目当て…

数学… 児童向けの算数書でも構いませんが…

あー。 座標とか空間とか天文とか…

そういう書物はありませんか?

後、神話とか古代史とか… この世界に関する書物が欲しいです。

リザードと人類の関連性とか…

後、信仰!

この世界の宗教について教えて下さい!』



「…この世界ねぇ。」



あ、ミスった。

《この世界》って何だよ。

オマエはどの世界から来たんだって話だよな…


『す、すみません。

勝手な事をペラペラと。』


「そこまで色々な事に興味があるのでしたら、特定の書籍を探すよりも

学識の深い知識人を尋ねてみる事を勧めます。」


なるほど!

確かに。

今の俺は知るべき事柄の範囲が広すぎる。

特定の古書を読み込むより、博覧強記の人に師事した方が手っ取り早そうだ。


『御助言有難うございます!

この街で師事すべき方の名を御存知でしたら是非教えて下さい!』


「うーん、旅の学者さんだけど。

ヴィルヘルム博士。

かなり気難しい人と聞いてますけど、当代一流の研究者です。

最近の話なのですが、前線都市から学術書への寄稿が投函された事が話題になりまして

その差出人が帝都でも相当高名なヴィルヘルム博士だったものですがから。

主人共々驚いておりましたのよ。」


『ヴィルヘルム博士ですね!?

そんなに凄い方なんですか?』


「一昨年も帝都アカデミー賞を受賞されておられます。

鉱物学・化学の世界的権威です。」


『おお!

そんな凄い方が前線都市に居られるのですね!?』


「鉱物学はそこまで頻繁に拠点を移す学問ではないのです。

なので、この前線都市に来られてすぐに退去されるとは思えないの。

だから急いで探せば、この街のどこかに滞在されておられる可能性が高いわ。」


『じゃ、じゃあ何とかしてヴィルヘルム博士を探さなきゃ!?』


だがどうやって?

冒険者ギルドに頼んで探して貰う?

いやそんな事をすれば機嫌を損ねてしまうのではないか…

俺、ゲームとか好きだからよくわかるんだ。

これ話を進める為のキーパーソンなんだよ。

ヴィルヘルムという老人に師事する事により、標準座標≪√47WS≫に近づけるに違いない。

わかる! このパターンはラノベとかで親の顔より見た!


ああ、俺もウダウダ同じところを回ってる気がしていたが…

ようやく話が動き出したな。


『ありがとうございます。

ゴードン夫人には何から何まで教わってばかりで。』


「いえいえ、私共もいつも魔石を譲って下さっている事に感謝してますよ。

こうやって老後を過ごせているのもチートさんのおかげです。

さあ、本も遠慮なく見て行って下さいね。」


『ありがとうございます!

御言葉に甘えさせてもらいます!』



ゴードン夫妻の許可を貰った俺は並んだ骨董本の背表紙を素早くチェックしていく。

そう言えばベスおばの奴が何冊か買ったって言ってたな。

俺に見せるとか言ってた癖に忘れたフリをしてやがる。

後で要求しよう。

大体あのBBAは居候の分際で…

まあいい、今は本筋に集中しよう。



【ロブスキー将軍の籠城指南】

【皇帝陛下の御訓示集】

【鉱山業務の手引き】

【ある愛の歌】

【神の奇跡と人の信仰】

【帝国怪綺談】

【愚者列伝】

【魔法の終わる日】

【貴族子弟教育マニュアル】

【アーバイン王物語】

【歩兵操典】

【民法、その成立と発展について】

【夏冬戦国時代の終焉】

【養子紛争の事例と対処法】

【爵位と相続】

【七雄の実態】

【人民統治術】

【ウォルフガング兵法書】

【飢餓と人間】



俺は背表紙を発音しながら、ゆっくりと役に立ちそうな書籍を眺めて行く。

ヴィルヘルム博士は鉱物学の権威なんだよな?

ということは、いずれこの店を訪れて古書漁りをするかも知れない。

あ、その時に【鉱山業務の手引き】を俺が購入したと知ったら、気に入ってくれるかも知れない!

上手く行けば色々教えてくれるかも!



『夫人!

決めました!

【鉱山業務の手引き】を購入させて下さい!

えっと、幾らになりますか?』



俺がそう言うと夫妻は無言で顔を見合わせる。

あ、やば。

また何かやってしまったのか?



「チートさん。

その本、《鉱山業務の手引き》という題名なのですか?」



『あ、はい。

す、すみません

何かはしゃいじゃって…』


「では、奥付も読めるのですか?」


『お、奥付って何ですか?

すみません、無知なもので…』


ゴードン夫人は溜息を吐きかけて堪えた。


「通常、本を出版する時は本の著者や発行所、発行年月日などを書籍のどこかに記載します。

大抵は最終ページに記載されているのですけど、それを奥付と呼ぶのですよ。」


『す、すみません!

勉強不足でした!』


「最後のページをめくってみて下さい」


『は、はい!』


「何と書いていますか?」


『えっと、ここですよね?

【青龍二年 バジェ・デ・レオン 親愛なる主家へ捧ぐ】

と書いてます。

えっと、発行所については書かれてません…』



ゴードン夫人は全く表情を変えずに「そう」とだけ呟いた。



「チートさん。

ここにある書籍の題名。

全て読めるのですね?」


『あ、はい。

すみません。』


「これも?」


『【七雄の実態】ですね。』



「…そのタイトルは口外しないように。」



『え?』


「禁書です。

恐らくは…」


『あ、はい。』


「焼くかい?

それともチート君に目を通して貰う?」


「もう冒険する歳でもないでしょう?

とりあえず隠しておきましょう。」


「やれやれ、隠している方が罪は重くなると思うけどね。」


「じゃあチートさん。

こちらの表紙は?」


『【魔法の終わる日】ですか?』


「「…ッ!!」」


『あ、すみません。』


「奥付は?」


『【大賢者と呼ばれた愚か者】とのみ。

すみません、発行年度とかは書いてませんね。』


「冒頭、少しだけ読んでみてくれる?」


『あ、はい。

【幼少時は神童と呼ばれていた。

私はその評価に満足し大いに驕っていたものだが。

私は神などではなく、ただ幼稚なだけの小僧に過ぎなかった。

アプローチが間違っていたのである。

諸君、近年の薬学・弾道学のめざましい進歩により、人類に魔法が不要になった事は周知の事実である。

故に、この私ロチルドこそ総括の義務と権利を有するものなのである。】

えっと、いきなり次のページから棒グラフが出て来るのですけど、ここも読みます?』


「イセカイさん。」


『あ、はい。』


「私達は貴方に色々プレゼント出来ると思うし、御力にもなれると思うの。」


『あ、ありがとうございます。』


「だから、少しだけ私達を助けてくれないかしら?」


『あ、はい。

私で出来る事であれば。』


俺は小一時間程ゴードン夫人の前で朗読をさせられてから、数十枚の金貨を握らされた。

そして、取り置きしてくれていた、ホプキンス部材会社の設備代はやはり受け取って貰えなかった。


『流石に無償で解体台まで頂くというのは…

業界倫理に抵触してしまいます…』


「イセカイさん。

これからも仲良くして下さいね。

私、貴方のお役に立つ自信がありますから。」


ゴードン夫人が相当な教養人である事は前から知っていたし、貴族階級の出身である事も想像がつく。

そして、俺の古語翻訳は彼女にとってかなり有用…

というよりこの人は古典知識をマネタイズするだけの技量を持っている。

俺が指示されるままに読み上げた箇所、ゴードン夫人は明日から活かして行くのだろう。

お互いメリットあるな。

俺はゴードン雑貨店に通う事を約束し、クレーンと解体台を荷車に積んで工房に帰った。

(今度からゴードン雑貨店への配達は俺が担当者となる。)

夫人の為に翻訳をする代わりに書籍を無料で借りる権利を得た。

とりあえずは【鉱山業務の手引き】を長期貸与させて貰い、荷車の貴重品ボックスに丁寧にしまう。


今日は大きな収穫のあった日。

冒険者ギルドは無駄足だったが、ゴードン夫妻からキーパーソンの名を教わった。


当面はヴィルヘルム博士探しだな。

【伊勢海地人】


資産 550万ウェン強  

   古書《魔石取り扱いマニュアル》

   古書《帝国本草学辞典》

   北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)

   債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)


地位 バランギル解体工房見習い (営業担当)

   前線都市上級市民権保有者

   職工ギルド 青年部書記  (青年部のナンバー2)


戦力 なし




【読者の皆さまへ】



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