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チートで役職に就任する

商売は順調、仲の良い女の子グループも出来た。

(ベスおばが邪魔だが。)

順風満帆ではあるのだが…

現在、一点だけ問題が生じている。



『職工ギルド…  ですか?』



「あー、チートやラルフは知らないか。

一般的に、店を構えた職人は職工ギルドに入るものなんだよ。」



『冒険者ギルドみたいなものですか?』



「うーん、あそこまで一枚岩じゃないけどさ。

・街の冒険者を統制する冒険者ギルド。

・運送や決済業務を司る天下り団体の商業ギルド。

・そして職人の寄せ集めの職工ギルド。

どんな街でもこの3つのギルドは何かの形であるんだ。

ちなみに糞田舎のヘッピ村にすら、この3つの支局はあるから。」



『社会を支えるシステムの一つですね。』



「で、その職工ギルドに入れって言われたんだよ。」



『誰に?』



「ガルド爺さん。」



『え? 誰?』



「鍛冶屋の隠居。 

ほら、この前解体用のノコギリ買いに行っただろ。」



『ああ、あの商店街のお爺さん。』



「あの人、、職工ギルドの元役員だから。」



『へー。 見た目に寄らず偉い人だったんですね。』



「それでさっきここに来たんだよ。

職工ギルドに入れって」



『入るんですか?』



「入りたくないけど…

モテるかもって。」



『え? モテるんですか?』



「ほら、女って肩書とか権威が好きじゃん?」



『わかります。

結構しょーもない肩書に騙されますよね。』



「もしもギルドの会員になったらモテるかな?

とふと思ってさ。

その場では断らなかったんだ。

まあ、以前から職工ギルドには言いたい事が山ほどあったしね。」



『うーん。

モテ…  るんですかね?』



「ギルドの会員がモテるか否かはわからないけど。

実際問題、《親方》ってだけで好意的に接して来る女の子は居たからね。」



『多分、肩書+不動産が生活力のPRになってるんですよ。』



「だな。

後は職工ギルドどうなんだろう?」



『ビジネス的にはどうなんでしょう?

なんかメリットあるんでしょうか?』



「あるのかなあ。

まあ、そこで利益出すのは違う気もするけどさ。

取り敢えず挨拶に行くことになったから、チートも一緒に来てくれない?」



ということで、職工ギルドの会館で行われる寄り合いに出席することになった。

場所は当然工業区。

5人娘の職場に近いな。

職工ギルドの本部は工業区の一等地にある《前線都市工業会館》という10階建てのビルである。

エレベーターが3基もある上に全自動空調まで完備されていた。

寄り合いの会場は、最上階の特別会議室。

金の屏風が自慢気に並ぶ豪華な部屋だった。

ただ出席者はそれほど多くなく、列席者は20人弱しかおらず。

その上、シワシワの老人ばかりだった。



「いやあ、バラン君45歳!?

若いねぇ!

職工ギルドも高齢化しちゃったからねえ。

君みたいなフレッシュな若手が入ってくれるなんて…

素晴らしい!

ちなみにワシ、81歳。」


「ワシは84歳」

「ワシは77歳」

「ワシは来年80歳」

「ワシは72歳」

「ワシは若いよー。 幾つに見える?  

何と68歳!」

「ワシ86歳。」

「ワシ75歳。」


おお…

俺から見れば、バランはおっさん以外の何者でもないのだが…

この爺さん連中から見れば若者枠なのか…



「で、そこのキミは…

バラン君の息子さん?」



『あ、いえ

丁稚のチートと申します。

社内では営業を担当しております。』



そんな遣り取りがあって、バランは職工ギルドの会員になった。

若い(45歳)ので自動的に青年部部長に就任してしまう。



「いや! いきなりそんな役職を与えられましても!

そんなの困りますよ!」



「気持ちは分かるよバラン君。

だがね、それ程この街は窮地にある。

高齢化、労働力不足、人材流出…

その結果、年々生産力が落ち続けているんだ。


チート君と言ったか…

最近この街に来てくれたようだね。

どうだい?

若者の目から見てこの街はどう映る?」



『あの…

俺は余所者で…

前線都市には来たばかりで何も分かってないのですが。

お金を持っている人から順に抜けていく…

いえ、街から出る為にお金を貯めている現状に驚きました。

例えば、工房開業の為に購入した不動産なのですが。

モリソン氏が投げ売りと言っても過言ではない価格で手放して…

その日に商都に引っ越してしまって…

流石にあれはショックでした。』



「モリソンさんなあ。

あの人はこの職工ギルドの幹部でもあり

つい先週まで何食わぬ顔で寄り合いにも出席してたんだが…

まあ驚きもしないよ。

この街ではよくある話なんだ。」



『その…

やっぱりリザード族が原因なのですか?』



「対岸のリザードがどんどん増えてるしな。

奴ら大型戦艦まで浮かべて来た…

もう、いつ攻められてもおかしくないからなあ。

正直に言うと、ワシも出られるものならこの街を出たい。

ただ持ち家だし、孫が商都の入学試験落ちたし…

逃げるタイミング逃しちゃってるんだよねー。

モリソン家は上手くやったよ。」



『リザード族って攻めて来るんでしょうか?』



「元々、この辺ってアイツらの土地だしね。

お互い積極的には仕掛けないけど…

偶発戦闘が毎年一回は起こってるし。

あまりいい状況ではないね。

いつ攻勢を食らってもおかしくない、と言った状況なんだ。」



『怖いですね。』



「ああ… 

誰だって怖い。

怖いから街から出る事だけを考えてる。

そのおかげで職工ギルドの欠員が著しい。


…率直に言うぞ。

街を維持する為の生産力が激減している。

それを何とかしたいんだ。」



ギルドにはそれぞれ使命がある。

冒険者ギルドなら害獣駆除や採集活動。

商人ギルドは決済と輸送。

そして職工ギルドには所属する街の生産能力を保持する使命が課せられている。

鍛冶屋・パン屋・陶工・機織り・乾物・細工工房etc

これらに従事する職業人が不足すれば街の経済は窮乏化し、やがては破綻に至る。

要は人々が生活して行く為の産業を誘致・育成する事が職工ギルドの使命。



『それらを誘致したい訳ですね?』



「それも既存産業にダメージを与えない範囲でな。」



『現在、緊急に誘致すべき業種があれば教えて下さい。』



「今この街には陶工が存在しない。」



『え? じゃあちょっとした食器とかどうしてるんですか?』



「全て商都からの輸入品だ。

これがどういう意味かわかるかい?」



『つまり陶工が存在しないというだけで、陶器製品全般の入手に通貨流出が伴う、と?』



「流石だな。 

若いのに呑み込みが早い。

ちなみに車屋も存在しない。

これだけ馬車を使うにも関わらず、馬車製造工房がこの街には一軒も残ってないんだ。

後、最後に残ったレンガ屋も今年いっぱいで廃業する。」



『それって不味くないですか?

やっぱりリザード侵攻への危惧がここまでの産業空洞化を招いてるんでしょうか?』



「そうだな。

この街は元々リザードから穀倉地帯を防衛する為の軍事要塞なんだ。

半世紀前に軍が撤退して、行き場の無い人間が残って街の体裁を取ったという経緯がある。

そんな吹き溜まりだから、誰も街に愛着を持っていない。

愛着が無いから日払い生活の冒険者は多くても、腰を据えた職人は育たない。

それが産業空洞化の原因だな。」



「諸先輩方。

私からも意見宜しいでしょうか?」



「おお、バラン君。

君はどう思う?」



「最近の若者は…

職人になるくらいなら冒険者になります。

何故だか分かりますか?」



「…そりゃあ君。

冒険者はモテるって言われてるし…

一攫千金も狙えるから。

最近の堪え性の無い若者が好むんだろ?」



「冒険者は…

1人でも活動できます。

勤務時間も勤務場所も活動内容も、全て自分で決める事が出来ます。

一方職人は…

好きでも無い親方や兄弟子から奴隷の様に扱われます。

いや、奴隷そのものだと言っても過言ではない。

それが、若者が職人を忌避して冒険者になる理由なんです。」



「奴隷は言い過ぎだろう。

ここに居るワシらだって新人時代はちゃんと耐えてきた。」



「いや、それは違います。

ここに居る皆さんは50年前に軍が撤退した時に、入れ替わりで入植してきた面子です。

あなた方は最初から親方・店主だった筈だ。」



「そりゃあ、そういう契約だったから。」



「職人仕事は…

自分の裁量でやっている限りは楽しいし楽です。

反面、誰かに命令されて従業するのは苦役以外の何物でもありません。」



「いやいや!

一人前になるまでは苦労して我慢する必要があるんだよ!」



「一人前って何年でなれるものですか?」



「そりゃあ10年とか、20年とか掛けて徐々に一人前の職人になるものだよ。」



「私の解釈は違います。

職人仕事なんて誰でも出来ます。

携わる機会が無いから、それが特別な事や凄い事に見えるだけで

適切なマニュアルを与えて、実際にやらせてみれば、殆どの者がすぐに修得出来るものなのです。」



「誰でもは言い過ぎだろう。」



「いえ、誰でもです。

例えば、私の工房に16歳の徒弟が居るのですが

彼は大店の中堅職人と同等かそれ以上の仕事が出来ます。」



「それは、たまたまバラン君が良い新人を引いたんだよ。

どんな世界にも要領のいい者は存在する。」



「私は彼に自分の知り得たノウハウを伝え、重要な仕事を任せているだけです。

勿論、業種によって差異はあるでしょうが、やらせてみれば職人は生まれます。」



「バラン君…

君は何が言いたい?」



「職人の集め方を私に一任して貰えませんか?

従来の徒弟制ではなく、冒険者ギルド方式を用いれば、幾つかの業種は補える筈です。」



「いや、急にそんな突飛な事を言われても…

大体、キミの提案には現実性が無いよ。

こんな事は言いたくないが…

バラン君は最近までずっと雇われの身だったんだよね?

人を集めたり、店を誘致した経験は無いんだろう?」



「はい。

私はずっと燻って来た人間ですので、そこまで大きな仕事が出来るとは思いません。


ですが!

ここに居る、チート・イセカイなら必ず成し遂げてくれることでしょう!」



「…いや、切れ者だとは聞いているが。」



「チート・イセカイには実績があります。

長らく空き店舗であった精肉店跡をモリソン家から買い取り。

そして工房として起ち上げさせたのがこの若者なのです。

それもこの街に来た初日に私と出逢ってから、たったの7日。

他にも様々な功績を挙げ、正当な手法で富を築いております。

何より!

彼の能力については、剣聖アンダーソンや鬼神ゲドも太鼓判を押しております!」



「うーむ。

噂には聞いていたが…

冒険者と上手くやれる人材なら…

多少は難しい仕事も任せられるか…」



「チート。

オマエに俺の代理をお願い…

いや、こればかりは親方命令とさせてくれ。

俺の代わりに職工ギルドの仕事を請け負って欲しい。」



『…はい、親方!

バランギル工房の看板に泥を塗らない為にも誠心誠意務めます!』



「では皆さん。

ここに居るチート・イセカイにある程度仕事を委任させて構いませんね?

無論、俺も… いや工房も彼を全面的に支えます。」



「駄目だ…

と言いたいところだが。

ワシ自身がキミ達の手法に興味を持ってしまった。

試してみてくれ。

一業種誘致する度にギルド支援金を青年部に降ろす。

そこから経費を抜いて貰って構わない。」



「チート・イセカイにも役職を与えて貰うことは可能ですか?」



「可能も何も、青年部の人事権・予算権はもうバラン君の物だ。

報告はして貰うが、実質フリーハンドだと思ってくれ。

今期の予算、2500万ウェンが丸々残ってるから…

後日商人ギルドからバラン君名義の役職小切手が届く。

それを使ってくれ。」



「ありがとうございます。

それではチート・イセカイを青年部書記に任命します。

皆様の承認を頂きたい。」



「認める」

「承認するよ」

「頑張れよ若人!」

「賛成だ!」

「承認。」

「任命を認めるぞ!」



『諸先輩方、ありがとうございます!

伊勢海地人、精進致します!』



話が妙な方向に行ってしまったが…

バランが青年部部長に

俺は青年部書記に就任した。


任務は、この前線都市の産業を復活させること。

本音を言えばこの街にそこまでの興味は無い。

が、師匠がここまで強い決意を持ってるんだぜ?

弟子の俺が助けるのは当然の義務だろ。

【伊勢海地人】


資産 500万ウェン強  

   古書《魔石取り扱いマニュアル》

   古書《帝国本草学辞典》

   北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)



地位 バランギル解体工房見習い (営業担当)

   前線都市上級市民権保有者

   職工ギルド 青年部書記  (青年部のナンバー2)


戦力 なし



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