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チートで仲介してみる

ドワーフ。

鍛冶仕事を好む、短躯頑健の種族。

ラノベとかで親の顔より見た存在。

そのドワーフが不意に、本当に突然話しかけてきた。



「キミ。

少しいいかね?

ここに解体屋が開業するのかね?」



『あ、はい。

今日、明日辺りから仕事を始めようかと。』




「キミは丁稚さん?

親方はおられるの?」



『はい、見習い丁稚のチートと言います。

外回りを担当しております。

師匠は備品の買い出しに行っております。

もうすぐ帰ってくるかと。』



「おお!

助かった。

ワシら冒険者ギルドを出禁になっとてな。

ギルド内の解体サービスを受けられないんだよ。

で、さっき街に帰ってきたら行きつけの解体屋が閉店しとったから。

途方に暮れておったんだよ。」



『失礼ですが、ホプキンス部材会社のお客様でしょうか?』



「ん?  そうだけど。」



『ここは支店長のバランが独立して開業した工房なんです。』



「おお!

ここバラン君の店かぁ!

独立したんだなぁ。

いやあ、おめでとう!

彼の様な腕利きは雇われで終わっていいわけがないんだよ。」



『ありがとうございます。』



「カイン、ゲレル。

荷台を搬入してくれ。」



ドワーフが背後にいた男女に指示を出して荷下ろしを始める。



「この獲物はな、キミの師匠でないと捌けないかも知れない。」



『珍しい魔物なんですか?』



「フレイムキマイラだ。

東方から流れて来た個体らしくてな。

雌雄一対を狩ってきた。」



うおおお。

ファイナルファンタジーに出て来そうなコテコテした魔獣の遺骸だ。

滅茶苦茶デカいな。

こんなのを倒せるのか?

流石ドワーフ。



「ワシの名前はゲド。

冒険者ギルドは資格停止中。

ドワーフの里からは永久追放中。

只のゲドだ。」



凄いなこの人。

この手短な自己紹介で只物では無いことが分かる。

などと言っている間にバランとラルフ君が帰って来て、ゲドと談笑を始めた。

相性は良いらしい。



「フレイムキマイラだよ。

狩ってる時は夢中でそこまで考えなかったんだけど。

キマイラと部材単価違うんだろうか?

どこで売ればいいとか知ってる?」



「いえ、フレイムキマイラ自体初めて見ました。

かなり東の魔物ですよね。

解体の要領はキマイラと同じだと思うんですが…

ラルフ2番包丁。」



「はい!」




通常のキマイラとは、見た目が全然異なるのが不安要素らしい。

部下のカインさんは騎士時代にフレイムキマイラの討伐任務に従事した経験はあるのだが、軍隊行動だったのでその死骸がどうなったかまでは覚えていないということ。

ゲレルさんは遥か北方の遊牧民であり、これまたフレイムキマイラは初見。

羽根とか奇麗なので、何らかの値段が付きそうな気もするが…



「何か儲かりそうだからノリで狩ってみたんだが…

どの部位が材料需要あるんだろうか?

え?

もう魔石取れたの?

美品?  え? 早?  マジで?」



「ゲドさん。

毒袋の位置に見慣れない部位があるんですけど…

心当たりありますか?」



「ああ、コイツら生意気にも火を吐くんだよ。

それじゃね?

結構遠くから火炎放射してきやがってさあ。

盾が焦げちまったよ。」



「うーん、これどこで買い取りしてくれるんだろう?」



そんなやり取りが聞こえたので、俺はふと思い立ち自室から《魔石取扱マニュアル》を持ってきた。



「兄弟子、それは?」



『昔の本だよ。  

ゴードンさんの店で購入してさ。』



「いやあ、昔の本とかいうレベルじゃないですよ。」



「うむ。 

それはかなり年代物の古文書だな。

それこそ皇帝時代の書籍じゃないか?」



『神聖歴23年って書いてます。

これって古いんですか?』



「ワシの御先祖様がアンタらの御先祖様とドンパチやってた頃じゃな。

ここに居るゲレルの先祖が世界中を荒らしまわってた頃。」



「ああ、歴史の授業で習ったなあ。

俺成績悪かったから細かくは知らんけど。」



「ドワーフ的にもかなり昔の話だよ?

いやワシも勉強嫌いだから、正確にどれくらい古いかは知らんけど。」



「アタシの部族の言い伝えで帝国皇帝は何度も出て来る。

いや、アタシは人の話を聞かない方だから正確なことは知らないけどさ。」



要はかなり昔の書籍である事だけが判明するが、ここに教養人が居ないので正確な事情はわからない。

学校教育って大事だな。



『本の価値は後で調べましょう。

その魔物の名前はフレイムキマイラでいいんですよね?』



「あ、うん。

ワシらの地元ではみんなそう呼んでたけど。」



『バーニングキマイラという魔物なら記載されてるんですが。』



「ああ、それ昔の言い回しだな。

時代劇には《バーニング~》って魔物が出て来るんだ。」



「劇とか見てたたらありますよね。

バーニングドラゴンとかバーニングオックスとか。」



「あるあるw

子供の頃、憧れたわ。」



皆の話を聞く限り、この本で説明されている《バーニングキマイラ》というのは現在の彼らが《フレイムキマイラ》と呼ぶ生物で間違いないだろう。

そうか…

チートで本を読んだ所で、俺がこの世界の常識を知らない以上、1人で読み込むのは不可能だな。



『すみません。

【火炎を吐く為の《燃焼袋》が舌の根本に存在する】

と書かれているのですが…

それは該当しそうですか?』



「間違いない!  

舌の奥に繋がっていた!」



「おお! 凄いなキミ!

で、《燃焼袋》についての説明は書いてあるのかい?」



『はい。

【目先の利益に囚われず、火炎魔法用杖の材料か大型暖房機の製造の為に取り置きすべし】

と説明書きがあります。』



「魔法かぁ…。 そっちは駄目だな。

でも大型暖房機なら帝都で売れる?

単価が高い事は解るんだけど…

えー、ワシにはちょっと思いつかんなあ。」



『俺、後で冒険者ギルドに行って来ましょうか?』



「あ、そっか。

ここの工房名義なら普通に鑑定して貰えるし、売れるのか。

なあ、バラン君。

物は相談なんだが、この部材アンタらの名義で売ってきてくれんか?

勿論、解体料+名義料を抜いて貰って構わない。

ワシらは腕には自信があるんだが、商人の様に上手な取引が出来んのだ。」



「じゃあ、後でギルドに顔を出してみます。

チート任せるから、その本を読みこんでおいてくれ。

売れそうな部位や用法が知りたい。

はい、頭部完了。」



「バラン君、本当に手際がいいな!?

いや! キミ凄いよ!?」



「いえ、ゲドさんの血抜きと臓物抜きが完璧だからですよ。

理想的な下処理です。

討伐部位の尻尾、どうしますか?」



「どのみちワシらは売れないから。

他のパーティーに何とか売れないだろうか?

勿論、安く譲るつもりだよ!」



「では、取り敢えずこっちに除けておきます。

ラルフ、トレーに置いて拭き取り。」



「はい!」



『師匠。

【ご存じの通りバーニングキマイラの皮は特に火炎耐性が高い】

【羽根の鱗粉は強化薬の材料として知られる】

【爪は発色性が高いので砕いて顔料とする。】

とも書かれてました。

ゲドさん、どうですか?』



「ああ、言われてみれば耐火系の大盾って皮みたいなのが貼ってるな。

今まで意識したことなかったけど。

強化薬は聞いたことない…」



「ステータスアップ関連の薬品でしょうか?

あ、ゲドさん。 解体した爪、そこの小さなトレーに並べておきます。」



「うーん。

経験値系かなあ?

薬剤師に知り合いが居れば聞けるんだが。」



『あ、最後に。

【オーク族には骨を煮込んで粘液を抽出する習慣がある】

と追記されてます!』



「じゃあ、バラン君。

一応骨もお願い出来ますか?」



「ですね、念の為ストックしましょう。」



話ながらもバランは物凄いスピードでフレイムキマイラを解体し終わり。

部位毎にトレーに並べた。



「おいおい! バラン君、早すぎだろ!?」



「優秀なアシスタントが来てくれましたから。

あそこの、ラルフ君。

多分優秀な職人になると思いますので、贔屓にしてやって下さい。」



「そっかあ。 今までワンオペだったもんなあ。

助手1人増えるだけでここまで作業が捗るのか。」



「今だから言える事ですけど。

自分より大きな生き物を一人で解体するって無茶でしたよ。

手の届かない所に手を回さなきゃ行けないんですから。」



「うん、素人目から見ても。

あれは可哀想だった。」



解体が一段落した様子なので、俺は隣の冒険者ギルドに顔を出す。

何人か見覚えのある人が手を振ってくれたので、少しずつ俺もこの街に馴染めてるのかも知れない。

大きく貼りだされている買取表には《キマイラ》は記載されているのだが、《フレイムキマイラ》が書かれていない。

《キマイラ系》で一まとめにされてしまうのだろうか?



ラウンジの隅っこに魔石売買メンバーがたむろしていたので、親し気に声を掛けてくれたお爺さんに《フレイムキマイラ》の相場を尋ねる。

どうもキマイラとは別軸で相場が動いているようで、希少価値の高さから製薬業界が欲しがっているとのこと。

底値ラインは150万ウェン。



お爺さんに礼を言って、その場を立ち去ろうとすると若い冒険者に話し掛けられる。

確かアンダーソンのメンバーだ。


「チートさん。 

今、フレイムキマイラの話を小耳に挟んだんですけど。」


『えっと、マルコさんですよね。 

え?マルロさん?  失礼しました。

はい、ウチにフレイムキマイラが持ち込まれたんですけど、討伐部位を持て余してて。』


「え? 普通にギルドに報告したら懸賞金出ますよ。」


『あ、いや。

そのパーティーが出禁中らしくて…』


「ああ、ゲドさん案件ですか…」


『あの人、何をやらかしたんですか?』


「売春婦を無礼討ちにしちゃったんですよ。

ギルドの玄関前で。」


『え? それって地味にヤバくないですか?』


「派手にヤバいですね。」


『よく捕まりませんでしたね。』


「ほら売春は厳禁なんで、法律的にはギリギリグレーなんですが…

まあ道義的に完全にアウトなんで…」


『なるほど。』


「ああ、それでレアモンスターを討伐したけど困ってる、と。」


『誰か買い取ってくれたら… 

ってゲドさんは仰ってたんですよ。』


「うーーん。

討伐部位の売買かぁ…

現場では行われることもありますけど…

地味にグレーですよ?」


『ですよねー。』



「ウチのボスが奥で食事してるんで聞いてきます。」



根が親切なのだろう。

マルロさんは廊下の向こうに消えていく。

それにしてもゲドさんやべーな。

俺が暇つぶしに【皆の心を読んでいる】と奥からアンダーソンがドタドタ駆けてくる。

口をモシャモシャ動かしながら小走りしてきているあたり、やや多動症気味なのかも知れない。



「モグモグ、ゴクン!

チート君! 探したんだよ!

いつもの場所に居ないから!」



『すみません。 

店舗を確保出来たので、急遽そこにバランギル工房を開業することになったんです。

宿も引き払ってしまって。』



「え!? マジ!?   

おお、開店おめでとう。

ロングスネーク荷台に積みっぱなしなんだけど、行ける?

あ、80匹チョイあると思う。」



この男…  味を占めたな。

こちらがスキルを発動するまでもなく

【もうゴチャゴチャ考えずに、とにかくバランに持ち込んだらええわ。】


という心の声が聞こえてくる。

詳細計算は放棄したらしい。



『あの。

俺はよくわからないんですけど…

冒険者さんの間で討伐部位の売買とかOKなんですか?』



「え? 勿論、駄目だけど。

でも、みんなやってるよ。

ほら。

ランク上げたい奴が高レベル魔物の部位を買って、自分が討伐したことにしたりさ。

冒険者の風上にも置けないよなあ。」



『フレイムキマイラの尻尾2本を売りたがってる人が居るんです。』


「え?  ひょっとしてゲドさん?」


『あ、はい。』


アンダーソンが声をひそめる。

「幾らで売ってくれるの?」



もの凄く真剣な顔だ。

風上に置けない男だな。



『ゲドさん、隣に居るんですけど。

お話されます?』


「うん、する。」



と言う訳でアンダーソンを工房に招く。



「おお、アンダーソン君! 久しぶりだね!」


「ゲドさん! どもどもどもです。 

ってバランさん、凄いところに工房を構えましたね。」


「いきなりで悪いんだけど、フレイムキマイラの尻尾、買ってくれない?」


「幾らくらいっすか?」


「10万でどう?」


「2本で?」


「え? 合計だと20万だけど…」


「え? じゃあ1本10万じゃないっすか?」


「え? そうだけど。」


「え? いやあ。 それじゃあリスクとリターンが見合ってないというか…」


「じゃあ幾らがいいの?」


「2本で10万なら、この場で払います。」


「うーん、それってキミ。

右から左に動かしただけで大儲けじゃない?」


「いやいやいや! 

なんかあった時、ウチのパーティーが責任被るんですよ?」


「いやいやいや!」


「いやいやいや!」



埒が明かないので、双方の心を読んでみる。

アンダーソンの【本音買取価格上限2本17万ウェン】。

ゲドの【本音売却価格下限2本13万ウェン】だったので、調整に入る。

お互い3万ずつのバッファを持たせて交渉していたらしい。


『ゲドさん、もしも売り手が見つからなかった場合

俺が2本15万ウェンで買い取りします。』


「え? ワシはすっごく助かるけど。

冒険者じゃないと討伐報酬貰えないよ?」


『なので他の冒険者さんで欲しい人を自腹で探します。

アンダーソンさんの気が変わったら、この値段のままでお譲りしますよ。』


「え? マジ!?   買う買う、欲しい欲しい!」


『じゃあ。

お二人とも納得されておられるみたいなので

2本15万で取引されませんか?

丁度お二人の希望価格の中間ですし。

お互いにとって損では無いと見受けました。』



二人とも不思議そうな顔をしていたが、納得したらしくアンダーソンが金貨を取り出す。

円満とまでは行かないが、まあスムーズな取引だ。


「バラン君よ、アンタいいお弟子さんを捕まえたね。」


「自慢の相棒なんですよ。」



ゲドとアンダーソンはやや打ち解けたのか、フレイムキマイラの換金方法について盛り上がる。

で、結局出た結論は「バランギル工房に丸投げした方が儲かるんじゃね?」というものだった。

マルロさんがロングスネークを搬入してきたので、バランはそちらの解体に移る。


「ラルフ。 今日は店じまい。 搬入口のシャッターも下ろそう。

チートはフレイムキマイラ頼む。

売り先探って来てくれ。」



『あ、報告遅れました。 美品魔石は150万が底値とのことです。

これは魔石市場よりも製薬関連に直接交渉した方が良いかも知れません。』



「え?

じゃあ、この2つで300万確定ってこと?

いや、チート君仕事が早いわ。

本は読めるし、交渉も上手いし。

若いのに大したもんだ。

バラン君。 

アンタ本当に当たりを引いたな。」



『恐縮です。

それでは皮・燃焼袋・鱗粉・爪・骨の5部位を探って来ます。』



俺は礼も兼ねてゴードン道具店に向かう。

奥様も店頭におられたので、まずは先日の礼を述べようとする。


『あの書籍、助かりました!

早速仕事に活用出来てますよ!』


本心からの礼だったが、老夫婦は困った様な表情でこちらを見ている。



『あ、すみません。

俺、また何かやっちまいました?』



「チート君、アレ読めたんだ。

てっきり私は美術品として購入したのかと…」



『あ、すみません。

何となく読めちゃったというか…

今日も本で読んだ部位が手に入ったので、相談に上がったと言うか…』



「チートさん。  

あの本は、帝都で考古学を専攻した人にしか読めないものよ?

専攻外の学者になると、辞書と睨めっこしてようやく解読するの。」



『あ、そうなんですか。

なんかすみません。』



「貴方、帝都の大学にでもおられたの?」



『あ、いえ。 

恥ずかしながら、ちゃんと学校に行った事がなくて。

教育を受ける機会はあったのですが、怠けてしまっていたと言いますか。』



「あら。 勤勉な方だと噂になってますよ。」



『きっと今の職場を気に入っているからではないでしょうか?

みんなの役に立ちたいので。』



「ああ、それは素晴らしいことだな。

自分に合った職場なんて中々巡り合えるものじゃない。」



「詮索はしませんが、もしも勉強をやり直したいなら

商都の市民権を入手される事をお勧めします。

あそこには立派な図書館もありますし。」



『うーん、実はですね。

昨日、こっちの市民権を買ってしまったので…』



俺はモリソン親子との取引顛末を説明する。



「忙しい男だな。

で、早速希少部位に行き当たったと。」



『はい。 フレイムキマイラが2頭入ったのですが…』



老夫婦が顔を見合わせる。



『あ、まずかったですか?』



「いえ、私の様に製薬を生業にする人間にとってはね?

フレイムキマイラの魔石は無理をしてでも仕入れたいものなよ。

どうせバランさんのことだから…」



『はい。 2頭とも美品魔石です。

《燃焼袋》も二つとも綺麗な状態に見えました。

爪・骨・鱗粉も全て揃ってます。』



「ああ、貴方本当に読めるのね。

そうじゃなければ骨をわざわざ残さないものね。」



『オーク族が粘液作りに使うと書いてありました…』



「あらあ、そこまで読み込めるんだ。

じゃあ話は早いわね。

バランさんのお店で直接買い取らせて貰えない?

勿論、他よりは高く買い取らせて貰うつもりよ。

それに、最初に声を掛けてくれたお礼に

私が秘蔵している書籍を貴方になら見せてあげてもいいわ。」



『え!?   

それは助かります。

では、何時頃にご来店されますか?』



「この足で伺います。」



言うなり、ゴードン夫妻は店じまいしてしまった。

判断が早い。

そして30分も掛からず工房に戻った。


バランギル工房・ゲドパーティー・アンダーソンパーティー・ゴードン夫妻とかなりの大人数が一堂に会する。

初対面の者も多かったので、まずはペコペコ挨拶タイム。

そして本題。


ゴードン夫人がゲドに価格提示する。

「皮以外を買い取らせて下さい。

総額は820万ウェンを希望します。

高額なので白金貨(1枚100万ウェン)を用意してきました。」

とのこと。

金額を聞いてゲドが驚き、アンダーソンがコソコソすり寄って来る。


やっぱり冒険者って儲かるんだろうな。

3人で分配しても250万弱。

一年遊んで暮らせる金額だ。

ゲドは軽くメンバーの表情を見てから頷いた。



「ゴードン夫人。 

この中からバランギル工房へ幾らか仲介料を払っても…」



「それは賛成。

区切り良く20万取って貰いますか?」



「それと…

プラスでこの皮を贈呈しても良いかな?

どれだけ高く売れても文句は言わんよ。」



「決まりですね。

私はゲドさんに820万支払い。 

端数と同額の20万を工房に支払い。

バランさんはこれで宜しい?」



「異存ありません。

むしろ貰い過ぎて恐縮です。

部位の売り先が見つからないレア魔物に関しては、今後も仲介に徹しようと思います。」



「これからも私達を優先して下されば助かりますわ。

皮に関しては職工ギルドに相談される事を薦めます。

勿論、現物を持っている事は伏せたままでね。」



ありがたいアドバイスだ。

ゴードン夫妻は遊牧民のゲレルさんに部位ごと送迎されていった。

その間にもバランは淡々とロングスネークを捌いて行く。

美品率もかなり高い。



『アンダーソンさん。

忌憚の無い意見を伺いたいのですが。

魔石を解体料代わりに頂く方式の評判はどうでした?』



「うーん。

総額は確実に上がってるんだけど…

やっぱり感情的に反発するメンバーが居るんだ。

実際に出征するチームは納得してるんだけど、その家族とかバックオフィス組とか。

普段解体しない連中が、もう少し何とかならないか、って。」



『確かに。

実際触ってれば、解体難度はわかりますよね。』



「俺も練習してみたけどさ。

魔石を取りだすどころか、切る為に掴むだけで精一杯だよ。

ほら、後方の連中って切り分けられた部材しか見てないからさ。」



「アンダーソンさん。

美品10個出す度に1個贈呈するよ。

それで皆さんを納得させてくれませんか?」



「え?  いいんですか?」



「アンダーソンさんの今期のロングスネーク限定だから。

皆には内緒にして下さいね。

後、どれくらい狩るつもりなの?」



「今年は最低でも500匹くらい狩れると思います。」



「じゃあ10分の1方式でも利益は出ますね?」



「はい、かなり助かります。」



「じゃあ今日は4つは確定ね。」



「本当に助かります!」



「明日の15時には仕上げるけど。

どうします?

明日はスネーク狩り行くんですか?」



「うーん。

装備の消耗激しいし負傷者も多いので

準備と部位売却に徹します。」



「あ、そうだ。

アンダーソンさん。

食肉って幾らで販売されてますか?」



「㌔300です。」



「ウチも300で買いますよ?」



「え!? 本当に?

助かります。

肉を運ぶの、正直疲れるんで…」



「じゃあ、明日の引き渡し時に重量測定しましょう。

これなら部下の方を納得させられそうですか?」



「ありがとうございます!

もうこれ以上の待遇は無い、と言い聞かせます。」




満面の笑みでアンダーソンは帰って行った。

マルロさんも明日の積み込みの打ち合わせを終えると帰って行った。

その後は4人で解体に精を出す。

と言っても俺は役に立たないので、皆の夜食を買い込んだり、回収屋を訪問してゴミ引き取り契約(月間7万ウェン)をしたりした。



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《バラン=バランギル》 ※アシスト2名


ロングスネーク81匹解体記録 


所要時間501分


美品魔石66/キズ物魔石11/破損魔石4 (うち美品6つを依頼主にキャッシュバック)


美品毛皮73/キズ物毛皮7/破損毛皮1


美品毒袋79/キズ物毒袋1/破損毒袋1


食肉890キロ(買取相場は㌔300ウェン)


牙・尻尾(討伐部位)は略


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ギルドで様子を見て来たが、ロングスネークの相場はやや下がって65000円。

下落理由はどう考えてもアンダーソンパーティーの乱獲。

サービス魔石の6つも彼らはすぐに売り払ってしまうだろう。

3人で相談してしばらく寝かす事に決める。

平均6万で売りさばけたとしたら360万ウェン以上のキャッシュイン。

売値が1万上がるごとに60万ウェン利益が上乗せされるのだから、少しでも有利な相場で売りたい。

とりあえず放出ラインは8万5000ウェンに定める。

ゴードン雑貨店のように自前でポーションを作れれば儲かるのだろうか?

もっとも今は自前で肉を加工できるだけで十分だけど。

資格持ちのドランさんはスパイスジャーキー用の原液を職工ギルドに買いに行く。

指定の原液を使わないと卸市場が買い取ってくれない所為だ。


その日は想定以上に遅くなったので、仕事が終わるとシャワーを浴びて寝た。

次の日は目を覚ましたのが4人共昼だったので、やはり疲れが溜まってたのだろう。

バランを消耗させない為にも、1日の解体数に上限を設ける事にする。

『1日50匹を上限にしましょう』と俺が提案すると、バランは不服そうに「もっとやれる」と反論したが、ラルフ君に言わせるとそもそもが50頭だって超人的なオーバーワークだそうなので、納得して貰った。


【伊勢海地人】


資産 26万ウェン  (今回の活躍で師匠から20万ウェンを分配された)  

   古書《魔石取り扱いマニュアル》

   古書《帝国本草学辞典》

   北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)


    

地位 解体屋パーティ―所属  (営業担当)

   前線都市上級市民権保有者


戦力 なし




【筆者から】


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