チートで債権を放棄する。
ゲートが善隣都市付近に出現したとの事なので、陸から目視出来ない距離の沖合で一旦停泊して様子を探る。
俺が行くと警戒されるので、秋田犬にパチャパチャ泳いで偵察して貰う。
俺はギーガー達と寝転がって報告を待つ。
途中、ギーガーの年下の叔父であるゲルグが別船でやって来て合流。
久々にゲーゲー部族が集まったので、部族料理を作ってリザード勢とクュ中尉に振舞う。
翌日の昼に秋田犬が帰還。
善隣都市の北東すぐの所にゲートが出現しており、リザード・人間のギャラリーが散見されるらしい。
「どうした、チート?」
『うーん、報告を聞く限り…
そこって俺が転移して来た場所ぽいぞ。』
「あ、そうなんだ。」
『うん、善隣都市から歩いて15分位の街道沿いに転移して来たんだ。
小さな水場の脇だろ?
うん、多分そこだと思う。』
「要するにチートはゲートと呼ばれる移動装置を使って、こっちの世界に来たんでしょ?
じゃあ、チートがゲートを開いたら、その辺に現れるんじゃない?」
『そこら辺の原理は良く解らない。』
「いや、僕に言わせれば
君の行動原理が一番謎なんだけどさ。」
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俺達の艦が善隣都市に近づくと、城壁上にギャラリーが首を出す。
俺の視力では判別出来なかったのでキティに観察して貰う。
「あの役人も居るね。」
『レザノフ卿?』
「相変わらず仲がいいよね。」
『そんなんじゃない。
どんな表情してた?』
「気になるの?」
『キティが考えているような気のしかたじゃないけどな。』
「凄く嬉しそうだった。
こっちを確認したら、すぐ降りてった。」
…戦闘になるな。
クュ中尉にガードをお願いしたいが、コボルトを人間領に招き入れるのは協定違反か…
ヴェギータも論外。
まさかリザードの軍トップの息子を人間種の争いに巻き込むわけにはイカンだろうしな。
『キティはどうする?』
「言ったでしょ。
グランバルドに戻ったらエリーと合流する命令を受けてるって。
ほら、ヴィルヘルム家紋の短艇が近づいて来てるでしょ?」
『行くのか?』
「安心して、後ろから撃つ気はないから。」
オマエがその気になれば真正面から素手で来られても、俺は死ぬのだが。
『そうか。
それじゃあ、元気でな。』
「また逢いましょう。」
いや、もう会うことは無いだろう。
あるとすれば、俺にとって最悪のタイミングだしな。
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善隣都市の東側を流れる大河を遡上して、ギリギリまでゲートが出現したと思われる位置に船を近づける。
ああ、俺でも見えた。
確かに光の柱が確認出来るな。
しかもあの色調は、俺が標準座標の奴に放り込まれたものと同じ雰囲気だ。
さて、しばらく船上生活が続いた所為か陸地を行くのは怖いな。
クレアも殺害を恐れて絶対にグランバルド付近には上陸しない程だしな。
もう一度、秋田犬に斥候を出す。
味方してくれそうな者が見つかればいいんだが。
俺が襲撃を恐れてタラップの上でウロウロしていると、見知った顔が何人か寄って来る。
小太りオジサンに自称市長親衛隊のラモスか。
『どうもー、ご無沙汰してます。』
「チート君!
挨拶は後だ!!
襲撃来るぞ、レザノフさんだ!!!」
『他に敵は?』
「一騎で暴れてる!!
街中でも何人か斬られた!!」
あのキチガイは滅茶苦茶だな。
『ヨーゼフさんはまだ街の中?』
「さっき門の外で会った!!」
『じゃあ、《今、借金返して》って言って来て!
それで通じるから!!』
「わかった!!」
足の速いラモスを伝令にして、俺・小太りオジサン・秋田犬の3名でゲートに走る。
「チート君!!
あの光の扉に行くの!?」
『はい!
中に突入します!!』
「僕も触ってみたけどビクともしなかったよ!?」
『多分、認証された俺にしか入れないんだと思います!』
走っているうちに、グランバルドに来た日を思い出す。
ああ、思い出した。
転移して周りを見渡したら善隣都市が目に入ったから、とりあえず歩いて行ったんだ。
今度は逆に、あの光の柱に向かって走るだけの話だ。
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光の柱がかなり大きくなった段階で人影を発見。
何人かの見物人がゲートへの道をウロウロしていたので様子を伺う。
よく見ると解体屋時代に接客した冒険者達だ。
「おう、不倫市長ww
久しぶり!!」
「切腹中継見てたぞーww」
「やってくれましたなーww」
皆が集まって頭をポカポカ叩いて来る。
このノリ懐かしいな。
『どうもー。
お騒がせしてまーすww
最近儲かってますか?』
「チート君がリザード市場開いてくれたからな。
大きめのスネークを持って行くだけで5日は喰えるようになったよ。」
「俺達、もうトードとスネークしか狩ってないよなww」
「その所為でスタンビード起こりまくりww」
『マジですか!?
ちゃんと冒険者ギルドの仕事して下さいよーw』
「えー、悪いのは突然失踪した市長だよーw
いきなりいなくなるなよーw」
『すみませーんw』
「お、謝れて偉いww」
『で、謝罪ついで何ですけど。
今、追撃を受けてるんで護衛を依頼出来ませんか?』
「…相手は誰?」
『レザノフ。』
「ああ、商業ギルドの…
何、揉めてるの?」
『あの人、軍の情報部なんですよ。
前から目を付けられてて…』
「ああ、やっぱりね。
あのガタイで大蔵省はちょっと無理があると思ってたんだ。」
「そりゃあチート君。
あれだけやらかしたら、普通にヤバいでしょ。
今まで消されなかったのが不思議なくらいで。」
『あ、同感です。
俺、何でまだ殺されてないんだろ、って。
毎日思ってましたもん。』
「それがたまたま今日になるんだなw?」
『勘弁して下さいよーw
護衛の話どうです?
1人3000ギルをお支払い可能です。
レザノフを殺してくれたら5万ギルをボーナスとして支払います。
支払いはウェンでもOKですよ!』
「ゴメン。
子供がもうすぐ1歳になるんだ。
命が惜しいから、さ。
ウェンは要らないかな。」
「俺は月末に妹の結婚式があるしね。
公職者と戦闘なんて論外だよ。」
「チート君も知ってるだろ。
冒険者は危ない橋を何より嫌う。
誰だって冒険はしたくないんだよ。」
『ですよねー。』
「でもまあ、これまでの付き合いもあるしな。
俺の手持ちの道具、譲ってあげるよ。」
「剣は足が付くから、それ以外で。」
『じゃあ、薬品類持ってたら下さい。
あ、その背負い袋下さいよ。
いえ、プレートは大丈夫です。』
「こんなのでいいの?」
『いや、正直助かりました。
ほぼ丸腰でここまで来てたもので。』
「OK!
お役に立てて何よりだ。
君には返しきれない恩義があるが、これでチャラにしてくれ。」
「いつも閉店間際に解体対応してくれてありがとうな!」
そう言うとかつての常連冒険者達は木立の影に沈むように気配を消した。
流石は一流冒険者。
引き際も見事だ。
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そしてゲートが目視できる距離まで近づくと…
ん?
何故か扉は2つあった。
理解不能。
貴重品なんだろ?
どうして2つも扉がある?
デザインは全く同一。
内側から光が漏れてるのも一緒。
うーん、予定が変わってしまったな。
またしても想定外か…
出現するゲートが一つである事を前提に策略を練っていたからな。
2つもあるなら、《待ち伏せ殺害作戦》が組めないじゃないか。
少し苛立った俺は、拳でゲートを思わず叩く。
ドン!
『え?
これって実体あるパターン?』
慎重に触る…
あ、これ実体を伴っている!
しかも意外に軽いぞ!?
俺は小太りオジサンに、ゲートを船まで運んで貰うように頼む。
『コボルトに話は付いています。
その旨、クルーに伝えて下さい。
艦内ではゴブリン語かリザード語が通じますが
グランバルド語はカタコトくらいしか通じません!』
彼は俺同様に、そんなに力のある方では無いのだが、軽々と持ち上げてしまう。
「あ、これ殆ど重量ないねえ。」
俺ももう一つのゲートを持ち上げてみるが、荘厳な見た目に反して簡単に浮き上がってしまった。
なら当然、別々に運用するべきだよな。
…そこで俺の思考が少し止まる。
何故2つゲートがある?
俺が2回スキル診断を行ったから?
百歩譲って俺が狂戦士だったとして…
リザード神像とオーク神像で2回《狂戦士》判定をされたから、2つゲートがここに出現したのか?
ベスおばは船舶内にゲートを出す事に成功させた。
俺にそれが出来なかったのは、一度ゲートを使った経験があるから?
理解不能。
いや、今は考えている状況でもないか。
小太りオジサンと予備のゲートを安全圏に退避させなきゃいけない。
『スミマセン!
謝礼は俺の部族のギーガーというゴブリンに…』
俺が小太りオジサンの背中にそう呼び掛けたが、彼は振り向きもせずに。
「もう充分貰ったよw」
と言い捨てて消えた。
もう、ひたすら感謝のみである。
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さて。
ヨーゼフはちゃんと債務に向き合ってくれたようだな。
後方に現れたレザノフは腕を庇い…
いや切り落されたのか?
腹部からの出血も確認出来た。
脚も折れているように見える。
あの負傷で止めを刺されていないという事は、ヨーゼフは敗死したと考えるのが妥当だろう。
ヨーゼフ・ホフマン。
貴方はいい仕事をしてくれた。
心から感謝する。
約束通り借金はチャラだ。
そして改めて貴方が一流の戦士である事を認定する。
目測500メートル。
レザノフの身体能力を鑑みれば、すぐに詰められる距離だ。
いや、詰めて来ない所を見るとやはり脚が折れてるのか?
或いは斬られて落馬したのだろうか?
着衣の汚れと乱れから、そう見当をつける。
遠目で見えない筈なのに、あの男が笑っている事だけは何故か分かってしまう。
その気持ち解るよ。
殺す予定の奴を見つけたら、嬉しくて思わず笑っちゃうよなwww
この感動を共有したかったので陽気に手を振ってやる。
レザノフは手を庇ったまま、僅かに頭を振って応えて来る。
なるほど、想いは同じ、と。
ゴメン、キティ。
確かにレザノフに恋愛感情がある訳ないんだけどさ。
オマエらなんかより、あの男の方がよっぽど好きだわ。
俺は足を引き摺りながらゆっくりと接近するレザノフから目を切らずに、ゲートの入り口をペタペタ触る。
《スキル狂戦士を確認しました。
転送システムを起動します。》
おいおい、思いっきり電子音声じゃねーか。
こんなののどこが神託なんだよ。
言っておくけど、俺の祖国にはずんだもんやらゆっくり霊夢なる高度な神託があって
日本中の陰キャが毎日飽きもせずに祈祷してるんだぜ。
なあ、標準座標クンよお。
くっだらねえ。
オマエらって本当に下らねえな。
仕事雑過ぎだろ。
あそこの血まみれのキチガイを少しは見習えよ。
まあいいや。
これから殺す連中に駄目出しするのも時間が勿体ない。
俺は迷いなくゲートの光を潜った。
もうネタバレ済みなので何の感慨も無い。
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良かったなあ、オマエラ。
オマエラが待ち望んだ狂戦士が来てやったぞ。
戦争の道具にしたいんだろ?
お望み通り、殲滅戦の準備をして来てやったぜ?
ブッ殺してやるよ。
【読者の皆さまへ】
この小説を読んで
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後、好きなキャラ居たら教えて下さい。
よろしくお願いします!
【伊勢海地人】
資産 隠蔽完了
地位 ゲーゲー部族の準一門
リザード種ヴァーヴァン主席の猶子
ランギル解体工房見習い (廃棄物処理・営業担当)
伯爵 (善隣都市伯) ※剥奪予定
2代目ヘルマン組組長(襲名予定)
戦力 ヴェギータ
(リザード軍元帥の息子・ニート)
ギーガー
(ゴブリン部族長・ゲーゲーの弟)
クュ
(コボルト軍の中尉。 大尉昇進が内定した。)
秋田犬
(ただの犬だがコボルト種族内で役職に就いている為、偉い)
小太りオジサン
(元魔石バイヤー・市長秘書室長。)
ラモス
(市長親衛隊。頭数要員だが、マメに招集に応じてくれる)
ヨーゼフ
(債務10億ウェンの棒引きを条件に対レザノフの殺害契約を結んでいた。)