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チートで大量破壊兵器に立ち向かう

査問会が始まった。

本来、神聖グランバルド帝国の査問会は帝国議会内で秘密裏に開催されるのだが、今回に限っては内容が内容なだけに、全種族に対してリアルタイム映像通信で共有される。


告発内容は

「地球人・伊勢海地人が正体を隠してグランバルド帝国に潜入。

地球人がこの世界(月)の表面に基地建造を行っている事実を知りながら隠蔽していた。」

というもの。


…改めて文章に起こすと酷いな。

1000回くらい死刑にされても文句は言えない。


告発の被告は俺。

そして原告は。

…ラルフ・ラスキン。



スクリーンに映っているお偉方に混じって堂々と着席している。

この短期間で色々あったのだろう。

ラルフ君は以前よりも精悍な表情になった。

覚悟を決めた男の顔だ。


そのラルフ君の脇を立派な装束の壮年~老年男性が固めている。

一番上座に座っているのが恐らくマティアス議長だろう。

温厚な老紳士の印象だ。


昨日通信したヴィルヘルム公爵は…

あ、あの家紋だ。

あ~、目元のキツさがベスおばに似ているな。

若い頃はかなり激烈な性格だったと聞くが…

相当厳しい雰囲気を感じる。



さて。

最近、悪いトラブルが続いた(全部ベスおばが元凶)が、今回一つだけポジティブなニュースがある。

俺の【心を読む】チートスキルだが、ディスプレイ越しに【相手の本音】が見える。

これは結構強いな。

何故なら、月世界の通信は今後映像通信が主流になる事が政治的合意によって決定しているからである。


あーあ。

俺がもう少しここに居る予定なら、活用出来たのだがな。

惜しい事をしたものだ。



============================



タイムスケジュール通り、先に映像チェック。

各種族の技術官僚達がカメラの画角を調整している。

まだ音声は入って無いので開廷はもうすぐである。


査問会が始まってしまうと、自由に会話出来ない事が予測されるので、今の間にヴィルヘルム公爵に目線で合図を送っておく。

《打ち合わせ通り、ベスおばに神像を引き渡せましたよ》

と。


昨日の今日だ。

ちょっとしたウィンクで意味は通じる…

かと思ったが、意外に公爵の反応が鈍い。



おいおいおい。

俺はアンタの指示通りに私財を引き渡したんだぞ?

おまけに被弾までしている。

一言くらい労ってくれてもいいんじゃないか?



等と思っていると、公爵の胸元に【心の声】がポップアップする。

よし。

このカメラ配置なら公爵の【心を読み続ける】ことが出来るぞ。




【さっきからチートの奴は何をコソコソしとるんだ?

ひょっとして私に弁護して欲しいのか?

わかっているのか?

義父という立場がある以上、逆に庇えないのだぞ?】




ん?

何だ?

どうして、この男は神像の事を微塵も考えていない?

アンタの娘がやらかした事件なんだぞ?


俺はアングルの中心にヴィルヘルム公爵が映る度に、ウインクや咳払いで合図を送り続けた。

嫌な予感がする。




【義父と言えば…

エリザベスはどうした?

てっきりチートと一緒に出席すると思っていたが。

議場の外で待機しているのか?】




…やられた。

ヴィルヘルム公爵の【心の声を聞いた】瞬間。

俺は如何に自分が馬鹿かを思い知らされた。




【それにしてもチートの奴。

外交に必要だからと、私に高速艇を建造させておいて

礼状の一枚も寄越さないとは非常識にも程がある。

こんな事は言いたくないのだが彼は平民出身なのだから…

エリザベスがちゃんとそういう貴族社交の初歩を教えてやってくれないと。】




…やられた。

俺は、負けた。

ここまで見事にしてやられると怒りすら沸かない。

ベスおばの特技が腹話術で、以前もそれを駆使して大きな事件を起こした、と聞いていたではないか。

あれだけ多芸ぶりを誇示するあの女が、腹話術だけは一度も俺に見せなかった…


そう、俺が対ベスおば戦の為にカードを何枚か伏せていたように、あの女もまた腹話術を始めとする何枚かのカードを温存していたのである。

ベスおばは文字通り口先一つで、俺から神像を父親から高速艇を詐取した。


見事、だ。





『ヴァーヴァン主席。

急ぎ皆様に報告しなければならない事があるのですが

音声はまだ繋がりませんか?』



「ん?

おいおい、そういうのは困るよ。

《隠し事は全て話した》、と言ってたじゃないか。

後出しは一番印象悪いぞ。」



『いえ、私が昨日犯してしまった重大なミスについてです。

大至急皆様に報告しなければなりません。』



「おいおいおい。

もう査問会が始まるんだぞ?

地球の人間種が天蓋に着陸している以上に重大な問題なんて無いと思うがな。」



『俺のミスの所為で、地球との全面戦争が開始される可能性が高いです。

大変申し訳ありません!』



「…謝って済むレベルの話ではないだろう。」



『仰る通りです。』




俺は昨日、ベスおば艦隊に神像を強奪された事件を報告する。

そしてその直前に《ヴィルヘルム公爵の声で》入電された内容もだ。



「…チート。」



『はい。』



「…君さぁ。」



『申し訳御座いません!』



『とりあえずテロップで流すわ。

まさか初回からこんな風に使う羽目になるとは思わなかったけど。』



凄いな月世界人!

初の映像通信会議に合わせてテロップ機能まで用意して来たのか!?



現在、通信技師達が最終調整に入っている。

映像と音声を同時に送受信するのは、かなりハードルが高いらしく、2回のリハーサルを成功させたにも関わらず、調整に苦戦している。



「いえ。

テロップは普通に流せますよ。

打ちたい文字列を指定して下さい。」



コントロールルーム前のリザード技師が返答する。

この様な大役を仰せつかるだけあって、この技師はエリート中のエリートである。

一般学校在学中に《海底ケーブルの軽量化技術》を考案し、一等勲章を授与された事もあるそうだ。



「ええ。

この内容…

本当にそのまま流すのですか?」



『申し訳御座いません。』



「いえ、私に謝られても…

あのねえ、イセカイ伯爵。

謝るようなら、そもそもトラブルを起こさないで下さいよ。」



『不徳の致すところであります。』



「貴方って謝る時だけお行儀いいですよね?

そういうの信用無くすからやめた方がいいですよ?」



『はい! はい! 仰る通りです。

猛省致します!』



俺、この世界に来てから結構色々な人から怒られて来たのね?

(師匠とドランさん位のものだよ、俺を甘やかし続けたのは。)

おかげで、謝罪のバリエーションは相当増えた。



「どうなっても知りませんよ?

テロップ出します!」



みんな、仕事増やしてゴメン。





=================



《緊急速報:『お詫び』


私、イセカイ・チートの不注意により

今回の査問会でも話題に上がる予定であった神像を

エリザベス・フォン・ヴィルヘルム博士に詐取されてしまった事を報告します。

尚、大量破壊兵器製造への悪用が考えられます。

同博士の乗艦を目撃された方は

全種族会議運営委員会まで大至急ご通報下さるようお願い致します。》



=================






画面の向こうでヴィルヘルム公爵が絶叫咆哮している映像が流れる。

気を利かせているつもりなのか、カメラがアップで公爵を映す。

おいおい、国際会議にエンタメ性を持ち込むなよ。

いや、ちょっと面白いけどなww




それから30分ほど経過して、コボルト種・ゴブリン種との音声接続が成功する。


「やってしまいましたなあ。」


ゴブリン側の代表ソンソン(ゲーゲーの奥様の一族の族長。 ゲーゲーとは思想的にやや敵対している)が開口一番に無表情のまま呟いた。


「奥様の船籍番号をテロップに出しておいて下さい。

沿岸の部隊に伝達します。」


コボルト側の代表は、この問題にさしたる関心を持っていない。

にも関わらずテキパキと対応してくれる。



「イセカイ殿。

内輪の問題は内輪で収めて下さるとありがたいのですがねえ。」



ソンソンの追及が厳しい。

俺はひたすら平謝りをする。



続いて、オーク種・人間種との音声が接続された瞬間、皆様からの怒号が飛ぶ。

俺とヴィルヘルム公爵は、声が枯れるレベルで謝罪し続けた。

事前報告とは別の問題が急遽追加された事がギルガーズ大帝の逆鱗に触れてしまったらしく、泣くほど怒られる。

(怖かった。)



「チート!

どうしてエリザベスなんかに神像を渡したんだ!!!」



俺は皆に、エリザベスが取ったであろう腹話術戦法を打ち明ける。


①公爵の声色を使って神像を引き渡すように誘導

②実際に軍艦で強襲、事前の通話で誘導されている為に、破棄も隠蔽もせず。

③帝国側が回収・返還すると信じている為、追撃も通報もせず。



「うおおお!!

言ったじゃないか!!

散々言ったじゃないか!!

あの女は腹話術を駆使するって最初に私が言ったよねぇ!!!」



『申し訳御座いません。』



「大体さあ!!!

そんな重大な問題を独断で処理しようとするなよ!

君の悪い癖だぞ!!」



『誠に申し訳御座いません。』



「何の為に高速艇を君に与えたと思ってるんだ!!!

それも2隻も!!

君がどうしても必要と言ったから支給したんだぞ!!!

あの船のスペックなら十分距離を取れるでしょ!!!」



『あ、その高速艇の支給を申請したのは姫殿下だと思います。

腹話術で…  私の名を騙って…』



「え!?


…あ。」



哀れ公爵は放心したような表情で椅子にグニャリとへたり込んでしまった。



「娘さん、どういう教育をされてるんですかね!?」



ギルガーズ大帝の追及が止まらない。

相当ヒートアップしている。

まあ、そりゃあ怒るよな。

幾らなんでも人間種の不始末が多すぎるし

その元凶の殆どが、俺とベスおばなんだよな。

そりゃあ公爵閣下に矛先向かうよな。



その後も俺は、激しくこちらを糾弾する各種族の皆様にひたすら平身低頭して釈明と謝罪を続けた。

…辛い。



ちなみに、俺を糾弾する為の査問会はまだ始まってすらいない。

こっちの問題を糾弾され終わってからでないと、あっちの糾弾が始まらないのだ。

物事って順序があるよね。



取り敢えず、緊急決議が採択された。


「全種族会議は大量破壊兵器の無断開発・保有を堅く禁ずる。」


と。


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― 新着の感想 ―
2話前のはエリザベスの腹話術だったのですか チート君も結構こっ恥ずかしい告白しちゃいましたね
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