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チートで我を通す!

結局、俺はキティの為に用意した妾宅で起居している。

住処を提供された事で女としてのプライドが満たされたのか、ヒステリーは収まった。

取り巻きのヤクザに当然の様な顔をして出入りされるのは正直キツい。


朝起きるとゲルグに任せてある船に出勤する。

ここには俺への面会を目的に、こっそりゴブリンやリザードの使者が来訪している。

コボルトが俺に付けた秋田犬とも再会を果たした。

コイツは正真正銘の犬なのだが、コボルトから役職を貰った犬なので俺も粗略に出来ない。

ドランが残した干し肉をくれてやったら【うむ。】とか言われてしまった。

正直腹も立つが、この秋田犬が人類とコボルトとの唯一の架け橋である。

涙を呑んで日々犬に頭を下げている。



午後には庁舎に出勤。

レザノフと諸々の打ち合わせ。

ゲイ疑惑が生じる位には頻繁である。

帝都との通信は毎日。

そんな義務は無い筈なのだが、俺も毎日通信機の前に座らされている。

短い日でも最低2時間は付き合わされる。

上層部の意図は解り切っている。

口実を設けて俺を通信機の前に座らせる事によって、暗に監視掣肘しているのだ。




こんなルーチンで動いているので、工房にも申し訳程度しか顔を出せていない。

師匠とも話し合ったのだが、バランギル工房の代表はラルフ君が務めるのが最適解なのかも知れない。

少なくともバラン師匠は城壁内での解体業は、その歴史的役割を終えたと考えている。

リザードが公然と希望しているように、善隣都市の冒険者はリザード側の下請け業者的な存在となっていくのだろう。

(彼らの方がカネ払いが良いからね。)




…こうして。

俺の時間は完全に無くなった。

今、生活の全てが重荷/足枷になってしまっている。




疲れた。

社会全体に上手く使われている気がする。

ちょっと目先を変えるか。

俺はフリーハンドでないと真価を発揮できないのだから。



『レザノフ卿。

もう私が御前会議に立ち会う必要もないでしょう。

そもそも議員でも無い身で大公様と席を並べるのは、我ながら不敬かと思います。』



「…疲れましたか?」



『はい。

正直、日々の負担が大きすぎて

精神的にも肉体的にも、かなり来ています。』



「貴方の保身を考えれば、通信機に張り付いているのがベターですよ?

もうすぐ帝国議会にも貴方の枠が用意されるのですから、ここは流れに従っておくべきでは?」



『レザノフ卿は…

帝都で議席貰えたら嬉しいですか?』



「いえ、全然。

だって面倒事が増えるじゃないですか。」



『自分が嫌な事を私に押し付けるのはやめて下さいよ。』



俺が生粋のグランバルド人だったら。

今の待遇を嬉しく感じたのかな…

グランバルドが本当に異世界だったら、多分こっちに腰を据える気になったんだろうな。



『そもそも俺、役人でも無ければ貴族でも無い訳じゃないですか?

今の生活、本当に辛いんですよ。』



「蒸し返すようで申し訳ないのですが

役人でも貴族でも無い人が勝手に異種族外交しないで下さいよ。」



『それは…

もう…

誠にごめんなさい。』



「貴方は謝れるだけ偉いですよ。

心は籠ってませんけど。」



…どいつもこいつも心心ってうるせえな。



『しばらく病気療養ってことにさせて貰えませんかね?』



「庁舎の医務室を提供しましょうか?

医者も専属で呼びますよ?」



『出来れば自宅療養で…』



「自宅ってバランギル工房?

最近帰ってないでしょ?」



『いや、カフェ・モニカの裏にある…』



「あそこ、貴方が愛人囲ってる場所でしょ!?

流石にそれはまずいですよ!」



『まずいですかね?』



「帝国がこれだけ大変な時期に女遊びですか?

ねえ、帝都でどれだけの数の人間が死んでると思ってるんですか!?

あなたも知ってますよねぇ!?

しかも、騎士キティって実質ヤクザですよね?

正式な婚姻関係にはないんでしょ?

え? 仮病で会議休んで反社と不倫ですか?

あなた、自分が何を言ってるか理解してます!?」



『やっぱり…

まずいですかね?』



「…社会通念上、非常に好ましくないですね。」



『じゃあ、船内で療養するのはどうですか?』



「うーん。

貴方、帝国を…  

いや、人間を辞めたいの?」



実はもう辞めているのだが、流石のレザノフもそこまでは読めないか。



『休息が欲しいだけですよ。

私は身体も弱いし、皆さんほどタフではないんです。


いや、働く気はあるんですよ!

働く気はあるんです!


ただ、やっぱり体力・気力には個人差があるんですよ!』



生ポエリートの父から受け継いだ奥義、《働く気はあるんです攻撃》だ。

本当に働く気がある奴は、こういう論法使わない気もするけどな。



『これは自分で言う様な事ではないと思いますが…

もうかなり帝国の為に尽くしたと思います。

十分でしょう。

少しくらい我を通させて下さいよ。』





結局、船上療養を申し出つつ妾宅でゴロゴロする事にした。

正直、もう疲れた。

今の俺は最後のパーツを待っている。


《マティアス議長が郵送してくれている筈のスキル判定神像》


これさえあれば、この馬鹿げた蟲毒も終わる。

色々あったが、概ね俺の構想通りの展開となった。




==================================




『なあ、キティって何かスキル持ってるの?』




この女の機嫌が良い時を見計らって尋ねてみる。

いつかはしなければならない質問だったが、やはり怖い。




「いっぱい持ってるみたい。」



『いっぱい?

スキルって何個も持てるものなの?』



「さあ?

私、他人に興味ないし。

その時も鑑定されただけだから。」



『その鑑定の時って、どんなスキルがあったの?』



「さあ?

聞く前に殺したから。」



…くっそ、野蛮人め。

息を吐くように人を殺してやがる。




「…初めてだね。」



『?』



「チートが初めて私に興味を持ってくれた。」



『…前から気にはなっていたけどな。』



「…。」



『気に障ったなら謝るよ。』



「…私じゃなくて、私の能力に興味があるんだよね?」



『能力って人格そのものだからな。』



「違うよ?」



『違うのか?』



「チートだけだよ。

そんな考え方してるの。


…可哀想な人。」



やれやれ、キチガイに憐れまれてしまったよ。

オマエは無学だから解らんのだ。

能力だけが人格を形成する。

優れているから余裕が生ずる、劣っているから憎悪が育まれる。

平均的な能力を持つから無難な人格が形成される。

歪な能力を持つから人格が歪む。

全てを持つから驕り、全く持たざるから絶望する。

人間が人格と呼ぶものなど能力という名のプログラムを運用する為のプログラム言語に過ぎない。


そうだよな?

みんなもそう思うだろう?




『なあ、キティ。

キミには難しいかも知れないが。

能力こそが人格を醸成するんだよ。』



「…それって誰の受け売り?」



俺の思考が受け売り?

ん?

今、オマエ何て言った?

俺の思想は、俺が人生を通して…  練り上げた…




「…チートって、まるでエリーの人形だよね。」




あれっ?

いや!

違っ…


俺ほど意志の強い人間はいないぞ?

自我もしっかりしている!

何せ他者の【心が読める】のだから。


そりゃあ確かにベスおばの論文に傾倒していた時期もあるさ。

でも、そんなことで人格的影響を受けたり、生き方が変わったりはしないだろ?


…しないよな?



この女は馬鹿でキチガイだから、俺がベスおばの影響下にあるかのように錯覚しているのだ。

…今の俺が通しているものは、我だ。


断言しよう、俺は我を通している!

【登場人物・登場ゴブリン・登場犬】



「ゲルグ」


主人公がコボルト領で出会った大物ゴブリン商人・ゲーゲーの異腹弟。

現在主人公の所有する船舶の船内で生活している。

実質、この船舶がゴブリン種の駐人間領大使館となりつつある。



「秋田犬」


元はリザード貴族の所有していた狩猟犬。

コボルトの指示により人間領のイヌ科をコボルト領に移動させる事業の責任者となった。

見た目は完全に単なる犬だが、イヌ科内のヒエラルキーは滅茶苦茶高い。




「レザノフ」


財務官僚にして情報将校。

グランバルド帝国の第一人者であるマティアス大公の寵臣。

危険人物である主人公を粛正したいのだが、多忙過ぎて中々手が回らない。




「バラン」


解体職人。

主人公の師。

主人公をサポートする為に、積極的にリザードとの交流を行っている。




「ラルフ」


解体職人としての主人公の後輩。

16歳と若年だが、非常に成熟している。

職人としても非常に優秀であり、バランの後継者と目されている。




「キティ」


主人公の愛人。

ヤクザの頭目・大量殺人鬼・賞金首。

本来、社会に存在してはならない筈の重犯罪者だが、主人公の妻・エリザベスによって騎士叙任されてしまったので、誰も手を出せない存在になってしまった。





【種族解説】




「リザード種」


鰐頭の種族。

恐ろしく知能が高く、気球や海底鉄道などの先進的な技術を多数保有している。

人間種とは互いに未知の危険生命体として睨み合っていたが、主人公のチート翻訳によって最近国交が樹立された。

人間種を安価良質の陸上労働力として非常に高く評価しており、その経済圏に組み込みたいと考えている。

支配地域が全種族の中央に位置している関係もあり、国際社会の中心的な存在となった。



「コボルト種」


犬頭の種族。

技術発展にはあまり興味が無いが、戦場での鹵獲品を即座に実戦投入し模倣品を現場生産するなど、知的能力は受け身ながらも極めて高い。

つい先年までリザード種を戦争によって追い詰めていたが、主人公のチート翻訳で実質的な降伏宣言をされてしまったので、あっさり受け入れた。

狂暴な戦闘種族と認識されていたのだが、どちらかと言えば厳格で禁欲的な軍隊種族。

軍隊的な社会を好んでいるが、戦争そのものを目的としている訳ではない。

突然発生した国際社会を舞台にした外交交渉には心底興味が無く、外交を友好種族であるゴブリン種族に丸投げしたがっている。



「オーク種」


猪頭の種族。

人間種とは長らく膠着状態にあったが、主人公のチート翻訳による外交戦開始に素早く対応した。

全種族会議では、他種族との国境に長大なゴブリン入植地を緩衝帯として設置する事を宣言。

他種族の反応を待たずに各地のゴブリン難民を誘致し既成事実化に成功した。

社会形態は武侠的価値観に基づいた極めて固陋なものだが、中世的な統制力がそのまま強い外交力として反映されている。

種族領域の北方に広大な未開拓地を発見しており、同地の領有権を確保するまでは消極外交に徹するつもりでいる。




「ゴブリン種」


鬼顔の種族。

暗所特化の地下種族。

他種族に比較し小柄な上に、大規模な集団を形成する習慣が無い事から、各地に離散しており、種族が占有する土地を持たない。

コボルト領内では友好種族として優遇されており無数の自治都市を運営しているが、それ以外の地域では種族間協定を結ぶほどの関係を構築できていなかった。

特に人間種領内では絶え間ない虐殺行為の被害を受けており、今回の全種族会議が始まると同時に各地に退去した。

主人公のチート翻訳によって意思疎通技術を身に着けた事により、これまでコボルトのみに提供していた地下空間運営技術をオーク・リザード両種にも提供し始めた。




「人間種」


地球において《ホモサピエンス》と呼称される生物とほぼ同種の種族。

コーカソイドに酷似している為、同地に転移した多くの日本人が地球内の異国と誤認したほど。

何千年も激しい戦乱を続けていたが、現在は全ての人間種を統合した《神聖グランバルド帝国》なる国家体を運営している。

その国名が示す通り、建前上は皇帝専制国家なのだが、近年は実質的な共和政体で社会が運営されている。


主人公のチート翻訳によって突如発生した《国際社会》が共和政体とは極めて相性が悪く、その対応に苦慮している。

現在、国論を他種族との協調路線に統一する為の大規模粛清が行われている。



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