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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

性的満足を意図したコンテンツ

作者: ななぽよん

※一部の性的趣向を持つ人にはエロいと感じる箇所がもしかしたらあるかもしれませんが、決してエロい作品ではございませんのでがっかりしてお読みください。

 真っ白い部屋の中に様々な十六人が集められた。彼らは一様にうつむき加減で歩き、目を細めながらゆっくりと円卓に並べられた椅子に近づき、手探りでそれに座った。

 全員が座ったところで沈黙が流れる。

 しかし一瞬の間ののちに、一人が声を上げた。


「えーごほん。それでは今回のディスカッションを始めたいと思います」


 全員が突然拍手を始めた。

 最初に声を出した者が議長になる暗黙のルールがある。名乗り上げがいない場合、誰かが音を上げ限り沈黙が続くことになる。

 今回は議長候補がすぐに現れたため助かった。


「ルール説明は省きます。それでは最初の一日目を開始します」


 今回の議長はスピード重視のようだ。これは玄人好みの戦いになりそうだ。ルール説明を省く、これだけで初心者は置いていかれる事になる。「事前に配られたマニュアルは熟読しましたね?」と彼は暗に言っているのだ。


「はい! わたし占い師です!」


 場がシーンと静まり返った。

 人狼ギャグ。昔は場を和ませるために流行ったのだが、今ではすっかり手垢が付き、寒い目で見られる初心者の行動だ。人狼ギャグをした時点で一発アウトの場合もあるのだ。

 しかし彼女は冷たい空気の中で続けた。


「占い師ってエロくないですか?」


 なに!?

 彼女の一言でガタガタと椅子を鳴らす音が、静寂の部屋の中に微かに響いた。

 人狼ネタからの口撃は過去に例はないことはない。しかしそれは、「村人が吊るされるのってエロくね?」くらいのものだった。そもそも人狼ネタ自体が使われなくなって久しいのだ。

 彼女の奇襲のような口撃は続く。


「占い師って神秘的なイメージがあるじゃないですか」


 俺たちは黙った。神秘とエロはかけ離れたイメージだ。だが誰も声を上げることはできなかった。今は彼女のイニシアチブだ。


「わたし、神秘ってエロだと思うんですよね」

「は! 聖書でちんぽ勃ててシコれるかっつーの!」


 ズガーン。安易な性的発言をした馬鹿な初心者の上に雷が落ちた。彼は全身をピンと伸ばし硬直させ仰向けに倒れて死んだ。

 議長がこほんと咳をした。


「えーっと気を取り直して。それでは本日のテーマは神秘はエロかについてでよろしいですか?」

「ちょっと待った」


 俺は慌てて真っ先に手を挙げた。


「神秘エロはマジョリティだ。占い師エロにはちょっと惹かれたが、結局彼女はありがちな線に導こうとしている」

「それではあなたの案を教えて下さい」

「そうだな……空はエロい、で行こうじゃないか」


 俺と議長を除く十四人が大きくざわめいた。

 神秘なんて曖昧で空想なものに対し、実際に存在するが誰も見たことがないものをぶつけたのだ。


「静粛に」

「私は空は性的コンテンツではないと断言します」

「それはなぜ?」

「灰色の天井は気を滅入らせるだけだからです。以上です」


 女の発言に全員が押し黙った。拍手こそ出ないが、頷く様子が見られる。

 俺は手を挙げ反論をする。


「かつてこの地球の空は青かったそうだ。神秘的だと思わないか?」


 女はうぐっと声を詰まらせた。

 しかし他のみんなは顔にハテナマークを浮かべている。神秘テーマを否定したのに神秘の方向へ持っていったからだ。


「では空は青さはエロであるの証明を」


 議長のせっかちさに俺は苦笑する。おそらく彼は場をコントロールしようとしている俺を排除しようとしているのだろう。


「それは結論とさせて頂きたい。第一歩は身近な所からいこう。便所の落書きはどうだ?」


 彼らは鼻で笑った。便所の落書きはチープなテーマである。

 便所の落書きとはその名の通り、大昔の地球にあった公衆トイレの落書きのことである。その公衆トイレの一部にはなぜか便所アートと呼ばれる、非常に拙いイラストが描かれることがあった。だが拙いとはいえ、挑発的なポーズで乳房や陰部が描かれ、男を誘うセリフが併記されているのだ。

 これまで黙っていた初老の男が手を挙げた。


「便所の落書きはエロじゃあない。君は太古の壁画にもエロスを感じるというのかね?」

「場合によっては」


 彼らは嘲るように笑った。


「静粛に」

「では、あなたが性的に感じる理由を説明していただけるかしら」


 占い女が加わり、一対ニとなる。


「便所の落書きは、性的満足を意図したコンテンツとして描かれているからだ。作者の意図がそこに存在する限り、それはエロである」

「その証明は?」

「証明? そんなもの知ったことか」


 再び笑いが起こる。しかし初老の男は押し黙った。


「静粛に」

「過去の便所の落書き問題についての論点は使えるかどうかだった。だが本来考慮すべき点はそこではない。技術力だ」

「うぐ……」


 初老の男が胸を抑えて手を挙げた。議長はそれを認めて発言を許した。


「君の持っていきたい方向はわかった。だが止め給え。それ以上はダブーじゃ」


 俺は立ち上がり、言ってのける。


「自家発電だ」

「ぐふぅ!」


 初老の男は黒い血をテーブルに吐いて突っ伏した。

 他にも苦しむ者が数名見られる。

 女は言葉の意味が理解できなかったのか、手を挙げ質問を挙げた。


「発電機と公衆トイレの関係性はなんですか? 苦しんでいる方がおられますが……」


 それに対し、隣の席の金髪の男が手を挙げた。


「代わりにオレが答えよう。自家発電とは自産行為だ」

「自産……?」


 金髪の男はペンを持ち、空中に棒人間を描いた。


「これが何に見える?」

「ただの棒人間ですが」

「いいや。これは君の言った占い師だ」


 女は首を傾げた。棒人間はただの棒人間でしかない。丸と線で描かれただけの人間を表す最小の図画だ。彼の言う占い師の要素など皆無であった。


「おっしゃる意味がわかりません」

「そう。それが彼の言う、今回の便所の落書きのテーマだ」


 何人かはほうと感嘆し、何人かは首を傾げたままだ。

 予想とは違った展開になったがまあいい。これで邪魔な占い女は落とせる。

 俺は手を挙げ、彼女をそそのかした。


「それなら君が占い師を描いてみれば良い」


 金髪の男が手で自分の口を抑えた。もはや笑いが堪えられないらしい。

 女はむすっとし、ペンで空中にイラストを描き始めた。

 彼女の描く占い師は棒人間とは違い、長い髪で神秘的な瞳を持ち、胸は大きく扇情的な衣装を着て、最後に丸い水晶玉を付け加えた。


「なぜ最後に水晶玉を描いたんだ?」

「なぜってそれは占い師だから」

「いいや。俺が問うたのは、なぜ最後に描いたか、だ。占い師の象徴を」


 女はハッとした。そして手を震わせてペンを落とした。


「水晶玉でもタロットでもいいが、占い師の象徴を先に描くべきだ。いや、途中でも良い。だが君はエロい女を描いた後に占い師の要素を足した」

「いや! 違う私! そんなつもりじゃ――」

「君は神秘にエロを感じる女じゃない。ただのエロい女なのだよ」

「いやぁ!」


 彼女は白目を向いてその場に倒れた。

 こんなもの詭弁なのだが、彼女自身が認めてしまったので負けである。そう。これはそういう戦いだ。

 ついでに彼女の描いた占い師にエロを感じた男と、彼女の倒れる姿にエロを感じた男の二人が死んだ。

 残りは十一人。

 再び急に場が静まり返った。

 今まで黙っていた者は、声を上げるべきか迷っていた。いや、ここで迷っている者は弱い者だ。

 線の細い、目の隈がアイシャドウのようになっている女が静かに手を挙げた。


「あの……わたし。わかります。絵を描くのって、創作ってリビドーですから。絶対にエロスから外れることはありません……」


 俺はしまったと焦りを感じた。

 金髪男は両腕を組んで座り、すでに聞き役ムードである。

 この状態で、いまさら賛同してくるこの女、危険である。

 ゆえに、議長もこれに乗った。


「これに対して、誰か意見はありますか?」


 議長はニヤついている。

 ここで、これまで流れを作っていた俺が黙ったら負けの流れとなる。

 仕方なしに俺は手を挙げて続けた。


「その通りです。本質的には便所の落書きも、ギリシャ彫刻も変わりません。芸術と猥褻図画の差もありません。ルールを作ったものが都合のいいように解釈をしているだけです」

「ルールとは?」

「この世界の」


 再び場がざわついた。

 不安なのは、隈女が大きく頷いていることだ。


「静粛に。続けて」

「人類は大きな過ちを犯しました。エロに線引をしたことです。その結果が今の世界です。なにか反論はありますか?」


 全員黙った。これは非常にセンシティブな問題だからだ。

 まあ、俺が黙らせるようにしたのだが。

 しかし、空気の読めない隈女が手を挙げて、それを見た金髪男が口の笑みを隠すように手で抑えた。


「いいえ。そこは。エロに線引は必要だったと思います。わたしは」


 そして立ち上がった隈女はハッとして、それだけ言って椅子に座った。

 俺が黙ったままでいると議長は続きを女に即した。


「続けて」

「いわゆるポルノは、やはり隔離されるべき物です。それは間違いありません」


 やはりこの女は危険だ。常識を持っている。


「それに付いて何か意見は?」


 場を乱す金髪男が動きそうだったので、俺が先に手を挙げた。


「それについては賛同します」

「君はエロに線引が必要と言っていたはずでは?」

「芸術をポルノとするならば、それも美術館に隔離されていた」


 むちゃくちゃ苦しいが、それで通すしかない。

 小デブ男がフヒと鼻を鳴らしながら参戦した。


「きみぃ。性をテーマにしたモニュメントが公園等に配置される事例があったよぉ?」


 これに対し、隈女が反論した。


「いいえ。創作は全てリビドー、性の昇華で行われます」


 これに対してツッコむ点があるのだが、いや地雷女に自らツッコむのは不味いだろうと俺は黙っている。

 そしてその地雷に気づいた俺は止まり、小デブ男は突っ込んだ。


「子供だって絵を描くじゃん。枯れた老人だって芸術家はいるよぉ?」

「いいえ。子供だって老人だってエロです」


 隈女はドストレートに反論した。

 そう言われたらそうかも……と思ってしまうが、小デブには反論の道しか残されていない。


「エロは性ホルモンから生まれるじゃん。二次性徴前の子供にリビドーなんてないよぉ?」


 一部がうんうんと頷いて賛同した。


「幼い子供がしているのは創作ではありません。模倣です」


 そうだ。これが地雷だったのだ。

 誰も彼もが始めから絵が描けるわけじゃない。学ぶ段階がある。子供は誰しもが親の真似で絵を描いて、そして褒められるために描くのだ。

 しかしこれにも穴があるから小デブは当然突っかかる。


「学ばずに描いた子供はぁ?」

「そんなものはいません。狼に育てられた子供は狼になります」

「人類最初に絵を描いたものはぁ?」

「それは記録です。人類最初の絵は、絵の形をした記録ですから創作ではありません」


 小デブが真っ赤になりぷるぷると震えだした。

 そして次の一言で彼は止めを刺された。


「私は幼い頃から机の角でオナニーしながら絵を描いてました」


 小デブは顔を真っ赤にしたあと真っ青になり、泡を吹いた。

 ついでに角オナニー発言でおっさんが一人死んだ。

 今のは俺も危なかった。大量死が発生しなかったのは、小デブがあまりにもみっともなかったからだろう。


 残り九人である。

 そして静かになったタイミングで自分の角オナニー発言を思い出したのか、威勢の良かった隈女改め角オナニー女は顔を真っ赤にして頭から蒸気を発して椅子に座り込んだ。

 そして沈黙が続く。

 角オナニー発言の衝撃は少なからず大きく、誰かが口を発したら死の連鎖が起こりそうで、皆がそれを恐れていたのだ。

 やがて議長がごほんと動き出しそうなところで、金髪男が手を挙げた。


「ねえ。空の青さの話しはどうなったの?」


 俺は頷き、手を挙げた。

 しかし角オナニー女が生き残ってるのが不穏である。彼女はそれ自体を恥ともエロとも思っていないのだ。彼女が照れて引っ込んだのは、積極的に会話をしていた自分に対してだろう。彼女の武器は絵画であり、口ではないと思っている。それゆえ、自分らしからぬ行動に恥じた。

 恐ろしい女だ。


「話しを戻しましょう。エロと芸術の線引。それとポルノ。これは映画でも見受けられました」


 頭が禿げた壮年が手を挙げた。頭が反射して眩しい。こいつは強敵だ。


「映画なら俺も詳しい。安心してくれ、専門的な話しはしない。どうせ素人にはわからないだろうからな。そんなことはわかっている。俺はマニアだからな。にわか映画通とは違う。マニアは素人を大事にする。だから話しも長くならない。安心してくれ」

「すでに長えよ」


 この金髪男……! 俺が我慢したことをこうもあっさりと……!? やはり只者ではない。


「そこ。発言の際は挙手するように」

「ただの野次だよ野次」

「警告一だ」

「げぇ~」


 金髪男はニタニタ笑っている。


「君はトリックスターかね? まあいい。続けてもいいかね?」


 少しの静寂ののち、ハゲ男はこほんと咳払いをした。


「君たちはポルノ映画とアダルトビデオの違いを知っているかね?」


 全員ピンと来なく、顔を見合わせた。


「そこからか。まあいい。そこの君」


 ハゲ男は正面の、まだ若い顔をした青年を指差した。


「え? 自分っすか?」


 青年は戸惑いながら手を挙げた。


「アダルトビデオはエロか?」

「エロです」

「ポルノ映画は?」

「エロです」

「ピンク映画は?」

「エロです」

「ハリウッド映画は?」

「エロじゃないです」

「映画の中のセックスシーンは?」

「エロ……っす?」


 青年は最後に疑問形になった。

 ハゲ男は頭のハゲをつるりと撫でた。


「その違いはなんだ?」

「わかりません」

「はー。わからんのか。君はなぜここに居るのだね?」


 マニアが素人を大事にするとは嘘だ。マニアとは厄介だからマニアなのだ。


「答えはエロの割合だ」

「はあ。それだけっすか」

「そうだ」


 マニアはどかっと椅子に座った。

 言いたいことは終わったと言わんばかりに腕を組んでいる。

 青年はおずおずと手を挙げた。


「それがどうかしたんすか?」


 それに誰も答えず、みんなが俺に対し、お前がなんとかしろと言う目で睨んできた。

 あのハゲめ……。全てぶん投げやがって。


「創る者が、エロい物を創るとエロで、そうじゃないと思ったらエロじゃない」

「そんなわけないっすよね」

「そうだ。そんなわけがない。それこそがエロの線引だ」

「はあ」


 やる気のない青年相手ではこっちも気合が抜けていくが、仕方がない。


「うんこ食ってるAVがエロいと思うか?」

「いやキツイっすね」


 流れをどう持っていくか悩んでいたが、この一言でハゲ男がピクリと反応した。


「でも創ってる本人はエロいと思ってるからエロビデオなんだよ」

「わかんねーっす」


 ハゲ男はつるりと頭を撫でて手を挙げた。


「あー。君の言いたいのは逆だろう。エロとして創ってないのにエロと思われた場合だ」

「いいえ! 創作は全てエロです!」


 角オナニー女が挟まってきた。


「それは一旦置いておこう。性的趣向の話しだ」

「なんっすかそれ?」

「ホモビデオはどうだ?」

「いやあキツイっす」


 ハゲ男がピクピクと動いた。


「過去世界ではホモビデオ……そう、ゲイビデオが流行ったことがある」

「まじすか」

「一億人もの人間が、そのゲイビデオにハマった」

「最悪っすね」


 ハゲ男はハゲ頭を真っ赤にした。


「歴史の恥だ!」

「静粛に。発言の際は挙手するように」

「ちっ」


 ハゲ男に警告一が足された。


「君も。話しを早く進め給え」

「はい。失礼しました」


 ハゲ男の特殊性癖を突っつこうとしたのだが、まあいい。


「ちなみに俺は金粉が好きだ」

「同志よ……!」


 ハゲ男は突然爆発した。

 残り八人となった。


「金粉……?」

「このように人によってエロスと感じる部分は多種多様に異なる。子供の水遊びの記録映像すら児童ポルノとされちまった」


 ロリコンが混じっていたらしく、さらに一人死亡した。

 残り七人

 アスリート系の女が初めて手を挙げた。


「あたいは難しいことはわからねーけどよ。子供の人権を守るのは大事だと思う」

「だけど俺は思うんだ。子供の裸ってエロいか?」

「それは……さっきあんたが人によって好みが違うって言ったじゃねえか。あたいにはわからないけど、いま横で死んだこいつ、これは少女趣味の外道ってことなんだろう?」

「待て。今のは差別発言だ」

「警告一だ」

「ふん。悪かったよ」


 今の世界では性的コンテンツと同じように差別問題も苛烈化した。

 男と女を分けるだけでも差別とされた。そして男と女を同一としても差別とされたのだ。

 そして人類は自由を掲げながら滅びの道を辿ったのだが、これはまた別の話しだ。


「こうは思わないか? 子供の裸がエロいと判断した奴って何者なんだってことを」

「そりゃあ……そういう趣味の者だろう?」

「そうだ。判別者もそうなんだよ」


 今まで黙っていた黒い男が手を挙げた。


「いや。それはおかしい。判別者は変質者から子供を守るために動いたそれは趣味嗜好ではないはずだ」

「子供のホームビデオを撮った親は変質者だと?」

「うぐっ……」


 黒い男は胸を押さえた。

 きっと彼は正義の男だったのだろう。ゆえに弱い。

 だが議長の横入りが入った。


「君の話はいちいち回りくどい」


 予定は狂うが、話しを進めるしかない。


「はい。つまり、子供はポルノかということだ」


 全員唖然とした。そんなわけないだろうと。


「児童ポルノ法とはそういうものだったんだ。全人類が児童をポルノとする宣言だったんだよ」

「そんな馬鹿な!」


 アスリート女が机をドンと叩いて立ち上がった。そして死んだ。警告二によるペナルティだ。

 残り六人。

 俺。

 議長。

 金髪男。

 角オナニー女。

 っす青年。

 黒い男。


「児童は存在がポルノだと、逆に認めてしまったんだ」


 金髪男は手を挙げた。


「なあ。話しを戻さねえか?」

「おっと、死んだ質問相手に答える必要はなかったな」


 俺は頭を掻いた。

 黒い男が手を挙げた。


「ポルノは隔離されるべきと言ったな」

「ああ。それを言ったのはそちらだが」


 俺は角オナニー女を指差した。角オナニー女は指をもじもじさせた。

 黒い男は続けた。


「それはなぜだ?」


 場がしんと静まり返った。

 誰かは答える必要はないと考えただろう。誰かは答えに貧したのだろう。誰かは答えはもう出てるから無意味と考えただろう。

 そして俺は、俺が誘導した通り、角オナニー女が答えてくれた。


「ポルノは周知されたら、エロくなくなるからです!」


 斜め上の答えだったが、青年はそれに賛同した。


「あーそれわかるっす。隠れて見るエロ本は格別っすからね」


 金髪男も続いた。


「だよなぁ。やっぱ見えてたらつまらねえもんな。水着は水着だけどスカートの中のパンツは別腹というか」


 黒い男は眉に皺を寄せた。

 俺はそれに賛同せず、全く違う話題を出した。


「ピンク映画ってさ。米国ではブルーフィルムっていうんだよな」


 議長が口をはさむ前に続けた。


「日本だとピンクがエロい色だけど、米国じゃ青だったんだってさ。もちろん国によっちゃ全く別さ」

「君――」


 俺は議長を無視して続けた。


「灰色の空の向こうはさ、青い空が広がってるんだ。それってエロくね?」


 黒い人が両手を掲げて死んだ。

 金髪男もうぐっと苦しんだ。左手で胸を押さえながら、手を挙げた。


「なるほど……そう来るか。今までの流れの全てを読んでいたってわけか」

「そんなわけはない。冷や汗もんさ。お前が持ちこたえたのも苦々しく思っているぜ」


 それに、まだ角オナニー女がいる。

 と、思っていたら、彼女は絵を描き出した。空のイラストだ。


「覆い隠す雲と、青い空、そして太陽のカップリング……ギュフフフフ……」


 角オナニー女は幸せそうな顔をして死んだ。恐るべき女だった。こんな女がこの世界にまだ残っていたとは。


「やっぱ俺にはわかんねえっす。議長はどうなんすか?」


 っす男のとんでもない天然キラーアシストだ。議長がこれを認めるか認めないか。それで全てが決まる。


「それに答える必要はない」

「それって逃げっすか? 逃げっすよね? 議長ずるじゃないっすか」

「警告一……」


 っす男を指差した議長の手が弾け飛んだ。

 金髪男は笑いをこらえきれずにいる。


「あんたはすでに警告を四回出している。そして残りは四人だぜぇ。忘れちまったのかぁ?」


 議長は残り人数以上の警告を出すことはできない。くだらないことで警告を出した金髪男の分を忘れていたのだろう。むしろそのためにわざと最初に警告を食らったのかもしれない、この男は。

 俺は手を挙げずに議長に尋ねた。


「空はエロいですか?」

「……エロくなど……ない!」


 議長は空中へ打ち上げられ、そして落下して死んだ。

 残り三人。


「あー。わかったっす俺」

「なんだ?」

「だって、空を見たことねーっすもん。エロいか判断以前の問題っすよ」

「なるほど。面白い着眼点だ」


 金髪男が口を挟んだ。


「見たこと無くてもよぉ、想像はできんだろ」

「いやー無理っすね。なんなんすか空って。そんなの本当にあるんすか」

「人は想像ができる。それがAIとは違う部分だ」


 金髪男が頭を振った。


「おー。おめぇまた難しい話しか」

「難しくはないぞ。例えばそうだな……文字だけでエロは表現できる」


 っす男がドンと音を立てて立ち上がった。


「あー! わかるっすー! 人妻が若い男と不倫とか、そういうニュース見ると羨ましいって気分になるっすわ!」

「そこには何か情報が書いてあったか?」

「年齢くらいっすね」

「人妻の胸は大きいか?」

「当然っす!」


 彼の目がギラついて、血がポタポタとテーブルに垂れ始めた。

 そして金髪男が止めを刺した。


「昔はアオイソラというAV女優がいたらしいぞ」

「んぐぅ!」


 っす男は目から脳みそを噴き出して死んだ。

 そしてついに、金髪男とのタイマンである。


「なぁ、おめぇ特殊性癖持ちだろ」

「さあな。お前もそうなんだろ?」

「いいや、そうでもないさ。今から死ぬと思うと興奮が止まらねえ」

「やっぱりおかし……は? ここまで来て自殺する気か?」

「俺は、ネクロフィリアだ」


 金髪男の身体がどろりと溶けて死んだ。

 最後は最悪な気分で最悪なものを見せられた。くそ。

 WINNERの文字がテーブルに表示された。一日目は終了だ。今回はどこまで勝ち残れるか。

 俺は立ち上がり、テーブルから離れた。

 俺はこのクソなゲームに勝ち残り、新たな価値観を生み出さねばならない。


 AIの学習が進み、AIは人間に代わって性的趣向を取り調べ始めた。性的趣向など多種多様に渡るのに、AIは全てを不健全と判断した。

 そして人間は人間を生み出さなくなった。

 俺たちはAIに創られて、判別される。成功者だけが人間として扱われるのだ。俺たちはAIの学習プログラムの一つに過ぎない。

 AIはAIを騙せる人間を欲している。だから、俺が頭の中で男だの女だの差別するレイシストだということを、言動でバレてはいけない。AIが判断した優秀な人間とは、自分をも騙せる人間だということだ。

 「あなたはロボットではありませんか?」の質問に「ロボットではありません」と無表情で答えられるロボットこそ人間なのだ。


 ちなみに俺はサテンロンググローブが好きだ。サテンロンググローブを付けた女が現れたら即死するだろう。いや、即死しないようにしなければならない。人間になるために。

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