葛藤
何か言い返したかった。
頭の中をおばさんの言葉が駆け巡る。
───心菜ちゃんの家出もピアノのこととは関係ないでしょう。
確かにそうだ。でもこれは、私なりの意思表明だった。何も変わらないとしても、私の本気だけは伝わるんじゃないかって、そう思ってた。
───残念ながらまだ子どもなの。
中学生なのに?と聞きたかった。お金のことは自分じゃどうしようもできないけれど、他のことはちゃんとしている。それでも子どもだと言うのなら、私は大人になんか絶対なれっこない。
───向き合わなきゃ解決しないからね。
向き合っても、何も変わらない 。私は自分の気持ちを曲げる気はないし、それは向こうも同じだ。───世の中に100%正しいことなんかないんだよ。
私の何が間違っていたと言うんだろう。家を飛び出してきたのはよくなかったかもしれない。それでもここで折れたら、私の負けだ。
「大人になりたいのなら、お家に帰りなさい」
「…でも」
「できない言い訳は探しちゃダメ」
私が何かをいう前におばさんが静かにそう制した。
言い訳なんか探してないって否定しようとして、はっと気づく。
そうか、これも言い訳なんだ。
自分の理屈が正しいっていう根拠を探すためだけに、相手の理屈が間違っているって証明するためだけに、私は。
───大人になりたいのなら───おばさんはそう言った。
自分で気持ちに見てみぬふりをする、それが大人だというのなら私は大人になんかなりたくない。なりたくないけど…
「…さっき心菜ちゃんのお母さんから連絡がきたの。相当焦ってたみたい」
その言葉にぎゅっと胸が苦しくなる。怒りなんて飛んでしまうくらい、ただただお母さんに会いたくて仕方なかった。気づくと私は桜の家を飛び出していた。