決意表明
少し歩いたところで、私は立ち止まった。家の格好のまま出てきてしまったから、少し肌寒く感じる。パーカー羽織ってきたらよかったかな。
でももう引き返せない。ここで引き返したら私の負けだ。
自分を奮い立たせるように、ぎゅっと拳を握って走り出した。
───私は悪くない。間違ってなんかない。
「心菜、こっちに来なさい。」
いつにもなく険しい母の声に動揺を覚えつつ、私は素直に母の前に座った。
「ピアノやめることにしたから」
…え?
「やめるって…え…何で?」
ピアノの先生になることは小さい頃からの私の夢であり、私は幼稚園児の頃からレッスンに一生懸命に励んでいた。
「あんた、こないだのテスト何点だったか覚えてるよね?」
「…悪かったよ。それが何?」
確かにこないだのテストは悪かった。入学当初よりどんどん点は落ちているし、ついに平均点を切ってしまった教科もあった。でもあれはたまたまで────。
「だから、あんたは勉強に専念しなさいよ。ピアノなんてやってるから勉強しなくなるんでしょう」
「それとこれとは関係ないでしょ!?私はピアノのせいで勉強に集中できないなんて思ったことないんだけど!」
『ピアノなんて』なんて、そんなことは言われたくない。私はずっと頑張ってきたし、お母さんもそれを応援してくれてたはずだ。
家計が苦しくてピアノが買えなくても、私は気にしなかった。習わせてもらってるだけありがたいんだって。
「勉強も頑張るから、ピアノ続けさせてよ!」
「…そんな暇ないんじゃないの?」
カチンときた。
押さえてたものが一気に爆発していく気がした。
お母さんはピアノを何だと思ってるんだろう。私にとってそれは自分に必要不可欠なもので、落ち込んだときもピアノを弾くと元気になれるし、小さい頃からずっと私の宝物で、大切な家族みたいなもので─────。
何か言いたいのに言葉にさえならなくて、言葉にしようとしても幼稚なことしか言えないような気がして、私は余計に悔しかった。泣きそうになるのを必死でこらえた。そしてお母さんと目を合わせないようにして足早にその場を去り、家の外へ飛び出した。お母さんが止めてくる気配はなかった。
(────きっとすぐ戻ってくるって思ってるんだ)
そう思うと余計に腹立たしかった。