十一日目の永遠
射し込む朝日で目を覚ましたとき、隣に彼女は居なかった。
岩戸は綺麗に砕けていた。積もっていたはずの土砂も見当たらない。まるであの後にもう一度大きな土砂崩れが起きたかのように、地形が変わっていた。
痛む身体を引きずりながら、枝葉の生い茂る獣道を下る。照りつける朝日を頼りにして、向かうべき場所へと足を動かす。
辿り着いた境内は、倒木や飛来物でぼろぼろに荒れていた。
僕は彼女を探す。ここに居なければ、きっとどこにも居ない。
拝殿の内部で、僕は見つける。琥珀色の髪飾り。彼女が肌身離さずつけていたものだ。
――神様はもう居ない。
僕の願いは、叶わなかった。
ぽっかりと開いた胸の穴に、深い絶望が去来する。悲しみに支配され、どうしようもなく涙がこぼれた。髪飾りを抱いてうずくまり、一歩たりとも動けなくなった。
そのまま、どれだけの時間が経っただろう。
日が昇っては沈んでいく。その繰り返しを数えることもやめた頃、彼女はやってきた。
歳は小学生くらいの、可憐な少女。
彼女は鈴の鳴るような声で言った。
「あなたは、かみさまですか?」
僕は首を横に振る。
「違うよ。僕は、神様が帰ってくるのを待っているんだ」
「そうなんですね」
少女は残念そうに俯く。でもすぐに、何かを決意して顔をあげる。
「じゃあ、わたしも一緒に待ちます」
「それはどうして?」
「だって、あなたが寂しそうだから」
そう言って、彼女は笑った。
僕のよく知る、太陽のような笑顔で。
「――ありがとう」
この身に起きたことを、まだすべて理解できたわけじゃない。
神の理屈は神にしか分からないし、分かろうとするにも限度がある。
けれど。
信じていれば必ず願いは叶うものだと知っていた。
だから僕は、いつまでも未来を信じている。
了




