episode 12
陽の照りが肌を照らし出す悠々とした街並みを抜け、自然が包み込む広大な地へと移る。緑の光が体に差し込み、暗く沈んでいた気持ちを晴らす。人気のない森は誰の声も聞こえず、ただ、【思いを寄せるあの人】が視界に入るだけ。それがどんな事よりも、幸福だと思えた。
「確か、この辺りだったよな?』
白髪の青年は確認する様に声をかけてきた。それは間違いなく自分自身で違う点があるとすれば《髪色》と《瞳の色》だろう。なのに、目の前にいる青年が自分だという確証が不思議とあった。何も疑いを生じさせずに____。
____なら、今の俺は誰なんだ?
段取り的にまず、最初に当たるであろう疑問を再度考える。一応、言葉を発してはいるがどこか違和感が消えない。本来の自分の意思とは関係なく脳が独自に言語を選び受け答えをしているな感覚だ。口調もどこか、女性らしさを秘めており、体が軽い。細く、白い指先だけが今、俺に分かる情報だった。
『はい、あってると思いますよ』
まただ、また俺は受け答えをしてしまった。____いや、している。
________
________綺麗だな。
________
えぇ、そうですね。 ________
色彩豊かに咲き誇る紫色のダリアの花は目で追いきれない程、遠く・・・遠くへと咲き乱れており、時折、その花弁を吹いた風に委ねていた。青色の空と不規則な配置の雲、血に生きる生命と鮮やかな植物を大切な人と過ごせる。それだけで私は良かった。これから先、どんなに人から罵られようと、どんなに苦痛を虐げられようと、あなたがいてくれれば私は乗り越えていける。
幸せな時間をありがとう、そして____
________こんな時間がこの先、【未来永劫】も続くのだと________。
_____________________________________
『誰がっ______!誰があの人を________!!』
視界が熱い。
体が裂けそうだ。
胸が張り詰めて張り詰めて張り詰めて・・・・張り裂けそうだ。
眠る様にそっと、息を引き取った銀白髪の青年を見る。真っ白な肌に不釣り会いな赤。刺し傷が無数にその容姿を歪ませる。体は原型を留めていたものの、いつもの様な力を感じない。それはつまり、完全な絶命をしたことを意味していた。
心の拠り所が、こうもあっさりと姿を消した。
________【理不尽】が冷たく笑う。
『・・・嘘。だって、____あなたはこんな傷じゃ絶対に死なないはずでしょ!?なのに、どうして!!・・・・・・ねぇ、ねぇ!!答えてよ!あなたは、私を一人にする気!?』
狂いそうな感情を押し殺して、怒りと悲しみを混ぜた問いかけを投げる。揺さぶった体から血液が生ぬるくゆっくりと滴る。
『____温かい。どうして、そんな姿にまでなって私に温もりをくれるの?・・・・もう、答えられないか____』
いなくなってから気づくモノ。
失ってから存在に気づくモノ。
いないからこそ気づくモノ。
『これから私はこの怒りの矛先を世界に向ける。・・・・・・そうすれば、いつかは《本命に》あたる瞬間が来るかもしれないから』
それからの事はもう、記憶にすらない。握った刃を一心不乱に暴れさえ、怒りのままに生を刈り取る。鮮血が雨にも感じる頃には私の瞳は何も移さなくなっていた。歩いているのか、眠っているのか、それとも生きているのかさえ分からない。存在自体も怪しい。
ユラユラとバラバラとジャラジャラと体の枷を引きづりながら呼吸をする。
『・・・・・・もう殺しちゃたのかな?分からないや・・・・でも、あの人は帰ってこない』
『ギィィィィィイイイイイイッ______!!』
魔物がいた。うるさくて邪魔くさくて、目障りで________。
ザシュッ________。
一撃を浴びせた。魔物は一瞬、何が起こったのか分からず、その場に静止した。そして____
ブシャァァァァァァァッーーーーーーーー!!
落とした首から血が噴き出す。
『・・・・・・』
グサッ____!
それを拾い、刃で刺し穿つ。串刺しにしたその首を見捨てる様に振り払うと、また次の目的へと歩みを進める。それが何を意味するのかも分からずただひたすらに、心が満たされるまで____。嫌な程、血生臭い世界を見せられた、時には自分ので吐いた事もあった。でも、一番辛いのはこれからだろう。後戻りできない、けれど、進むことはやめない。
『あぁ、私は何をしてるんだろう・・・・私は何を________』
ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ________!!
【________お願い、_____私を殺して。】
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「____はっ!!」
深い深い眠りから覚めた気分だ。
(俺は何を____!?・・・そうだ、確かラクトに____!!)
胸に手の感触を感じる。
「____あぁ、そういうこと」
ガンッ____!!
「ぐはぁっ____!」
蹴りを入れる。それは偶然にも、一番理解のできる急所に躊躇いなく。
(条件反射って言ったら許してもらえるかな・・・・・・?あはは・・・)
苦笑いとは裏腹に先程までの《誰かの記憶の回想》が体に大きな影響を及ぼしていた。びっしょりとかいた汗が体中に纏わりついていた。ハァ・・・ハァ・・・整える様にして息をする。蝕む気持ち悪さが拭えない状態で意識を保とうとする。しかし、視界は愚か思うように動かない手足が俺をベッドに寝かしつける。
「____痛ったーーーーーーーー!!何すんだっ!!」
(・・・・・・まぁ、そうなるよな・・・。とりあえず、謝っとくか・・・)
「いくら可愛いからって、やっていいことといけないことがあるだろ!!」
バンッ____!と横になる俺の上に覆いかぶさるようにベッに両手を叩きつけ顔を覗き込んでくるラクトに俺は不覚にも恐怖心を芽生えさせてしまっていた。
「・・・・・・ご、ごめんなさい。うぅ・・・・ひっく・・・」
演技締めた涙を流す。と、言いたいところだがこれは本当だ。
「あっ!あぁ、ごめん・・・ごめん!!俺もいきなりあんなことして悪かった・・・!だから、その・・・お相子ってことでいいかな・・・?」
焦り気味な口ぶりでラクトは俺に提案する。
「・・・いいです」
「え・・・?」
「それでいいです」
「そ、そうか・・・!なら、良かった・・・ところでさ、その・・・君はあいつの・・・キットの彼女なの?」
恐らく、ラクトが一番気になっているのはこれなんだろう。嘘を吐くのも一種の手だろうがそれはそれで面倒ごとを招きそうだ。かと言って、こんな姿の俺を目の前の狙撃手が信じるとも思えない。なら、それを証明する証拠が必要だろう。
俺は以前、ラクトに一度だけ《魔眼》を見せたことがある。それが意味することは________
「ちょっと、こっちを見てくれる?」
「うん?」
「さ、早く」
「う・・・うん」
見つめ合いながら顔を近づけてくるラクトから数センチ単位で距離を開けながら俺は左目に力を意識させ、赤く輝くルビー色の魔眼を発現させた。
「____俺だ」
時が止まる。
「は・・・」
時が動き出す。
「はぁぁぁぁっ____!?嘘だろ?冗談だろ?お前、女だったのか!?」
(馬鹿か・・・?馬鹿なのか?)
「そんなわけないでしょ!これにその・・・いろいろと事情があって・・・・・・」
「・・・どうだか。それに君がかりにキットだとして、その事情って何?」
「それは・・・その・・・・・・薬」
「薬・・・?まさか!?・・・霊薬か!?」
「何でそれを!?」
「やっぱりそうなんだな・・・・・・考えることは同じか・・・やっぱりお前、俺のパートナーにして正解だったな」
「どういう事?」
「まぁいい。それよりも、キット。お前____」
ゴクリと唾を飲み込んだ。乾いた喉に湿りがある。
________俺の彼女になってくれ。




