episode 6
「で、でも・・・そんな事なんで分かるんだ?それに、もしあの二人がお前の暗殺対象だったとしても、何かしらの隠蔽工作でどうにかできるんじゃないのか!?」
うわべだけの言葉を口にする。
善意、故の皮肉。拒否感からの救済。肯定のみの現実。
今の俺にはラクトの言っていることが全て事実でそれが本当だという事をどこかで分かっていた。けれど、《そうでないならどれだけ良かったのだろう》という気持ちが頭の片隅で傷の様にうずく。少しばかりの願望と一握りの可能性を信じて放った言語の一文字一文字に涙の声色が滴ってゆく。
「_____」
沈黙を貫く狙撃手はじっと立ったまま、俺を見据える。
「何か言ったらどうなんだ?・・・そう言えばお前、あの夜の日、暗殺対象をとびっきりの上玉って言ってたよな?その言い方だと、ラクト、お前は相手の顔を知らないことになる。だとしたら、何故・・・そう思えるんだ?」
焦りと緊張、ただひたすらに脳内で生成した仮説と事実を一つの文章にまとめてゆく。誰かが辛い思いをするのはもう見たくはない。それでも、そうあろうとする狙撃手を止めるための盲点を言葉の弾丸で撃ち抜く。
「_____それは嘘だ。あの時、お前にあぁでも言っておかないと絶対に受け入れてもらえなさそうだったからな?」
「何故そう断言できるんだ?確かに、年頃の少女を手に掛けるのは俺には出来ないかもしれない・・・・それでも_____それでも、ラクト、お前は_______あの少女のことは_________」
もう遅いんだよ。そう聞こえてきそうな虚しげな顔でもちらを見たラクトは「分かってるだろ?」と心で囁き、ゆっくりと目を閉じ、開いた。
「レディ=スレイシア。あの時俺はキットに「レディちゃんも_____」って言ったよな?そして、お前はレディを性別だと勘違いし、名を聞き直した。だが、あの少女は「私と初めて会う人は皆、同じような反応をする」と言った。この意味が分かるか?」
暗殺対象を上玉と言ったラクト。
この時点でその本質を知っていた暗殺者。
一筋縄行かないと悟った、狙撃手は能力のある純黒の剣士に補佐を依頼。
街にいる女性の入念なチェックは対象を絞るための範囲攻撃の為。
名を知るのは、既にそれを知っていたから。
これですべての事柄に合点がいった。_____いったからどうなんだ?俺にはラクトを止めることも暗殺者の意向を止めることも、出来やしない。自分勝手で一人の少女との約束も守れない俺が誰かの命を守ることなんて_____。ましてや、たった一人の気持ちも変えられない俺にはどうしようもない事だと______。
________言い聞かせることしか出来なかった。だから、それしかできない自分が嫌いだ。
「ラクト・・・・・・」
「どうやら、戦意喪失みたいだな?街に入れてやった代償は分かってるよな?だが、それはもういい_____。その代わり_______」
________【俺の仕事の邪魔をするな】。
冷たく乾ききった瞳で狙撃手は仕事の顔になる。いつもの浮ついたテンションと口調は芝居だったかのように洗い流され、彼の本質と根源が剥き出しになる。どれほどの命を摘み取り、その手を赤に染めてきたのか_____。
殺す。
殺める。
殺る。
暗殺。
惨殺。
虐殺。
刺殺。
絞殺。
殺戮。
「そう言うのじゃないんだ。大切な心を壊して、感情を出さず、ただ、真っ直ぐに目的を遂行する。_____それはきっと______」
________涙を流すことと一緒だ。
忘れたい遠い記憶を思い出す。それは俺がまだ、夢を見つけられず偽りの日々を送っていた記録の中の一部に過ぎず、欠落した記憶に唯一残る、青く気高い翼の、その人との思い出。
今となっては、存在自体も不確かな俺の生きた時間。決して、目を背けるべきではなかった、その後の日々。
全部、捨てて俺は今ここに______。




